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2014/10/31

猫の恩返し

「ねぇ、マギーさん、本当にこんなのでお礼になる?」

「大丈夫よ、自信を持って」

僕はロゴスに戻って数日後、マモンとの戦いでラルフにお礼を、と思ってマギーさんに相談した。

すると、なんだかよくわからないまま、キラキラした冠と猫耳と魔女の帽子を出されて、どれがいいか選ばされた。

よくわからないままに白い猫耳を選ぶと「ふーん、ラルフ様ってそういうのが好きなのね」と言いながら、奥から出てきたのは耳と同様にフカフカした毛がついたブラジャーとパンティー、ニーソックス、白い毛で覆われたタンクトップみたいなワンピース、それに尻尾だった。

珍しくマギーが紅茶を出してくれたので、飲みながら話す。

「このしっぽはどうやって着けるの?」

「それはラルフ様が教えてくれるわよ」

(こんな格好をするだけで喜んでくれるのかなぁ?)

首をかしげながら僕は家に帰った。

(うまくいくかしら。まあ、念のために紅茶にこれを混ぜといたから大丈夫よね。私って顧客思いよね~ウフフ)

マギーが空になった瓶をゴミ箱に放り投げた。

『惚れ薬 処方量…スプーンいっぱい』

◇◇◇

(あれ?誰もいないの?)

どうも人の気配が感じられず、各部屋を訪ねて回ったけど誰もいない。

(うーん…皆どこいったんだろ?)

そう思って考えていたら、『ガチャッ』と音がして、ラルフが帰ってきた。

「あっ、ラルフ、どこ行ってたの?」

「ん?ちょっと力試しに魔物を狩ってきた、ああ、そう言えばジルも何か欲しい物があるとか言って出て行ったぞ。しばらく帰ってこないかもしれん」

そう言ってラルフは風呂に向かう。

(そうだっ、ちょうどいいかも)

「ねぇ、ラルフ、お風呂上がったら僕の部屋に来てね」

「?…ああ、分かった」

僕はラルフがお風呂から上がるまでに例の服を取り出した。

(うーん、どうかなあ?)

下着の上にお揃いのもこもこした白いワンピースを着た。

服の面積の割に体がポカポカする。

(なんか変な感じ。なんでだろ?)

「コンコン」

ノックの音がしたので慌てて「どうぞ」というと、ドアが開いてラルフが顔を出した。ズボンは履いているけど、上半身は裸で首にタオルを巻いている。

『ドクン』

(あれ?なんだか心臓が…)

「葵、どうした?」

ラルフが髪を拭きながら聞いてきた。

「えっと…」

お礼って言おうとすると顔が火照ってラルフが見られない。無意識に僕は髪を耳にかけて、モジモジしてしまう。

(ダメダメ。ちゃんとお礼を言わないと…)

「えっとぉ…あのさ、その…ラルフには今回も助けてもらってばっかりだったから、何かお礼をしようと思ってさ。マギーさんがこれを着てラルフに見せれば良いって言うから…」

ラルフの視線が僕の頭を向いた。

「あっ、これ…ラルフとお揃いにしてみたんだけどどうかなぁ?」

そう言ってラルフを見上げると、ラルフの視線が頭から体に移動していく。

(うぅ…見られてる…)

ラルフに見られていると思うと体がカッと熱くなる。

(どうしよう…ラルフ、何か言ってよぉ)

ふとマギーさんから渡された服の中で着ていない物があるのを思い出した。

「そうだっ、ねぇ、これどうやってつけたらいいんだろ?マギーさんはラルフが教えてくれるって言ってたんだけど…分かる?」

しっぽを見せるとラルフが僕から受け取ってじっくりと観察する。

「お礼か…なるほど。葵、ベッドに四つん這いになれ」

そう言われてベッドに乗った。

「うぅっ、恥ずかしいから早くしてよっ」

(熱い…なんで?)

ワンピースは丈が短いのでお尻が全部出ちゃってる。

それにパンティも例の紐みたいなやつに毛が付いているだけなので、割れ目に食い込んでしまっているのでラルフの目には恥ずかしい部分が見えているに違いない。

(あれ?)

「えっ、何するのっ、ダメっ、やだっ」

突然ラルフがお尻を掴んで顔を押し付けてきた。

「ふぁっ、なんでっ」

ラルフは僕の言葉を無視してつ突くように舌の先でお尻の穴を刺激してきた。

「やっ、あっ、そこはっ、きたないからぁっ」

顔を上げたラルフがさっきまで舐めていた穴に固いものをあてがう。

(何っ?何するのっ?)

「ラルフっ、やっ、んんんっ、んっ、はぁっ」

グググっと押し込まれて息を吐く。

「そら、尻尾がついたぞ」

(え…)

いつの間にかベッドに上半身を突っ伏していた僕は膝立ちになって後ろを見た。ミニスカートの裾から白いふさふさの尻尾が見える。

「おぉっ、しっぽだあっ、どう?どう?僕も狼にゃん…って…猫だったにゃん」

立ち上がってしっぽを見ようとするとしっぽがブラブラ振れた。

「わあっ、おもしろいっ、おもしろいにゃっ」

くるくるまわっていると、突然ラルフに抱き締められた。

ズボンの前の膨らみが僕のお腹に当たる。

「にゃ…」

「お礼をしてくれるんだろう?」

「え?あれ?」

僕はラルフから離れてズボンの膨らみを見た後、ぽかんとしてラルフを見る。状況を理解したところで頬がひきつった。

(えええ?「村正ぁー」)

(「主殿…、それはそうなるじゃろ…はあ…」)

村正にまで呆れられて、僕はぎこちなく愛想笑いをしながら後ずさりする。

「えっとぉ…ラルフ…僕男にゃんでぇ、ちょっとそういうお礼はにゃんていうかぁ…」

「ここまでしておいてそれはないな」

ラルフから逃げようと振り向いたところで後ろから抱きすくめられてしまった。

『ドクンッ、ドクンッ』

心臓が再び強く打つ。

(あれ?ドキドキする…)

不可解な体の反応に狼狽する僕の耳元にラルフの息がかかった。

「やっ、あっ、ダメっ」

(耳を舐められると力が抜けるよぉ)

熱くなった体が敏感に反応を始める。

(おかしい…村正使った後みたいになってる…)

ラルフの手が短いスカートをめくりあげて割れ目に指を埋めた。

「にゃんっ、ダメぇっ」

それだけで僕は考えがまとまらなくなる。

くちゅくちゅと体の中で混ぜられる音がした。

「やぁんっ、もうダメだよぉっ」

胸と股間と首を同時に攻められて僕の感度は一気に上がった。

ぐにゃぐにゃになった体を後ろから抱き締められたまま顔を上げさせられるとラルフに唇を奪われる。

「んっ、んっ、はぁ、はぁ、んんっ」

最初はついばむように始まったキスが舌を絡めとられると、獣のような激しくなった。

「はぁはぁ…ん…」

僕は一度離れると向かい合わせになってラルフの首に手をまわして唇をせがんだ。

舌を絡め合いながら、ワンピースを脱がされる。さらにブラジャーをずらされると、乳首を潰すように摘ままれる。

「んっ、はぁぁ」

僕の手をラルフはズボンの膨らみに誘導する。

(すごい…おっきくなってる…)

熱い膨らみに触れると割れ目の奥がキュンと締まった。

「んっ、ちゅぱっ、ねろ、ねろ」

キスをしながらベルトを外そうとするけど、なかなか外れない。見かねたラルフが自分で外すと僕は手をパンツの中に入れて直に触る。

(あっ、すごい、あついっ、かたくなってるぅ)

二人で触りあいっこしていると、膝から力が抜けて立っていられなくなった。

「んはぁっ、らるふぅ、ベッド行こっ」

そう言ってラルフをベッドに寝転ばせると僕は伸ばした足の間に座り込む。

「んちゅっ、んっ、ちゅっ」

ラルフの肉棒に指を絡めて先っぽにキスをした。

「そうやっていると本当に猫みたいだな」

ラルフが笑った。

口から一度出して「もっと気持ちよくなってもらうにゃん」と言うと肉棒がビクンっと跳ねた。

「うふふ、ラルフ、これ好きにゃん?」

そう言うとまた跳ねる。

「ふふふ、あーん」

口を大きく開けて肉棒をくわえた。

『じゅぽ、じゅぽ、じゅぽ』

恥ずかしい音を出して口に肉棒を含んだまま顔を上下する。

ラルフをチラッと見ると僕の顔をじっと見ている。

(顔って言うより頭?耳?)

