HOME > CATEGORY - 妖刀戦記
2016/11/10

妖刀戦記 目次

ちょっと気分転換に書き始めた⑱禁ファンタジー小説です。
某投稿サイトで書いていましたが、こちらも章が進むにつれて載せていこうと思います。



2015.1.27 ifルートをちょこちょこ修正しながらゆっくり進行中。さらに読みづらかったためifルートを分けました。本編が進まない。
2015.6.6 ifルートを別のカテゴリーに分けました。妖刀戦記 IFルート 目次からどうぞ。
2015.12.3 旅立ちの決意旅立ちの日を大幅改訂しました。

第一章 港町ケルネ

サムライの息子
サムライの力
父さんとの別れと新たな生活
狼達との戦い
一夜明けて ハンター到着
村正抜刀
狼への反撃開始
力の反動
旅立ちの決意
旅立ちの日

登場人物紹介~ケルネ編~

第二章 城塞都市ロゴス~討伐~

城壁に囲まれた街ロゴス
オークに犯される少女
目立つ二人
窓際の悦楽
ギルド入会試験
群がるオークの中で舞う少女
試験合格
ギルド説明と物件探し
お姫様の屋敷
ナンパ男
危機一髪?
女同士の味
ロゴスでの日常

登場人物紹介~ロゴス編~

第三章 城塞都市ロゴス~救出~

謎だらけのミッション
ハンター遭遇

金髪の男
人外の悦楽
ヴァンパイアと拘束
ヴァンパイアの決闘
戦いの報酬
プレゼントを着てみたけど
年の暮れ

登場人物紹介~ロゴス編②~

第四章 王立学院アヴニール~強襲~

王女との邂逅
ジルの過去とラルフの修行
アヴニール強襲
前線へ
学院内に蠢く闇
作戦失敗
最強の敵
最悪の敵
終わらない戦い
猫の恩返し

第五章 王立学院アヴニール~潜入~

潜入依頼
学院初日
体操着
教官の誤算
闇の侵食
歓迎会
調査依頼
狙われる少女たち
恋人たちの休日?
それぞれの思惑

虎穴に入らずんば
教室での秘め事
約束を破った罰
騙されたのは?

第六章 王立学院アヴニール~夢~

夢の中へ
隠し部屋での戦い
触手に堕ちる
夢の終わり
夢からの生還と王宮内の不協和音

アヴニール編 登場人物紹介

第七章 王都アトラス~動乱~

パーティ合流
サラとジョシュの午後
サラの初めて
つかの間の日常
クーデター
ハニートラップ?
テレサ
王宮へ
湖畔での戦い~ラルフ~
湖畔での戦い~モニカ~
ティナちゃんお手柄
クーデター鎮圧作戦開始
悲しい記憶
魂の救済、そして
魔王バアル降臨
それぞれの獲物
備前三郎国宗
ラルフの覚悟
ヴァンパイアの力
思わぬ犠牲
発情
闇の中
日常の再開?
最高のご褒美

アトラス編 登場人物紹介

第八章 王都アトラス~茫漠~

服がないっ
裏通りでの情事
シュクランとドラゴンのお肉
蜘蛛男
出歯亀
アヴニール帰還
土御門家の使命と道場
図書館ではお静かに
今度のご褒美はお人形?

第九章 砂漠の交易都市イシュク~孤立~

荒野に消えた狼の咆哮
再びあの男
乱れる褐色のエルフ娘
不穏の種
イシュクの夜
エルフとハーフエルフ
気になる存在
葵、牢屋であの男と遭遇する
蜘蛛の姦計
糸屋の娘は目で殺す?
エルフのモノが小さいなんて誰が言った?
微睡の中で
世界樹の木の下で
死地
止まない雨はない

第十章 商業都市クリューソス~国色~

お目付け役交代劇
中立都市『レイモーン』
封印の代償
『クリューソス』への道中
商業都市『クリューソス』
仲間集め
『クリューソス』コンテスト一日目
『クリューソス』コンテスト二日目、水着審査
『クリューソス』コンテスト三日目、最終審査
『クリューソス』コンテスト四日目、結果発表
オンナの体
『魔導列車タイタン』クリューソス発
出会い
傭兵VS魔物
初めての気持ち
会食と脅迫
敗北
2016/10/03

敗北

会食後、ワンウェイから何かしらの行動があるかと構えていたんだけど、特に何があるわけでもなく、魔導列車の旅は終わりを告げようとしていた。

『コンコン』

ノックの音で僕が目を覚ましたのはまだ、寝入って数時間。時計を見れば、まだ深夜だった。

目を擦りながら起こされる前まで見ていた夢を思い出す。

最近夢の中の千手丸は男村正と、どんどん近づいている。今日などは千手丸の家に村正を招待して夕食を食べていた。

甲斐甲斐しく夕食の支度をする姿はまるで乙女のようだった。

(というか、千手丸は女だから当たり前と言えば当たり前なんだけど…)

『コンコン』

「はいはい…」

ノックの音に答えて扉を開けると、そこに立っていたのはミハエル達だった。

「うぇっ?みんな揃ってどうしたの?」

「お嬢様、お休みのところすみません」

僕の部屋にあった丸テーブルを囲む。

「それで一体どうしたの?」

一様に緊張した顔つきから、何かがあったことは分かるけど、それが何なのかはさっぱり想像もつかない。

「あー、実はだな、この列車はクリューソスに向かっていない」

「へ?」

ミハエルの言葉に僕は耳を疑った。

(でも車掌さんが次はクリューソスだって…)

スージーさんとタマちゃんの顔を順に見る。

二人とも不安そうに耳を垂らしていた。オズワルドさんは難しい顔で腕を組んでいる。

「ミハエル、それじゃ意味がわからないわよ。アオイ、ちょっと、これを見て」

そう言ってジャスミンさんがテーブルに地図を広げた。

「さっき補給のためにちょっと止まった都市があっただろ?それはここなんだ」

ミハエルが指差したのはクリューソスの西の都市だった。

「だけど、今は北に向かっている」

確かにミハエルの持つ方位磁針は北を指していた。

「一旦北に向かってから東へ向かうってことはないの?」

「ああ、最初は俺達もそう考えたんだが、ほら、この地図を見たら分かるが、レールはさっき停車した都市からこの道に沿ってクリューソスに直接繋がっている」

なるほど。地図の上にも真っ直ぐ東に向かってレールを示す線が描かれていた。

「おそらく、さっきの都市でクリューソスに帰るなら東向きのこのレールにのるはずが北向きのこのレールに乗ったんだ」

地図の上で北に進んで行くと、その先にはクリューソスの同盟都市はない。ステファノスの同盟圏に入ることになる。

「あれ?このままだと…」

地図の上を指でなぞった先はいくつかの都市があって、最終的には…。

「そう。ステファノスに着いてしまうのよ」

ジャスミンさんが頷く。

「つまり…どういうこと?」

「分からない…ワンウェイは何を考えているんだろう」

「ふーん」

『コンコン』

静まりかえった室内に、またノックの音がした。スージーさんが小さく悲鳴をあげて、ミハエル達が家具の裏に隠れた。

ノックしたのは車掌さんで、僕とハル、アメが起きていることに少し驚いた顔をしたあと、ワンウェイが僕を呼んでいることを伝えた。


◇◇◇


ワンウェイの部屋の扉を開くと中にはワンウェイ以外にもう一人、見慣れぬ人物がいた。

「ハルっ、アメっ」

言葉よりも早くアメが前に飛び出し、ハルが僕を守るように槍を構える。

(フードの男…、いつの間にこの列車に…)

僕も最近愛用となった仕込み杖をいつでも抜けるように構えて男を観察する。

(間違いない、この男だっ)

フードの中の顔は見えないものの、薄ら寒い不気味な雰囲気を感じた。

「グヒヒヒヒヒ、お前らっ、まとめて性奴隷にして可愛がってやるからな」

ワンウェイはそう言いながら後ろに下がる。

「この豚っ、一人じゃなにも出来ないのね?こないだなんてガタガタ震えて命乞いしてたくせにっ」

アメの罵詈雑言にワンウェイは挑発に応じない。でも、こめかみに血管を浮かばせ、口元がピクピクと痙攣してる。

(あれ?アメに会食の時の詳しい話なんてしたかな?)

