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2014/08/31

2周目 9月24日(金) 午前8時45分 島津政信

2周目 9月24日(金) 午前8時45分 島津政信

(ん…)

目を開けると見たことのない天井があった。

「おっ、気がついたか?」

高樹が横から声をかけてきた。

「あ…あれ?ここは…?」

「ああ、お前、電車の中で気を失ってたんだよ」

「…そっか、助けてくれてありがと」

「あー、いや、それがお前を助けたのは中年の男で…」

俺は周りを見渡す。駅員と高樹しかいない。

「その人は俺に任せるって言って行っちまったんだ」

「そっ、そうなんだ」

(間違いない、痴漢だ)

「えっと、それで何か連絡先とか?」

「いや、それが何も」

「そっか」

「まあ、同じ電車だから会うこともあるだろうし、会ったら礼を言えばいいんじゃないか?」

「うん」

駅員さんは僕らの会話を微笑んで聞いていた。

結局、今日は体調不良のため学園に行かず、俺は帰る事になった。

親切な駅員が、教師へのメモを書いてくれて、駅の改札で高樹と別れる。

「帰ったら必ず寝とけよ」

「うん」

一人になったホーム。

行きはあんなに混んでいたのに、帰りのホームは閑散としている。

(はぁ…凄かった…でも…)

電車内での快感を思うと痴漢の指の感覚が不意に戻ってきた。

(んんっ…足りない…)

今すぐオナニーしたい誘惑に駆られる。

そう思ったとき、カバンのポケットに見慣れない一枚のメモが入っているのに気がついた。

[×××-○○○○-××○○]

(何だ?電話番号?……あっ)

気がついた俺はすぐにその番号に電話をかけた。

「もしもし」

痴漢の声がした。

「あっ、あの…」

「ふふふ、まさか失神するほど気持ちよくなるとはね…どうして電話をしてきたのかな?」

「えっと…あの…」

「もっと欲しいんだろう?」

頭の中で先ほどの電車の中での快感が蘇る。

「………はぃ」

「わかった、まだ駅にいるのか?」

「はぃ」

「では、10分後に赤ん坊の世話もできるトイレが駅内にあるからそこに来なさい」

それだけ言って電話が切られた。

◇◇◇◇◇◇

9月24日(金) 午前9時 島津政信

(そんなトイレあったかな?)

そう思って探していると、男女のトイレからちょっと奥まったところに発見した。

(時間は…そろそろいいかな?)

「コンコンッ」

ノックするとガチャッと鍵の外れる音がして痴漢が顔を出した。

周りから見られないようにしながら入る。最近作られたのか、割ときれいで、大きな洗面台や赤ちゃんを寝かせる台などがあった。

洗面台の前に立った俺の後ろからさっそく痴漢が手を伸ばしてきた。

「今日はすごいイキ方だったな、周りの奴らも驚いてたぞ」

「えっ?」

(周り?)

「ああ、そりゃあんだけの声出してれば気づくだろ。写真を撮ってた奴も数人いたな」

カッと顔が熱くなった。

(見られてたんだ…それに写真まで…)

「ああ、心配しなくていいぞ。他の奴らがお前に手出ししてくることはない。こう見えてもこの業界じゃ有名なもんでな」

そう言いながらブラウスのボタンが全て外すと手際よくブラジャーが外されて、胸が晒される。

洗面台の大きな鏡には上半身を脱いだ俺の後ろから手が回ってくるのが映っていた。

じっくりと揉まれたあと、親指と人差し指が中心の突起を摘んだ。

「んあっ」

「大きい声は我慢しろ」

思わず出た声を痴漢がたしなめる。

「ふーむ、しかし、本当にスケベな体だな。ウエストはこんなに細いのに、胸だけが大きい。乳首はピンク色で思わずしゃぶりつきたくなるな」

「やぁんっ、言わないでぇっ」

乳首を摘まれたまま首筋を舌が這う。

「やっ、首はっ、んんんっ」

大きな声が出そうになって耐える。

「ほら、言ってみろ。自分の顔がどうなってるか」

鏡には頬を染めた少女が、興奮した目でこちらを見ていた。

「さ、言うんだ」

「興奮した…俺がいます…」

無意識に自分のことを俺と言ってしまった。

「まだ俺なんて言ってるのか?違うだろ?」

乳首をつねられて叱られた。

「んあああっ、はあんっっ、わっ、わたしですっ」

「よし、さあ、どうされている?」

「えっと、胸を揉まれて、乳首を弄られて、私、気持ちよくなっています」

「そうだな」

散々弄られて、ピンク色だった乳首が血流で少し赤みがかってきた。

「んん、胸ばっかり…」

「胸以外も触って欲しいのか?」

鏡の中の痴漢はニヤニヤと笑って俺の痴態を観察している。

「どこを触って欲しいんだ?」

(ああっ、また言わされる…)

「あの…オッ、オマンコを触ってください」

溢れる愛液が増えた気がした。

「いいぞ、よく言えたな。素直ないい子にはご褒美に触るところをじっくり見せてやる」

そう言って、痴漢はスカートを脱がせた。

パンツを履いていないせいで、全裸に靴下と靴だけという格好になる。

「よく見ていろよ」

そう言うと鏡の中の痴漢の片手が胸からスーっと降りていく。

白い腹の上を指が何度も脇腹まで回すように撫でたかと思うと、胸の谷間に戻る。

「ああっ」

俺が目を閉じると「しっかり目を開いて見なさい」と言われて強く胸が揉まれて目を開けさせられた。

そして焦らすように薄い陰毛を触られたあと、ついに指が股間に到達した。

足を少し開かされ、痴漢は片手の指で器用にオマンコを開かれる。

ツーっと透明の粘液が床に垂れた。

(愛液が…垂れてるぅ…)

「まだまだこれからだぞ」

次話 2周目 9月24日(金) 午前9時15分 島津政信
2014/08/29

2周目 9月24日(金) 午前7時30分 島津政信

2周目 9月24日(金) 午前7時30分 島津政信


「今日は良く眠れたか?」

高樹に聞かれて頷く。

実際には全然眠れなかった。

「あんまり寝てないんだろう?相談に乗ろうか?」

高樹の優しさには感謝しているが、どうしても言えない。

それに

(今日もパンツを履かずに来てしまった…)

太ももの内側を愛液が垂れた。

『電車が参ります』

『プシューッ』

「あっ、おいっ、高樹っ」

高樹の声が聞こえたが、俺は人の波に飲まれるふりをして電車の奥に入っていった。

(いたっ)

目の前には痴漢の姿があった。俺はフラフラと痴漢の前に立つ。

痴漢のニヤケた顔。

俺はその顔を見て………体の奥が疼くのを感じた。

『ちゅく』

「はぁはぁ…」

チラっと下を見た時にカバンの口から光るレンズが見えた。

(ああ…濡れてるのが全て撮られる…)

カバンを跨ぐ時に足が震えた。

「昨日1日触らないだけで…待ちきれなかったのかい?」

俺がカバンを跨ぐと痴漢が耳元に唇を寄せて話しかけてきた。

俺は首を横に振る。

「嘘だな」

肩に手を置かれて俺はビクっと反応する。

「昨日の朝はどうだった?」

俺は何も答えない。

「私に触られなくて寂しかったんじゃないかね?」

耳元で囁かれると同時に息が吹きかけられる。

「はぁはぁ…はぁはぁ…」

荒い息で俺は俯いたままだ。

「夜も寂しくて自分でしたんじゃないのかね?」

(どうして?)

なぜそこまで分かるのかと思わず顔を上げた。

痴漢と目が合う。慌てて目をそらそうとするが、まるで縫い付けられたように体が動かなかった。

「どうして欲しいんだ?」

痴漢の言葉に俺は何も答えられない。

「言わないなら…何もしないぞ」

見つめ合ったまましばらく俺と痴漢の間に沈黙が続く。

『ガタンッ、キキッ』

急ブレーキで乗客が動く。

俺の体が痴漢にぶつかった。見上げた俺の顔と痴漢の顔が触れるんじゃないかって言うほどの距離になった。

電車の揺れがおさまっても俺はそのままだった。

「おいおい、変に思われるんじゃないか?」

そう言われてハッと気づいた俺は慌てて離れようとした。

『ガタンッ』

再び小さく揺れる。

「あっ」

離れようとした矢先で、バランスを崩した俺は再び痴漢の胸の中に収まった。

(離れないと…)

そうは思うものの、揺れるたびに俺の胸の先が痴漢の体にぶつかりそうになるほど接近する。

サワサワっと胸の先が擦れることで昨日からジクジクと火種を抱えた体は反応し始めた。

『キキー』

その時、電車が駅で止まるために減速して、人ごみに押された俺の体が痴漢の体に押し付けられた。

『むにゅ』

ブラウスの胸元から深い谷間が覗く。

「んっ」

硬くなった乳首がブラジャーの中で擦れて甘い声が出そうになった。

それでも痴漢の方からは動かない。

(どうしてなんだ?)

駅に着いたみたいで、一旦乗客が減ったと思ったら、それ以上に混み合う。後ろからグイグイ押されて俺と痴漢が密着したまま電車が動き出した。

『ガタンッ』

(ああっ)

一度甘い感覚を味わってしまった後は揺れに合わせて胸を無意識に痴漢に擦りつけてしまう。

太ももを擦り合わせるようにしていると『つーっ』と愛液が垂れた。

(電車の中なのに…俺は…何をしてるんだ…)

そう思うが、やめることができなかった。腰も刺激を求めて痴漢の腰に擦りつけるように動く。

痴漢の顔を見上げると俺を見る瞳の奥に興奮の色が見えた。

(そろそろ触ってくるはず)

だけどいつまでたっても痴漢はそれ以上しなかった。

俺に指一本触ろうともしない。

(どうして…触ってくれないんだ…?)

俺の股間は溢れてきた愛液が垂れてきてもう我慢の限界だった。

『キーッ』

カーブで体が傾くのに合わせてついに俺は痴漢の背中に腕を回して抱きついた。

背伸びすると痴漢の耳元に唇を寄せる。

「…あの…お願いします…触ってください」

そう囁いた。

痴漢がニヤっといやらしい笑みを浮かべる。

「痴漢におねだりするなんてイヤラシイ子だ。だが、おねだりされてしまったから…仕方ないなあ」

そう言ってスカートの上から尻を触る。

(ああっ、きたっ)

「命令した通りにしてきているだろうな?」

頷いて俺は触られやすくするために腰を押し付けた。

スカート後ろから手が入ってきて、ゆっくりとたくしあげられる。

(ああっ…周りに見られてしまうっ)

恥ずかしいが、2日間焦らされたカラダは痴漢の手の感触の前に止めることなどできなかった。

何も履いていない尻を痴漢のゴツゴツした手が撫で回す。

(この手…オナニーでは味わえなかった感触…)

これからされることへの期待にゾワゾワっと鳥肌が立つ。

「オマンコはどうなっているんだろうな?」

痴漢の指が尻の割れ目に沿うようにしながらゆっくりと股間に近づく。

(オマンコに…くる…)

『ヂュプ』

「はぁっっ」

(はうっ、入って、きたぁっ)

「ほう、すごい濡れ方じゃないか、ふーん、太ももまで濡れているな」

恥ずかしいことを耳元で、囁かれて真っ赤に染まった耳たぶを舐められ、噛まれる。

(んあっ、耳はっんんん)

「ふぁっ、んんっ、言わないで…くだっんんんっ」

耳を噛まれるたびに体から力が抜ける。

「よし、ご褒美をくれてやる。口を押さえておけよ」

「はい…」

そう言って口に手をやった俺のオマンコに激しく指が入ってきた。

キュキュキュッと俺の膣が締まる。

痴漢の片手はクリトリスをしごき、もう片手の指が一本、二本と入ってきた。

「んんんんんんんっ」

激しい指の動きに瞼の裏で激しい火花が散った。

「ふっ、ふっ、ふっ」

痴漢の息も少し乱れる。

「イきたいのならイっていいぞ」

(ああっ、イクっ、イクっ、ダメになるっ、うっんんんあああああっ)

「んんんんんんんんんんっ」

深い絶頂が俺を飲み込んだ。

次話 2周目 9月24日(金) 午前8時45分 島津政信
2014/08/25

2周目 9月24日(金) 午前2時 島津政信

2周目 9月24日(金) 午前2時 島津政信

「んああっ」

俺はベッドの中で体を震わせる。

股間に入れた指がふやけて、白い愛液が付いている。

(自分の指じゃだめだ、こんなもんじゃなかった…)

俺の体は疲れきっているはずなのに、電車での快感を求めて、指が止まらない。

(こんなこと良くないのに…。せっかく痴漢に遭わずに済んだのに…)

今日は痴漢に遭わずに済んだのに学園に着いてトイレでパンツを履こうと股間を触ると凄い濡れ方だった。

(明日の朝は痴漢がいるだろうか…?明日、パンツを履かないで電車に乗ったら…)

俺の指が焦らすように太ももの付け根に触れた。

(ビデオカメラの入ったカバンが俺の足に置かれる。スカートの中は何も履いていない。開いた割れ目がはっきりとカメラに撮られる)

カメラのレンズに映る俺の割れ目。濡れたピンク色の膣肉の中まで見られる。

想像しただけで俺の体の奥から新しい愛液が溢れ出てきた。

俺の脳裏には今朝とは違って向かい合わせで痴漢に弄られる姿が思い浮かぶ。

(男の手はまず、胸を触るだろう)

俺の手が胸を包む。

『むにゅ』

パジャマの薄い生地の中で胸が形を変える。乳首が勃っているのがコリコリとした感覚でわかった。

(痴漢はきっと乳首の場所をすぐに見つけて摘んでくるだろう)

「はっんんっ」

乳首を摘んだ瞬間に興奮で体が震える。

(でも、声を出してはいけない…周りにバレるから…)

「ふぅんっ、んっ、んっ…」

(次にパンツを履いていないか確認される。ゆっくりと太ももを撫でて…)

俺の指が太ももの内側をゆっくり付け根に向かって動く。

「はっ、はっ、はっ」

激しい息遣いになってきた。

(そして…割れ目に指が入る)

「はあっ」

『チュクッ』

(指の動きは徐々に激しくなっていって…)

気が付くと目を閉じていた。

目の前には今朝の痴漢の姿が映る。少し出たお腹、いやらしく笑う顔。

(スケベなオッサンに体を自由にされて)

指が徐々に深く入る。

『チュプチュプッ、ジュプッ』

指が奥まで入ってかき混ぜる。

「んふぅっ」

妄想の中で電車の中にいる俺は唇を噛んで声をこらえる。

(我慢できずにイカされる…)

指を目一杯入れた瞬間に体がガクガクッと震えて目の前で光が点滅した。

「んああっ」

軽くイってしまったけど、俺の中にはまだ種火がくすぶっていた。

(だめだ…こんなもんじゃない…もっと…)

次話 2周目 9月24日(金) 午前7時30分 島津政信
2014/08/24

2周目 9月23日(木) 午前6時30分 島津政信

2周目 9月23日(木) 午前6時30分 島津政信


「んんー」

目覚めるとまだ朝の6時半だった。

昨夜結局寝たのは日付が変わってから。

まだ、股間に何かが入ったような感触が残っている。

(どうする…)

考えるまでもない。

(オナニーでは全然満足できなかった…)

シャワーを浴びて念入りに体を洗った俺はパンツを履かずに、カバンに入れた。

『ピーンポーン』

高樹が迎えに来て二人で駅に向かう。

(うう…スカートの中がスースーするな)

膝上丈のスカートの中は何も履いていない。かなり不安だ。

(誰も気づいてないよな?)