ラルフの新たな一面を見た気がしました。

「んにゃっ」

手を離してニヤついていたら突然体を入れ換えられて、仰向けに寝かせられる。

「んにゃあああっ」

お尻に刺さった尻尾がグリグリと押されて思わず大きな声がでちゃった。

さらに太ももの間にラルフが顔を突っ込む。

「やっ、あっ、だめっ、きもちいっ」

あれ?止まった。

「えっと…きもちいいにゃん?」

ラルフの目が僕にもっと続けるように促してくる。

「ラルフの舌がきもちいいにゃん、もっと奥まで入れてにゃん」

再び舌が奥まで入ってきた。

「あっ、あっ、そこっ、きもちいっ、にゃん」

頭をのけぞらせると髪の毛がさらさらと流れる。

「ダメっ、そんなに舌を入れたらっ」

逃げようとするけど、ラルフの手ががっちり僕の腰を捕まえていて逃げられない。

ラルフの舌が割れ目の上、クリトリスに近づくのが体温で感じる。

(あああ、くるぅっ)

『ねろっ』

「ふあああああっ」

ガクガクっと体が震えた。

『ジュルジュル』

「やぁんっ、音がっ、あんっ、恥ずかしぃよぉっ」

(もう我慢できないよぉ)

「ねぇ、らるふぅ、発情した僕のここにおっきいのいれてぇっ」

ラルフが僕の股間から顔を上げて固くなったオチンチンを割れ目に擦りつけた。

『ちゅく…ちゅく…』

散々体の奥を舐められて敏感になった割れ目が亀頭に擦られる度に背中を反らせて快感に耐える。

「はぁぁぁあああっ」

僕はようやく快感を味わえる気持ちと、焦らされてもっと気持ちよくなりたいと思う気持ちの狭間で悶えた。

すぐに入れるのかと思ったラルフはさらに焦らすかのように割れ目を亀頭で擦る。

「あっ、やぁっ、ねっ、お願いっ、焦らさないで…早くいれて欲しい…にゃん」

そう言いながら腰が早く入れて欲しくて動いちゃう。

(あっ、きたぁ)

「んっ、にゃっ、しゅごいっ」

ゆっくりと入ってくるオチンチンの傘を体の内部が感じ取る。

(はぁ…ギチギチになっちゃってぅ)

「ごりごりあたってるよぉっ、そこっ、あっ、そこ気持ちいいっ」

ラルフの視線を感じる。

「あっ、あっ、嬉しいにゃんっ、僕っ、あっ、おかしくなるにゃんっ、ラルフっ、にゃあっ、あっ」

「にゃん」と言うたびにラルフの肉棒の大きさが増すような気がした。

「しょこばっかりされたらっ、んにゃっ、あっ、おかしくなりゅうっ、はあああぁぁっ」


◇◇◇◇◇


翌日起きると既に太陽は高くて、隣にラルフが寝ていた。

(うぅ…腰が怠いよぉ。もう、ラルフが明け方まで攻めるから…でもラルフがこんなになるなんて珍しい)

僕は猫耳カチューシャと尻尾(いつの間にか外されてた)、それに下着類とワンピースをまとめて眺める。

(これは隠しとかないと。間違えても着ちゃダメだよね)

それから腰をさすりつつお風呂に向かったのでした。

2014/10/31

終わらない戦い

「ふぁっ」

敏感になった体がジルに触れて思わず声が出る。

「んんっ、ダメっ、…ラルフっ、ラルフは?」

「ああ、どうやら闘気を使い果たして意識を失っているようだな」

そう言って僕の体を抱きしめる。

「ちょっ、強引すぎるよっ、やっ、ダメっ、今はっ、ダメだってばぁっ」

「ラルフも眠っているだけで、命に別状はない。まだしばらくこの結界魔術はもつから声も姿も外には漏れないから安心していいぞ」

(安心するとかじゃないのにぃ)

「葵、服の上からでも乳首が勃っているのが分かるぞ」

「やっ、だめっ、触っちゃダメぇ」

後ろから抱きしめてくるジルは逃げようと体をくねらせる僕の服の上から乳首を摘んで荒っぽく愛撫する。

「はっ、ぁあん、ダメだよぉっ」

体が勝手にクネクネと動いてしまう。

「では、こちらはどうかな?」

そう言ってショートパンツのボタンを外して手を入れてきた。

「だめっ、そっちはぁ…もっとダメだよぉっ」

手が入ってくる感覚に、足が震えて膝が曲がる。焦らすようにゆっくりと脱がそうとするジルの手を僕は押さえる。

「それ以上っ…しちゃっ、んんっ」

「これだけ濡らしといて我慢なんか出来ないだろう?それにこれ以上濡れたら服まで染みができて帰りにあいつらにばれるかも知れないぞ」

(あ…)

力が抜けた一瞬で、ショートパンツが太ももまで下ろされてしまった。そのままストンと落ちたショートパンツが足から抜かれる。

「パンツはもうダメだな、ビチョビチョになってるぞ」

そう言ってパンティの脇から指が入ってくる。体にゾワゾワっと鳥肌が立つ。

「やだぁっ、言わないでぇっ、あっ、ああっ、声止まんないよぉっ、こんなところなのにぃっ」

(気持ちいいとこばっかりっ、どうしてわかるのぉっ)

「ジルっ、あっ、ねぇっ、ほんとに声漏れないんだよねっ?」

「ああ、だから思い切り声を出していいぞ」

そう言ってさらに激しく、指がかき回す。

「やんっ、あっ、あっ、イクっ、イっちゃうっ、あっあぁぁぁっ」

ピュピュっと愛液が溢れるのが自分でも分かった。

「はぁ、はぁ…」

荒い息でズルズルと崩れ落ちる僕の目の前にジルが立つ。ズボンから出たオチンチンが目と鼻の先にある。

「あ…」

トロっとその先から粘液が垂れた。ジルの顔を見上げる。

「ジル、舐めてもいい?」

ジルが頷くのを見て、顔を寄せる。髪が邪魔で耳にかけると舌でオチンチンの先をねぶった。

カァーっと頭に血が昇ってクラクラした。

「はぁん」

口の中に入れる。

(どうかな?)

見上げるとジルの眉間に皺が寄る。

それを見て顔を動かす。

『ジュボッ、ジュボッ…』

口の端に白い泡がついて、一度口を離すと舌で舐める。

その時ジルの手が僕の頭を撫でてきた。

(気持ちいいんだ…)

安心してさらに舐めようとすると、両手が頭に乗せられた。

「んあ?」

見上げた瞬間喉に亀頭がぶつかった。

「ごほっ、ちょっ」

ジルの手が僕の頭を押さえつけると乱暴に腰を動かし始めた。僕は、腕をジルの腰に巻きつけて、少しでも衝撃を減らそうとする。

「ジっ…んんっ、んんんんっ」

喉の奥に当たるたびに嗚咽がでて涙が溢れる。

(もう、やだぁっ)

そして突然ジルの腰が止まった。

「げほっ、げほっ、どうしてぇ…?」

下を向いて咳き込む僕を立ち上げさせるジル。パンティは破って取られてしまった。

「ビッショビショになってるぞ。感じていたのか?」

(ええっ?…そんなわけ…)

「まあいい、手をつくんだ」

結界の壁に手をつかされて、立ったまま後背位で僕は貫かれた。

「はあんっ、ねっ、ジルぅっ、どうしてぇっ」

僕はジルの乱暴な行動に頭が混乱したまま新たな快楽に飲み込まれる。

「ああんっ、んんっ」

大きな声が出て、思わず口を押さえる。

「んっ、んっ、んんっ」

しばらくしてジルが何かを後ろで呟いた。すると急に真っ黒だった壁が透明になった。

「えっ、あああっ」

急に明るくなったので、眩しさに目を細める。

ようやく慣れると、目の前にレオンさんの顔があった。結界を不思議そうに触っている。

「やだっ、レオっンさんがぁっ、見えちゃうよっ」

目の前にいるレオンさんと目が合った気がして、その瞬間体の奥がキュキュッと痙攣した。

「外からは何も見えないから安心しろ」

(だからそういう問題じゃないのにぃ)

だけど、激しく突かれると快楽に飲み込まれる。

「やだっ、あっ、だめっ、見られてるっ、みられちゃってるのぉっ」

さっきからずっとお腹の奥はキュンキュン締まっている。

「見られて興奮してるのか?すごく締まるじゃないかっ、もっとだっ、もっとおかしくなればいい」

「あっ、あっ、だめっ、やだっ…イクっ、イっちゃうっ」

ビクンッと体が痙攣して目の前が真っ白になった。

だけどジルは許してくれない。倒れ込んだ僕を仰向けで貪る。

「やっ、まだっ、今はダメっ、イっちゃうからっ、あっ、やっ、ジルぅっ」

ジルと至近距離で目が合う。ジルは無表情だけどなんだか苦しそうに見えた。

(ジル…なんだか悲しそうな目…)

首筋に熱い吐息がかかる。僕はジルに差し出すように首をかしげるようにした。

チクッと小さな痛みと同時に激しい快感が体を襲った。

「ああああっ、あっ、んああああっ」

体の奥に熱い精が放たれると同時に繋がっているところが熱くなる。

(ああっ、漏らしちゃってるよぉ…)

快楽に沈む頭の片隅でうっすらそう思って意識を手放した。


◇◇◇◇◇


「葵、なぜ私があんなに酷いことをしたのに、何も言わないんだ?」

少しして目覚めた僕にジルが尋ねてきた。

「ん…だって、ラウルさんのこととか…ジルもいろいろあったんでしょ?」

「そうか…すまなかった。私たちにとっては人間なんてどうでもいいんだがな…」

遠くを見るような目でジルがポツリと呟いた。

「ラウルはな、私が育てたんだ…」


◇◇◇◇◇


僕らが身だしなみを整えて、結界を解くと既に皆が揃っていてロレンツォさんも治癒魔術をかけられているところだった。ロレンツォさんは既に死んでいてもおかしくないほどの出血量だったけど、精神力でもっているとのこと。

その後、僕らは馬車に乗って一旦アトラスに向かった。

起きることのなかったラルフはレオンさんに担がれて馬車に運び込まれた。

馬車の中は行きとは対照的に静かだった。ジルもレオンさんも何も話さない。女の子二人も疲れきって眠っている。アトラスについたときには既に日も落ちて、ギルド本部が準備してくれていた宿に入った。

そして翌日、昨日のそれぞれの戦果を報告する。僕らはマモンの情報を伝えて、解放された。

「ラルフ、ジル、帰ったら僕の修行を手伝ってくれない?」

宿への帰り道、僕はラルフとジルにお願いした。これまで順調で調子に乗っていたところもあったけど、今回のことで僕は自分の弱さを実感した。

ロゴスへの帰りは自由とされていたので、ジルは夜の間に一人で帰り、僕はラルフに乗せてもらって翌日帰った。


◆◆◆◆◆


「報告しますっ、アヴニールを包囲をしていた敵、殲滅いたしましたっ」

その言葉とともに怒号にも似た雄叫びがこだまして王宮内が一気に熱を帯びた。

「やりましたなっ」

レヴァイン卿を多くの貴族たちが囲み、口々に祝いの言葉を掛ける。

(これはまずいな…想定以上にレヴァイン卿の株が上がってしまった)