会食での出来事はみんなに話したけど、そこまで詳しい話をした覚えはないんだけど。

「ふん、言いたいことはそれだけか?相手をするんはワシやない。ほな、あとはよろしくお願いします」

ワンウェイの隣に立っていたフードの男が僕らの前に立ち塞がった。

(フードの男っ…こいつが…)

「ふんっ、誰が相手でも関係ないわっ。こいつをやったら次は自分の番なんだから覚悟しとくのねっ」

ところが、言い終わるや否や、勢いよく飛びかかろうとしたアメが、急に止まった。

「アメっ?…えっ?それっ」

アメの手が、肘から先が無くなっている。

「アメっ、下がるんだっ」

「くっ、一体どうなってるのっ?」

僕らの所にに戻ったアメの手は元に戻っている。

「どういうこと?」

僕にはさっぱり分からない。

『ヒュッ』

ハルがいつの間に持っていたのか、クナイを投げた。だけどそれは男の手前で消える。

「やはり…力を無効化している。…いけないっ、お嬢様っ、逃げて下さいっ」

その時、それまでまるで動かなかった男が僕らの方に一歩近づいた。

ハルとアメが男から距離をとるように少し下がる。

「僕が前に出るよっ、二人は扉へっ」

ハルは悔しそうに、アメは僕が二人を庇うと思っていなかったのだろうか、少し驚いた顔で後ろの出口へ後退した。

「お嬢様、一度引きましょう」

「うん…逃がしてくれるならね…」

男が腰の刀を抜く。

(刀…まさかサムライ…?)

黒い、まるで魔王が顕現した時と同じ靄(もや)が刀を覆っていた。

(来るっ)

「二人とも走って」

二人が出口に走るのと、男が数歩前に出て刀を水平に振るうのが同時。

『ギインッ』

「くっ」

(力の勝負では勝てないっ)

刃を合わせた刹那に膂力の差を感じ取った僕は、自ら後ろに跳んだ。

『ビュンッ』

追撃は無造作に上から斬りつけてくるだけ。

相手は豪剣、どこかで見たことのある太刀筋だ。だけど、ワンウェイの言葉ではないが、どうも動きに違和感を覚える。

『ギイィンッ』

「がっ」

追撃の一撃を刀を合わせることでなんとか逃れたものの、そのまま力で振りきられてしまった。

『ドンッ』

「がっ」

僕は吹き飛ばされて壁に叩きつけられる。だけど、そこは運良く出口のそばだった。

「お嬢様っ、掴まって下さいっ」

「痛たた、ありがとう」

ハルの肩を借りてなんとか僕も廊下に出る。

フードの男もすぐに追いかけてくるだろう。

「傷物にはせんといて下さいよ。後で楽しみが減るよって。クヒヒヒヒヒ」

ワンウェイの嘲るような声が部屋から聞こえた。

「お嬢様っ、まずは客車へっ」

「うんっ」

ワンウェイの部屋のある車両から客車まで、その間にある傭兵や乗務員の部屋のある車両を走り抜けた。

(あの男は妙だ。立ち方や構え方は歴戦の剣豪みたいなのに、動きはまるで刀を握ったことのない素人…)

なんとなく気になることはあるけど、落ち着いて考える間もない。あっという間に僕らは客車の手前に到達した。

「ハル、どうするつもり?」

「連結部を破壊しますっ」

アメがまず客車に移り、ハルが連結している金具に槍を突き立てる。

『ギインッ、ギャリンッ』

「くそっ」

ハルの槍でも簡単には太い連結部の金具は壊れない。

時間がない。

あの男の力はまだ未解明、この状況で戦うのはあまりに危険だ。

「お嬢様も早く客車へっ」

その時、槍を逆手に持っていたハルの腕を大きな手が掴んだ。

「ハル、アオイ、俺達に任せな」

「うふふ、アオイちゃんには夢を叶えてもらった恩があるからね」

ジャスミンさんがハルの腕を引っ張り上げて抱き上げると客車へ放り込む。

「せーのっ」

そして、ミハエルがどこから手に入れたのか、大きなレンチでボルトを回し始めた。

「くそっ、カッテェな」

「私も手伝うわ」

ミハエルとジャスミンさんが二人がかりでようやく少し動いた。

だけど、これではまだまだ時間は掛かりそうだ。

「ミハエルっ、早くっ」

「無茶言うなよっ」

顔を真っ赤にしてミハエルが声を絞り出す。

(そうだっ、ジルに連絡をすればっ)

イヤリングに意識を注ぐ。

(あれ?)

何も反応がない。

(ちょっとぉっ、必要な時にぃっ)

「うおおおっ、もうちょっとだぁぁっ」

「ミハエル、うるさいっ」

「ええええ?」

何かブツブツ言っているミハエルは無視して、僕は振り向いた。

(そろそろアイツが…)

ちょうど僕が振り返った時、男が車両に現れた。焦る僕らとは対照的に、立ち止まって観察するようにこちらを見ている。

「お嬢様っ、奴がっ」

男がゆっくりと近づいてくる。

「くっ」

ミハエル達を見るとまだもう少しかかりそうだ。

(このままじゃ、間に合わないっ)

「僕が止めるっ」

その言葉と同時に僕と男が同時に走り出した。

『ギイィィン』

車両の真ん中辺りで再び刀がぶつかって火花が散った。

「おおおおおおっ」

『ガッ』

男が振り上げた刀の先が天井につっかえた。

(今だっ、狭い廊下で相手も思い通りには太刀を振り回せない)

隙あり、僕は男の懐に飛び込もうとして…。

「うそぉっ?」

男が刀を力任せに振りきった。

天井が割れてそのまま床まで振り下ろす。

「冗談っ?」

男が続いて横に切り払う。

『ギャギャッ、ギャンッ』

今度は壁が割れる。

「もう…ちょっと…アオイっ、戻ってこいっ」

ミハエルが呼ぶ。

だけど、男とにらみ合ったまま、僕は動かない。

「…葵…まさか?」

「お嬢様っ」

ハルとアメがなにかを感じとったようだ。

(こいつを連れていくことは出来ないっ)

「ミハエルっ、そのまま連結具を外してっ。大丈夫っ、僕も必ず行くっ」

「そんなっ、お嬢様っ」

『ヒュッ』

男はこちらの都合なんて関係なし。刃が風を切る音に後ろを気にしてなどいられない。

「葵っ、ハルっ…」『ガギッ、ィイーン』

アメの切羽つまった声は、太いボルトが外れる音と刀同士のぶつかる音にかき消された。

『ピシィッ』

(まず…)

仕込み杖にヒビが入った。

「葵ぃぃぃぃ…」

後ろから聞こえるアメの声が一気に遠ざかっていった。

(みんなは逃げきれた…か。果たして刺し違えられるか?)

ホッとしたけど、ここからが問題だ。

「うわあっ、アオイっ、助けてくれぇっっ」

「えっ?」

声は後ろからする。男の動きに注意しつつ振り返ると連結部に人の手が。

「ミハエル?なんでっ?」

男はどういうつもりなのか動かない。

その間にミハエルを引っ張りあげた。

「いや、あのな…なんでだろうな…そうだ、俺だけじゃ…」

何かをミハエルが言いかけて黙る。

「何を言いかけたの?」

「いやぁ…その…そうだっ、ハルのやつがこれをアオイに渡してくれって」

なぜかしどろもどろにそう言ってミハエルが古びた刀の鍔を僕に手渡した。

会食の際に渡された小太刀の鍔は赤い宝石に飾られていたけど、今度は青い宝石で彩られている。

「ありがとう。よしっ、僕らも逃げるよっ」

鍔を掴んだ僕は再びフードの男に向かった。

『バシュッ』

「えっ?」

首筋が熱い。それに頭がクラクラする。

「な…にを…」

僕の最後の記憶はミハエルの笑う顔だった。

2016/09/27

会食と脅迫

バーベキューがリザードマンに邪魔されてから、さらに二つ都市を回ったところでやっと会食の知らせが来た。

「お嬢様、気をつけて下さい」

ジャスミンさんのデザインしたストライプのワンピースを着て、出ようとする僕の前にハルが立った。

(ハルは心配性だなあ。ラルフみたい)

「何かあってからでは遅いのです。せめてこれを」

ハルから渡されたのは小太刀だった。

「これなら会食の場に持って行っても気づかれないでしょう」

「うん、これなら…あれ?これっ、綺麗だね。アメの瞳みたいな…」

小太刀の鍔(つば)には綺麗なアメジストの装飾がされていた。

「さあっ、これに入れて、行ってきて下さいっ、さっ、早くっ」

僕がそう言うとなぜかハルに急かされ、部屋から追い出されてしまった。

(一体何なんだろ?)