道行く人が俺を見ているような気がする。

「なんか…島津、女っぽくなったわね」

俺と話していた高樹が急にそんな事を言ってきた。

「ええっ、どこが?」

「うーん、どこがっていうか…なんていうか…恥じらいのある乙女になったっていうか…」

(確かにちょっと内股で歩いているけど…それはパンツを履いていないせいで…)

駅のホームで電車を待っている時、も通過列車の巻き起こす風に翻りそうになるスカートを思わず押さえる。

(これって…考えたらかなり恥ずかしいことしてるんじゃないか?)

今更ながら俺は恥ずかしくなってきた。

『2番線に電車が参ります、ご乗車の方は…』

電車が入ってきた。

今日もホームに入ってきた時点で電車の中は人まみれだった。

(電車に乗ったら、きっと連れ込まれて…今日は前からなのか、それとも後ろからなのか…)

俺の頭に後ろからスカートを捲られて直接弄られる映像が思い浮かんだ。

(カバンの中から何も履いていないスカートの中身を撮られて…ゆっくりと焦らすように指が這い上がってきて…)

電車から乗客が降りたあと、俺たちが乗り込む。

(…あれ?)

電車のドアが開いて乗り込んだが、手を掴まれることもなく、高樹と向かい合わせでドア付近に立つ。

(どこからくるんだろう?)

期待しているつもりはなかったが、なんとなくガッカリしている自分に気がついた。

(うわっ、俺は何を考えていたんだ…むしろこれで痴漢に遭わなくなったほうが良いのに…)

ちょっと冷静になって考えるが、どうも落ち着かない。

「何を探してるんだ?」

周りをキョロキョロと眺めるのを高樹に指摘された。

「えっ?いや…ううん…なんでもないよ」

そう言って…だけどスカートの中が少し濡れていた。

『間もなく○○駅』

アナウンスが流れる。

結局痴漢は出なかった…。

◇◇◇◇◇◇

2周目 9月23日(木) 午前7時40分 高樹美紗

目の前の島津がきょろきょろと落ち着かない。

「何を探してるんだ?」

そう尋ねても何でもないと言うけど…。

朝迎えに行った時から島津は様子がおかしかった。

まだ寝不足なのか顔色が悪いっていうよりも病的な白さだ。

もともと人形のような整った顔が、さらにはかない美しさを纏わせている。

しかし、一方で女らしくなったというか、恥らいを帯びた仕草に加えて、体からにじみ出るような色気がある。

その危ういバランスが男を惹きつけるのだろう。周りの男たちから昨日まで以上に熱い視線を受けている。

(この視線に気がつかないのも一つの才能よね、そういえば部活のマネージャーなんて完全に島津にラブラブなのに気がついてないんだから。気づかないふりをするのも大変なのよ)

『ガタン』

「あっ」

島津の体がアタシにぶつかる。

『ムニュ』

胸がアタシの腹の上に当たる。

(あれ?)

そう思って島津のウエストを両手で掴む。

「ひゃんっ」

「ちょ、ちょっと、おっきい声出さないでよ、痴漢と間違えられるでしょ」

予想外の大きな声に驚いたアタシは耳元で注意する。

「だって、いきなりお前が変なとこ触るから」

島津もコソコソ言う。

(でも、やっぱり…)

ウエストが少し細くなっているように感じた。

そしてそれとは逆に胸のサイズは少し大きくなっているように感じた。

(うーん、ウエストが細くなったせいで胸が大きく見えるのかな…でも元の体の持ち主であるアタシが大きくなったと思うんだから…)

そう思って胸を凝視していると、島津が胸を両手で隠すようにして恥ずかしそうにこっちを見ていることに気がついた。

血が下半身に向かってムクムクと大きくなるのに気がついてアタシは慌てて目を逸らした。

次話 2周目 9月24日(金) 午前2時 島津政信
2014/08/24

旅立ちの日

そして次にルシオさんのお店に行く。

「おっ、アオイちゃんっ、ってえええええっ」

ズルズルと引きずってきた毛皮の数にルシオさんの目が点になった。

僕は革袋から牙と銀狼の毛と小瓶を出した。

「買取をお願いします」

「あ……ああ。数えるから適当に待っててくれよ」

待っている間、僕は一度ルシオさんの店を出て他のお店を回ろうと歩き始めた。

(「主殿、何を買うつもりなんじゃ?」)

(「えっと、水とか、干し肉とか?長い旅になるわけだしさ」)

(「そのようなものは要らないのではないかえ?」)

村正は何を言ってるんだと言う様子だ。

(「どうして?」)

(「銀狼に乗っていけば良いではないか」)

うーん、と僕は腕を組む。

(「主殿はまだ銀狼が許せぬのか?」)

(「そりゃそうだよ。町の人を傷つけて、そんな簡単に許せるわけないじゃないか」)

(「じゃが、あの銀狼の言うことも一理あるぞえ。人間も食べるために生き物を殺し、自衛のため、素材をとる為に魔物を狩る。銀狼のやったことと何が違うのじゃろう?」)

村正の言葉は僕を悩ませた。

(「うーん、そう言われると…うーん…」)

(「では、こう考えるとどうじゃ?銀狼を利用するのじゃ。馬車の代わりに使うのじゃ」)

(「うーん…」)

「おーい、アオイ君」

村正と話し込んでいたらルシオさんが店の前で呼んでいた。

店に戻るとカウンターには毛皮と牙、銀狼の血の入った瓶に分けられている。

「18頭分の毛皮が120万イェン、銀狼の毛は300万イェン。あと血は売らないほうがいい」

「どうしてですか?」

「銀狼の血は万能薬になるんだ。末端価格で500万はくだらないから持っときな」

ルシオさんはそう言って大切そうに瓶を僕に返してくれた。

(「へぇ、そんなにすごいのか…あっ、そうだっ」)

ルシオさんに待ってて、と叫んで僕は町長さんの所に戻る。

「おや、葵君、どうしたんじゃ?」

「町長さん、これ飲んでみてください」

そう言ってコップに銀狼の血を入れた。

「そっ、それはいかんっ、葵君、銀狼の血の効果を知っておるのか?」

「はい。だから町長さんにぜひ飲んでいただきたくて」

「こんな老いぼれのために…ありがとう、ありがとう…」

町長さんは涙を流して一口飲んだ。

光が町長さんを包む。

そして光が収まった時、町長さんの傷は完全に治っていた。


◇◇◇◇◇


次にジェイクの家の前で僕は悩んでいた。

(なんて言ったらいいかな?うーん。)

ああでもないこうでもないと、ドアの前で立っているといきなりドアが開いて顔をしこたま打つ。

「いったぁい」

「何を人の家の前でウロウロしてんだ?」

ジェイクだった。

おじさんとジェイクと向かい合うようにして座ると、僕は話を切り出した。

村正を手に入れた話と呪いで女になってしまったことも。もちろん他言無用でお願いした。

「なんてこった…」

デレクさんは政信さんに合わせる顔がないと頭を抱えている。

それとは対照的にジェイクは何も言わず、じっと僕の話を聞いていた。

そしてしばらくしてジェイクの口が開いた。

「それで、お前は強くなって戻ってきたら今度は倭国に向かうんだな?」

「うん。あと、この呪いを解く方法も探したいし」

「わかった。お前が帰ってくるまでに俺も倭国まで行ける船乗りになっておく。お互い頑張ろうぜ」

「うん、ジェイクも無理しないでね」

デレクさんからはくれぐれも気をつけるように言われ、餞別に魚の干物をもらった。

僕は銀狼の血の残りを渡して、僕が帰ってくるまで元気でいてくれるよう頼んだ。

◆◆◆◆◆


ついに旅立ちの時が来た。

お父さんの時と同じように、いや、方向は逆だけど…森の入口で皆とお別れをする。

ジェイクの姿をキョロキョロと探すけどいないようで、おじさんに聞いても「あいつ朝から姿が見えねぇんだ」といらついていた。

ジェイクが来てくれなかったのだけが残念だったけど、仕方ない。

「では、気をつけて行ってくるんじゃぞ。あと、必ず生きて戻ってきておくれ」

町長さんからは嬉しい言葉と、ギルドに出す書類を準備していてくれた。

「どこでもウチの店に来てくれたら、これを出してお金を出してもらうんだよ」

ルシオさんは大金を持ち歩くのは危ないから、と今回の買取金額を本店でもらえるようにしてくれた。

「あんたみたいな可愛い顔してたら、人さらいに捕まっちゃうんじゃないかねえ」

などとおばちゃんに心配されて苦笑しながら挨拶をして回る。

最後におじさんに「行ってくるよ」と言った時にジェイクが息を切らせて現れた。

「ジェイクっ」

おじさんが何か言おうとするのを遮って僕の近くに来る。

息を整えるようにはぁはぁと肩を上下するジェイク。

「来てくれないのかと…」

「そんなわけあるかよ」

そう言ってジェイクは握った手を出した。

(?)

手のひらを出すと、大きな真珠が現れた。

「時間がなくて加工はできなかったけど、最高級の真珠だ。お金が無くなったら売ってもいいし、好きに使え」

「うっ、売る訳無いじゃんっ、ありがとう。ずっと持ってるから」

ちょっと涙が出た。

ジェイクは鼻を一度すすると俯いて僕の目を見ずに

「元気でな。待ってるぜ」

そう言って握手をした。

「行ってきまぁす」

「「「「「元気でなぁっ」」」」」

皆に見送られて僕は森の中に入っていった。


◇◇◇◇◇


しばらく歩いたところで銀狼がいつの間にかついて歩いてきているのに気がついた。

(「ところで主殿、どこに向かうつもりなんじゃ?」)

(「うーん、できるだけ大きな街がいいなあと思ってるんだ。もしかしたら男に戻る手段も見つかるかも知れないし。だからとりあえず一番近いロゴスっていう街を目指すつもり」)

(「主殿はまだそのようなことを言っておるのか。じゃから、死ぬまで無理じゃと言うておろうに。それでロゴスまではどれくらいかかるのじゃ?」)

地図を出して方角を見ると大きな山の向こうにあるようだった。

(「遠いのぉ」)

(「何言ってるのさ。そのために色々持ってきたんじゃないか」)

背中に背負った大きなバックパックには干肉や魚の干物、それに水や着替えが詰め込まれている。

「さあ、頑張っていこうっ」

…数時間後

(「…村正…ここどこなんだろ?」)

道に沿って歩いていたはずが、段々道幅が狭くなって気がつけば森の中の獣道になっていた。

(「妾に分かるはずなかろ?はあ…。主殿がこんなに方向音痴とは…」)

チラッと振り返ると普通の狼のサイズになった銀狼が付かず離れずついてきている。

(「のう、主殿…」)

(「ダメっ」)

村正が言わんとすることは分かっている。銀狼に乗ろうというのだ。

(「もうすぐ日も暮れるぞえ。野営の準備をした方が…」)

(「もうちょっとだけ、地図によるともう少しで川に出るはずなんだ」)

だけど、梟の鳴き声が森に響く時間になっても川どころか水溜まりにも出会わなかった。

『パチパチ』

森の中の少し広くなったところで、僕は一日歩き通して疲れた体を休めることにした。

たき火の明かりをぼんやり眺めながら僕は物思いに耽っていた。

(地図通りに歩いたのに…何が悪かったのかな…?)