パーマーのところにも多くの貴族たちが挨拶にくるが、こちらは新興勢力、若い貴族が多いのに対して向こうは力を持った貴族たちが多い。

今回の事件で、脚光を浴びたのは、ハンターギルドを使うことを提案したレヴァイン卿とそれを後押ししたパーマー卿。しかし、実質的に会議の席で主導権を握ったレヴァイン卿に有力貴族が集まるのは仕方のないことだった。今、玉座の空いた王宮内の権力はレヴァイン卿に集まろうとしていた。

宰相のウォルトン卿はアヴニール籠城の報告の翌日から王宮内に現れていない。病気で倒れたとの連絡が来ていたが、いつしかレヴァイン卿に立場を奪われたことで王宮に出てこれなくなったという噂が立っていた。

(今後の動きを考えなければ)

まだ、王宮内に熱気の残る中、パーマーは王宮から王都の自邸に帰った。

自邸に帰ったパーマーが執事から来客を聞き、慌てて応接室に飛び込む。

「カルロス王子っ」

サラサラとした金髪を耳に少しかかる程度に整えた青年がソファに座り、上品に紅茶を飲んでいた。

「パーマー、騒々しいな」

「っ失礼いたしました」

「お前の様子から見て、王宮内は荒れているようだな」

「はい。レヴァイン卿が想定以上の力を持ってしまいました。やはり、王子がいたほうが良かったのでは…」

「いや、俺がいては敵を見つけ出すことはできない。そうか…レヴァインだったか…なるほどな」

パーマーの言葉を聞いてカルロスが遠くを見るようにして考えているようだった。それから再びパーマーを見た。

「で、こちらの味方はどれほどだ?」

「現在王都にいる若手貴族の3分の1ほどです」

パーマーが表情を曇らせて答えた。

「はっはっはっ、パーマー、えらくやり込められたものだな」

「言い訳のしようがありません」

パーマーはがっくりと項垂れる。

「いや、…その程度で済んだのは僥倖だ」

王子は考えるように顎に手をやる。

「で、王子の方は…?」

「ああ。街でおかしなことは起こっていないようだが、やはり、貴族の家臣とみられるものが今年に入って特殊な薬を求めていたようだ」

「では、やはり王は…」

「ああ。そして、王が不在の間に力を持った貴族が一人いるな」

「…?」

「可能性の問題だ。それにウォルトン卿も病で倒れたと聞いたが?」

「ええ…」

頷いたあと、パーマーの顔色が青ざめる。

「えっ、まさか?」

「パーマー、お前は頭は切れるが、人が良すぎるところが欠点だな。もし、俺の思う通りなら、これからさらに大きな事件が起こるぞ。…いや、既に起こっているかもしれんな」


◆◆◆◆◆


誰も入らないよう指示した上、カーテンを引いた部屋の中で蝋燭の火が男たちの顔を照らす。その目が真っ暗な中輝き、朧に見える頭からは角が覗いている。

「こちらは順調だ、お前たちはどうだ?」

「こちらも順調そのものだ」

「いつでもいけますよ」

『チュパッ、チュパッ』

太った一人の男の足元には女がその太い男根を口に咥えて顔を上下させていた。

残りの二人はそれを気にする風もなく会話が進んでいく。

「しかし、マモンよ。ラウルを失ったと聞いたが?」

「ああ、だがな、それ以上に面白い奴らを見つけた」

「フフ…マモンの悪い癖が始まった…」

「アスモデウス、そういうお前こそ、学院で何を教えているんだ?」

「私は箱入り娘たちに世の中を教えているのよ…フフフ」

「まあよい。あと半年もすればこの国は俺たちのものになろう、はっはっはっ」

「では、前祝いといきましょうか」

「計画の成功に」

「この国の未来に」

3人が杯を掲げた。

2014/10/31

最悪の敵

「オヤジっ」

崩れ落ちるロレンツォのオヤジに止めを刺そうとラウルさんが無表情で剣を振り上げた。

「クソっ」

俺は腕を伸ばすようにしてラウルさんの前に剣を突き出した。

『ギンッ』

力の乗らない剣だったが、なんとかオヤジを守ることはできた。

(間に合ったか…)

オヤジを庇うように前に出る。ラウルさんは何の感情も表さず、その場で俺たちを眺めている。

「ロレンツォさんっ」

「葵っ、ここはいいっ、お前は敵将に向かえっ」

俺は飛び出そうとする葵を止めた。今はオヤジ一人に皆で構っているべきではない。

「オヤジは鎧の隙間を切られただけだっ、傷は深くないっ」

葵がオヤジをちらっと見て天幕に入ったのを確認してから、ラウルさんと対峙した。見た目に大きな変化はないように見える。しかしその瞳が明らかに違っていた。以前の輝きは失われ、今はどす黒く濁っている。

(目に生気がない…だが、これは操られている可能性も…)

「いえ、残念ですが彼は死んでいます」

すぐ横からまるで自分の考えを読んだかのような声がした。驚いて目を向けるとそこには葵と一緒のはずのジルがいた。

そして分かってはいたが、考えたくなかった事実がはっきりと告げられた。

「何をしているっ、お前は葵の援護に行けっ」

内心の動揺を隠そうと、俺の口調は無意識に厳しくなってしまった。

「ええ、すぐに行きます。ただ、気をつけてください。彼は操られているとはいえ、生前の力を完全に使うことができます」

(生前の力?こいつはラウル将軍のことを知っているのか?)

パッと目をジルに向ける。ジルと目が合った。金色の瞳は悲しい色をしていた。

「もう、助けられないか…」

動揺もおさまり、思わず俺の口から出た疑問とも独り言とも言えない言葉にジルの「はい」という無慈悲な一言が耳に刺さる。

(そうか…だめか…)

ジルが離れ、俺は一人になった。

(俺も早く葵を助けてやらんと…)

剣を一度振って無理やり気持ちを切り替えると、ラウルさんに意識を集中する。

ラウルさんが剣を正眼に構える。対する俺は下段に構えた。

駆け出しの頃に稽古をつけてもらったラウルさんと目の前のラウルさんの姿が重なる。

(まさか、こんなことになるなんて考えたこともなかったな)

『ヒュッ』

ラウルさんが鋭い踏み込みとともに突きを放つ。

(くっ、速いっ)

反らせた体の横を剣先が抜ける。さらに躱した剣の先から白い光線が発射された。光線の当たった地面の枯れ草が燃え上がった。

(危ねえっ、光の精霊か)

「次はこっちの番だぜっ」

得意の下段からの切り上げ。大剣の巻き起こした暴風がラウルさんを襲う。

しかし、それをバックステップでラウルさんは容易く避けた。

(剣筋を見極められているか…それに、まさか死んだあとまで精霊の加護があるとはな)

脳裏にかつてのラウルさんの戦う姿が思い出される。

(ラウルさんの代名詞、光の精霊…か。ガキの頃ギルドの訓練場でよくねだって見せてもらったっけな。生意気な俺にハンターとしてのイロハを教えてくれたのは、ラウルさんとオヤジ、それにミオのパーティだった)

チラッと後ろを見る。オヤジが青い顔で荒い息をしていた。

(オヤジ…それほど時間はないな)

「ラウル…「さん」付けはもうしねえ。俺の尊敬するラウルさんはもう死んじまったんだからな。いくぜぇぇっ」

俺は体内の闘気を全身に巡らせると低い態勢で飛び込む。

ラウルはその場を動かず上段に構えた。

(俺の剣より速く降り下ろせるってか?甘くみるなよっ、一撃で決めてやるっ)

全身の闘気を腕に集中する。これで腕力が桁違いに上がる。

地面すれすれを通る剣が風を起こして、砂ぼこりが舞う。

「おおおっ」

ラウルは速さについてこれない。

(決まりだっ)

その時、ラウルの声が耳に蘇った。

(「頑張ったな、レオン。これからはお前も一人前のハンターだな」)

(あれは初めて討伐依頼を成功させた時だったか…)

頭を撫でられた手の暖かさが、ラウルの笑顔が同時に脳裏をよぎった。

(殺らなければ殺られるんだぞ)

「くそぉぉぉっ」

(オヤジも葵たちも死ぬってのに…)

ぎりぎりで剣を止める。

『ヒュッ』

見上げるとラウルの降り下ろされる剣。

俺は妙に落ち着いてそれを眺めていた。

(ああ、これは死んだな)

ゆっくりと剣が降りてくる。

突如、衝撃が体を襲った。

「ぐあっ」

青い空が視界いっぱいに広がる。

「馬鹿野郎っ」

慌てて顔を上げた俺の前にハルバードの柄を杖のようにして立ったオヤジの姿があった。

「はあ、はあ…ほらな、言わんこっちゃない。はあ、はあ、…私情は挟むなって言っただろうがっ…坊主はそこで見ていろっ」

そういうと先程までの苦しそうな表情とは一変して鋭い目付きでラウルを睨み付ける。

「ラウルよお、儂を斬るだけならまだしも、若いのに手を出すのはいけねえよ。パーティの不始末はパーティ内でケリをつけんとな」

ハルバードを頭の上で回すと。切っ先をラウルに向ける。ラウルも再び剣を正眼に構えた。

それからは圧巻の戦いだった。

血がフルプレートの隙間から流れ出すのにも構わず、オヤジはハルバードを振り回し、ラウルがそれを流し、止め、反撃をする。光が放射され、オヤジの胸のプレートが跳ね返す。

動くたびに飛び散るオヤジの血で辺りの枯れ草が真っ赤に染まった。

「はあ、はあ、げほっ」

しかし、長い攻防の末、ついに、オヤジが咳き込み、口から血を吐き出した。

「オヤジっ」

「レオン、黙って見ておれっ」

口元の血を手のひらで拭ったオヤジが体を落とした。

(オヤジ…決める気だ)

二人が向かい合い、時が流れる。先に動いたのは間合いに劣るラウル。距離を詰めようと飛び込んだ。オヤジのハルバードがラウルを襲う。

『ギャンッギャンッ』

オヤジのハルバードの細かい突きをラウルが捌きながら徐々に二人の距離が接近する。

『バリバリ』

その時天幕が破裂するようにして、大きな黒い半球が現れた。

(なんだ?)