そう思いつつ会食の場であるワンさんの部屋に向かった。


◇◇◇


さて、ワンさんの部屋は丸いテーブルにクロスが掛けられていて、即席のレストランに僕は招かれていた。

「待たせましたな」

ワンさんがどかっと座る椅子は僕の座っている椅子の何倍もある。

「ハハハ、特注ですわ。ワシみたいな体やと普通の椅子は壊れてしまいますんや」

僕が三人は入れそうなズボンもきっと特注なんだろう。

「アオイさんも疲れたやろ?コンテストから休む暇もなかったやろし」

「いえ、そんな…」

「こないだもせっかく気分転換してもらおと思ったのに魔物に当たるしな。ほんま、最近は魔物だらけやで」

ワンさんがため息混じりに話すのは先日の海でのバーベキューの件だろう。

(魔物が増えた原因を作ったのも僕なんだけど…)

愛想笑いを浮かべて相槌を打っているとウサギ耳のメイドさんが飲み物を運んできた。

『カチャ、カチャ』

俯いているから顔は見えないけどお盆に載せたグラスが震えている。

(まだ慣れてない新人さんかな?)

「すまん、すまん。こないだの街で奴隷を一人乗せたんや。まだ無調法やけど許してな。…ほれ、お客様に挨拶するんや」

「うぅっ、す、すみませ………あああっ」

大声をあげたメイドさんを見た僕も、ワンテンポ遅れて驚きの声をあげた。

「ああっ…えっ?なんで?」

そこにいたウサミミメイドはなんとセシリアさんだった。

「こらっ、セシリアっ、挨拶はどうした?」

セシリアさんは泣きそうな目で僕を見て頭を下げた。

「せ…セシリアと申します。よろしくお願いいたします」

セシリアさんが部屋から出ていくと、僕はワンさんになぜコンテストの準グランプリが奴隷になったのか尋ねた。

「ついこないだアリストスがステファノスに負けたんや。そのせいでセシリアの父親が破産してな、それでセシリアが売られたっちゅうわけや。…ああ、つまらん話は置いといて食べよか。同盟都市で買った特産品を使っとるから旨いはずやで」

すると、タイミングを見計らったように食べ物が運ばれてきた。

『ガシャンッ』

「あっ」

列車が揺れてセシリアさんがスープをこぼす。

「ぁ…す…すみません…すぐに拭くものを…」

「セシリア」

ワンさんが低く冷たい声でセシリアさんの名を呼んだ。

「後でお仕置きや」

その言葉にセシリアさんは真っ青になって震える。

「すみませんっ、許して下さいっ、あれはもう…お願いしますっ、お願いしますっ」

座り込んでワンさんの足に抱きつくようにして謝るセシリアさんだったけど、すぐに数人のメイドさんによって部屋から引きずるように追い出された。

「はあ…もとがお嬢様やからな。調教には時間がいるわ。スープがくるまでじかんがあるなあ。…そや、せっかくやし、こないだの海のやつ見てもらおか?」

「海のやつ?」

ワンさんが立ち上がるとカーテンを閉めて、テーブルに置いた魔術具を操作する。

『天罰だよっ』

僕の声がした。

(わっ、何これ?)

カーテンに僕の水着姿が映って、波打ち際ではしゃぐ姿が映しだされた。

「すごいやろ?ブロマイドだけやなくてこれも売りだそう思てるんや」

「なるほど」

(かなり恥ずかしいけど…)

顔を赤くしている僕をニコニコしながら見ていたワンウェイさんが魔術具を弄る。

「…次は…こっちや」

そう言ったワンウェイさんの声がセシリアさんを咎めたときのような冷たい声に変わった気がした。

「何ですか?」

波打ち際で遊んでいる映像が今度はどこかの部屋に変わった。そして、そのベッドには僕が座っている。

(あっ、これは…)

魔導列車の部屋だ。

(でも、撮られるなんて聞いてない…まさか、隠れて…)

映像の僕は箱から卵を取り出した。

(あの卵は…まさか…)

「葵さんも好き者やな。そんなに溜まってるんやったら言うてくれたらワシがいくらでも相手したるのに」

ワンさんがニタニタと笑う。ゾッとするような汚い笑い顔だ。

「実はな、どうしても葵さんが欲しい言うてる人がおってな。一晩でええからって言うたはるんや」

一晩という意味はさすがに僕もわかる。そしてこれがお願いではなく脅迫であることも。

「この映像は隠しときたいやろ?」

(はあ…)

都合よく部屋は暗い。カバンから小太刀を出すと僕はいつでも動けるよう腰を少し上げた。

「なあ、それで…」

『ヒュッ』

カーテンに映っていた映像が消えた。魔術具が真っ二つに別れている。

「は?」

ワンウェイはまだ状況が理解出来ていないようだ。

その間にテーブルを跳び越えてその贅肉まみれの首に小太刀をあてた。

「それで?何?」

ようやく状況が理解できたのか、ワンウェイの顔がひきつった。

「い、いや…」

ワンウェイの声が震えている。

「これは他にもあるの?」

この映像の複製があるのかを確認すると、ワンウェイは小太刀を気にしながら首を横に振った。

「いっ、いやっ…あらへんっ」

「本当に?隠していたら…」

「ほっ、ほんまやっ」

ワンウェイの顔が真っ赤になる。

「脅迫する相手と脅迫するネタを間違えたね」

僕は刀を首筋に当てたままワンウェイの座る椅子の後ろに回り込んだ。

「はあ、くだらないことをするからこういうことになるんだよ。…この部屋の香りも媚薬でしょ?」

「なんで分かったんやっ?」

部屋に入った瞬間に僕は気づいていた。甘い独特の香り、以前アヴニールの学院長の使っていたものと同じ匂いだった。

「前に一度嗅いだことがあるからね。それで、どうする?」

僕は刀をさらに首筋に押しつける。

「なっ、何でもやるよって許してな」

歯をカチカチ鳴らしながらワンウェイが命乞いをしてきた。今度は顔が真っ青になっている。

「あっ、そうだ。グランプリの賞を忘れてた。僕の欲しかったのは情報なんだ。ワンウェイ、あなたはフードの男を知っているはず。その男について知りたいんだ」

「フード?フードの男っちゅうとあれか?ステファノスの王の使いか?」

「ステファノス王の使い?何をしに来たの?」

「いや、その…」

「知ってるんでしょ?」

ワンウェイは諦めたように口を割った。

「アリストスを攻めるのに、ワシらクリューソスの商人が物資を売ったんや。もちろん、市場の値が変わらんように裏からやけど。ワシはその窓口をやっとったんや。それでそん時に一度会っただけや。ワシはそれ以上は知らん。なあ、堪忍してや。もう変なことも言わへんし、他にも欲しいもんやったら全部やるさかい…」

ほんの少し刀を離してやる。

「どんな男だった?」

ワンウェイは思い出すように僅かに顔を上げた。

「せやな…背ぇのごっつい…あれは軍人…いや…ちゃうな。…体つきは鍛え上げとったけど、軍人らしくもない。なんちゅうか、ちぐはぐな感じがしたな。とにかくワシの目から見ても薄気味悪い男やった」

(奴隷商人から薄気味悪いと言われる男って…。それにしてもたいした情報はなかったな。収穫はステファノスにいるってことくらいか)

「こんだけ喋ったんや。もうええやろ」

ワンウェイがそう言った時には僕は部屋から出るところだった。

(…はあ、全く。ろくな会食じゃなかったよ。そもそも食べそこなったしさ)

閉めた扉越しに、正気に戻ったワンウェイの叫び声と怒りを物にぶつける音が響く中、僕は自室に向かった。



◇◇◇


「あの小娘がっ、舐めくさりおってえっ」

ワンウェイが己の肉棒を咥えこんだセシリアの髪を掴んで強引に上下させた。

「むぐうっ、ぐえぇぇ」

セシリアが白目を向いて嗚咽する。

「誰に喧嘩売ったか体に教え込んだるっ。せやっ、アオイだけやなくてあの従者二人も一緒に犯したればっ。クヒヒヒヒヒ」

もう意識のないセシリアの口に射精したワンウェイはメイドを投げ捨てて、部屋の隅にあった魔術具を手に取って、太い指で操作を始めた。

2016/09/26

初めての気持ち

居残り鍛練をせずに道場を出た私は先日の薬師の店の近所をあてもなく歩いていた。

今日で三日連続だ。いい加減、武三や犬千代殿は不審に思い始める頃だ。

(そうそう会えるはずもないか…)

確か男はあの日は体調が良かったから外出した、と言っていた。だからこうしてここにいるからといって会える可能性は低い。

それでもここに来てしまった。

あの男の姿、声が頭にこびりついている。こんなことは初めてでどうしたものか分からない。

(最近はこんなことばかりだ)

毎夜行う秘事に加えて新たな感情に翻弄されている。

(とにかくもう一度会えば何か分かるかもしれないと思ったけど、今日会えなければ諦めよう。そうだ、私は土御門家のために生きるのだ)