(「主殿は地図の通りに歩いておらんからこのような事になったのじゃっ」)

即座に村正から突っ込まれる。

(「のぉ、主殿…」)

(「ダメだよ。そんなことしたら銀狼を連れて行くことになるじゃんっ」)

チラッと横目で窺うと、木の陰にゆったりと銀狼が眠る姿があった。


◆◆◆◆◆


「今日こそはっ、まずは街道を目指すよっ」

日が上ると元気を出して再び歩き始める。

(「大丈夫かのぉ?」)

(「大丈夫っ、森の中は目印を見ながら歩けば良いんだよ。方角的には向こうだから、よしっ、あの尖った山に向かっていくよっ」)

村正の心配をよそに歩き始めた僕は昼過ぎにお昼休憩をとることにした。

「ちょうど、広場があるからここでお昼ご飯を食べようっ」

(あっ、ちょうど火を焚いた跡がある…あれ?)

(「むっ、村正…」)

(「主殿…」)

そこは今朝出発した広場だった…。

(「主殿…」)

(「ううう…分かった…分かりました。夜まで頑張って無理なら銀狼にお願いしますっ」)

で、結局夜になった。

(はぁ、またここで野宿かぁ…明日は銀狼にお願いして…はぁ)

布を体に巻いて星空を見上げる。

(「主殿、この旅の間、魔物に出会わないことに気づいておられるかえ?」)

(えっ?)

そう言われれば魔物どころか危険な動物にすら出会っていなかった。

(「ほんとだ…でも、どうして?」)

(「おそらくじゃが、銀狼が見張っておるからじゃろ」)

銀狼は大木の切り株の上で寝そべっている。

(僕が安心して眠れていたのは銀狼のおかげだったんだ…はぁ…何も気付かなかった…)


◆◆◆◆◆


「ねえ、銀狼…っと、いつまでも銀狼じゃ良くないね」

「オレハ、ナンデモイイゾ」

「えっと…そうだなあラルフ・シルバーなんてどうかな?ラルフって狼の意味が有るって聞いたことあるし」

「ヨイナマエダ、アリガトウ」

「じゃあ、ラルフ、ロゴスまでどれくらい時間がかかる?」

「フム、アスマデニハ」

「じゃあ、どっかでもう一泊はしないとね」

僕はラルフの背に乗る。

「それじゃあラルフ、お願い」
2014/08/24

旅立ちの決意

(んん…気持ちいい…)

ふかふかした感触に包まれて目を覚ました。

「ん…」

さわさわと撫でる。柔らかい毛の感触。

(毛…?)

脳裏に昨夜の狼たちとの戦いが、そして、銀狼との命をかけたやりとりが一瞬でよみがえる。

「うわあっ」

僕は飛び起きると同時に村正を抜き放って目の前に座っている銀狼、刃を目の前の敵に突き刺した。

『ズブッ』

「お前のせいでっ」

僕は力任せに刃を押し込んだ。

「アルさんもっ、町長さんもっ」

村正の刃を伝って銀狼の血が流れ落ちる。

突き刺しているのは銀狼の胸の辺り。もう一押しするだけで命を奪うことになるだろう。それなのに銀狼は身動き一つしない。

(…どういうつもりなんだっ?)

警戒しながら見上げた僕の前にあったのは、落ち着いた銀狼の瞳だった。

「…コロストイイ」

「え?」

予想外の言葉ではあったけど、その瞳は騙したり、何かたくらんでいるようなものではない。全く理解できないけど、覚悟のようなものが見える。そしてその眼が、僕の心の中にあった怒りの炎を小さくした。

「どうしてっ?」

「オレノ、ケンゾクガ、ヤッタコト。イキルタメトハイエ、オマエヲ、ナカセタ」

「えっ?何を言ってるんだ?」

僕の手は銀狼の血で真っ赤に染まっている。

「オレハ、オマエヲ、ハンリョニスル」

(…俺は、お前を、ハンリョにする?ハンリョ?)

(「伴侶じゃな」)

突然村正の声が頭に響いた。

「ええっ、なっ、なんでっ?」

(「昨夜はお楽しみでしたな?主殿」)

(「えっと…昨夜?」)

そして僕は最初から最後まで思い出すこととなった。最後の方は色々と意識がないところもあったけど。

「うわぁぁぁっ、村正っ、なんで助けてくれなかったんだよっ」

思わず村正を引き抜いて刀に向かって叫んでいた。

(「妾も主殿のために無理したせいでしばらく力を失っておったんじゃ。むしろ、あんなことは妾以外には不可能なんじゃからな」)

「でもでもでも」

真っ赤になって挙動不審になった僕に銀狼が話しかけてきた。

「オマエハ、オレノ、メスダ。オレガマモル」

(いやいやいや、「オレノ」って…狼のお嫁さんになるとか、無いから、絶対無いから…って)

「ちょっと待ってよっ、そもそも僕は怒ってるんだっ、町長さんや、ロイも…それにアルさんなんて…幸せに暮らしてただけだったのに…」

そう言っているとまた思い出して僕の目に涙が滲んだ。

「全部お前のせいで…うぅっうわぁぁん」

僕は泣きながら銀狼を殴る。銀狼は何も言わず僕の拳を受けていた。

それから、しばらく泣いて怒った僕は疲れて座り込んだ。もうわけがわからない。この銀狼をどうすればいいのか、自分がどうしたいのかも分からなくなった。

(僕はどうしたら…)

確かなことは刃を受け入れた銀狼の覚悟が本物だったということ。そして、それを心の中で理解してしまった僕は、もうこの銀狼を殺す気がなくなってしまったということだけだった。

「オマエハ、コレカラ、ドウスルンダ?」

「えっ?ああ…僕は倭国にいる父さんを助けるために強くならないといけないんだ」

突然の銀狼の言葉に思わず答えてしまった。

「オレモ、ツイテイク」

「何言ってるんだよ、ダメに決まってるだろっ」

ちょっときつい口調だったかな、と思ったけど、銀狼は全く気にしてないようだった。

(「主殿、妾は連れていっても良いと思うぞえ。この銀狼は主殿を裏切ることは考えられんし、役に立つじゃろう」)

(「ちょっと、村正は黙ってて」)

「ダイジョウブダ。オレガ、カッテニ、ツイテイクダケ。ワコク…ナツカシイ。オレモ、イク」

「そんなこと言っても、その姿じゃ無理だから」

「モンダイナイ」

そう言うと銀狼の体がどんどん小さくなって、それから人間の姿になる。

長い銀髪の長身の青年。顔も美形だ。

「これでどうだ?」

人間の姿になったせいで話しやすいのか、言葉も急に流暢になり、聞き取りやすくなった。

(ええっ?)

(「これくらいは出来ぬわけなかろう。この銀狼は妾が見たところ相当長い時間を生きて力を持っておるからの」)

村正は色々知っていたようだ。

「その刀…村正…」

僕の刀を見て銀狼が呟いた。

(「ほう、妾のことを知っておるのか」)

「なんで知ってるの?」

「懐かしい、昔聞いたことがある…」

(銀狼は倭国にいた事があるのかな?)

いやいや、ブンブンと頭を振る。

「ダメダメ、そんな姿になっても僕は連れていかないよっ」


◇◇◇◇◇


さて、僕は町に戻ったその足で早速町長さんのお見舞いに向かった。

町長さんの家は半壊しており、息子さんの家にいるはずだ。

(銀狼のこと…何て説明しよう…)

僕が着いた時にちょうど何人かの人がお見舞いに来ていたのでしばらく待つことにした。

「おうっ、アオイじゃねぇか」

「おはよう、ディック」

僕は声でバレないようにわざと低めの声を出す。

ディックは町長さんのお孫さんで学校に通っているときはちょくちょく僕に絡んできて面倒な奴だった。

ディックも20歳になって、脂ぎった顔がテカテカと光っている。

「爺ちゃんの見舞いに来てくれたんか?」

そう言いながら近づいてきた。僕を見るその目つきは先日のハンター達と同じだ。なんだか背筋が寒くなった。

(やっぱり後にしよう)

「いや…うん、でもまた後にするよ」

僕は一旦帰ろうとクルッと振り向いた。

「おいおい、少し待ったらいいじゃねえか?久しぶりに会ったんだしよお」

ディックが僕の腕に手を伸ばしてきたその時、ドアが開いてガヤガヤと見舞いの一団が出てきた。

「チッ」

ディックが舌打ちをして僕の肩に手を置く。

「爺ちゃんならその隣の部屋にいるからな」

ディックはそう言いながらなかなか手を離さない。揉むような手つきに鳥肌がたった。

(「アオイ…しばらく見ないうちにますます女っぽくなったな。もう男でも関係ねえ。今度酒でも飲ませてヤっちまうか…くくく」)

村正の力が発動してディックの考えが頭に入ってきた。

(うわあ…こんなこと考えてたのか…)

「じゃあ」

ディックから逃げるようにして僕は町長さんの部屋に入る。後ろを窺うとディックがどこかに急いで向かうのが見えた。

(ああ…発情しちゃったんだね…)

(「主殿も我が力の使い方を分かってきたようじゃな」)

(「へ?」)

(「発情させようと力を込めれば普段よりも発情させられるのじゃ」)

(「そうなんだ」)

どうやら無意識に力を出したようだ。

(「この調子なら妾が顕現できる日も近いやもしれんなぁ」)

「おはようございます」

「おお、葵君」

町長さんは僕の姿にベッドから起き上がろうとして顔をしかめた。

「町長さんっ、寝ててください。でも、重症って聞いてたんで安心しました」

顔だけをこちらに向けて町長さんが何とも言えない顔をした。

「儂もなんとか生きながらえたようじゃ…じゃが、まだ魔物が…」

町長さんがため息をついた。

「えっと、その事なんですが…」

『バンッ』

僕が話そうとすると、大きな音を立ててドアが開いた。ドアの向こうから町長さんの息子さん、ディックのお父さんが息を荒げて部屋に入ってくる。

「葵君っ、葵君っ?」

僕を見るとものすごい勢いで近づいてきた。

「今、父さんの家の前で毛皮を見てきたが、まさか、すべて退治してくれたのかっ?」

町長さんが驚いた顔で僕を見る。

「はい。灰狼、黒狼は全て倒しました。それに銀狼も逃がしましたが、もう戻ってくることはありません」

「まさか…?」

町長さんの驚いた顔。

毛皮は町長さんの家の前に置いてきたけど、僕は牙を革袋から取り出す。それに銀狼の毛と小さな瓶に入れた血を出した。

「た…確かに…これは銀狼の毛だが…しかし、葵君、一人でやったのか?」

町長さんの息子さんが言う。

「はい。ただ、ちょっと…」

僕は人払いをお願いして町長さんと二人になる。

そして村正を体から出した。

「おお…葵君もついに刀を…」

町長さんは嬉しそうに目を細める。

「実はこの刀が妖刀で、その呪いで僕、女になってしまったんです」

「な、なんとっ」

「ですので、呪いの解除方法を探す旅に出ようと思います。それにまだまだ父さんを手伝いに行くには力不足ですし…」

「そうか…」

町長さんはしばらく目を閉じて考えているようなそぶりを見せる。

「仕方ないことじゃが、寂しくなるのぉ、では、せめて儂が治るまではいてくれんか?」

「わかりました。僕も準備がありますので」

出るときにチラっと見た町長さんの顔は寂しそうだった。
2014/08/24

力の反動

一度村正を鞘に戻して意識を集中する。

五感をフルに使って銀狼と対峙した。

「ワガ、ケンゾクヲ、コロシタ…コノイカリ、シデツグナウガイイ…」

低い、地面が震えるような声が銀狼の口から漏れた。

「しゃ、喋ったっ」

(「主殿、魔物とは呼ぶが、こやつら銀狼は長き時を経て能力が格段に上がったもの、人の言葉程度は話せるぞえ」)

「ム…オマエ…イツゾヤノ…ボウズ…イヤ…メスナノカ?…フンッ、ドチラデモイイガ」

僕はそれに答えず、一歩前に出た。

(これだけ大きかったら一撃では両断できない。まずは足を切って動きを止めるっ)

爪で来る攻撃に合わせて脚を切ろうと身構えるが、なかなか銀狼は動かない。

お互いに動かないまま時間ばかりが過ぎる。

「ハッ、ハッ、ハッ…フッ」

銀狼の息遣いが変わった。

(来るっ)

そう思った瞬間に銀狼が飛び出した。

(まずは脚だっ)

僕は横に飛びながら脚を切ろうと抜刀。

肉を切る感触。

(やった…)

「グヌゥゥッ」

着地した銀狼が前脚を見る。

(もう一度だ)

そう思って刀を下段に構えたところで、僕の体に異変が起こった。

「ぐっ…ううう………あんっ」

甘い声が出る。

「なんだこれ…体が熱い…村正っ…」

(「主殿、まずいのじゃ…まだ体が慣れておらぬ主殿が妾の力を使いすぎたのと、戦いによる興奮で発情が暴走しとるのじゃ」)

銀狼も僕の異変に気づいたようだが、先ほどの一撃もあり、容易には近づけないようだ。

僕の方は服が触れているところがまるで愛撫されているように感じる。

「んはぁぁあっ」

『ドサッ』

草の上に転がった僕はシャツを脱ぐと、胸を押さえる包帯がもどかしく、破くようにして外していく。

「オノレ…ナメテイルノカッ」

銀狼は怒り、こちらに突っ込んでくるが、僕はそれを気にする余裕もないほどの快感に飲み込まれていた。

「ふう、主殿……仕方ないのぉ」



◇◇◇◇◇


銀狼は驚いていた。

そもそも自分が切られたのは何10年ぶりか、いや、100年以上前かも知れない。続いて心に湧き出たのは喜び。

自分を傷つける存在が現れたことに心が躍った。

ところが、追撃をすることもなく相手が服を脱ぎ始めたのだ。

観察しているとどうやら発情しているらしい。

その時銀狼の中に膨らんだ感情…怒り

長い間、好敵手と言えるような相手もいない、つまらない生活の中で久しぶりに血が沸き立ったのがこのような形で終わるとは。

(つまらん…)