目を離した瞬間、『ギャリッ』という音。

ラウルの剣がオヤジのフルプレートの肩を貫いていた。

(オヤジっ)

「ぐぬうっ」

しかし、オヤジは止まらなかった。剣を肩に刺したままハルバードを振りきりラウルの肩から脇腹までを切り裂いた。

崩れ落ちるラウル、だが、オヤジも同時に力尽きたように崩れ落ちた。
2014/10/30

最強の敵

僕が天幕の中に飛び込むと一人の魔物が背を向けて立っていた。

「ようやく来たか。待っていたぞ」

穏やかな口調とは裏腹に魔物から発せられるプレッシャーは今までに感じたことがないほど強い。

一歩踏み出そうとした瞬間、僕は違和感を感じて足元を見る。

(あれ…?)

膝が震えていて、思ったように動かない。

(おかしいな、どうして…?)

(「主殿、落ち着かれよ」)

村正の声がとても遠くから聞こえる。

魔物がゆっくりと振り返った。

(えっと…これって…魔族って言うんだっけ?)

夢の中のように視界も狭く、ぼんやりとしている。

瞳がなく目全体が真っ赤だった。顔は浅黒く、髪は白い。頭から山羊の角が生えている。

背は高く、3メートルくらい。手にレオンさんの持っているのと同じくらい大きな剣を持っている。呼吸をするたびに口から炎がちろちろと出た。

「なんだ?ギルドマスターか支部長が来るものと思っていたが…当てが外れたな」

ひどくガッカリした様子で魔族がため息をついた。

「まるで我々が来るのを知っていたようだな」

突然声がしてドキッとして見回すとラルフがすぐ隣に立っていた。

(あれ…ジルは?)

「ジルっ?」

普通に呼んだつもりが、声がかすれてしまう。

「葵、呼んだか?なるほど…これは珍しい。悪魔…それも強欲の悪魔マモンか」

僕はジルもすぐ後ろにいたのに声がするまで気づかなかった。

「ほう。オレを知っているモノがいるとはな」

マモンの真っ赤な口から炎とともに言葉が紡がれる。

「葵、こいつは上位の悪魔だ。気をつけろ」

(上位?気をつける?…あれ?…ぼくは…何を…)

頭の中が真っ白でジルの言葉も理解できなくなっていた。

「葵、落ち着け」

「いたっ」

声とともに突然肩に激痛が走った。激しい痛みに僕は思わず悲鳴を上げて見上げるとラルフの心配そうな顔が目に映る。

「痛いよっ、ラルフっ」

ラルフの手が離れると視界が急に明るくなった気がした。

(僕は…そうだっ)

(「主殿、しっかりなされよっ」)

村正の言葉が近くで聞こえる。

(「主殿っ?聞こえておりまするか?」)

(「聞こえるよ。村正、ごめんね」)

なんとか恐慌状態から脱出した僕は落ち着きを取り戻そうと何度か深呼吸をする。

「ふぅ、ラルフありがとう、もう大丈夫だから。じゃあ行こっか。ジルは援護をお願いっ」

「うむ」

「葵、ラルフ君、相手は口から火を吐く。魔術も詠唱なしで来るから気をつけろ」

ラルフとジルのいつもと変わらない態度が僕を安心させてくれる。

「分かったっ」

僕は村正をいつでも抜刀できるように鯉口を切り、突っ込んだ。

五感は最初から全開だ。マモンの筋肉の動き、呼吸、目線、様々なところから相手の動きを読む。

マモンが息を吸った。

(火を吐く)

思ったとおり僕に向かって火を吹く。

「遅いっ」

五感を研ぎ澄ませた僕には口を開く音すら聞こえるので難なく躱した。

「はっ」

僕らは左右に展開してマモンを挟む。

「ほう、なかなかやるではないか」

(一気に決めるっ)

僕とラルフが同時に突っ込んだ。こちらを向いていたマモンの目線が一瞬ラルフのほうを向く。

(ここだっ)

村正を居合で放つ。

『ギーンッ』

僕の居合はマモンの剣に止められた。だけど気にしない、というより防がれるのは予定通り。これは陽動だ。本命は…。

ラルフの拳がマモンを襲う。

それに対して顔をこちらに向けたままマモンが笑った。

(何っ?)

その瞬間夥しい炎の矢が空中に現れてラルフに撃たれる。ラルフは攻撃を中断して後ろに下がった。だけど炎の矢は躱そうとするラルフを追いかける。

(危ないっ)

大量の炎の矢がラルフに直撃して目の前が真っ赤に染まった。

「ラルフっ」

ラルフが気になる、だけど僕の方もラルフを気にしている余裕はない。大剣が打ち込まれて、落ち着く時間も与えてくれない。

「キンッ、キンッ」

マモンの剣を流しながらちらっと見る。最悪を想像していたのだけど、そこには火傷どころか髪も焦げていないラルフがいた。

「ほう、闘気術の使い手か」

マモンもラルフの方を向いて感心したように言う。

(隙ができたっ、今ならっ)

そう思って僕は刀を振るう。ヒュっと風を切る音とともに脇腹に吸い込まれようとしたその時、地面から氷柱(つらら)が飛び出した。

「くそっ」

僕もラルフと同様、バックステップで距離をとった。

ほんの数秒戦っただけだけど、相手の力量の底知れなさに嫌な汗が背中を流れた。

その時、後ろのジルから声がかけられた。

「二人とも、少し時間を稼いでくれ、私が何とかする」

「分かったっ」

ジルの声に僕らはマモンを牽制する。睨み合いがしばらく続いた。

「はあ、これでは面白くない。こちらから行くぞっ」

ため息をついてそう言った瞬間、僕の目の前にマモンの姿が現れた。

「くっ」

切っ先を紙一重で躱す。

「こちらもやるではないか、そらっ、これならどうだ?」

僕の身体くらいのサイズの剣を小枝を振るように楽々と振ってくる。

「くっ」

剣の速度がさらに上がって反撃もできない。徐々に髪や服を掠めるようになってきた。さらに五感を限界まで高め続けてきたせいか体の奥がじんわりと熱くなってきた。

(このままじゃ…やられるっ、隙さえあれば…)

そう思ったとき、

『ギャンッ』

突然、マモンが剣を後ろに突き出すと同時に、金属音が聞こえた。

「むうっ」

ラルフが無防備に向けた背中を殴ろうと近づいたところに剣が振られたのだ。刀身とラルフの腕がぶつかっているが、ラルフの腕は切れない。

「むうっ、俺の剣を防ぐほどの闘気かっ」

マモンが驚いた声を出す。

(今だっ)

僕は頭の中でマモンの体に鎖を巻きつける。頭の中で『ガチンッ』と鎖が嵌った音がした。それと同時に僕の体の奥からじわっと熱いものが滲む。

(あ…やっぱりこれを使うと…)

「ん?体が動かんな…まさか小娘…お前がやったのか?」

「そうだよっ、ラルフっ、今だっ」

僕が叫んだ。

「クハハハハハハッ、これは面白いっ、つまらん仕事を押し付けられたとムカついていたが、お前たち、ラウル以上に欲しくなったぞっ」

体が動かず、絶体絶命のはずなのにマモンが笑い出した。

(動けないのに…この余裕はどういうこと…?)

マモンが眼を閉じた。

「ふんっ」

力を入れる声とともに『パーンッ』僕の頭の中で鎖が弾け飛ぶ音。

「んあっ」

と同時にキュンっと体の奥が締まる感じがして声を上げてしまった。仕掛けた時以上の快感が体を襲って体をくねらせる。

そんな僕の様子を見てマモンがニヤリと笑った。

「ほう…これはまた、色々と面白そうだな。アスモデウスの奴に言えば喜んで飛んできそうだが」

(まさか…こんな簡単に外されるなんて)

圧倒的な力に僕の顔が青ざめた。鎖を使ったために僕の体の感度は急激に上がっている。

(次の攻撃は躱せない)

青ざめる心とは裏腹に体はますます熱くなる。立っているのが精一杯だ。

(どうするっ)

ニタニタと笑いながらマモンが僕に向かって一歩踏み出した。

(あぁ…ダメだ…)

そう思って諦めかけたときに、マモンが急に後ろを振り返った。

そこにはラルフがいつの間にかマモンに肉薄していた。

ラルフの体はこれまでの何倍も濃いオーラが纏われている。

『ギャンッギャンッ』

マモンの大剣に拳がぶつかって、激しい金属音が鳴り響いた。

「むっ、速いっ」

ラルフの拳を大剣の腹で受けていたマモンに先ほどまでの余裕がなくなる。

「ぬおっ」

ラルフの拳に力負けしたマモンの態勢が崩れる。ラルフはその隙を逃がさなかった。

「うおおおおっ」

ラルフの雄叫びとともに渾身の蹴りがマモンの頭を捉えた。

『ドゴオッ』

マモンの巨体が地面に叩きつけられる。

「ぐあっ」

マモンが苦悶の声を上げる。

(すごい…ラルフ…)

僕は荒い息を吐きながら呆然と戦いの行方を眺めていることしかできなかった。

しかし、潤んだ視界の中で、圧倒していたはずのラルフが激しい息遣いのまま倒れていく。

「ぐうっ、よくも…?」

マモンが素早く起き上がってラルフを見る。ラルフは起き上がることなく倒れたままだった。

「…む…ククク、闘気を使い切ったか。どうやら意識もないようだな」

そう言って落ちていた大剣を掴んでゆっくりとラルフに近づく。

「まずはお前をいただこう。死してオレのモノになるがいい」

(ああ…ラルフ…逃げてっ)

僕の願いもむなしくラルフは身動きひとつしない。倒れたラルフの上でマモンが大剣を振り上げた。

(ああっ…ラルフが…)

自分の状態が恨めしい。

(僕がもっと強かったら…)

「葵、ラルフ君、よくやった」

その時、ジルの声が聞こえ、突然視界が真っ暗になった。

(うわっ)

真っ暗な空間。

(何っ?何が起こってるの?)