気合いを入れ直してもう一度周辺を歩こうと思った矢先、横から私に声がかけられた。

「おや?」

声のする方を見る。

「ああっ」

そこにいたのはまさに今、私の探している男だった。

「今日も薬を買いに?」

「えっ、いやっ、あっ、…はい…」

想定外の事態に吃りながらなんとか答えた。

「私もなんです。ではともに参りましょうか」

気がつけば二人、並んで薬師の店に向かっていた。

(どっ、どうしようっ)

「あのっ」

焦った私は、思った以上に大きな声を出してしまった。

柔らかい声の主が不思議そうに私を見つめる。

(何か、何か言わないと…)

「そっ、そのっ…刀っ、そうっ、なぜ私の刀が体に合わないと分かったのですかっ?…あっ、いや、その、やっぱり刀鍛冶をされているとわかるものですかっ?」

男はうーん、と考えるように腕を組んだ。

「そうですねぇ…うーん、どうなんだろう。私はなんとなく分かるのですが…おや、着きましたね」

話しているとあっという間に薬師の店に着いた。

「いらっしゃい…ん?村正さんに、こないだのおサムライさんかっ。どうだい?うちの薬は効いただろ?」

「村正…殿?」

「ええ、そう言えば名前も言ってませんでしたね。私の名前は村正と言います。殿などつけないでください」

「はい。えっと、…村正…さん」

口の中で何度も村正さんと呟いていると、そんな私に村正さんが笑みを向ける。

「あなたのお名前をお聞きしても?」

「あっ、はいっ、私はつち…いや、千手丸と申しますっ」

「ほう、千手…良い名前ですね」

なぜか、名前を誉められただけでボッと顔が熱くなった。

それから店で薬を買うと、今日はゆっくりできると言う村正さんと一緒に日が落ちるまで茶店で話をした。

後から考えると、なんだか自分ばかり話していた気がして恥ずかしくなる。

さらに別れの時に村正さんがまたお話でも、と言ってくれて私は有頂天になってしまった。

(またお会いできる…村正さん…)


◇◇◇


「はぁ…こんなこと…いけないのに…」

掛け布団は足元でぐしゃぐしゃになって、敷き布団は腰をくねらせているせいでシワまみれになっている。

あの初めての自慰に酔った夜の翌日、私は再び罪悪感を感じながらも自慰に浸ってしまった。

実は、それ以来、布団に横になると体が火照って眠れなくなり、毎晩体を慰めてしまっていた。

(こんなこと、止めないといけないのに…)

それなのに、より強い快感を求めて、私の指は的確に動いた。

「あっ、んん…」

やめなければいけない、私は土御門家の嫡男、千手丸だ。

「だめっ、そこはっ、んっ、ああっ」

だけど指が胸と股間の固くなった部分を同時に擦ると、止めようと思う気持ちは簡単に崩れてしまった。

(今日まで、今日で終わりにしよう…)

そう心の中で言い訳をすると、瞼の裏に一人の男の姿が浮かび上がる。ここ数日、自慰に耽るときには必ずこの男を思い浮かべていた。だけど、今日は昨日までと比べて男の姿ははっきりとしていた。

男は会ったときと同じ茶色の着流しを着ている。髪はやはり無造作に後ろで束ねており、優しそうな表情にキラキラと光る目で私を見ていた。

「村正…さん…」

名前を口に出すと、なぜだか顔が熱くなる。

(村正さんに触られたら…って、私は何を考えているんだ…)

毎夜妄想しているものの、今はまだ理性が残っている。ブンブン頭を振って私は男の姿を追い出そうとした。

(『千手丸さん』)

だけど、一度思い浮かべてしまうとなかなか離れてくれない。村正さんの少しハスキーで低く、落ち着いた声はまだ耳に残っている。

不意に茶屋で湯呑みを持った時に見た、村正さんの長い指を思い出す。

(あの指で…ここを…)

『クリッ』

濡れた粘液の中で固くなった膨らみを摘まむ。

「んああっ、あっ、そんなとこぉっ」

(「もう、ビショビショに濡れてますね」)

頭の中では村正さんの声で再生される。

「そんなっ、あっ、言わないでっ、あっ、くださいぃっ」

(「ふふふ、その割にはますます濡れてきましたよ?」)

「あっ、んっ、村正さんっ、やっ」

(「嫌なんですか?」)

村正さんの困ったような笑顔に思わず正直に言ってしまう。

「いえ、…その…気持ちよくて…」

恥ずかしさに体が熱くなる。ところが、声に出すことが私の願望だったようだ。一度口に出してしまうと、こらえていた声が溢れ出した。

「あっ、きっ、もちいいっ、村正さまぁっ、もっとぉっ、おかしくなるっ」

強く揉んだ胸がひしゃげて、股間からはヂュプヂュプと空気の混ざった水音が響く。

「あっ、らめっ、おかしくなるっ、くるっ、なんかキちゃうぅぅっっ」

私は頭の中で再生されていた村正さんの声が聞こえないほど大きな声をあげてしまっていた。

「ああああっ、くりゅっ、おかしっ、あっ村正さまぁぁぁぁっ」

夜の静寂(しじま)に千手丸、いや、このときばかりは千姫の甲高い声が響いた。

そして、浮かれていたせいで千姫は気づいていなかった。茶店でも、そして、今も見られているということに。


◇◇◇


起きたばかりなのに僕はベッドの上で口をポカンと開けて座っていた。ガタン、ゴトンとレールの音がする。

「なんで?」

村正が男だった。

でも、村正を僕は知っている。間違いなく女だ。

ということは、同名の別の村正なのか?でも男は刀鍛冶をしてるって言ってた…。

(…だとすると、あの村正は誰なんだ?そもそもこの夢は一体何なんだろう?)

頭の中で二人の村正がぐるぐる回る。

(意味が分からない…)
2016/09/19

傭兵VS魔物

『コリント』、クリューソスの同盟都市の一つ。ここが終われば訪問する都市国家もあと一つか二つ。

他の都市もそうだったけど、ここでも大観衆に迎えられ、僕らの訪問は大成功をおさめた。

そして、その翌日。

海のそばで魔導列車が停車した。

(また魔物を狩るのかな)

何度も見てきたけど、怪我人こそでるものの、命に関わるほどのダメージはない。

だからアメやハルも何も言わず、のんびりとソファに座っていたら車掌さんが現れた。

「ワン様から少し休憩するとのことです。列車から降りてください」

タラップを降りると既にみんなが降りていた。

傭兵たちが上半身裸で浜辺にテントを張ったりバーベキューの準備をしたりしている。

「葵さん、あの、しばらく海で遊ぶみたい。だから…」

スージーさんが水着を持っている。

(遊ぶ?)

「できたら、その、新作の水着なんだけど…」

「お嬢様、僕らはここで待っていますので」

ハルとアメはいつの間にか水着に着替えていた。多分前に見たピカッと光って水着になったんだろう。

ハルはハーフパンツ型の水着、アメは黒のビキニだ。フリルが胸のところにヒラヒラついている。

(胸は歳相応なんだ)

「何よ?文句でもあるの?」

胸を隠して久しぶりに毒を吐かれた。

「葵っ、あっちに水着に着替えるためのテントがあるぜ」

声がして振り返ると水着姿のミハエルとオズワルドさん、それにジャスミンさんが立っていた。

「ふぁ?」

「どうしたの?」

目を丸くした僕にジャスミンさんが眩しい笑顔を向ける。ミハエルやオズワルドさんはハルと同じく普通のハーフパンツの水着で気にならないんだけど、問題はジャスミンさん。

筋肉ムキムキの体に乳首が隠れるか隠れないかくらいのミニのビキニ。股関もギリギリ隠れるかどうか。もっこりしたものが角度次第では見えるのでは…。

「いえ…ナンデモナイデス」

「うふふ、海なんて久しぶりねっ。きょうは焼くわよっ」

ジャスミンさんの満面の笑顔を見ると何も言えない。

「あの…私達も行きませんか?」

そうスージーさんから控えめに促されて僕らも着替えることにした。

「ねえ、スージーさん、ちょっと待って。これ透けてないよね?」

「大丈夫な…はずです。中心にはちゃんと裏地をつけていますから」

スージーさんの新作はニット風の編み込みの水着だった。コンテストの時は黒の水着の上から編み込みの水着を重ね着する形だったけど、今回はニットを直接着る。

中心に裏地がついていても当然編み込みの隙間から胸の色んなところは肌が見えてしまう。

結局着替えてテントから出ると、若い傭兵達から歓声があがった。

「こらっ、お前ら、食事の準備をするんだっ」

隊長が現れて傭兵達を連れていくけど、帰り際に僕の姿をチェックしていた。


◇◇◇


「うわあっ、気持ちいいっ」

波が打ち寄せてふくらはぎまで浸かる。

海に入るのは考えてみれば旅に出る前、ケルネにいた時以来だ。

キャッキャはしゃいでいると、ワンさんが小さな箱を持った男の人と一緒に現れた。

「気にせんといて。最近出来た魔術具を試させてな。なに、ブロマイドみたいなもんやけど、動いててくれてエエから」

言われてみれば、ブロマイド撮影のカメラとかいうのに似ている。

(気にするなって言っても…)