腕を振るって終わり。そう思って近づいたとき草むらに落ちていた刀が光を放ち、光の中から先ほどの少女とは別の牝が現れた。

先ほどの少女とは違って妖艶な大人の牝だ。

「ドウイウコトダ…?」

「こんな良物件の主を失うわけにはいかぬのでな」

手の平を自分に向ける女。

『ドクンッ』

血が沸き立つ。

「グゥ…オンナ…ナニヲシタ?」

にやりと笑って女が消える。

『ドクンッ、ドクンッ』

心臓の鼓動が激しく鳴る。

「グッ」

血が股の間に集まる。

脚の間を見れば肉棒が隆々と勃っていた。

(おかしい…発情期はまだ先のはずっ)

だが、心とは裏腹に、種を出したい欲望に囚われた身体は足元でうずくまる少女を捉えた。

少女の体から漂う甘い匂いが興奮させる。

だが、銀狼の肉棒は少女の体ほどの大きさがある。このままでは挿入することなど不可能だ。

銀狼は一声吠えた。

するとその体は小さくなり、少女の倍ほどの大きさになった。

少女をうつ伏せに転がすと、銀狼は己の股間を少女の股の間に突っ込む。

熱い肉壺の入口がヒクヒクと蠢いて、銀狼の大きな肉棒に吸い付いた。

『ギュリッ』

無理やりねじ込むと少女が叫ぶ。

しかし止まることなどできない。

体中の細胞が交尾を望んでいた。

肉棒をギュッギュッと押し付ける。

その度に少女の口から泣き声のような高い音がでた。


◇◇◇◇◇


「いたぁぁぁあああっ」

葵は自分の声で我に返った。

後ろから激しい息遣い。

(ま、まさか…)

銀狼が前足で背中を踏みつけるようにして後ろから腰を押し付けていた。

「い、いやだぁっ」

逃げようとするが、銀狼にがっちり押さえ込まれていて逃げられない。

少し抜けた熱い杭が再び突っ込まれる。

「いたぁいっ」

嫌がっても銀狼は止めるつもりは無いようだった。

「いたっ、いぃぃ…やめてぇぇっ」

(痛いっ、痛いっ、やめてっ、ううっ)

さらに銀狼の肉棒が子宮を開くかのように奥をグリグリと押す。

「いたっ、いやぁぁっ、んっ、んっ、はぁんっ」

先程まで痛いだけだった感覚に甘い感覚が混じる。

葵は自分の口から出た声が信じられないというように口を押さえる。

(なんで…)

銀狼はそんなことに何の興味もないように腰を押し出した。

奥が押されるたびに口から喘ぎ声が漏れる。

「んっ、んっ、んっ、んっ」

葵は手で口を押さえるが、銀狼の疲れを知らない抽挿に声が止まらない。

それどころか逃げようと腰を動かした結果、お尻を突き上げるような形になってしまい、ますます激しく膣内を突かれることとなった。

(やぁんっ…深いぃ)

「これ…いじょうはダメぇっ、ああっ、やあんっ、イっちゃうっ、イっちゃうよぉっ」

銀狼の攻めについに葵の抑えていた我慢が限界に達した。

「ああっイクイクイクっ、イっちゃうぅっ」

ガクガクと体が痙攣する。膣肉が肉棒をしごくように激しく動く。

だが、それでも銀狼は射精しなかった。

「えっ、あっ、まだしゅるのっ、ああっ、だめっ、いま、しゅごい、んああっ、びんかん、ひゃんっ、だからぁっ、いやぁっ、またイクっ、あっ、イクっ、イクよぉっ」

銀狼の責めに何度も絶頂を味わう葵。

もう意識がなくなる、そう思ったときに、急に銀狼の動きが止まった。

(終わり…?)

そう思った瞬間、体の奥に熱い精液が吐き出された。

「んああああああっ、あつぅいぃぃっ、ああっ、やだっ、なかでっ、しゅごいっ、しゅごいっ、あちゅいの、あふれりゅ、あっ、あっ、あっあああああああっっ」

『びくんっ、びくんっ』

銀狼の体が震えて、射精が続く。

「ひゃぁんっ、まだ続くのぉっ、あっああっ、イクっ、あっ、しゅごいっ、ああっ、んああああああっ」

葵のお腹が銀狼の精液で膨らむ。

葵は犯され始めて何度目かの痙攣をして意識を失った。

しばらく銀狼は葵の上で射精の快感に震えていたが、全て吐き出して肉棒を抜く。

意識を失った葵の膣からはドロドロの精液が溢れ出た。



次話 旅立ちの決意
2014/08/24

狼への反撃開始

「ちょっと村正?」

(「ほほほ、主殿、面白いものを見せてもらったの」)

「いろいろ聞きたいんだけど」

(「しょうがないのぉ。言うてみよ」)

怒り気味の僕の言葉に村正はなぜか上から目線で答える。

「なんで僕、女の子になってるの?」

(「それは先程も言ったじゃろうに?妾の力を最大限に使うために体が変化したのじゃ」)

聞いていなかったのかと言いたげな不満げな反応。

(いやいやいや、その態度おかしいよね?)

言いたいことは色々あるけど、グッとこらえて質問を続ける。

「えっと、これっていつまで?」

(「ふむ、死ぬまでじゃな」)

「ええっ?ちょっとだけ男に戻るとか…」

(「無理じゃな」)

当たり前の事だと言わんばかりの即答に血の気がひいた。

「どっ、どうしようっ…」

(「大丈夫じゃ。主殿は元が元じゃからほとんど変わらんぞ」)

「そんなの全然フォローになってないよ…」

頭を抱える僕に村正が話を続ける。

(「さらに主殿は妾のチカラで歳をとらない体になったのじゃ」)

「不老不死?」

(「それはちょっと違うぞえ。過去の主殿の中には拷問されて死んだものや世を儚く思って自殺したものもおるの」)

「つまり、死ぬのは死ぬんだね」

(「そうじゃ。他に質問はあるかの?」)

「あとは…村正は誰でも抜けたの?」

これは僕が一番聞きたかった質問の一つだった。

(「そうではない。主殿と妾の波長が合っておったからじゃ。主殿に出会うまで100年以上待っとったからの」)

(なるほど…じゃあ、やっぱりこの刀が僕の運命の刀だったんだ…)

「はぁ」

僕はなんとも言えない想いにため息をついた。

(「しかし、悪いことばかりではないぞえ。すでに主殿も体験したように五感が限りなく鋭くなったじゃろ?それに、主殿はまだ妾との波長が完璧ではない故、触ったものの気持ちしかわからんようじゃが、波長が合うにつれて周りの人間の考えていることが読めるようになるのじゃ。さらにその先も…ほほほ」)

(確かに、相手の考えが読めるようになれば戦いでは敵なし…いや…でも女になってしまうなんて…)

僕はそんな風に考えていて、ふと気になったことを口にする。

「ところで、呪いって女になってしまうだけ?」

不老で五感も鋭くなって、周囲の考えまで読めるのに、対価はそれだけでいいのか。いや、女の子になるだけで充分酷いけど。

(「うむ。…ああ、それ以外にもあったぞえ。これはある程度制御できるのじゃが、妾の力を使うと発情するのじゃ」)

「へ?」

(はつじょうって…?えっと…発…情…?)

(「おそらく、今頃は先ほどの男も…ほほほ、聴こえるぞえ」)

僕は不審に思って耳をすます。

(「何でだ…体が熱いっ、くそっ止まんねぇっ」)

ジェイクの声と『クチュクチュ』という擦る音が聴こえる。

「これって…まさか…」

(「そうじゃ、主殿も罪作りよの」)

「??」

意味がわからないけど、ジェイクのかすれたような声と擦る音を聞いているとなんだか体が熱くなってきた。

(「ほほほ、ところで主殿、顔が赤いようじゃが?」)

「い、いやいやいや、村正ってば何言ってるの?」

(「仕方ないのじゃよ、主殿は先程から何度も妾の力を使っておるからの。発情しとるのじゃ」)

「へ?」

そう言うと急に村正の気配が消えた。

「村正?ねえっ」

村正は完全に消えてしまったようだ。

(「はぁ、はぁ、くぅっ」)

ジェイクの吐息がまるですぐ隣にいるかのように聴こえる。それを聴いているとなんだか僕まで息が荒くなってきた。

「はぁ、はぁ、はぁ」

(体が…おかしい…)

見下ろすと、シャツのボタンが今にも弾け飛びそうなほどパツンパツンになっていた。

「ゴクリ」

苦しそうな胸のボタンを外す。

『ボロン』

二つの乳房が締めつけから解放されて飛び出した瞬間、ピンと勃った乳首がシャツと擦れた。

「ふぁっ」

思わず出た声はまるで女の子のようだ。

(なに?…この感覚…ん…柔らかい…)

僕は恐る恐る胸に触れた。そして一度揉み始めたら最後、止まらなくなった。

「んっ、なにっ…これ…おかしいっ、あっ、声がとまんない…んはぁっ」

(「はぁ、はぁ、はぁ」)

ジェイクの吐息が耳に吹き掛けられる感覚に体が震えた。

今度はズボンを脱いでパンツに手をいれる。

『くちゅっ』

「はぁんっ」

(何これ?すごいっ)

すでに股間がお漏らしでもしたかのように濡れていた。

(「くぅっ、擦れば擦るほど気持ちいいっ」)

ジェイクの声が聴こえる。

僕は指で割れ目の上をこねる。

「きゃんっ、なにこれっ」

両手が胸と股間をそれぞれ愛撫する。

(僕の体なのに…勝手に動いちゃうよぉっ)

僕の指は触るたびに気持ちいいところを見つける。

ダメだと思っても指がクチュクチュと動き回る。

(「くそっ、今日はなんでこんなに、葵っ、はぁっはぁっ、イキそうだっ」)

「あんっ、おかしくなるっ、おかしくなるぅ」

「「イクぅッ」」

(『ドピュッ、ドピュッ』)

顔にかかるんじゃないかっていうくらい至近距離でジェイクの射精の音を聞きながら僕は絶頂に達した。


◆◆◆◆◆


深夜、僕はこっそりと家を出た。

何もしなくても、シャツに胸が当たって感じてしまうから包帯を体に巻いていつものズボンとシャツを着た。

「村正」

僕が呼ぶと手から村正が現れる。

(「主殿、どちらへ?」)

「今から銀狼を狩りに行くよ」

(「銀狼…懐かしい名じゃな」)

月明かりの中、森の中を歩く。

(「ふむ。主殿、見られておりますぞ」)

(「えっ?」)

僕も五感を集中すると耳元で狼の息遣いが聞こえた。

パッとその方向を見ると赤い目が光っている。

(「主殿、いかがする?」)

(「もちろん全滅させる」)

僕の答えが気に入ったのか村正が嬉しそうに笑った。

(「封印から解き放たれた直後にこんな楽しいことになるとはの…主殿で良かったのぉ」)

息遣いが近づいてきた。

気配を隠しているつもりだろうが、今の僕には手に取るようにわかる。

右から五、いや六頭、前からも二頭、それに後ろの藪に四頭隠れているか。

(さあ、来いっ)

狼の呼吸が一度大きくなった瞬間右に向かって村正を抜刀した。

「ギャッ」

まさか先手を越されるとは思っていなかったのだろう、最初に突っ込んできた一頭の顔が半分に切れた。

さらに次々に飛び込んで来る狼をなで斬りにする。

「ハッ」

後ろから激しい息遣い、振り返りざまに刀を横にして切りつける。

(前から来ていた二頭も近い)

刀の重みと遠心力を利用して弧を描くように後ろから突っ込んできた狼も一刀両断。

ダンスを踊るようなステップが終わる時には、付近は狼の死体で溢れていた。

「ふぅ」

僕は一息つく。

(全然切れ味が鈍らない。凄いっ)

(「お見事。素晴らしい腕前ではないか」)

(「そ、そうかな?」)

(「これほどの腕前と容姿がほかの刀に取られていたらと思うと妾は死んでも死にきれないぞえ」)

(容姿はどうでもいいでしょっ)

思わずツッコミを入れるけど素直に嬉しい。

(「父さんはもっとすごかったんだ」)

(「ほお、お父上とな?」)

(「そう、御門政信って言うんだけど…」)

そう言った瞬間、村正の気配に怒りの色が現れた。

(「御門…政信じゃと?」)

(「どうしたの?」)

(「主殿は政信の愛刀を知らんのか?」)

(「えっ、うん。知ってるけど?」)

(「『正宗』。あの憎き脳筋が妾を封印させたのじゃ」)

(「へえ、でも村正は強いんじゃなかったの?」)

(「正宗の能力が…」)

(「えっ?能力が?」)

(「まあ良いわ。む、主殿っ」)

左の木々の間に先程よりも大きな気配。

(黒狼かっ)

右からも一頭、前後に二頭。全て大きな気配。さらにかなり遠いが、銀狼の気配も感じる。

(ようやく来たか)

前から一頭が飛び込んでくるのを居合で切り抜け、そのまま二頭目の爪を交わしながら脇腹を切る。

さらに後ろから忍び寄る黒狼がいるのを僕は感じ取っていた。

飛び込んでくるのを半身でかわすと、その後ろに控えていた一頭を切る。

まさか自分の所に来るとは思っていない狼を切るのは容易い。

そして一歩下がる。

「ギャインッ」

左右から飛び込んできた二頭の黒狼がぶつかって鳴き声をあげたのを横に一閃、同時に二頭を始末した。

(残り二頭か)

振り返って二頭を見る。ジリジリと僕が近づくと黒狼達が下がる。

そして二頭が尻尾を足の間に挟むようにして逃げようとした瞬間、首が消えた。

そこにはあの銀色の毛並みを持った巨大な狼が立っていた。爪には2頭を屠った時についた血が滴っている。

(「主殿…これは立派な銀狼じゃな…美しいのぉ」)

(「村正、褒めている場合じゃないよ」)



次話 力の反動
2014/08/24

村正抜刀

「大変だっ、ハンター達がっ」

ハンターが全員殺されたのはすぐに町に知れ渡った。

なぜすぐに分かったのか、それは彼らの死体がご丁寧に森の入口に捨てられていたからだった。

「町長がっ、町長がやられたっ」

そして、その日の夜、町長さんの家が襲われた。町長さんも命こそ無事だったものの深い傷を負った。

町中が大騒ぎになる中、僕は地下室の鍵を開ける。

(町長さん…僕が自分のことばかり考えていたせいで…力不足だったせいで…)

今の刀は数打ちのもので5体も切れば切れ味が鈍る。もっと切れ味が良い刀を使わなければいけない。

そもそも今の僕の腕ではあの銀狼相手に刺し違えることさえできないだろう。

だけど、たとえ銀狼でも一太刀入れることができればしばらくは動けないはずだ。そうすればギルドなり、王国軍が来るまでの時間稼ぎくらいはできる。

階段を下りて刀の前で意識を集中する。しかし、無情にも刀たちからは何も聞こえない。

(お願いだから何か言って…)

どれほど地下にいたか分からない。

ついに諦めようとした時に遠くから何かが聞こえた気がした。

ハッと顔を上げて耳を澄ませる。壁際から聞こえた気がした。

(この中の…どれ?)