ポツポツポツと火が灯る。薄明かりの中でジルが僕の前に立っているのが見えた。

「むうっ、今度は何だ?」

マモンが大剣を振り上げたまま周りを見渡す。

ジルの手が闇の中から真っ黒な剣を引き抜いて無造作にマモンのもとに向かう。

「何かと思えば、単なる目くらましか。つまらんな」

そう言ってマモンがゆっくりと近づくジルを見た。そして大剣を横に一閃、ジルの体が腰で両断される。

「たわいもな…うっ」

嘲笑いかけたマモンの声が驚愕に変わる。

「なんだとおっ」

その腹にはジルの持っていた闇の剣が突き刺さっていたのだった。

「もう一本」

そう言ってジルが振る闇の剣に対してマモンが手を出して防ごうとした。

『ブシュッ』

手首が落ち、一瞬後に手首から血が激しく噴き出した。

「浅かったか」

「ぐあああああっ」

マモンが苦悶の声を上げる。

「ぐぁぁっ、よくも…やってくれたな…そうか…お前…ヴァンパイアだったのかっ」

そう言うと口から激しい炎を吹いた。

(躱せないっ)

思わず僕は身構える。

目の前の空間を埋め尽くす程の炎だったが、一瞬でそれが消える。

(あれ?)

「炎は私の闇に吸収された、お前の攻撃はこの場では全て無意味。…ところで死ぬ前に一つ確認しておきたい。お前がラウルを殺ったのか?」

ジルの声が冷たく響く。

「ぬう…はあ、はあ、はあ、ん?ヴァンパイアが人のことを気にするのか?ぐっ、はあ、はあ…」

苦しそうに腕を抱えたマモンが、唇の端を持ち上げて、嘲るようにジルを見下ろした。

「ぐっ、はあ、はあ、、圧倒的な力の差で…心がだんだん心が折れていく人間を見るのは…何度味わっても気持ちいいものだぞ。クククク」

ジルの無表情だった顔が一瞬歪んだように見えた。

「もういい、死ね」

ジルが一言呟くと、マモンの周りの闇から夥しい数の剣が生まれてマモンを囲む。そして、あっと言う間も無くマモンのいた場所は針山のように剣が突き刺さっていた。

(やったの…?)

「チッ」

ジルの舌打ちと上を見上げる仕草。

ドーム状の空間の天井が破壊されて青い空の下にマモンが見える。

「お前達、覚えておくがいいっ、今度会うときは3人ともオレのものにするからな」

そう言って飛び去った。

(助かった…の?)

そう思って安心すると、急激に体の感度が上がって倒れそうになった僕をジルが抱きとめた。

「んあっ」
2014/10/29

作戦失敗

ロゴスを出て二日目の午後、僕らは合流地点から数キロ手前で馬車を降りた。

荷物を下ろすと思い思いに伸びをしたりストレッチをして体をほぐす。

「さあ、ここからは歩きだ。1キロほど歩いたら本部組との合流地点だ」

そう言ってレオンさんが馬車の屋根に縛りつけていた白い布を降ろす。

「あれ?レオンさんって武器を使わないんじゃ?」

「ああ、お前らは知らないんだったな。もともと俺の武器はこれなんだが、これを振り回すと周りの仲間まで傷つけちまうんで、パーティで戦う時は使わねぇようにしてるのさ」

白い布を外すと無骨な鞘に収まった巨大な剣が現れた。

(…僕の体くらいあるけど…こんなの使えるの?)

「だが流石に今回は…な」

そう言って両手で持った剣を軽く振る。

僕の顔を剣圧が襲った。

「ぶわっ、凄いですね」

僕の声が聞こえていないのか、レオンさんはじっと剣を見つめていた。


◇◇◇◇◇


空は晴れて小春日和のせいで、皆、早々にコートを脱いで歩く。僕もコートと帽子を脱いで、暑かったので髪を一つにくくってポニーテールにした。

「「はぁ、はぁ」」

マリーとジェシカは普段体を動かさないからか既に息が上がっている。

「マリー、大丈夫?もう少しだから頑張って」

僕は少し遅れ気味のマリーの横に付く。

「ありがとう。大丈夫、私、頑張るから」

そう言って微笑むと、まるで花が咲いたような明るい笑顔だった。

「おい、もうすぐそこだ」

レオンさんが遅れがちな僕らのところに来て教えてくれた。

大きく道が曲がっていて、曲がった先のちょっとした広場に四人ほどの人影が見えた。

「おう、レオンっ、早かったな」

そういうのはフルプレートに槍と斧の合体したような武器、ハルバードだっけ?を持った騎士のような人だった。

「ああ、オヤジも来たのか」

僕らはアトラス組の人たちを紹介してもらう。

「まず、このオヤジがロレンツォって言って、Sクラスハンターで、ギルドの現在代表様だ」

(偉い人なんだ)

「んなこと言っておだてても何にも出ねぇぞ。まぁ、儂は厄介者のじじいだからここにとばされたってわけだ」

「そんな歳でもないだろうよ。お前ら、このオヤジはこれでもラウル将軍とパーティを組んでた伝説級のハンターなんだぜ」

さらに、ローブを着た銀髪を長く伸ばした魔術師の男ヘルマン、年齢がよくわからないけど妖艶な雰囲気を漂わせる魔術師の女性カミラ。ごつい斧を持った筋肉ムキムキのおじさんのダールマン。もう一人は今斥候に出ているらしい狩人のヨアヒム。

「おいおい、アトラス組はサポートばっかりじゃねえか」

レオンさんが突っ込む。

「そりゃそうだろ。こういうのは未来のある若い奴らより、儂みたいなロートルのがいいんだよ。…ってお前んとこは皆えらい若いな」

「こいつらはうちの奥の手だ。うちに入って1年でAランクに入った逸材だぜ」

「おおっ、儂らが取り逃がしたヴァンパイアをやったっていう若手かっ。よろしくなっ。…だが、レオンよ、ウィリアム、アンナ、アーヴァイン、それにミオは連れてこなかったんだな」

「ああ、そもそもミオはどこにいるか分からんし、あいつらはラウル将軍と面識があるからな。私情は戦いではいらん」

「よく言うぜ、お前こそ私情挟むなよ」

「オヤジこそな」

それからレオンさんが今度はこちらを紹介した後、魔術組と戦闘組に分かれて作戦会議が行われる。

既に作戦は出来ていたので、僕らはそれを聴くだけだ。

「いいか、儂らの仕事は相手の将を倒すことだ。それ以外は無視していい。雑魚どもは王国軍と貴族の私兵が雑魚どもを殲滅する手はずになっている」

「ほう、よく貴族どもが私兵を使う許可を出したな」

レオンさんは違うところに感心している。

「ああ、どうも変だから探ってみたら、レヴァインって公爵が自ら言い出して貴族たちが纏まったみたいだ」

「ふーん。自分達の子供の命のためなら私兵も出すってか」

レオンさんが皮肉を言う。

「まあ、とにかく儂らは突っ込んでどんっ、で終わりだ。魔術師組がサポートしてくれるが、ポイントはどれだけ早く、見つからずに敵将までたどり着けるかだな。作戦開始は一時間後だ」

「分かった。お前らも分かったか?アオイ、ラルフ、ジルは三人セットで行け。何度も言うがやばかったら逃げろ」

レオンさんが僕らを見る。

「はい」


◇◇◇◇◇


しかし、作戦開始30分前に斥候から帰ってきたヨアヒムさんの思わぬ情報により、僕らの作戦に不安が生じる。

「ラウル将軍がいたんだっ」

「何言ってやがんだっ、そんなわけねぇだろっ」

ロレンツォさんが叱責する。

「いや、オヤジ、本当なんだってっ、相手の将のいるはずの天幕の外に立っていたんだよ」

「そんな馬鹿なことがあるかっ」

「いや、見間違うはずがねえよ。何度も見直したんだ」

言い争いが続く中、時間ばかりが過ぎていく。魔術隊はダールマンの護衛のもと、既に先行している。

「くそっ、時間だっ、行くしかねぇっ。ヨアヒムは魔術隊に合流しろっ、行くぞっ」

そう言って僕らは足音を消しつつ敵の真っ只中に侵入していった。

「ふぅ…ふぅ…」

静かに息を吐いて歩く。

平原と聞いていたけど、背の高い枯れ草が遮蔽物となって僕らを隠してくれたため、一気に敵将のいる天幕の裏に抜けることができた。

(なんだかイメージと違うな。こんな簡単に裏を取られるような敵将にラウル将軍は負けたのかな?)

(「ねぇ、村正、変じゃない?」)

(「うむ。主殿の言うとおりどうもおかしいの」)

(「罠じゃなければいいけど」)

「うぉっ、確かにあれはラウル将軍じゃねぇか、…ヨアヒムの言ったとおりだな…だが、どういうことだ?あいつは何をしてんだ?」

「どうする?オヤジ」

「どちらにせよラウルの奴も儂らが近づけば気づくだろうよ、とにかくラウルと合流してから考えるしかないな」

「よし、魔術師たちに合図だ」

ロレンツォさんが後ろを振り向いて魔術師に手を振る。向こうには目のいいヨアヒムさんがいるからしっかり見えているはずだ。

『ドグォーン』

合図から数秒後、何の前触れもなく激しい爆発音と地鳴りがした。

僕らが狙っている天幕とは逆の方で激しい炎が立ち昇る。

魔物たちが動揺して、天幕近くの一団が走っていくのが見えた。さらに爆発音が続く。

「今だっ」

一番前をロレンツォさん、その後ろをレオンさん、そして僕ら3人が続いた。

天幕までの距離は50メートルほど、10秒もかからず天幕の裏に着く、その前にラウル将軍が立っている。

「ラウルっ、無事だっ…ぬおっ」

言いかけたロレンツォさんの動きが止まる。

(何があったの?)