「おいっ、葵っ」

「えっ、…わぁっ」

水が顔に向かって飛んできた。

「ちょっと…やったなぁっ」

ミハエルに向けて水をかける。

「うわっ」

ミハエルが足を滑らして転んだところに波が来て頭から被った。

「あははははっ、天罰だよっ」

そうこうして、いつの間にかカメラのことなど忘れて楽しい時間が続く。

「お嬢様っ、食事が出来たようですよ」

波打ち際からハルに呼ばれて僕らは海から上がった。いつの間にかハルとアメは普段の格好に戻っている。

「あら?ご飯の時間?」

おいしそうな匂いのする方へ歩いていると、ジャスミンさんが砂浜に寝転がっていた。

(なんか光ってる…?)

「これは油よ、せっかくだから綺麗に日焼けしたいじゃない?」

ジャスミンさんの筋肉がテカテカと光って、なんというか…凄い。

その後ろにスージーさんも体育座りしていた。なぜか手に双眼鏡を持っていた。

「葵さん…可愛かったです…特に波打ち際で遊んでいた時なんて…」

(ずっと見てたの?)

二人も合流して歩いていると、傭兵達が出迎えてくれた。

「あっ、あのっ、俺達、ファンなんです。握手してもらっても良いですかっ?」

「えっ?あっ、はい」

伸ばされた手を握ると、俺も俺もと周りが手でいっぱいになった。

「えっ、あのっ、ちょっと…」

戸惑っている間にもどんどん人の数が増える。

「お前らあっ、持ち場に戻れえっ」

傭兵隊長が現れてようやく事態が収拾した。

「すみません、うちの若い者が」

(そう言いながら、胸をチラチラ見てるよ)

さらになぜか去り際に握手をして隊長は傭兵達を怒鳴りながら持ち場に戻っていった。

「そしたら乾杯しよか。傭兵の皆は連日戦こうてお疲れやろうし、葵さん達も有名人やから、クリューソスに帰ったらこんなことも出来へんやろし、今日はゆっくり楽しんでや」

ワンさんの乾杯の音頭でバーベキューがスタートした。

「お嬢様、食べ物を取ってきますね?」

準備された専用のテントから少し離れた所に肉を焼く場所があって、傭兵達がその場で座りこんで食べている。ハルに「僕も取りに行くよ」と言ってついて行った。

「でも、お嬢様…」

「大丈夫だよ」

ハルは心配性だなあ。

「そうそう、俺達も行くからさ」

ミハエルやジャスミンさんも一緒に行くと、さすがにさっきみたいなことにはならなかった。概ねジャスミンさんのお陰だったけど。

「やっぱり若い子達はいいわね。私も若返るわっ」

ねっとりした目付きでジャスミンさんが周囲を見渡すと、スッと傭兵達が俯いて僕に向けられていた視線が消える。

「あらあら、みんなシャイなのね?」

ジャスミンさんは目を逸らすタイミングをミスった幼さの残る傭兵にウインクすると、泣きそうな顔で震えていた。


◇◇◇


「ハグ、ハグ…おいしいねっ」

お皿にのったお肉を頬張っているとき、ふと海を見るとなんだか遠くの方に黒い点が見えた気がした。

(うん?…あれは…?)

見間違いかと思ったけど、やはり遠くに黒い点が波に揺れている。さらにそれが大きくなってきたような気がした。

「…あれ?ハル、アメ…あれって…」

海を指差してハルとアメに確認すると、二人も頷いた。

(いけないっ)

「ミハエルっ」

振り返るとミハエルはジャスミンさんに飲まされて鼾をかいて寝ていた。

(何してるんだよっ、大事なときにっ)

「なあに?葵?」

ジャスミンさんはまるで素面のようだった。

そして、海に浮かぶ点を見るや否や、スージーさんとオズワルドさんを傭兵隊長のもとに走らせ、自分も傭兵達のところに走っていった。

『ガンガンガンガンガン』

激しい銅鑼の音が鳴り響いたのはその数分後。傭兵達の顔つきが変わって、酒を飲んでいない者は酔いつぶれた仲間を列車に運び、武装する。

「葵さん、列車に戻って下さいっ」

傭兵隊長からの伝令がきた。

「戦えるのは何人いるの?魔物は?」

「えっ、あの…」

若い傭兵は躊躇う。

「早くっ」

「あっ、ええっと…戦える者はおよそ20、魔物は海から70、陸から30ですっ」

(まずいな…五倍か…)

「僕も戦うよっ」

ハルとアメも僕の両隣についた。

「お嬢様、これを」

ハルからは仕込み杖、アメからはホットパンツが渡された。

「戦うなら一応これくらいは履いたら?周りの男が集中して戦えないわよ」

確かに伝令の若い傭兵も真っ赤になって目をそらしていた。

「ありがとうっ」

お礼を言って急いでホットパンツを水着の上から着る。

「葵さーん、大丈夫ですかぁ?…はぁ、はぁ…あれ?」

スージーさん達も帰ってきたけど、僕の姿を見て不思議そうな顔をした。

「スージーさん、オズワルドさん、ミハエルをお願いっ。急いでっ」

黒い点は既にもうリザードマンであることが見て分かるほど近づいていた。

「お嬢様、来ます」

浜に上がったリザードマンはある者は三ツ又の銛、ある者は珊瑚か何かの槍のようなものを持ち、口々に何か叫びながら走ってくる。

「さあっ、行って」

僕らは浜に向かって駆け出した。


◇◇◇


ワンウェイは魔導列車の指令室から戦いの様子を見つめていた。

「おりゃあっ」

『ズシャッ』

ジャスミン、いや、かつてアリストスから各都市国家にまで名を馳せたジェイソンが傭兵から借りたのだろう、バスターソードを振り回し、一撃で三体のリザードマンを屠った。

(さすがは自力で戦奴から解放されただけのことがある)

アリストスの主戦力は戦奴と呼ばれる奴隷達だ。ほとんどが奴隷からの解放前に戦いの中で命を落とす。だが、圧倒的な力で勝利し続け、解放された男がジェイソンだ。

(それに…)

続いて目を移すと、そこにはジェイソンとは180度異なった存在がいた。

「はっ、ふっ」

水着のブラジャーを柔らかく揺らしながらリザードマンの矛先を躱し、華麗に切り裂くのは、まさかの美少女コンテストのグランプリだ。

(情報から実力は充分だと分かってたつもりやったけど)

さらにメイド服と執事服の従者の二人も葵と同じか、それ以上に強い。

(これはなかなか骨やで…)

四人で海から来たリザードマンの半分ほどを足止めしている。

そのお陰で傭兵達も士気が上がり、何とか数で勝るリザードマンを押し返していた。

(さあ、どうしよか…力ずくは難しいな)

丸いサングラス越しにワンウェイは目を細めた。


2016/09/18

出会い

父上が床について数日。

私としては毎日でも父上を見舞いたいのだが、対外的には風邪で寝込んだことになっているため、そうそう城に行くわけにもいかない。

だが、それだけではない。私には父上に顔向け出来ないことがあった。


◇◇


「ふぅぅ」

眠れない。

もう何度目かの寝返りをうつ。

「なんで…」

確かに熱帯夜が続いているとはいえ、一日鍛練をした体は心地よく疲れ、眠りを欲している。

にもかかわらず体の奥には不可解な熱が籠っていた。

「はぁ…」

頭に思い浮かぶのは先日、酔って帰った時にした、あの行為。

(あんなこと…してはいけない)

そう。してはいけない。だけど、一度意識してしまうと脳裡にはあの時の快感が浮かんだ。

(少しだけ…そう…確かめるだけ…)

自分をごまかしながら着物の合わせ目に手を差し込む。滑らかな肌を手のひらが撫でていくと、固く尖った蕾に引っ掛かって。

「んっ」

ピクッと体が反応した。

「はぁっ、んっ、ん…」

誰に教わったわけでもない、もちろん先日が初めての経験だったのに、まるで我慢すればするほど快感が強くなることを知っているかのごとく、指は蕾を避けて胸の周りから愛撫していく。