一本ずつ見ていくがどうもそれらしいのがない。

(どこ?)

ふいに目を上げた時に壁に亀裂が入っているのに気がついた。

(まさか…)

僕は慌ててハンマーを取りに走った。


◇◇◇◇◇


『ゴッゴッゴッゴッ』

壁をハンマーで叩くとボロボロと崩れる。どうやら空洞になっていて壁の奥に小さな空間があるようだった。

さらに叩いて出来た穴から覗き込むと、これまでとは違ってはっきりした声が聞こえた。

(「やっと妾の声が聞こえる人間が現れたか…はよぉ抜いておくれ」)

(聞こえるっ、よおしっ)

声に導かれて壁を壊すと一本の太刀が蝋燭の薄明かりに照らし出された。しかし周りには幾重にも白い紙の紐のような物が囲んでいる。

「あ、あのっ」

(「おお、そなたが妾(わらわ)の主殿か?嬉しいのぉ、はよ、はよ妾を抜いておくれ」)

頭に響く色っぽい声。

「えっと…」

(なんだか封印されているように見えるけど気のせいかな?)

僕がなかなか動かないのを見て刀が焦り始めた。

(「何をしておるのじゃ?はよぉこの封印を解くのじゃ」)

ジトーっと僕は見る。

「あのぉ、今、封印って言いました?」

(「ぎくっ」)

「封印されるってことは、なにか良くない物ってことですよね?」

(しもたわぁ…なんて鋭い質問なんじゃ…妾としたことが一生の不覚じゃあ)

(「ん、ゴホンゴホン、妾はじゃな、えーっと…そうじゃっ、あまりに強すぎて封印されとったんじゃ。もし妾を抜けばお主も強ぉーくなるぞえ」)

僕はちょっと考える。

「抜いたら世界が終わるとか、町が消し飛ぶとかないですよね?」

(「もちろんじゃあ」)

「僕が死んじゃうとか、何かおかしな事になるとか?」

(「そっ、そんな事あるわけないじゃろっ、なっ、なにせ、刀とサムライは一心同体。お主が死んだら元も子もないからのー」)

(動揺してる?…うーん…怪しい…怪しいけど、背に腹は変えられないし。それに、せっかく声が聞こえたんだし)

「分かったよ」

そう言うと刀の周りの封印を取り外す。

そして刀の鞘を持ち、地下室の入口に戻った。

(「さっ、さっ、はよぉ抜いておくれ」)

「本当に大丈夫なんだよね?」

(「大丈夫じゃと言うとろうに。妾はそなたの運命の刀なんじゃからのっ。はよぉ、ほれ、抜いておくれ。先っちょだけ、先っちょだけでエエんじゃ」)

その声に唆されて僕はゆっくりと刀を抜いた。

美しい刀身が空気に触れた瞬間

「なっ、なにこれっ」

体が焼けるように熱い。

(騙されたっ)

骨が軋む。高い熱が出ている時のように関節が痛い。

「ぐっ、うわぁぁぁっ」

のたうち回ること数分、いや、数時間経ったのかもしれない。

ようやく体の痛みが治まった。

(「ほほう、想像以上になったの。これは歴代一位かもしれぬわ」)

刀の声が脳に聞こえる。

「うう…何が起きたんだ…」

(「主殿、妾の名前は『村正』妖刀村正じゃ」)

「何が『ムラマサじゃ』だよっ、一心同体とか言って、さんざん苦しかったよっ」

なんか自分の声がおかしいような気がした。

(「じゃが、これで主殿は強ぉなられたはずじゃ。耳を澄ましてみよ」)

(耳?)

「ジェイク、御門さんの家に行くのか?葵君の具合をちゃんと見てこいよ」

「分かってるよ、オヤジ」

まるですぐ隣で話しているように二人の声が聞こえる。

思わず周りを見わたすが、もちろんジェイクもおじさんもいない。

(「主殿の五感はこれまでよりも格段に上がっているはずじゃ」)

「確かに…」

僕は体を眺める…

(えっ?)

なにかいつもと景色が違う。

床が見えない。

(胸板が厚くなった?)

(「ほほほっ、面白いことを考える主殿じゃな。胸板が大きくなるわけないではないか。それは乳房じゃ。ち・ぶ・さ」)

(はいぃっ?)

僕は思わず二つの山を掴む。

『むにゅ』

「んあっ」

(なんだこれ…キモチいい)

(「主殿は妾の力を最大限利用できる体に作り変えられたのじゃ」)

(ええっ、ああっまさかっ)

股間を触るとアレが無くなっていた。

「ちょっちょっと何してくれてるのっ?村正ってばっ」

焦る僕に飄々とした調子で村正が言う。

「そんな大きな声を出さずとも、一心同体の妾と主殿は思念で会話くらいできるぞえ。ところで主殿、そろそろお隣さんが来るのではないか?」

「ああっ、そうだっ、どうしよっ」

大慌てで地下室から駆け上がると自分の姿を見る。

シャツを突き上げる双つの大きな膨らみ。

(うわぁ、どうしよ?隠しきれないよぉ)

隠すものを探し回った結果、結局シーツをベッドから引っこ抜いて体に被ったところでドアがノックされた。

「葵っ、いるか?」

「はいっ」

声が高い。しまった。

「あれ?」

ドアの向こうで訝しがる声がする。

ドアを慌てて開けるとジェイクが立っていた。

「…葵?どうしたんだ?シーツなんてかぶって」

「えっと…ゴホンゴホン、調子が悪くて」

そう言うとジェイクが僕の顔を眺めて、おでこに手を当てた。

「ひゃんっ」

ジェイクの手が触れただけで思わず声が出てしまう。

「おいっ、変な声出すなよ、全く…」

(「なんだか葵の顔が火照っていて色っぽいな…いやっ、いかんいかん、俺は何を考えてるんだっ」)

頭の中にジェイクの声が聞こえた。

「あー、ちょっと熱っぽいな。いや、町長さんがやられたって聞いてお前がまた無茶しないか見に来ただけだから。お前は気にせずしっかり休んでろよ」

そう言うとジェイクは帰っていった。

(ふー、何とかなったよ)

僕はその場で座り込む。

『トントン』

「ひゃいっ」

ドアが開く。

「そうそう、珍しいフルーツが手に入ったからおすそ分けだった。ん?どうしたんだ?」

ジェイクがそう言いながらドアを開ける。

「えっ、あっ、ありがとっ」

そう言ってジェイクからフルーツを貰い今度こそジェイクが隣の家に帰ったのを耳をすませて確認する。

それからひとまずベッドにシーツを戻しに行ってそのままベッドに腰掛けた。



次話 狼への反撃開始
2014/08/24

一夜明けて ハンター到着

僕の意識が戻ったのは翌日も昼過ぎのことだった。

まず、体を見て、無事であることを確認すると周囲をチェックした。鳥の声が聞こえるから近くに狼はいないようだ。

岩の中から這い出て見ると昨夜は暗い中で気付かなかったけど服がボロボロになっていた。

(はぁ…助かった…)

疲れ果てて町に戻ると体中に浴びた血を洗ってベッドに横になった。


◇◇◇◇◇


次に目覚めたのはその日の夜中。

体中が痛い。

(そう言えば昨日は結構やられたから…)

そしてまどろむようにして再び眠る。

朝方になって『ドンドンッ』と玄関が叩かれる音で目が覚めた。

ベッドから起き上がろうとすると節々が痛む。

「は、はぁーい」

そう言って痛む体に鞭うって何とかベッドから抜け出す。玄関の鍵を開けるとジェイクがいた。

「おいっ、葵っ、大丈夫なのか?」

怒っているような心配しているような顔。

「えっ?あ、うん。ボロボロだけどね」

ジェイクを家に招いて僕は椅子に座る。

「寝てなくていいのか?」

「うん。ちょっと体が打ち身で痛いだけで…」

「そうか、良かったよ」

安心したように話すジェイクは久しぶりに見ると日焼けして、胸板なんかも厚くなって、海の男って感じになっていた。

「ジェイクは男らしくなったね」

「そ、そうか?まあ、オヤジと一緒に毎日海に出てるからな。それより葵、町長さんから聞いたぜ。無茶したみたいだな」

ジェイクがドサッと革袋をテーブルに置く。

(…?)

「町長さんから灰狼6体と黒狼1体分の報酬だそうだ。『無茶するなって言ったのに』ってマジで怒ってたぞ」

(うわぁ、バレてたんだ)

「あとな、ハンターギルドに今朝早く依頼を出したらしい」

「そっ、そうなんだ…」

(やっぱり僕だけではこの町を守れなかった…まだまだ僕は弱いから…)

「銀狼は珍しいから多分明日にはハンターが来てくれるし、ゆっくり休めってさ」

(あれ?)

「なんで銀狼がいるって確定してるの?」

ジェイクは声をひそめる。

「実はな、お前が寝ている間にまたやられたんだ。今度はロイのとこだ」

「ロイって、まさか…あの?」

ロイというのは僕らの学校時代の同級生で物静かな優しい友達だった。

「そうだ、夜中に襲われて…」

「それで、ロイは?ロイは無事なの?」

「あいつは無事だ。家族もな。全員で町の中心にある親戚の家に避難していたらしい。で、町の奴がロイの家の近くで銀色に輝く狼を見たんだってさ」

ホッとしたが、やはり自分の弱さが恨めしい。

(父さんならきっと昨日の夜にも倒していたはず…)

ジェイクが帰ったあともその気持ちが薄れることはなかった。


◆◆◆◆◆


翌日、町長さんがうちに来た。

「葵君、この人たちがハンターギルドから来てくれた方たちじゃ」

町長さんの後ろに数人の男たちがいた。

不潔な感じの男達で盗賊と言われても納得できそうな風貌。

(ハンターギルドってこんな人たちなんだ…)

僕を見て後ろの痩せた男が口笛を吹く。

「こんなかわいこちゃんが灰狼を倒したって?」

「まさか…父親だろ?なっ、お嬢ちゃん、お父さんはどこにいるんだい?」

リーダーらしいニキビヅラの男の細い目が僕の体にまとわりつく。

「なあ、町長さん、銀狼をやったらこのお嬢ちゃんと楽しませてもらえるのかい?」

後ろのもう一人の軽薄そうな男が町長にありえないことを言い出す。

「…それはだめですじゃ」

町長もせっかく来てくれたハンターだけに邪険にすることもできないようだった。

「そんなこと言わずにさあ」

汚い歯を出して笑う。言うことも盗賊レベルだ。

「あ、あのっ、僕は男です」

「「「ええっ?」」」

盗賊たち…いやハンター達が疑わしい目で僕を見る。

「おいおい、何言ってんだ?」

町長さんの方を見るハンター達。

「本当ですじゃ、それにこの子が灰狼を倒したんじゃ」

「げえっ、マジかよっ」

(そんなことより…倒すつもりはあるのかな?)