ラウル将軍の持つ剣に血がついている。

(まさか…)

ロレンツォさんが膝をつく。続いてラウル将軍の剣がロレンツォさんに降り下ろされた。

『ギンッ』

間一髪、レオンさんの剣がラウル将軍の剣筋を止めた。

「ロレンツォさんっ」

「アオイっ、ここはいいっ、お前は敵将に向かえっ」

僕が駆け寄ろうとするのをレオンさんが止める。

「オヤジは鎧の隙間を切られただけだっ、傷は深くないっ」

ロレンツォさんをちらっと見ると荒い息をしているが確かに命に別状はなさそうだった。

「ラルフっ、ジルっ、行くよっ」

そう言って走る。

天幕を十字に切って中に僕は飛び込んだ。
2014/10/28

学院内に蠢く闇

王立学院アヴニール。ラーカム平原の真ん中に建っており、その姿は一見すると学校とは思えない。その高い城壁から初めて見る人は十中八九砦か城だと思うだろう。実際にラーカム平原の魔物が攻撃してくる事も珍しいことではなかった。

さて、魔物の軍勢に学院が囲まれた朝、講堂に集められた学生たちは、ガビーノ学院長から状況を説明された。王宮内の混乱とは対照的に、少しざわついたものの、ラウル将軍については伏せていたこともありすぐに落ち着きを取り戻した。

今回に限らず、魔物に攻撃された経験があり、その全てをはね返してきた事も生徒にとっては不安を払拭する理由の一つだったのかもしれない。実は一般の生徒たちは知らないことだが、学院では、大規模な魔術道具によって常に敷地内における侵入者のチェックも行っているため、城壁を簡単に越えられるほどの戦力でも持ってこないことには落ちる心配は皆無と言える。

さらにアヴニールでは文官となるための授業もあれば、戦闘の授業もある。そのために講師として高名な魔術師や騎士、学生とはいえ、才能豊かな魔術師や騎士見習いがいることも不安を消すことに役に立った。


◇◇◇◇◇


ブリジット・レンナーは五大公家の次女、読書が好きでアヴニールに入学した。濃い茶色の髪に同じ色の瞳。眼鏡をかけて紺色のブレザーの制服にネクタイまできっちりと締めたその姿は真面目な才女そのものだった。

「あら?ブリジットさん、どちらへ?」

そのブリジットにエルザとモニカが廊下で偶然出くわした。エルザは今年16歳、学院に入って4年目となる。モニカは20歳で本来は卒業をしている歳だが、王女の護衛としてそのまま学院内に残っていた。

「いえ、ちょっと…」

それだけ言うとブリジットは再び歩き出す。

「ねぇ、なんだかブリジットさん変じゃなかった?」

エルザが後ろを歩くモニカを振り返った。

「ええ、そうですね…心ここにあらずというか」

「うーん。やっぱり会長だから、今回のことで疲れてるのかな?」

「そうですね。学生自治会も今回のことでは忙しそうですから」

授業は全て休講のため、二人はブリジットを気にしつつも寮の自室を目指した。

一方、ブリジットはそのまま学院長室の前でノックする。

「…入れ」

声がしてドアを開く。

中には執務用の大きなデスクや来客用のソファなどが並んでいる。

来客用のソファにガビーノ学院長が座って本を読んでいた。

入口で立ち止まったブリジットの顔から血の気が引く。

「なっ、えっ?…学院長?」

(私はたしか自治会室で今回のことをまとめていたはずなのに…どうしてこんなところに来たの?)

「あの…すみません、何か勘違いしていたようです。失礼いたします」

「そうか、分かった」

学院長はそう言って本に視線を戻す。

「どうしたのかね?」

しばらくしてブリジットが去らないことで再び学院長が声をかけた。

「足が…足が動かないんです。帰りたいのに…どうしてっ?」

ガビーノの不審そうな表情に顔を真っ青にしてブリジットが答える。

「どうしても何も、そもそも君から来たんじゃないか、レンナー君」

ガビーノは細い目をさらに細めてニタニタと笑った。だらしなく太った体を無理やり詰め込んだスーツがパンパンになっている。講堂のように広いところで見ると威厳があるが、こうやって狭いところにいるとだらしなく太った体がただただ汚らしい。

「さあ、こっちに来なさい。用があったのだろう?」

ブリジットの震える脚が一歩一歩ソファに向かう。

(どうしてぇっ、体が勝手に動くなんてっ)

眼鏡の奥のアーモンド型の大きな瞳に涙が浮かぶ。

「いっ、いやぁっ」

「いや?何を言っているんだ?歩いているのは君だぞ」

ガビーノの前まで来たブリジットは涙で視界がぼやけて見えた。

濁った目がブリジットの制服を持ち上げている胸から、膝上丈のスカートに包まれたお尻、ニーソックスに包まれた足を順番に見つめた。

「さて、どうしたのかな?」

(いやらしい…なんて不潔な…)

ところが、思いとは裏腹にブリジットの体はガビーノの言葉に応えるように制服の上着のボタンに指を掛けた。

「いやっ、どうしてっ…」

涙を流しながらブリジット自身がボタンを外し始める。

『ぷつっ、ぷつっ』とブリジットをあざ笑うようにボタンが外れていく。その小さな音が静かな室内に響いた。上着を脱ぐと、ベストのボタンも外す。さらにブラウスのボタンを半ばまで外したところでガビーノがその手を止める。

「そこまででいい」

ブラウスをはだけて、白いブラジャーが見えている。着痩せするタイプなのか大きな膨らみがレースのカップの中に苦しそうに収まっていた。首にかかった赤いネクタイが胸の谷間にかかり、白い肌や下着の上で否応なく存在を強調する。

「座りなさい」

そう言われてブリジットはガビーノの膝の間に入るように床の絨毯に座った。

(どうして?おかしいわっ)

俯くブリジットの手が伸びてガビーノの股間に触れる。

「あっ」

涙を流しながら助けを求めてガビーノを見上げる。

ニヤニヤと細めた目と視線を交わすが、ガビーノは助けてくれるような素振り一つ見せない。

(学院長は私が自分の意志でやってると思ってるんだわ、誤解を解かないと…)

「あっ、あのっ、学院長、これは違うのです」

自分の手が男の股間を撫で回しているという状況に顔を真っ赤にしてブリジットはなんとか言葉を吐き出した。

「はぁあっ」

(どうして…?体が熱い…)

突然下腹の奥がキュキュっと動いて、気を抜くと熱がある時のように頭がぼぉっとしてくる。

「何が違うのかね?レンナー君、息が荒いようだが?」

「そんなことっ、ないですっ。これは…わたくしではなく…」

ブリジットが誤解を解こうと話す間もその指は学院長の股間を撫で続ける。

「何を言っているんだ?学院長を誘惑するとは…レンナー家の名が傷つくぞ」

(あっ…そうよっ。私はレンナー家の娘…こんなことに屈してはいけない)

ところが、レンナー家の名前が出て気を持ち直したブリジットに更なる恥辱が与えられた。

「しかし君の体は正直なようだねえ?」

(えっ?)

ブリジットの手がいつの間にかガビーノのベルトを外し、ズボンのボタンを外していた。

反射的にガビーノを見ると汚い歯を見せて笑っている。

(まさか…)

ブリジットの白く美しい手がズボンの中に入っていく。パンツ越しに熱く硬いものを感じた。

「おおっ」

ガビーノの口から気持ちの悪い喘ぎ声が出る。

(まさか…学院長は全て知っているの?)

ついにブリジットは学院長がこの状況を作ったことに気がついた。

しかし、その間も指は汚らわしく硬くなった肉棒を撫でさすり、ついに直接触ろうとしている。

「ちょっ、ちょっとこれ以上はやめなさいっ、ガビーノ、こんなことをしてどうなるか分かってるのっ?私を誰だと思っているのっ?」

ブリジットは大きな声を上げた。

レンナー家の名前を出せば止めるはず。しかし、その考えも甘かった。

「そうですねえ、五大公家の一つ、レンナー家を敵に回したら殺されるくらいでは済まないでしょうな」

(分かってるのに、この余裕は…?)

「しかし、今、私は何もしておりませんよ。すべてあなたが勝手にされていることだ」

「くっ、それでもっ、私が一言お祖父様に言えばっ」

「ひひひ、お祖父様に言えるなら言えばいい」

ガビーノの目が一瞬光る。

(まさか…私をどうするつもり…?)

ガビーノの得体の知れない余裕にゾッとして、ブリジットの心に絶望が生まれる。

さらに追い打ちをかけるように彼女の目の前では指が手馴れたように動いて、ガビーノのパンツの中から大きな肉棒を取り出した。

(どうして…?)

「おいっ、レンナー君、やめたまえ」

わざとらしく言ってガビーノが「ひひひ」と笑う。

恥ずかしさに赤く染まった顔でブリジットはガビーノを睨むが、ガビーノにとってはそれすら悦楽のようだった。

(こんなに大きいものなの?)

初めて男性器を見るブリジットが驚くのも仕方ないことだった。ガビーノの肉棒は通常の男性の性器を遥かに超える大きさだった。

しかし、怯えるブリジットの意志とは別に、彼女の顔が血管の浮いた汚い肉棒に近づき、顔を横に向けると根元に舌を這わせる。

(いやぁっ、どうしてこんないやらしいことをっ)

「おおっ、やめなさいっ」

ガビーノの嬉しそうな声。

(気持ち悪いぃっ、臭いよぉっ、いやぁっ)

ブリジットの舌は裏スジを亀頭まで繰り返し舐める。亀頭からはだらだらと先走り液が出てきた。それを舐めとり、嚥下するにつれ、ブリジットの頭には靄(もや)がかかったように思考が妨げられていった。

「はあ、はあ」

一度顔を離して自分のしゃぶる肉棒を見つめる。

固く、熱い竿の周囲には太い血管が幾重にも絡んで、そこだけ見ると醜悪な魔物のようにすら見える。

熱い吐息を吐きながらじっと見つめるその先には肉棒がヒクヒクと動いて、先走り液が滲み出し、その先を要求してきた。

(あ…舐めないと…)

最初は体が勝手に動いていたはずが、今では自分の意志のようにすら感じ始める。ブリジットは自分のスカートの中が蒸れてきているのに気がついていた。

さらに深く咥えようとブリジットが大きく口を開いたところで、動きが止まった。

「んはぁ…?」

ブリジットが口を開けたまま止まる。

(体が…動かない…)

「せっかくだから、その大きな胸を使ってもらおう」

(…胸を使う?)