「はぁっ、はぁっ、はあっはあっ」

掠れたような息遣いが闇の中に広がった。

(もう、我慢できない…)

「んあっ」

じっくりと焦らしていた分、指が蕾を摘まんだ瞬間、高い声が出た。

「んっ、くっ…」

指で蕾を挟んだまま胸を揉み始めると腰が勝手にくねくねとよじれ、薄い掛け布団を乱す。

「ああっ」

足をくねらせている間に着物の裾がはだけていた。

そして、胸を揉んでいた手が露になった下半身に向かう。

『チュク』

「あふっ」

ヌルヌルの割れ目をなぞって、その上にある控えめな突起を指の腹が擦った。

「はうっ」

ビクンッと体がのけぞり、これから訪れるであろう快感への期待に体が震える。

(こんな姿…誰にも見せられない…)

不意に暗闇の中、一人の男の姿が浮かび上がった。

(なんで…あの男が…んあっ)

だが、すぐに男の姿は消えて意識は快感の波にさらわれる。

「あっ、だめっ、こんなっ、だめなのにぃっ」

『ニチャ、ニチャ』

割れ目をなぞると、体の中から粘液が溢れ、突起を押し潰すと少し痛いくらいの快感が体を貫く。

「あっ、らめっ、なにっ?なにか来るっ、あっ、らめっ」

自分が自分でなくなるような感覚に目眩にも似た興奮を覚えてますますのめり込んだ。

『くちゅっ、くちゅっ、ねちゃっ、チュクチュクチュクチュクッ』

「あっ、あっ、ああっ、らめっ、らめっ、らめぇぇぇぇっっ」


◆◆◆


それは、あの初めての日の翌朝。


「うー…」

明け方、裸で目覚めた私は布団の上で暫く頭を抱えていた。

(酔っぱらっていたとは言え、なんてことを…)

急いで服を着て風呂を焚き、湯に浸かる。

『パンッ、パンッ』

頬を両手で叩いて気合いを入れた。

それからサラシを胸に巻いて男の道着を着ると自分に言い聞かせる。

「私は千手丸。土御門家の嫡男だ」

それから刀を腰につけて道場に向かった。


◇◇◇


「千手丸、良い薬師の店が分かったぞ」

武三がその日の終わりに声をかけてきた。

「夏風邪くらいなら一発らしいぜ」

武三は道場での修行の傍ら仕事もしていて、お客さんから聞いてくれたらしい。

「犬千代殿、今日はお先に失礼します」

「分かった。武三、頼んだぞ」

私達は町の北に向かう。

「確か…ここだ、ここだ。さっ、千手丸っ」

武三に促されて暖簾をくぐったところでちょうど出てきた男の人にぶつかった。

「…っと、すみません」

「いえいえ、こちらこそ…」

男は私の刀を見ている。

歳は三十代の半ばくらいか。長い髪をきちんと後ろで束ねて、清潔そうな着物を着ていた。

「何か?」

「いや、その刀、柄糸が緩んでいますよ」

刀の柄を見ると確かに緩んでいる。

「えっ?…ああ…本当だ」

「よろしければお貸しください」

私が刀を腰から抜くと男は手慣れたように柄糸を直し始めた。

(サムライには見えないが…)

「あなたは…?」

「ええ、私はこの近くで刀鍛冶を営んでおります」

男の声は少し低く、落ち着いた話し方は好感が持てた。

「ところで、これはかなりの業物と見受けますが…あなたの体には合っていないのではないですか?」

「えっ?どうしてそれ…」

その時、大きな声が私の言葉をかき消した。

「ちょっと、何を一人で出てるのよっ」

そのまま、声の主は私と男の間に割り込んでくる。

「村雨、ゴメン。今日は体調が良くて…」

「何言ってるのよ、また体調崩したら世話するのはこっちなんだからねっ」

こちらからは背中を向けているため顔は見えない。だけど、年端もいかないおかっぱ頭の少女に男は叱られていた。

(娘さんだろうか?)

「あっ、あの…」

私の声に男が少女から私に視線を移す。男と目が合った。優しそうな瞳が私を捉える。

「あの…えっと…」

言ってから特に何か話すことがあるわけではないことに気がついた。

「……すみません、それでは…」

私が何を言おうか考えているうちに、男は軽く頭を下げて少女に引きずられるようにして去ってしまった。

「ありゃあ何だったんだろうな…」

振り向いて武三が呟いた。

(確かに体に少し合ってないんだけど、ちらっと見ただけで分かるものなのか…それに…何だろう、この気持ちは…)

胸に手を当てると動悸が普段よりも早い気がした。

「いらっしゃい。どんな薬を探していらっしゃるのかな?」

「あっ、そうだった。ええ…」

薬師の声に我に返る。私は父上の病状を説明しながら頬が熱くなっているのを感じた。
2016/09/17

『魔導列車タイタン』クリューソス発

イリスさんが帰ってから数日後、僕はついに王偉(ワンウェイ)さんとの会食と相なった。

「ここ…で間違いないよね?」

てっきり会食はレストランか何かで行われると思っていたので、指定された場所に着いた僕は思わず呟いた。

クリューソスの門の外、大きな煉瓦作りの建物が指定された場所だった。

大きな金属製の入り口が開いている。

「俺達まで招待してくれるとは、流石は大物、太っ腹だが…」

そう、会食の場に招待されたのは僕だけでない。ミハエル、ジャスミンさん、スージーさん、タマちゃん、オズワルドさん、もちろんハルとアメも同行を許された。

「でも、なんだか…警備が厳重、ね?」

ジャスミンさんにそう言われてみれば、確かに傭兵の数が多すぎる気もする。

「お嬢様、お気をつけ下さい。フードの男は魔王すら現世に呼び出すほどの者と聞きました。どのような力をもっているかも未知数です。そのような男と一緒にいたという王偉(ワンウェイ)も何を隠しているかわかりません」

ハルが僕にだけ聞こえるように囁く。

四角い真っ黒な金属の箱を眺めながら僕が頷いていると見計らったように特徴的なイントネーションの声が響いた。

「全員お揃いのようやな」

声は四角い箱のほうから聞こえて、カツンカツンと金属製の階段をこれまた特徴的な体格のワンさんが降りてきた。

「本日はお招きいただきありがとうございます」

僕らは口々に挨拶する。

「ええ、ええ、そんなん言わんでも。グランプリ受賞者のチームなんやから」

丸いサングラスで目は見えないけどニコニコ笑顔でワンさんが近くに来た。

「あの…この傭兵達の数は…」

ジャスミンさんが控えめに聞く。

「ああ、ジャスミンさんは流石やな。せや、実はな今年はこれで同盟都市を巡るんやけど、こないだから魔物がえらい増えたやろ?」

実はジャイアントフロッグの時にも聞いたんだけど、魔物が増えた時期は世界樹が石化した時期と重なる。何気に僕のせいでもあるから耳が痛い。

「同盟都市からも要請があってな、御披露目ついでに魔物退治もしたろう思てんねん」

「ああ、なるほど…」

ミハエルが頷いているのをワンさんがじっと見た。

「ミハエル、あんまりこれまでは話することもなかったけど、今回のお手並みはほんまに凄かったわ。普段人を見る商売してるワシがこんな逸材を見逃してたなんて、奴隷商の看板をおろさんとあかんな。ハハハ」

ミハエルは照れ臭そうに笑った。

「おっと…もうこないな時間か。よっしゃ、行こか」

こうして僕らは魔導列車に乗り込んだ。


◇◇◇


会食はまだ先のようで、車掌さんが発車の前に魔導列車の中を案内してくれた。魔導列車はいくつもの箱(車両というらしい)が連結している。

「まず、こちらが魔導列車の運転室でございます」

一番前の車両にはなんだか色んなレバーに囲まれた椅子にキツネの耳のおじさんが座っていた。

「一人で動かすんですか?」

僕が聞くと車掌さんが微笑む。

「皆さんそうおっしゃいます。ええ、アシスタントなどはおりますが、基本的には一人で動かします」

「はぁぁ、すごい…」

スージーさんが目を丸くしていた。

次に動力の車両に移る。そこには炉のようなものがあって、山積みの魔石の前に帽子をかぶったおじさんがスコップ片手に数人立っていた。

「魔導列車は魔力で動かします。非常に大きな魔力が必要なため、各都市で魔石の補充が欠かせません。ここにある分で次の都市まで向かいます」

「こんなに魔石がいるのか…そりゃあチケットが高くなるわけだな」

オズワルドさんも鍛冶をする上で魔石を使う。だから思わずその値段を計算したようだ。

「さあ、次に参りましょう」

次の車両から六両ほどは指令室、ワンさんや傭兵、乗員のための車両、その次が荷物の車両、それから僕らの乗る車両(他の車両と違ってかなり豪華な客車と言うらしい)となっていた。