間近で銀狼を見た僕は不安に駆られる。

「あ、あの…銀狼については?」

「ああ、そうだな、一応言ってよ。ちゃちゃっと頼むぜ。なにせ俺たちは忙しいんだからな」

僕はあの日見た銀狼についてや、群れについて話す。

銀狼に遭ったくだりで町長さんが口を挟む。

「葵君、銀狼にまで遭っておったのか…無茶はするなとあれほど言うたのに」

「すみません、町長さん…」

「うんうん、分かった分かった。よし、それじゃ行くか」

ハンターの人たちは僕の話をしっかり聞くこともなく、出発しようとする。

「あっ、あのっ、大丈夫なんですか?」

そう言った僕に嘲りの笑いを見せて彼らは森へ入っていった。


◆◆◆◆◆


「リーダー、なんでこんな依頼受けたんだよ?」

「本当だぜ…つまんねえ町の周りの狼退治って…割が合わねえよ」

「そう言うな。町で女どもを見ただろ?結構粒ぞろいじゃねえか」

「だけどよぉ」

「グチグチ言うんじゃねえ、そろそろ俺たちも依頼をこなさねえとギルドの偉いさんに目をつけられちまうんだよっ」

「はあ…仕方ねえなあ」

「だけどよお、銀狼なんて本当に出んのか?伝説級だぜ」

「俺たちじゃ束になってかかっても勝てるわけねえ」

「大丈夫だ。ギルドからは確認して来いって言われてるだけだし、そもそも銀狼なんていやしねえよ。どうせ灰狼をビビって勘違いしただけだ」

「「あー、なるほど」」

「じゃあさっさとやってあのアオイちゃん?としっぽりといこうかね?」

「お前、男だって聞いてなかったのかよ?」

「はあー?お前こそあんな嘘信じちゃってるの?あんなの嘘に決まってるだろ」

「あの顔ならどこの娼館でもナンバーワンになれるぜ。っつーか、あの上品な顔立ちなら貴族のお姫さんとでも張り合えるんじゃねえか?」

「ああ、確かに気品があって…あのお人形みたいな顔を汚すのは楽しそうだなあ。組み敷いてぶち込んでやったらどんな声で啼くのか…いけねえ、勃ってきちまったぜ」

「おいおい、アオイちゃんのケツは俺のもんだぜ」

「「「ぎゃはははは」」」

男たちが葵の痴態を想像して鼻の下を伸ばしながら森の奥に向かう。


◇◇◇◇◇


森の奥が近づいてきたところでリーダーが二人を止めた。

「おいっ、ちょっと待て」

二人が立ち止まる。

「前を見ろっ」

その言葉に目を凝らすと一頭の灰狼がいた。

「いやがった」

「1匹か、楽勝だなっ。よしっ、お前ら、やるぞっ」

そう言って3人が走り出す。しかし灰狼は動こうともしない。

「変だな?どうしたってんだ?」

「構わねえ、そのままぶっ殺すぞっ」

灰狼に突っ込もうとした瞬間、横から2頭の大きな顎が突っ込んできた。


次話 村正抜刀
2014/08/24

狼達との戦い

灰狼を狩った1週間くらい後、僕は町長さんに呼び出された。

「おはようございます」

町長さんは疲れた様子で、顔色が悪かった。

(あれ?何かあったのかな?)

「あっ、葵君か…すまんのぉ。こんなに朝早くに呼んでしもうて」

「いえ、大丈夫ですけど町長さん、お疲れですね、何があったんですか?」

「ああ、実は君に頼んでいいものか今も悩んどるんじゃだが」

町長が不安気に僕を見る。

「大丈夫です。何でも言ってください」

(どうしたんだろう?)

「いや、…そうじゃな。…実は厄介な魔物がこの町の周辺で出たのじゃ」

「厄介?」

「ああ、数日前に灰狼を狩ってもらったんじゃが、あの灰狼が群れを追われたのは、より強い魔物が群れを乗っ取ったからのようなのじゃ」

(群れのリーダー争いなんて珍しいことではないけど)

僕の考えを読んだように町長が話を続ける。

「リーダー争いなんてよくあることじゃが、今度のリーダーがまずいのじゃよ。まだ確実ではないのじゃが、銀狼かもしれんのじゃ」

「な…」

(銀狼…!)

銀狼は灰狼の上、黒狼のさらに上位の魔物だ。銀狼クラスになると言葉を話すものもいるとか聞いたことがある。

「さらにその群れが25、6頭ほどになっているようなのじゃ」

(25か…)

「さすがに街のギルドか王国軍に頼んだほうが良いかと思ったんじゃが…。ああ、いや、葵君では物足らんと言っとるわけではないぞ。君に怪我をされるとこの町が困るのじゃ」

(町長さんは僕のことを本当に心配してくれているようだけど…こんなに大きな群れが来ることなんてほとんどないし…あれから僕も強くなったんだから)

「心配していただいてありがとうございます。だけど…お願いします、僕にやらせてくださいっ」

それでも僕はお願いした。

早く刀の声を聞いて父さんを助けに行きたい。その思いがこの無謀とも思える狩りを僕に受けさせたのだった。

「…よろしい。じゃが、危なかったら絶対逃げて戻ってくるのじゃぞ」

「はい」

町長さんの家を出る。今日も暑くなりそうだ。

だけど季節はもう少ししたら秋になる。この時期は狼たちも冬に備えて活発に動く。だから大きな被害が出る前に倒さなければいけない。

僕は一度家に帰って準備をした。

刀と脇差を手に取ると髪を縛り直して家を出る。

森に入ってからは、普段よりも慎重に歩いた。

(まさかいきなり遭遇ってことはないよね?)

最初はおそるおそる歩いていたが、なかなか狼たちには出会わない。既に3時間は歩いただろう。

(いないなぁ)

もう少し奥まで進んでみることにして、一度立ち止まると昼食を食べて再び歩き出した。

(せめて銀狼の姿くらいは見ておきたいし)

しかしなかなか群れは見つからない。

夕方まで探したが見つからず、日が傾いたところで家に帰ることにした。ところが、町長さんの家の前で騒ぎが起こっていた。

「どうしたんですか?」

一人の男の人に尋ねる。

「ちくしょうっ、出やがった、狼にアルの家がやられて全滅したっ」

目が血走っている。アルさんの家といえば町外れの家だ。

(まさかそんなに町の近くにいるとはっ)

僕は慌ててアルさんの家に向かう。

そこは凄惨な現場になっていた。


◇◇◇◇◇


「クソっ、アルも嫁さんも娘も全員食い殺されていた。あのクソったれ犬畜生に」

血まみれの軒先で友人だったらしい男たちが話しているのを聞くといたたまれなくて僕はその場を去る。

アルさんは町外れで牛や豚を飼いながら家族仲良く暮らしていた。小さな町だから僕も何度かは顔を合わせたことがある。温厚そうなアルさんの顔が思い出された。

(そうだっ、僕は自分のことばかり考えていたけど、狼を退治しないと町の人に危険が及ぶんだっ。僕はなんて浅はかだったんだっ)

いてもたってもいられなくて、家に帰らずその足で再び森に入った。

夕暮れどきの森は薄暗く、それだけで危険な場所になる。

だけど昔から僕はジェイクと一緒にこの森を遊び場にしてきたから庭みたいなものだ。

『ガサッ』

走っていると目の前に突然大きな黒い塊が飛び出した。

「くっ」

急停止してその黒い塊を見る。

(黒狼?…いや、灰狼か)

薄暗い中、狼の目が赤く光っている。

開いた口からは涎が垂れていた。

(こいつらのせいでっ)

僕は鯉口を切って柄に手をかける。少し腰を落としていつでも抜けるよう構える。

「ハッ、ハッ、ハッ」

灰狼の目が一瞬僕から逸れたような気がした。

『ザッ』

僕がほとんど無意識に後ろに跳んだ瞬間、元いた場所には大きく口を開けた別の灰狼の姿があった。

(うわっ、危なかった)

一瞬で体勢を立て直すと2頭になった灰狼に向かって走り込む。

難なく縦に並んだ二匹を切ったところで前に数匹の灰狼がいるのが見えた。

こちらに向かって走り込んでくる。

僕は一瞬逃げて体勢を立て直すか悩んだけど、数はそれほど多くはなさそうだ。

(このまま切り抜けるっ)

すれ違いざまに切っていく。

(一、二っ)

3頭めの爪が顔のすぐ横を通過する。髪が何本か宙を舞う。

(三っ)

三頭切ったところで横から殺気がしたのでスライディングするように滑り込んだ。

僕の真上を黒い塊が通り過ぎる。刀を上に突き刺すと柔らかい腹が裂けて血や内臓が降ってきた。

(これで6頭…まだいけるっ)

「はぁ、はぁ」

荒い息をついたところで再び前方に赤い目が光っていることに気がついた。

(休ませてはくれないってことか…)

刀を振って血を飛ばすと、前をじっと見つめる。

陽が落ちて月もうっそうと茂った木々の葉で見えない。

闇の中で近づく赤い目。

(あれ?遅い…?)

嫌な予感がして僕は周りを警戒する。

『ガサッ』

激しい音が頭のすぐ後ろから聞こえた。

一瞬早く前に飛び出した僕は地面を転がり、灰狼の奇襲を躱して、そのまま素早く立ち上がると、頭を噛み砕きにきた一頭を袈裟斬りに切り落とす。

そして先ほどの赤い目を見ようと振り返ろうとしたところで、僕は激しい衝撃に吹っ飛ばされた。

「ぐあっ」

そのまま獣道に転がるようにしてようやく止まった。

(ううっ…油断した…まさかこんなに速いとは…こいつは…灰狼じゃないっ)

身体はまだ動く。

なんとか立ち上がろうとした時に鋭い殺気が放たれて慌てて後ろに跳ぶ。

(しまったっ)

ダメージのある僕では狼よりも動きが遅い。

案の定、すぐ目の前に黒狼の赤い口が迫っていた。

『ガチッ』

刀を前に出して押さえようとするが、刀身を鋭い歯で挟まれる。

(いけないっ)

刀を戻そうとするけど全く動かない。

通常なら口の中を切り裂く刀身が、何頭も切ってきたせいで切れなくなってしまったのだ。

「くっ」

狼の爪が迫る。

しかしその爪が僕に突き刺さることはなかった。

(ふぅ…もしものために持ってきておいて良かった…)

僕の左手に握った脇差が狼のあご下から脳天を突き破っていた。

それでもしばらくの間ガタガタと動いていた狼だったが、やがて力尽きた。

だけど、今の攻防で僕の頭は冷や水を浴びせられたように一気に冷静さを取り戻した。

(これ以上は戦えない…街に戻ろう)

しかし振り向いた僕に無数の赤い視線が突き刺さる。

(くっ、すでに囲まれていたのか…)

僕は焦りと恐怖を抑えて森を出るルートを考えると、まっすぐ最短のルートを走り始めた。


◇◇◇◇◇


「はぁはぁ、はぁはぁ」

僕は後ろから聞こえる獣の足音に追われながら木々の間を抜ける。

大きな岩が見えた。この岩の広場を抜ければ森を抜けられる。

(なんとか逃げきれた…)

だけど、その時、僕の気持ちを嘲笑うかのように岩の上から一頭の狼が地面に飛び降りた。

(大きいっ、なんだこいつ?)

僕の体の何10倍もある狼。頭だけで僕よりも大きい。月光に照らされた狼の毛並みは銀色に輝いている。その目も赤ではなく銀色に輝いていた。

(まさか…こいつが銀狼…?)

こちらは切れない刀と脇差が一本。勝てるわけがない。

『グオオオオオ』

銀狼が大きく唸りを上げる。

(うわぁぁ)

その唸り声だけで、僕の膝は震えた。

(勝てない…僕はここで死ぬのか……いや、嫌だっ)

生きたいという意思が思い出させたのだろうか。その時不意にジェイクと遊んでいた隠れ家が頭をよぎった。

(…まだだっ、ここで僕は死ぬわけにはいかないっ)

持っていた脇差を銀狼に向かって投げつけると同時に走り出した。

(間に合うかっ?)

脇差に気を取られて一瞬だけ銀狼の意識が逸れた。

目指すのは銀狼が最初に立っていた岩の下、そこには裂け目があってギリギリ人が一人入れるのを僕は知っていた。

銀狼も次の瞬間には僕を狙って跳ぶ。

『ガッ』

岩に銀狼の爪がぶつかった。

間一髪、僕の体が岩の割れ目に先に入ることができた。

銀狼が岩の周りを歩き回り、裂け目に顔を入れようとするが、銀狼の体が大きすぎて顔を入れることができないでいた。目の前の銀狼と目が合う。しばらく睨み合った後、銀狼がニヤッと笑った気がした。

銀狼は一声吠えて、それから走り去る音がした。

(助かったのかな…もう…これ以上は…)

疲れと怪我と安堵に僕の意識が闇に消えていった。


次話 一夜明けて ハンター到着
2014/08/24

父さんとの別れと新たな生活

あっという間に、父さんの出発する朝が来た。昨日はどうしていいのか分からず、僕は結局普段と同じように過ごしてしまった。

朝早くというのに、港には何人もの町の人が見送りのために集まってくれていた。父さんは普段の格好から着物に着替えてあの夜の刀、『正宗』を腰に提げている。

そして、町の人達と父さんが別れの挨拶をしている間に、倭国からの船が到着した。出発が目前に迫る。船から降りてきた人と父さんが難しい顔で話をしている隣で僕はぼんやり海を見ていた。

「父さん…あの…」

話が一段落ついたところで僕も何か言おうとするんだけど、口を開いたら涙が溢れそうで口をつぐむ。そんな僕の様子に父さんが微笑んだ。

「葵、お前にこの鍵を渡しておく」

涙をこらえて見上げると、父さんが僕の手をとって鍵を握らせた。

「これって?」

「地下室の鍵だ。この間は聞こえなかったようだが、お前はもう十分刀の声が聞こえるほどの実力を持っている。たまには降りてみなさい。もしかするとお前の運命の刀があるかもしれない」