ブリジットの朦朧とした意識の中で疑問が浮かんだが、再び体が勝手に動きだした。まずはブラジャーを外すと白い大きな胸が弾けるように飛び出す。

そしてブリジットはガビーノが見ているのを意識しながら自分の胸に唾を垂らす。

ネットリとした唾が胸の谷間に落ちる。ガビーノの視線を感じながら両胸を揉むようにして擦り合わせると体を乗り出して肉棒を挟んだ。

「うおっ、いいぞっ」

ピンク色の乳首が太ももに当たる感触も心地よく、ガビーノが思わず声を上げた。

ブリジットの方も胸からくる快感に太ももの奥が熱く潤う。

『ちゅぷ、ちゅぷ』

「はぁ、はぁ」

胸を自分で揉んでいるような錯覚で体が熱くなる。挟み込んだ肉棒の熱さが伝染したようにブリジットの胸の動悸が激しくなった。

「あ…」

挟んだ間から亀頭が飛び出していことに気づいて自ら咥えこむ。太股を擦り合わせる度に、初めての快感に心が押し流されそうになった。

「いいぞ…イキそうだ。レンナー君、どこに欲しいんだ?」

「あのっ…えっと…」

ブリジットは言いよどむ。

これから起こることを想像していたブリジットの女の部分は既に粘液で溢れていた。

「さあ、言いなさい」

(これは強制されてるから…、私の意志じゃないのよ…)

「あの、ここに…」

ブリジットは自分のスカートを見て言ったが、ガビーノに笑われる。

「ここではわからんよ、ううっ、イキそうだっ、もう口に出してしまおうか」

「いやっ、ガビーノ様お願いしますっ、私の…中にお願いします」

ブリジットが恥ずかしさに耐えてなんとか口に出した。

「わかった、では出すぞっ」

そう言った瞬間ブリジットは顔を押さえつけられ、肉棒が喉の奥まで突っ込まれた。

「うぇっ」

嘔吐しそうになった瞬間喉の奥に激しく熱い粘液がぶつかった。

「おぇっ…う…げほっ、げほっ」

思わず肉棒を吐き出した。

目の前で亀頭が膨らみ、激しい射精が今度はブリジットの顔を襲う。

口元や眼鏡が白いザーメンまみれになった。

「全部飲むんだ」

「げほ、げほっ、ん…ごくん…ごくん」

ブリジットは涙を流しながら全て飲み干した。

(…どうして?)

「レンナー君の希望通り口の『中に』出したぞ」

「ち、違うんです…あの…その…」

ブリジットの耳元でガビーノが何かを囁いた。

「あっ、あの…ガビーノ様…あの、次は私のオマ…オマンコで射精してください」

学院長に教えられた言葉を唇が紡ぐ。

「いいだろう、では続きはこちらでしよう」

そう言ってガビーノが立ち上がって本棚を押すと地下に向かう階段が現れた。

ブリジットも立ち上がるとガビーノに肩を抱かれ、エスコートされるように闇に向かう階段に消えていった。
2014/10/27

前線へ

深夜の緊急の呼び出し。

僕らは慌てて着替えるとギルドの支部長室に向かった。間もなく、深夜の支部長室にはAランク、Bランクハンターが集まった。

「アヴニールが現在魔物に襲われている」

レオンさんの一言目で僕ら以外のメンバーが息を呑む。

(アヴニール?)

「ねぇ、ラルフ知ってる?」

「知らんな」

「ジルは?」

「私も名前をどこかで聞いたことくらいしかないな」

こそこそ喋っていると、レオンさんがため息をついた。

「お前ら、ちょっとはこの国のことを知っとけよ。あのな、アヴニールっていうのは貴族の子供や頭のいい平民が学ぶ王立の学校だ。ああ、この間の姫さんも通っているはずだぞ」

「えっ、エルザ姫も…?」

そう言われてようやく事態の重さに思い至る。

「まあ、いい。とりあえず、これまでの経緯を説明するぞ」

レオンさんはこれまでの状況を説明し始めた。

エルザの安否が気になって僕は説明が頭に入らないもののレオンさんの表情からとてもまずいことになっていることが分かる。

続いて、ラウル将軍戦死の言葉が出た瞬間、場が凍りついた。

「まさか…」「ラウル将軍が…」

口々に驚きの声。

(ラウル将軍って…この間ギルドに来ていた?)

ちらっとジルの顔を伺うが、表情を変えず話を聞いていた。

「若いメンバーは知らんかもしれんが、ラウル将軍は元S級ハンターだ。俺やウィリアムくらいの歳の奴は多かれ少なかれ世話になったことがある。気さくな人で、非番の日は王子を連れて街に出ることもよくあったし、つい先月も顔を出してくれたのは知っている奴も多いだろう。休暇の時にはこの街にも来てくれたことが何度もあったからアンナやアーバインなんかは世話になったことがあるよな」

(なるほど。S級ってことはラウル将軍もかなり強いってことになるよね。その人がやられたってことは…)

「いいか、今回の討伐依頼はラウル将軍すらやられる相手だけに命がけになる」

『ゴクリ』誰かが唾を飲み込む音が聞こえた。

一拍おいてレオンさんの口から討伐メンバーが発表された。

「うちの支部からは俺とマリー、ジェシカ、それに葵のパーティが向かうこととする」

えっ?という空気が広がった。

(あれ?僕たち?)

「私も行かせてくださいっ」

アンナさんが手を挙げる。目が赤い。

「ダメだ。葵のパーティメンバーはこれまで皆の予想をはるかに超えた活躍を見せてきた。今やこの支部での最高の戦力と言える。俺はそれに賭けたいと思う。いいか、もし、俺が死んだらお前とウィリアム、それにアーバインでこの支部を頼む」

「あのお」

ジェシカが手を挙げる。

「ウチらが行く理由ってあるんですか?」

「お前らは王都のギルドの魔術師たちと一緒に俺たちの援護をしてもらう」

(ということは、僕らが実質戦闘部隊かな?)

そして、真剣な目でレオンさんがこちらを見つめた。

「そういうわけで葵たちは俺と一緒に闘ってもらうことになる。アトラスのハンターとの合同作戦になるから、相手のボスと戦うかは未定だが…。お前らはラウル将軍のことも知らんだろうし、ここに来て日も浅い。死ぬかもしれんから、この依頼は断ってもいいぞ」

「大丈夫です」

僕の返事にレオンさんがそれ以上何も言わず頷いた。

「では明日の早朝に出発する」

こうして僕らは王都の動乱に巻き込まれることとなった。


◆◆◆◆◆


「忌々しいっ、あの青二才めっ」

ウォルトン大公は久しぶりに屋敷に帰るなり毒づく。彼を苛立たせているのはレヴァイン公爵だった。

王都での政治において五大公は持ち回りで宰相の役職に就く。宰相は最も権力を持つため、五大公の地位は他の貴族を遥かに超える。

ところが、今回の事件において、大公たる己よりもレヴァイン公爵が目立った働きを見せたのだ。それがウォルトン大公の誇りを傷つけた。

(今回のハンターギルドの件が、もし失敗に終わろうものなら、目にものみせてくれるっ)

己の孫が学院にいることを一時とは言え忘れるほどウォルトン大公の怒りは激しいものだった。

「あの…旦那様…」

メイドの一人がウォルトン卿に恐る恐る声をかけた。

「何だっ?」

「あの…旦那様がお留守の間に贈り物が届いたのですが…」


◆◆◆◆◆


「いいか、今回は時間との勝負でもある。事件が起こったのが既に三日前、さらに、現場に着くまで二日はかかる。アヴニールはもって一週間だ。つまり二日しか時間がない。向こうについたらアトラス組のギルドマスターに従ってくれ」

「分かりました」

今回は時間がないということで馬ではなく八本の脚を持つ聖獣スレイプニルに引かれた馬車での移動だ。この街の代官が出してくれたらしい。これを使うことで通常四日かかる道を二日に短縮できるのだ。

春先とは言え、まだまだ寒いので僕はショートパンツにマギーさんの自信作の太ももまであるニーソックス、長袖のTシャツとその上にセーター、ニットキャップとブーツといういつもの格好。ラルフもシャツにジャケット、ズボンだけがカーゴパンツ。ジルは完全に普段と同じスーツだ。

六人乗りの馬車だけど、さすがは代官仕様で、広々としているし、馬車の中は暖かいので春用のコートを脱いでそれぞれ自由にしている。

最近ラルフは人間の体に関する本を読んでいる。ちらっと見ると人の体の絵に点が書き込まれていたり、たくさんの線が体に書かれている。

「ねぇ、これって何?」

暇だったから聞いてみたら、体の経絡が図示されているとラルフが教えてくれる…だけどちょっと難しくて分からない。

「ほう。ラルフ君は勉強家だな。闘気術に加えて点穴の勉強までしているのか」

横からジルが話に加わる。

「点穴?」

また知らない言葉だ。

「うむ。私は使えないが、体内には気を通す経路があって、その出口である経絡を押さえることで人の体に様々な効果を生み出すことができるという話だな」

さらにレオンさんが加わった。

「おっ、闘気の話か?闘気を纏ってりゃあヤワな剣なんざ通さないぜ」

珍しくラルフが顔を上げて二人の話を聞き出したことで男三人、話に花を咲かせ始めた。特に、レオンさんはラルフと同じような戦い方をする分か、闘気について説明に熱が入っていた。

手持ち無沙汰になった僕は村正に話しかけた。

(「ねぇ、僕は強くなってるのかな?」)

(「もちろんじゃ。2年も経たずしてこれほどの力を手に入れた者はこれまでおらん」)

(「だといいんだけど」)

(「妾を顕現できるまでは、まだもう少しかかるが、既にいいところまで来ておるのだぞ」)

(「本当に?」)