「へぇ…客車は高級なんだね」

「そりゃそうだろ。超プラチナチケットなんだぜ」

「ミハエルは乗ったことあるの?」

「いや、初めてだ」

真っ赤な絨毯の上を車掌さんに先導されて僕らは歩く。

「こちらが葵様のお部屋でございます」

案内された僕の部屋は最後尾の客車の中にあった。ハル、アメ、ミハエル達は男女に別れてひとつ前の客車の部屋に案内されていた。

「まるで高級な宿だニャ」

タマちゃんがいつの間にか僕の部屋を確認して溜息をつく。

「タマちゃんの部屋はどう?」

「良い部屋だったニャ。いつかこの列車でコンサートをしたいニャ」


◇◇◇


列車がクリューソスを出て数時間、広い平原に出た。

『ピー』

高い笛の音が鳴ってゆっくりと列車が停車する。

「停まったね。何だろ?」

ハルとアメもちょうど僕の部屋に来て、のんびり寛いでいた。

窓から外を眺めていると、ノックの音がして車掌さんが扉を開けた。

「只今より魔物の討伐を行います。お客様にもしものことがないよう窓の鎧戸を閉めさせていただきます」

窓の外側にある鎧戸が閉まると日の光は全く入ってこなくなった。

すぐに魔術具の明かりで部屋は明るくなる。

「外は見れないんですか?」

「指令室からなら見れますよ。ご案内いたします」

指令室とはワンさんが乗る車両にある部屋だ。

「あら?葵達も指令室?」

ジャスミンさんとミハエルも出てきた。

「上がってもろてくれ」

階段の上から声がする。指令室には階段があって、天井を外して外を見ることが出来る仕組みのようだ。

「では、こちらからどうぞ。足元にお気をつけください」

ぞろぞろと上がる。ワンさんともう一人のおじさん、それに僕ら五人で見張り台はいっぱいになった。

「おお、みんなで見に来たんか?こっちにいるのは傭兵隊長や。それで、こっちが葵さんや」

傭兵隊長が僕の顔を見たまま驚いた顔で止まっている。

「あの?大丈夫ですか?」

「あっ、ええ、大丈夫です。ぜひご覧ください。…それにしても若い連中が噂していましたが…これは…」

「せやろ?実際はコンテストでもダントツやったんやで」

ワンウェイさんが自分のことのように胸を張る。

「ところで、ええタイミングで来たなあ。ちょうど始まるところや」

列車は小高い場所にあって、平原が見渡せる。

子供の背丈ほどの魔物がワラワラと現れた。

「お嬢様、あれは?」

二人は魔物も初めて見るのだろうか。

「ゴブリンだね」

列車の側からは傭兵たちが一列になって進んでいく。数では明らかに勝っているとは言え、ゴブリンは魔物の中でも最弱の部類。傭兵たちの手馴れた様子を見ると負けることは考えにくい。

(ふーん…魔術師が多いな)

都市国家群は魔術が盛んとは聞いていたけど、傭兵達の中にも魔術師らしき軽装の者が目立つ。彼らは後方から術式を編み始めた。

(それだけじゃない。あの剣は…?)

前衛の男達の持つ剣の刀身が淡い光を帯びている。

「あの剣を見てなさい。きっとびっくりするから」

ジャスミンさんが後ろから僕に囁いた。

「始まるぞ」

ミハエルの言う通り、隊列を組んで進む前衛とゴブリンの群れがぶつかる。

「うわっ」

傭兵の剣がゴブリンを切り裂くと同時にその切り傷から炎が湧いた。

「ほらね、驚いたでしょう?」

傭兵達は数倍の数の相手を蹂躙していく。後方からの魔術に加えて、光る剣に斬られたゴブリンがどんどん燃えて黒焦げになる。

「余裕やな」

ワンさんの言葉に傭兵隊長が頷く。

「ええ、ゴブリンごときにやられはしません」

その後、群のボスらしき一回り大きなゴブリンも容易く仕留めて傭兵たちが鬨をあげた。

「葵さんから見て傭兵の戦いはどうやった?」

「ええ、皆さん強いですね。あの剣はどういったものなんですか?」

「ええ、あれは魔術剣と呼ばれるもので、刀身に術式が刻まれ、柄に取り付けた魔石や本人の魔力で様々な効果を出すのです」

自慢気に傭兵隊長が説明してくれた。

「アトランティス王国のSクラスのハンターにそう言うてもらえたら安心やな。なあ?」

話を振られた傭兵隊長は訳がわからないといった表情で僕を見る。

おそらくアトランティス王国もSランクハンターというのも知らないんだろうけど、それでもSランクというくらいだから凄いということは理解できたはず。ただ、目の前にいる僕がそんな人物だとは到底思えないのだろう。

結果としてワンさんが冗談を言っているのか、それとも真面目に言っているのか計りかねているように見えた。

「それに…葵さんは色んな意味で有名やからな」

サングラスで目線は分からないけど、なんとなく気持ち悪くて鳥肌がたった。

(この人…僕のことを調べてる?)

都市国家群とは国交もほとんどないはずのアトランティス王国の情報をこの短期間にどうやって手に入れたのだろう。

顔に出てしまったのか、ワンさんが僕を覗きこんだ。

「そらそうや。ワシらは商人。金を稼ぐためには情報こそが命やからな。せやせや、会食はもうちょい先でお願いします。これからいくつか都市をまわって魔物も退治せなあかんから」

実際、数日間の間に五つの街を巡り、何度か大規模な討伐も行った。

2016/09/16

オンナの体

「ありがとうございましたっ」

道場での鍛練後の自主練が終わった。師の稽古から半年あまり経ち、父上とともに負の力を封印した翌日、私は十六の誕生日を迎えた。

「ふう…」

私が手拭いで額の汗を拭いていると犬千代殿が目の前に立った。

「千手丸、大丈夫か?」

「ええ…特に何もありません」

安倍犬千代殿は私が道場に入門した時からずっと第一席にいる。

これほどの実力者がなぜと思うが、どうやら芦屋家の現当主の妾腹ということで、なかなか仕官の口がないらしい。

「それなら良いが。三郎との試合といい本調子ではないのではないか?」

特に師の代わりを務めるようになったこの半年あまりで、道場の門弟達の小さな機微に気づくようになり、信頼も篤く次期師範の呼び名も高い。

「いえ、大丈夫です。ご心配いただきありがとうございます」

そうは言ったものの、実際のところ、私は落ち込んでいた。一つめは父上の容態。そして、二つめは己の力不足だ。

(私はあの時、父上の足手まといでしかなかった…)

もっと強くならねばならない。だが、そう思うと今度は師の言葉が頭を悩ませる。

「『目を捨てよ』…か」

雲をつかむような話で、どうしていいのかさっぱり分からない。毎日試行錯誤をしてきたものの、むしろ、それまでなかったミスを連発する結果となっている。

(一体どうすれば良いんだ…)

「千手丸」

再び呼ばれて顔を上げると犬千代殿の隣に今度は武三もいる。

「ほらっ、言うんでしょ?」

「いや、しかしだな…まだ本決まりではないわけだし…」

何やら二人でこそこそ話している。

(?)

「全く、言わないなら俺が言っちまいますよ。あのな、千手丸…「武三っ、やはり俺が言うっ」」

武三が何か言おうとすると慌てたように犬千代殿が言葉を続けた。

「実はな…師からこの道場の師範にならないかと打診されているんだ」

ちょっと恥ずかしそうに犬千代殿が言った。

「えっ、それはおめでとうございますっ」

「いやぁ、ありがとう」

犬千代殿は顔を赤くして頬をかいている。

「全く、何を恥ずかしがってるんだか…」

武三は呆れた顔で犬千代殿を見た後、今度は何か企んでいるような顔で私を見る。

「そうそう、それで犬千代次期師範を祝おうと思うんだ。さすがに今日は千手丸も来るよな?」

これまではどんな誘いも避けてきたが、さすがにそう言われて断ることは出来ない。

「もちろん。私にも祝わせてください」

私の答えに武三の目が輝いた。

「おっ、やったぜ。よーしっ、今日は飲むぞぉっ」


◇◇


普段よりも自主錬を早く切り上げ、今日は三人で道場の近くの呑み屋に来た。

「で、千手丸はぁ、お師匠の謎かけにぃ、まだなやんでるのかあ?」

武三は陽気に呑み続けて二時間後には完全に出来上がってしまっていた。

「ああ…うん…」

私はお猪口に手酌で酒を注いで一気に煽った。

「その話だが」

犬千代殿が赤い顔で僕を見た。

「言葉ではなく師のつけてくれた稽古から考えてはどうだろう」

「稽古って言っても、打ち込もうとしたらなんだか分からない間に負けていたんですよぉ」

犬千代殿はまだしっかりしているけど、私も呂律が怪しくなっている。

「いや、…大切なのは『訳が分からない間に負けていた』ってとこじゃないか?つまり、…心の隙をついた…とでも言うかな。『打ち込もうとしたら』というのも気になるな。攻撃しようと思う、その瞬間が狙われているのか…」

犬千代殿が考え込むように目を閉じた。

「なるほどぉ…だけどぉ、どうすればそれが分かるのでしょう」

返事がない。

「犬千代どのぉ?」

「すぅ、すぅ…」

(えぇっ?寝てるぅ?)