「良いのっ?」

「ああ、だけどな「何だあれはっ」」

父さんが何かを言おうとした時に大きな声が遮った。

周りの人達が海を指差している。

その指の先には黒い雲があった。

最初は小さな雨雲のように見えた雲が近づくにつれて大きくなる。そして僕の目にもそれが何なのか分かった。

「あれはっ…魔物だっ」

商人の一人が大声で叫ぶと、集まった人も恐慌に陥った。

大小様々な魔物が見えるけど、大きな魔物はドラゴンや巨人のようなものまでいる。

「全員町に逃げるんじゃ、家に地下室のある者は地下室に、無い者はわしの家に集まるように言うんじゃっ」

白髪まみれの町長さんがそう言ってテキパキと指示を出す。

みんなが逃げる中、僕は父さんを見上げた。

「僕も…手伝えるなら…」

魔物への恐怖で震える僕に父さんはニッコリと笑った。

「葵も帰って地下室に入りなさい。心配するな。私と正宗があいつらを町までは行かせない」

「おいっ、葵っ、行くぞっ」

ジェイクが僕の手を引く。

「あっ、父さんっ、気をつけてっ」

父さんは笑って手を振って、「元気でな」そう口が動いた気がした。

僕が後ろ髪を引かれるようにして家に戻って振り返ると、もう港付近まで魔物が来ているように見えた。

(父さん、無事でっ)

そう祈りながら渡された地下室の鍵を開けた。


◇◇◇◇◇


「ふう、順風な旅立ちとはいかないものだな」

政信様がおっしゃるのに私は頷く。

「政信様、私が命に代えましても敵を殲滅致しますので」

「お前は見ておれ、これだけおれば久し振りに力を出せそうだ」

「はっ」


◇◇◇◇◇


そして、魔物は結局一体も町に来なかった。

1日経って恐る恐る港を見に行った人がありえないものを見たという顔で帰ってきた。

港は魔物の死体で埋め尽くされていたそうだ。

そして父さんと迎えに来た人、それに船は無くなっていたそうだ。無事父さんが倭国に着くよう、無事に母さんと桜が見つかるよう僕は祈った。

それからは町の人総出で魔物の体から素材を集めた。後に町長から聞かされたところによるとこの素材だけで町の大きな収入になったとか。

父さんのおかげだと言われ、僕は1年くらいは暮らせるお金を受け取った。


◆◆◆◆◆


父さんが倭国に出発してもうすぐ1年が経つ。

僕の生活は大きく変わっていた。

まず、学校を卒業した僕は、一人で生活をしなければいけない。

特に何をするというアテもなかった僕に町長さんが「父さんの跡を継いで魔物退治をして欲しい」と声をかけてくれた。

もちろん大規模な魔物の集団とは戦えないので盗賊やちょっとした魔物退治をする仕事だ。

僕は修行の一環としてありがたく引き受けることにした。

仕事がないときもあるけど、父さんの残してくれたお金もあるからそれでも十分足りる。

ジェイクは漁師として、お父さんと一緒に海に出るようになった。特に最近は外洋まで出るようになったみたいで何日も帰ってこないこともある。


◇◇◇◇◇


僕は早朝の森の中にいた。

カーキ色のカッターシャツにズボン。背中まで伸びた髪は後ろで一つにまとめている。腰にはひとふりの刀。

父さんが出発してからというもの毎晩地下室に入るのが日課になっている。

何本もある刀の前で声を聴こうと集中してみるのだけど今のところ声が聞こえたことは一度もない。いい加減この中には僕の運命の刀はないんじゃないかと思い始めてきた。

仕方ないから地下室にある数打ちの太刀の中から僕に合った長さや重さの刀を出してきて使っている。

さて、お目当ての魔物を求めてパトロールを続ける。

『ザザッ』

風の音ではない生き物の移動する音。

(来たっ)

『チャキッ』

僕は腰に提げた刀の鯉口を切る。

落ち着いて周囲を警戒する。

五感を研ぎ澄ます。

『ザッ』

地面が踏みしめられる音がすると同時にそちらを向いた僕は突っ込んでくる狼とすれ違う。

すれ違った時には僕の右手は刀を抜き狼の側面を切り裂いていた。

『ドサッ』

後ろでくくった髪がファサっと降りると同時に、狼が倒れる。

今日の僕の仕事が終わった。

通常群れで生活する灰狼(グレイウルフ)が一匹群れからはぐれて家畜に被害を与えていたので、できるだけ早く狩ってほしいと昨日から町長に頼まれていたのだ。

「ふぅ」

(この程度ならまだ戦えるんだけどね)

僕の脳裏にはかつて父さんの別れ際に見た数々の魔物が焼き付いている。

(早く強くなって父さんに追いつかないといけないのに…こんなことで大丈夫なのかな?)

実際、この1年で盗賊が出たことは一度もないし、たまに狼やゴブリンが出るくらい。刀の声も聞こえないしで僕としてはちょっと焦りを感じている。

「さてと」

狼の皮を剥いで牙を抜く。狼は肉としては食べられないので残った部分は邪魔にならないように端っこに捨てて帰路についた。


◇◇◇◇◇


「おはよう…ん?葵君、やってくれたんじゃな?」

町長さんは笑顔で出迎えてくれた。

「はい、外に毛皮があります」

一緒に外へ出ると毛皮を見て驚いたように僕の顔を見た。

「こんな大きなサイズの灰狼じゃったのか…。これを一人で倒したのか、さすがは政信殿の息子じゃて」

「いえいえ、父さんにはまだまだ遠く及びません」

「政信殿は規格外じゃからな。じゃが、葵君には助けられとるよ。街のギルドに頼んだら時間と金ばかりかかるからの」

そう言って再び家の中に戻る。

「よし、それではお金を払おうかの」

思った以上に大きい魔物だったらしく町長さんは多めにくれた。

それから僕は素材屋さんに向かう。

魔物とは、動物が力を持つようになったものもいれば、オークやゴブリンといった別の種族、さらにその上に龍(ドラゴン)や鬼(オーガ)などがいるとされている。

「こんにちは」

「おっ、葵君、今日か明日かと思って待ってたよ」

本来はこんな小さな町に素材屋さんはないんだけど、去年、倭国から魔物が大量に来たため、この国最大の素材屋であるメロヴィング商会の出張所が常駐するようになった。

「なんで来るってわかったんですか?」

素材屋さんのルシオさんは40代くらいのおじさんで、もともとこの町の人だそうで、給料は安いけどこの町で暮らしたくて戻ってきたらしい。

「灰狼のはぐれだろ?噂になってたからね」

そう言って僕の後ろを見る。

傷つけないように莚(むしろ)に乗せて引きずってきた毛皮を見てルシオさんもびっくりした顔。

「これ…葵君一人で倒したのかい?」

「ええ」

「これはすごい。それに傷も…んん?まさか一撃か?」

「はい」

「本当に君には驚かされるよ。見た目、ん…ごほごほ」

(見た目と違ってとか言おうとしたな)

「とにかくこれは高く買わせてもらうよ。あと牙もあるかい?」

「はい」と言って牙を出した。

「これは…リーダークラスじゃないか?なぜこんな奴がはぐれになってるんだ?」

「??」

不思議がるルシオさんからお金をもらって家に帰った。

家の前のポストをチェックするけど手紙は入っていない。

(父さんは元気かな?母さんや桜が無事ならいいけど…)


次話 狼達との戦い
2014/08/24

サムライの力

僕はこの国に来た頃のことを断片的にしか覚えていない。

覚えている一番古い記憶は、ある夜のこと。

王様に会った日の夜だったと思う。王宮のふかふかのベッドで寝ていると夜中になんとなく目が覚めた。

どうも妙な胸騒ぎがしてドアを少し開くと隙間から走り回る大人たちが見えた。

(お父さんっ)

初めて見る怖い顔の父さんが周りの大人の人を怒鳴りつけていた。

僕は怖くなってベッドに戻ったけどなかなか眠れなかった。

そして翌日から僕は王宮でしばらく暮らすことになった。何かがあったことは父さんが毎日忙しそうに走り回っていることからなんとなく分かった。

だけど、聞いてはいけない気がして、僕は何も聞かず、同じ年くらいのエルザ姫と毎日遊んでいた。

それから、ようやく王宮での生活にも慣れた頃に突然、僕と父さんは海に近いケルネという町に引っ越すこととなった。

エルザ姫とのお別れは少し寂しかったけど。

今度の家は、城に較べるまでもないほど小さな家。

部屋は4つしかない。

僕と父さんの寝室、居間、キッチン、ダイニングだ。

地下室があるけどそこは鍵がかけられていて僕は入ってはいけないと言われていた。

この家に住んで最初の日の朝、お父さんから倭国には帰れないと言われ、泣いて庭に出た。

その時一人の男の子に出会った。

その翌日。

剣の稽古をしていると再びその男の子が現れてびっくりした。ジェイクという名前でお隣の男の子だったらしい。

ジェイクは僕の3歳上で学校でも町でも人気者だった。

お互いお父さんと二人暮らしのせいか、色々と面倒を見てくれてお兄ちゃんがいたらこんな感じなのかな?って思った。

学校でも乱暴な男の子に容姿を馬鹿にされることもあったけど、基本的にはジェイクのおかげでいじめられるようなことはなかった。

ジェイクは将来はお父さんの跡を継いで漁師になるんだと何度も海を見ながら話してくれた。

そうこうしている間にジェイクは18歳、僕は15歳になろうとしていた。

僕は勉強が出来たせいで、今年、ジェイクと一緒に学校を卒業する。


◇◇◇◇◇


今日はジェイクに誘われて学校の帰りに町に出てきた。

「おっ、アオイちゃんっ、お父さんにはこの間助けられたよ」

行商のおじさんが馬車から林檎を取り出して僕とジェイクに差し出してくれる。

「葵ちゃんこれ持って帰りなよっ」

肉屋の主人が猪の肉をくれる。

父さんがこの町の近辺に出る魔物を倒しているせいか、お店の前を歩くと色んな人が話しかけてくれる。

「ジェイク、葵ちゃんを守ってやるんだよ」

魚屋の店先でおばちゃんにジェイクも声をかけられていた。

「はいはい、おばちゃんっ」

なんだか知らないけどこの町では僕はジェイクに守られる存在らしい。

もうすぐ15歳になるのに身長はなかなか伸びなくて160センチに少し足りない。18歳になったジェイクは180センチもあって体格もいいので並ぶと僕が守られる側になるのは仕方ない…のかな。


◆◆◆◆◆


15歳になった誕生日の夜。

「誕生日おめでとう、葵」

「ありがとうございます」

父さんとささやかなお祝いの夕食を食べた。

「お前も強くなったな」

「そんなこと…」

「いや、お前も最近は私から10本に1本は取れるようになったんだ。その年なら十分だ。今日は15歳になった祝いも兼ねて、お前に地下室を見せよう。ついてきなさい」

そう言って、地下室に向かう。

『ガチャ』

鍵が開けられて地下に光が差すと階段が見えた。

父さんが先に降りていくのに僕もおそるおそるついていく。

階段は10段ほどで地下室の床に降りた。少しかび臭い、ひんやりとした部屋だ。

父さんが壁の蝋燭に火をつけて回ると、部屋の全貌が明らかになった。

立派な2本の刀とその他の様々な長さの刀が陳列されていた。

「葵、なにか聞こえないか?」

僕を観察するようにじっと見つめて父さんが聞いてきた。

「えっと…静かな部屋ですけど…」

そう言うとどこか寂しそうな、だけどホッとしたような声で父さんが独り言のように呟いた。

「そうか…うむ、聞こえないのなら良い」

それだけ言うと蝋燭を消して再び階段を上がる。

(えっ?)

階段を登っている途中で誰かに呼ばれたような気がして振り向いたけど、気のせいのようだった。


◇◇◇◇◇


その晩は地下室での父さんの顔が気になってなかなか寝付けなかった。

『ゴソゴソ』

父さんがベッドから抜け出す音がした。そして静かに部屋を出て、玄関が閉まる音がした。

(父さん…どこに行くんだろう…?)

僕も静かに起き上がると父さんのあとを追うことにした。

虫の鳴き声が秋の到来を伝えていた。月明かりの中、父さんはよどみなく歩いていく。

僕もかなり遠くから気配を消すように努力して追いかけた。

(この先は…港しかないけど…)

父さんは港に着くと手のひらを下にして右手を前に出した。

すると信じられないことが起こった。手のひらから刀の鞘が現れたのだ。

(えっ?何…これ?)

僕は見間違いかと思って目をこすった。

さらにその鞘がどんどんと出てきて刀の鍔が現れ、ついに柄まで出てきた。

(あんな刀…初めて見た。いつも使ってるのとは違う…なんだろう…すごい力を感じる)

父さんが刀を抜く。

その瞬間父さんの前に一人の鎧を纏った武者が現れる。

僕は驚いて目を見張った。

(あれ?誰?それにどこから出てきたんだろう?)

あまりのことで現実とは思えない。

ぼんやりと眺める僕の前で突然鎧武者が輝きを放ち、一つの輝く光の玉となる。

その光の玉が父さんの体に触れた瞬間、父さんの体の周りが激しく輝いた。

「うっ」

僕はあまりの眩しさに目を閉じる。

目を開いた僕の目の前にあったのは圧倒的な力を全身に纏わせた父の姿だった。

空気までビリビリと震えるような感覚。

僕は立っていられず、膝から崩れ落ちた。四つん這いになって胃の中のものが逆流するのに耐える。

「はぁはぁはぁ…うっ、げぇぇ」

その場で胃の中のものをぶちまけて目の前を見ると父の体から輝きが失われ、刀が再び体に入っていくところだった。

そして僕は気を失った。


◇◇◇◇◇


目が覚めた時には日が昇り始めていた。

「葵、大丈夫か?」

(父さん、あれ?ここは…?えっと…昨日の夜…)

「あっ」

昨夜のことを思い出した僕が父さんを慌てて見ると起きた時の優しげな目から厳しい目に変わっていた。

「葵、父さんは明日の朝、倭国に立つ」

「えっ?」

「お前も知っているように、あの国には母さんと桜(さくら)がいる。私は母さんと桜を救い、倭国を再興する助けになろうと思う」

(母さんと桜が生きているって!?)