「たけぞ…」

「ぐぉぉ、ぐぉぉ」

こちらも鼾をかいて眠っていた。

(はぁ)

私は犬千代殿の言葉を反芻しながら一人呑み続けた。


◇◇


「今日は忙しいところを済まなかったな」

武三を背負っているとは思えないほど軽々と犬千代殿が頭を下げた。

「いえいえー、おいわいれすからぁ」

一人で呑み続けた私はこれまでになく酩酊している。

「本当に大丈夫か?家まで送るぞ」

「らいじょうぶれす…すぐそこれすし」

数十分後、千鳥足の私と武三を背負った犬千代殿は店を出て別れた。

(そうら…忘れてたけろ、私も今日から十六らぁ…悪くない誕生日らったなぁ…)

私は家に戻ると腰にさした刀を抜いて帯を弛める。

「ふぅぅ、ちょっとのみすぎたかもぉ」

普段は女であることを隠しているため、役目で呑むことはあってもこれほど酔うことはなかった。

「ああ、くるしぃぃ」

胸に巻いたサラシの結び目を外した瞬間、『ボロン』と大きく育った胸が解放される。

「あつぅい」

目の前の景色はクルクル回っていた。

「おっとっと」

千鳥足のままサラシを外して、帯も完全にとると、畳んだままの布団に勢いよく飛び込んだ。

(あぁ…)

無理やり布団を敷くと、ゴロンと仰向けになって、ため息をつく。

引き締まった体に膨らんだ乳房。武三がこっそり見ている春画に負けぬ女の体が目の前にある。

(なんれ、こんらに…)

せめて胸がもう少し小さければ楽なのに。そう思って忌々しい二つの膨らみを掴んだ。

「ぁっ…」

ビリビリとした感覚が体を突き抜けた。

「なんらぁ?」

思わず出た声が今まで聞いたことのない女の声に驚きつつも、一瞬感じた甘い感覚に酔いで失われた自制心のままに続けてしまう。

(もういっかい…)

むにゅむにゅと指が食い込む。

「んっ…ぁぁっ」

痛いような気持ちがいいような不思議な感覚に再び声が出る。このまま続けると、なんだかいけないような、そんな感覚に体がゾクゾクした。

「ん…ふぅぅ…ぁっ、りゃめ…あっ、きゃんっ」

指が固く膨らんだ山の頂きを弾いた。

「あんっ」

(こんな…)

半開きになった唇からは以前武三にからかわれた時以上にオンナの声が出る。

「あっ、ふぁっ、ふっ、んんっ、んっ、んんんんっっ」

二つの頂を摘まむと体の中心を甘い電流が流れた。

(なんらぁ…こんなのぉ…やめられないぃぃ)

ビクビクと体が震えて、背筋が反る。布団の上で足がもつれる。

『クチュ、クチュ…』

体の奥から湿った音がした。

(ふぁ?なんら?)

恐る恐る手を伸ばす。

『チュプ』

「なんれっ?もれたぁ?」

普段小水をする部分が濡れていた。

(れも…おふとんは濡れてないら?)

もう一度指で触れる。

(ふぁっ、あちゅいぃぃ)

ピチョっと指が熱い泉に浸かる。

一度指を顔の前に出して見ると、窓から入る月明かりに指先が光っていた。

(これなんらぁ?)

今度は指で泉の付近をなぞる。

「んあっ」

体がのけぞった。

ビックリするくらいの強い感覚に次はゆっくりと触れた。

「んあっ、らめっ、こえ、らめっ」

だけど指は気持ちいいところを覚えてしまった。

「あんっ、あっ、あっ、あっ」

声も抑えられない。

(らめになるぅっ、あっ、らめになっちゃうぅぅぅ)

背筋をゾクゾクした何かが走る。

(こわいっ、こわいよぉっ)

いけないことをしてる、いきたいけどいっちゃダメな感じ。

だけど、指はひたすら快感を目指して動き続ける。

そして、突然その時がきた。

「あっ、やっ、らめぇぇぇぇ」

体がビクンッと大きく痙攣した。

「んっ、はあああぁぁぁっ」


◇◇◇


「…はぁ…」

僕が目覚めたのはまだ夜明けまで数時間といったところ。

(それにしても…なんて夢を…)

『ちゅく…』

(んんっ…)

夢の中での出来事なのに体の奥が疼いていた。

(村正がいたらなんて言うかな)

『主殿、それは欲求不満じゃの。解消せぬといけないぞえ』

村正の声が聞こえた気がする。

(そうか、もう今日は三日目だ…)

おもむろに起き上がって、僕は薬の箱を開けた。

赤と青の卵を見て赤を手に取った。

千手丸の時の快感がまだ脳裏に残っている。これまでも村正の力による発情や発作など、不可抗力でヤったことはあっても、自分でこんなことをしようとは思わなかったのに…。

「ゴクリ」

『ピシッ』

心の中で期待したその瞬間、卵に亀裂が入った。

(割れちゃった…もう…割れちゃったんだから…仕方ない…よね?)

僕は卵をシーツの上にそっと置いて服を脱ぐと、四つん這いになってベッドの脇に服を置く。

(三日目だもん…やっとかないと…)

『パキッ』

後ろで微かな音が聞こえた。振り返る間もなく、いきなりふくらはぎがあの独特のヌメヌメした感触に包まれた。

「ぇ…、ひゃっ」

『ニュルッ』

続けて太腿に絡みつく感触に僕は畳みかけていた服をきつく握り締めた。

『くちゅ』

もちろん、触手の狙いは太腿のつけ根。そしてその部分は夢から覚めた時には既に蕩けていた。

「ひゃうぅぅっ」

シーツに顔を埋めて腰を揺するものの、一度まとわりついた触手が離れるはずもなく…。

「あぁ…だめぇ…」

僕は気がつくとお尻を高くあげていた。

(これは…夢のせい…)

触手を誘うように膝を少し開くと、ニュルッと割れ目が擦りあげられる。

「ふあんっ」

入口付近で甘えるように体をくねらせるから、敏感な突起がヌルヌルと擦れる。

「あっ、んっ、くぅっ、やらぁっ、あっ、そこぉっ、らめぇっ」

触手の粘液に媚薬成分が含まれているのか、舌がまわらなくなる。

頭がぼんやりして、何がダメなのか分かんなくなってきた。僕の体には触手に対する忌避感はもはや微塵もない。

それなのになかなか触手は入ってこない。

「あぅぅぅ…はあんっ、んんん…」

(まだぁ…?)

充分体に媚薬成分が馴染む頃には、僕は四つん這いでいることもできなくなり、蛙のようにベッドに潰れていた。

「はやっ、くぅぅっ、もっ、我慢できないぃぃ」

遮音の魔術がかかっていなくても、きっと僕は声を出していたに違いない。それほど体は限界だった。そして、おねだりが聞こえたのか、ようやく触手が入ってきた。

『ニュルッ』

「んああっ、ぁっ、あああああっ」

(あうう…入れられただけでイっちゃったよぉぉ…)

絶頂の余韻が収まる前に触手はさらに動き出す。膣がギュッと触手を締めて、その形がはっきりと頭のなかに浮かんだ。

これまでのものと違って、太い棒状の触手に小さな粒々がびっしりとついている。

(こんなので擦られたら…)

『ジュブジュブジュブジュブ』

「んああああああっ」

(こんなのっ、らめぇぇっ、こわされちゃうよぉぉっ)

「あっ、んっ、あっ、今っ、イっちゃったからっ、あっ、らめっ、またっ、あっ、ああっ」

連続でイカされる。今度は昇りつめたまま深い絶頂に意識が遠のく。

『ジュブジュブジュブジュブ』

「あにゃっ、やらっ、あああっ、やらやらやらやらっ、もお、やりゃぁぁぁっ」

意識が何度も飛んで、その度に強い快感によって連れ戻され…、それは空が白み始める頃まで続けられた。