「でも…倭国は…」

「お前には滅んだと教えてきたが、まだ倭国では細々とだが、人が暮らしている。実は倭国から様々な情報が父さんには入ってきていたんだが、これまで伝えてこなかったのは、お前が心配するだろうと考えてきたからだが。すまん」

「それなら僕もっ」

「駄目だっ」

強い口調で即答されて僕は二の句が継げない。

「お前は弱すぎる。良いか、葵。刀の化身と一体化することで我々サムライは通常の人間以上の力を出すことができるのだ。私の『正宗』のように、せめて己の刀を見つけ出すくらいにならなければ死ににいくようなものだ。それに…私としてはできることならお前にはこの国で幸せになって欲しい」

(昨日地下室に入った時に「何か聞こえないか?」って聞いてきたのはそういうことだったんだ…)

「でっ、でも…」

それでも言い募る葵に父はついに厳しい現実を突きつけた。

「今のお前では足手まといなのだ」

そう言われて何も言えなくなった葵に父政信は暖かい目を向けた。

「大丈夫だ。昨夜私の力の一端を見ただろう?必ず母さんと桜を連れてこの街に戻ってくるよ。お前のことはデレクさんとジェイク君に頼んである。普通に暮らせばあと5年は暮らせるだけのお金を残してある」

「………わかりました。父さんの帰りを待っています」



次話 父さんとの別れと新たな生活
2014/08/24

サムライの息子

「お願いしますっ!!」

「よし、来いっ」

『ガッ、ガッ、カッ、ガンッ』

激しい音とともに木刀がぶつかり合う。

一人は壮年の男性、もう一人はまだあどけなさが残る子供。

『ゴンッ』

子供の不用意な打ちこみを躱した男性が木刀を跳ね上げた。

宙を舞う子供の木刀。

「あっ」

子供が空中から目を戻した時、既に目の前には男性の木刀が突きつけられていた。

「これまで」

「あ…ありがとうございました」

子供が礼を言ってその日の鍛錬が終わる。

◇◇◇◇◇

(はあ、今日も父さんから一本取るどころか、まともに剣を合わせることもできなかった…)

鍛錬を終えた子供、御門葵(みかどあおい)は汗だくになった体を清めるために井戸の水を汲んでいた。

「アオイっ、修行終わったのか?」

「ジェイクっ」

井戸の脇の垣根の隙間から一人の少年が顔を出した。

「今終わったとこだよ」

木の戸を押してジェイクと呼ばれた少年が庭に入ってくる。

金髪碧眼の少年は黒髪の葵に比べると身長も高く幾分大人びた容姿だった。

ジェイクの前で葵はキモノと呼ばれるかつて東国のサムライが好んで着ていた服の上半身を脱いで汗に輝く体を拭いていた。

葵が動くと後ろで一つに束ねられた長い髪が揺れる。

「そう言えば、お前、この間ディック達に絡まれてたって?」

「うん。あいつらが僕のことを女みたいだって」

「いい加減お前も怒らないといつまでも続くぜ、せっかく剣術を修行してるのに」

「いいんだよ。この剣は人のために使えって、父さんに言われてるから…」

「アオイは変なところで真面目だからなぁ。まあいいや、今日も森に行こうぜ。岩の間に新しい隠れ家を見つけたんだっ」

「うんっ」

体を拭き終えた葵はジェイクとともに森に向かって走っていった。

その姿を微笑ましく眺めていた父にどこからともなく現れた男が話しかけた。

「政信様、奥方様と姫の行方がわかりました」

「まことかっ」

「はい。……」


◆◆◆◆◆


ジェイクは漁師である父と二人で暮らしていた。

幼い時に亡くした母親の記憶は残っていない。

そんな彼が8歳になったとき、それまで空家だった隣に突然人が住み始めた。

「ジェイクっ」

「なんだい、父ちゃん」

「いいか、ジェイク、今日から隣にミカドさんが引っ越してくることになった。お前より年下らしいが、アオイ君っていう男の子もいる。ミカドさんとこもお母さんがいないらしいから仲良くするんだぞ」

「あいよ」

ジェイクは特に母親がいないことに悩んだことはなかったが、弟のようなものができるのかと思うとワクワクしてその晩はなかなか寝付けなかった。

そして翌朝早く目を覚ましてワクワクしながら庭に出たジェイクだったが、隣の家との垣根越しに見えたのは泣いている一人の女の子だった。

(あれ?確か男の子じゃ…)

そう思ったが目を離すこともできずしばらく見ていると少女がこちらを見た。

白い肌、黒い髪に黒く大きな瞳。髪が腰のあたりまで伸びている。

(何がアオイ君だよ。父ちゃん嘘ついたな)

思いがけなく見つめ合うこととなってしまったジェイクは頬を染めてなんとか口を開いた。

「えっと…いや、あの…オレっ、隣に住んでるジェイクって言うんだっ、よろしくなっ」

勇気を出して声をかけたジェイクに、少女は驚いたように家の中に入ってしまった。

(うわあ、嫌われたかなあ?どうしよう…)

そう思ってしばらくその場で呆然としたジェイク。その日の夜も昨夜とは違った意味で、眠れぬ夜を過ごすこととなった。

そして翌日、再び庭伝いに隣の家を見ていると、昨日の少女が出てきた。木刀を持っている。

ジェイクは思わず隠れてしまった。

(なんでオレ隠れんだよぉ…)

悩んでいる間に木刀を振り始めた少女。しばらく隠れて見ていたが、いつまで経っても終わる気配を見せない。

暇つぶしに数えること100回になろうとしたところで、扉が開いて父親らしき人が現れた。

その前で木刀を降る少女。

「駄目だ、型がめちゃくちゃだ。それでは何度振ろうと意味がない。今日はここまでにしなさい」

しばらくそれを見ていた父親が無情に告げた。少女が昨日と同じように泣きそうな顔になる。

オレは思わず庭に転がるように飛び出していた。

「おいっ、そんなふうに言うことないだろっ、今日だって100回も振ってたんだぞっ」

父親がじっとオレを見る。

(うわあ…どうしよぉ…)

怒られるかと思って緊張するオレに向かって父親が笑顔になった。

「はっはっはっ、優しいな。それに勇気もある。あっ、ひょっとしてジェイク君かな?」

なんて言っていいか分からず頷くオレに父親が少女の頭を撫でながらオレに頭を下げた。

「葵をよろしく頼むよ、ほら、葵、お前も男の子なんだから挨拶くらいしなさい」

(え…今何て…?)

「あ、あの…葵です。よろしくお願いします」

「あっ、ああ…」

(…男の子)

その日オレは一人の友達ができて、初恋が終わりを告げた。


◆◆◆◆◆


大陸アトランティス。

この大陸には太古の昔から様々な種族の生き物が暮らしている。

人間、動物、それに魔物と人間が呼ぶ生き物たち。

人間はそれらの生き物と、時に手を取り合い、時に争って生きてきた。

単純な力で劣る人間は剣を手に、自然の力や神の力など、あらゆるものを使って強大な魔物と戦う力を得た。


◇◇◇◇◇


葵の父親はアトランティス大陸の東の果て、海を越えたところにある倭の国の王の一族だった。

かつての倭国は武士道という高潔な精神を持った国で、巫女でもある一人の女王のもとに力あるサムライが集い、平和な国を作っていた。

土地は肥え、自然も鉱山資源も豊富な国で他の国からは憧憬と垂涎の的であった。

ところが10年前に魔物の襲撃を受けて倭国は壊滅した。

魔物がどこから現れたのか、なぜ現れたのかは倭国のみぞ知る。とはいえ、果たして倭国ですら把握できているのかは不明である。

そうして現在、倭国は魔物の巣窟として知られる国となった。

しかし魔物を大量発生させた国として周辺国から嫌われるかといえばそういうわけでもない。それは、倭国から周辺国にはほとんど魔物が来ないところにあった。

サムライ達が命を賭して多くの強大な魔物を倒したからだという噂もあれば島国だからという噂もあるがこれも確かなことは分かっていない。

また、壊滅する前の倭国は鎖国をしており、その一番近くの大陸、アトランティスとのみ交易があるのみだったためほとんど周辺国に影響がなかったことも挙げられるだろう。

突然の魔物の大量発生、偶然このアトランティス大陸に公務で来ていた葵と父親は難を逃れた。

そして今、父子はアトランティス大陸の最も東の町、ケルネで暮らしている。

父、政信はアトランティスの王からも高待遇での出仕を求められていたが、それを断り、この小さな町でごくまれに海を渡ってくる魔物や周辺に現れる魔物や盗賊を退治して質素に暮らしていた。

息子である葵は5歳の時からこの街に住み始め、それから5年経ったが、町の人にも愛されている。一人の父親としては息子にはこのままここで幸せに暮らしていってほしいと思っていた。

2014/08/23

2周目 9月22日(水) 午前8時20分 島津政信

2周目 9月22日(水) 午前8時20分 島津政信

『ビクンッビクンッ』

激しく痙攣して体から力が抜けた。

「明日はパンティを履かずに乗るようにな」

喋り声が耳をかすめただけで体がまた震えた。

扉が開く。

(ふわあ…)

気がついたときには人の波に押されるようにして駅のホームに立っていた。

「おいっ、高樹大丈夫か?おいっ、おいっ…島津、大丈夫か?」

『島津』という部分は小声で高樹が声をかけてくる。

「あ…」

意識が現実に戻ってくる。

(なんてことをしてしまったんだ…電車の中で…周りに人がいっぱいいるのに、男の股間を触りながらイっちまうなんて…)

そうは思うが体はふわふわとして、まるで夢の中のようだった。

「島津?」

「あっ、ああ、いや、うん…大丈夫…」

濡れたパンツが気持ち悪い。きっと昨日以上に濡れているだろう。

改札を出て歩く。

隣から高樹が心配そうに話しかけてきているのは分かっているが、俺の頭の中は痴漢のことでいっぱいで高樹の言葉は全然入ってこなかった。

◇◇◇◇◇◇

2周目 9月22日(水) 午前8時30分 島津政信

「お願いしますっ、今日だけでもいいからっ」

学園に着くなり俺は葛城に拝まれていた。

もちろん俺は死んでいない。

どうやら、葛城の彼氏の経営するカフェのバイトが集まらず大変なようだ。

だけど、寝不足と朝からの痴漢のせいで俺の体は絶不調だった。

「ああ、美紗、なんか本当に調子悪そうね、ごめん、忘れてっ、何とかするわ」

俺が困っているとそう言って引いてくれた。

さらにホームルームが終わったところで、高樹がこちらを見ていた。

目配せされて廊下に出る。

「たか…島津、どうしたの?」

「なあ、今日って体育があるの知ってるか?」

高樹が小声で言う。

「ああ、いや…うん、知ってるよ」

「体育は水泳だぞ」

(えっ?水泳?)

「えっ、どうすんだ?」

思わず男の口調が出てしまった。

「ゴホンッ」

「あっ、いや、どうしよう…休んでもいいかな?」

「ああ、なんか今日体調悪そうだから休んだほうがいいんじゃないか?」

どうやらよっぽど顔色がひどいらしい。


◇◇◇◇◇◇

2周目 9月22日(水) 午後4時50分 島津政信


学園から帰ると今日も急いで服を脱いでバスルームに駆け込んだ。

昨日はただ体が気持ち悪くてシャワーを浴びたが今日は違う。

痴漢にしがみついて何度もイってしまったカラダ。

(あんなところで気持ちよくなるなんて…)

今日は1日、下腹部に鈍いむず痒さを感じていた。

『シャーッ』

「んんっ」

シャワーの水流が当たると同時に胸から電流が流れるような快感を感じた。

見下ろすと乳首が痛いくらいに尖っている。

『シャーッ』

「ふっ、んんんっ」

乳首に当たるようにシャワーを出していると下腹部が熱くなってきた。

(ばい菌が入ったら困るし…洗っとかないと)

言い訳をするようにして、シャワーのノズルを股間に向ける。

『ビクッ』

クリトリスに直撃した瞬間、体が意図せず折れ曲がった。

(すっ、すごいっ…)

バスタブにもたれかけて、床に直接座る。

目の前の鏡に女の姿が映った。

顔を赤らめた物欲しそうな顔。

少しずつ足を開くと割れ目が少し開いて中のピンク色の肉がヒクヒクと動いているのが見えた。

『シャーッ』

鏡をぼんやり見ていると、シャワーのノズルが視界に入った。

ノズルを持つと真っ直ぐにその手は股間に向かう。

「ふぁあああああっ」

電車の中では出せなかった声が出る。

バスルームに喘ぎ声が響いた。

「んんっんああああっ」

脳裏に痴漢の声が蘇る。

「気持ちよかったんだろ?」

「んあああああっ…」

「イったんだろう?」

「んああああっ、気持ちいいっ」

自分の出した声が思った以上にいやらしく響いた。

「すごいっ、あああっ、イっ、イクっ…んんんあああっ」

ふわっと体が浮かぶ感覚…俺は絶頂を感じた。

(だけど…今朝ほどじゃない…)

◇◇◇◇◇◇

2周目 9月22日(水) 午後11時 島津政信


「はぁ…はぁ…」

(眠れない…)

股間が熱く、求めているようだ。

(どうしてなんだ?こんなに濡れるなんて…)

パンツが濡れている。

拭いても拭いても新しく湧き上がってくる愛液と、頭の中では痴漢に激しく犯される妄想が離れない。

(早く眠らないと…)

そう思うが体がそれを許してくれなかった。

次話 2周目 9月23日(木) 午前6時30分 島津政信