(「そうじゃ。まだ妾の力の本質をちょっと齧った程度じゃが…」)

(「今度の戦いで成長できるかな?」)

(「なんじゃ、主殿はそんな理由で参加したのかえ」)

(「エルザがアヴニールにいるっていうのも理由だけど…前に僕は戦いの中で成長するって村正が言ったでしょ?」)

(「むぅ。そういえばそうじゃったな。しかし、主殿、気をつけてくだされよ。命あってのことじゃからな」)

(「うん。相当の強敵みたいだからね」)

(「心して戦うのじゃぞ。妾は主殿を気に入っておるのでな」)

(「ありがとう、頑張るよ」)

会話を終えて頭を上げると前に座っていたマリーさんと目があった。

「あっ、あのぉ…」

「えっ、僕?」

マリーさんが話しかけてきた。馬車に乗ってすぐに僕から話しかけたんだけど、二人のつっけんどんな態度に嫌われていると思っていたからちょっと驚いた。

「はい…あのぉ…お話していいですか?」

マリーさんはどうやらジルと僕との関係が気になっていたらしい。

ジェシカさんも本を読むふりしながら耳をそばだてている。だって、マリーさんと僕が話している間、ぜんぜんページがめくられないんだもん。

僕らが恋人同士ではないことを説明していると、ようやく二人の僕を見る目が変わってきた。

「ウチらが誤解してたわ。でもさ、そんな露出度の高い服ばっかり着てたら、ジル様やラルフ様に色目使ってるって思われても仕方ないわよ」

ジェシカさんも話しかけてくれた。

「でも、長いスカートとかだと戦いにくいから」

「ならズボンにすればいいじゃない」

「うん。でも、僕が服を買ってるお店の人がズボンは買わせてくれないんだ」

そう言うと少し不思議そうな顔をしたジェシカさんとマリーさんが顔を見合わせたあと

「それってひょっとしてマギーさんのお店?」

マリーさんが恐る恐る聞いてきた。

「うん」

ジェシカさんが「ああー」と天を仰ぐ。

「あなたも捕まってしまったのね。マギーさんの店はセンスもいいし値段もお手頃でいいんだけど、気に入った子にはあの人の好きな服ばかり買わせるからね。ウチらも最初そうだったのよっ」

その後もマリーさんとジェシカさんのパーティについて、さらに美味しいお菓子の店の話で盛り上がる。

女の子ふたりは緊張からか口数が多く、おかげで普段より沢山話をすることができて、お互いに名前で呼び合えるようになった。
2014/10/26

アヴニール強襲

王女が来てから、さらに2ヶ月ほど経って、冬の寒さも和らぎ野山が春めいてきた頃、一人の騎士の報告で王都アトラスの王宮に激震が走った。

緊急事態ゆえに王都にいた貴族が王宮に全員集められた。

「そんな馬鹿なっ?」「いや、あそこは第一近衛兵団が守っているはずであろうっ?まさか第一近衛兵団が破られたというのかっ?」

騎士の報告を聞き、居並ぶ貴族たちが声を荒げて口から唾を飛ばす。

「第一近衛兵団は壊滅。ラウル将軍は戦死…致しましたっ」

騎士が震える声で報告した。

「まさかっ。あのラウル将軍がやられるはずがなかろうっ、王の牙と呼ばれた男だぞっ」

五大公の一人で、現在宰相を勤めるウォルトン卿のまるで叱責するような口調に、報告した騎士が真っ青な顔になって俯く。居並ぶ貴族たちが口々に不安を口にして再びざわめく王の謁見の間。

「皆様方、落ち着かれよ」

その時、低い声が場に響き渡った。

その声の主は浅黒い肌に顎鬚をたくわえた壮年のレヴァイン公爵だった。

「レヴァイン卿、なにを悠長なことを言っておるのだっ」「我が跡取りがあそこにはおるのだぞっ」「早く手を打たねば、何かあったとき誰が責任を取るというのかっ」

なおも言い募る貴族たちにレヴァイン卿が一喝した。

「皆様方の御子息、御息女、親類縁者が学院にいることは知っておるっ。私の娘も学院におるのだっ」

興奮した貴族達が押し黙ったところで、再び落ち着いた声でレヴァイン卿が話し始める。

「我々がここで慌てたところで状況は変わりませぬ。王が病に倒れられている今、我々と王子でこの難局を打開せねばならぬのですぞ」

空席になっている玉座を見上げてレヴァインが集まった貴族を見回し、穏やかに語りかけた。王はひと月ほど前から謎の病に倒れていた。

「そ、そうであったな。むっ、王子はどこにいらっしゃるのだ?」

一人の貴族がそう言って、王子付きのメイドが呼ばれたが、王子は外出中で王宮内にはいないとのことだった。

「くっ、この大切な時に…」「全く…先が思いやられるわっ」

貴族たちの様子を見ていたレヴァイン卿が顎鬚を触りながら、報告の騎士を見た。

「王子のことはひとまず置いておくことにして、今は緊急事態ゆえ、先に話を聞こうではないか。王子にはのちのち報告すればよかろう。さて、…そう言えば名前を聞いていなかったな」

「はっ、ラウル将軍の従者、アントニオと申します」

「うむ。ではアントニオ、最初から全て話してくれ」


◇◇◇◇◇


王立学院アヴニール。

それはアトランティスの王都アトラスの近郊のエリート養成のための学院。早ければ12歳から入学して18歳までの男女が学んでいる。

多数の貴族や王族、さらに、実力次第では平民でも入学することができ、ここを優秀な成績で卒業したものは王国内での将来が約束され、輝かしい未来が待っている。

また、この学院は実力主義のために、それぞれの実家の権力が働かないよう王都から馬車で一日ほどの場所に建てられていた。さらに、学生は全員寮に入り、基本的には1年に2度の長期休暇を除くと、学院を出ることはできない。

しかし、同時に学院には高位の貴族の子弟が多く住むこともあり、何かが起こると重大な政治的問題へと発展しかねないため、常に二つの近衛兵団が交代で学院の敷地の外で護衛にあたっていた。

異変に気がついたのは深夜、眠っていた兵士たちだった。

地鳴りのような音が耳元で聞こえて目を覚ましたのだ。

「…ん?なんだ?」「どこから聞こえる?」「おいっ、うるさいぞっ」「ん?地面から何か聞こえるぞ」

そして、この音が近づく魔物たちの足音からくる地鳴りだと気がついたときには、かなり近くまで魔物の接近を許してしまっていた。

『カンッカンッカンッカンッ』

激しく鐘が叩かれて戦闘準備についた兵士達だったが、深夜で視界の悪い中、統率のとられた魔物たちの攻撃を前にして、一人、また一人と倒れていった。

「お前たち、ここを突破されれば王都までは目と鼻の先だっ、家族を守るためにもここで食い止めるのだっ」

他の軍であれば総崩れになってもおかしくない状況を持ちこたえさせていたのはラウル将軍と、彼に日頃から鍛えられてきた兵士たちだった。

戦場は兵が投げた松明が枯れ草に燃え移り、遠目にも点々と赤く見える。

「アントニオ、夜明けまではあと何時間だ?」

ラウルは従者に確認をした。

「あっ、…残り…4時間ほどです」

アントニオは震える声で将軍に答えた。今にも恐怖で崩れ落ちそうなアントニオの体をなんとか立たせているのはラウル将軍という存在だけだった。

「左舷第三騎馬隊、全滅ですっ」「右舷第四歩兵隊、ダニ隊長戦死しましたっ」「左舷第二歩兵隊が押し込められています、救援要請ですっ」

その間にも新たな損害がどんどん報告され、ラウルがそれに対処していく。

(このままでは朝を迎える前に全滅するな)

ラウルは考える。

(なぜ、魔物がこれほど統率されているのだ?奴らはどこから来たのか?もし、これほどの魔物の大量発生があれば斥候から連絡が来ていたはず。いや…考えても仕方ないことか…まずはこの状況をどうするかだな…)

「現在戦える隊はっ?」

ラウルが参謀であるエンリケに問う。

「えっ、あっ…第一近衛隊、第一騎馬隊、第四騎馬隊、第一歩兵隊、第二歩兵隊、第四歩兵隊…」

呆けていた参謀が慌てて答えた。

「うむ、このままでは朝までもつまい」

ラウルは自身の鍛え上げた最強の兵である近衛隊を前に作戦を告げた。

「我々第一近衛兵団はもともと王を守るために存在する。ここで奴らを止めねば、王都は陥落する。皆のもの、奴らの将を倒し、王を守るのだっ。我らが一点突破でこの魔物の軍を率いている将を倒すっ」

「「「「おうっ」」」」

ラウルの呼びかけに近衛隊が応える。

「行くぞっ」

ラウル将軍以下近衛隊90名の騎馬が戦場に飛び出す。

オークやゴブリンを蹴散らしながらラウル将軍が敵陣を切り裂いた。

「うおぉぉっ、将軍だっ、蹴散らしているぞ。まだいけるっ。皆突っ込めっっ」

将軍の姿を見た兵たちの士気は高まり、その声は全軍に広まる。再び兵たちの士気の高まりとともに魔物を押し返し始める。

(よしっ)

ラウルがそう思ったのも束の間、彼は自分の目を疑った。

炎で一帯が赤く染まる中、先を行った彼の信頼する近衛隊が全て無残にも肉塊に変わっていたのだった。

(このようなことが…)

「うう…ラウル…様…お逃げくださ…い…あれは…我々には…」

横で倒れていた兵がそう言って動かなくなった。

「お前たちだけを死なすわけにはいかんよ」

既に事切れた兵にそう言ってラウルは怯える馬を前に向けた。

「ククク…ラウル将軍か?」

一人の騎士の腹から腕が出ている。

「将軍…お逃げ…」

(人型…魔族か)

魔族が手を引き抜くと騎士が崩れ落ちた。

一見すると普通の人間だが、その目は赤く光り、頭からは羊のような角が生えている事から明らかに魔族であることが分かる。しかし不思議なことに魔族を前にしてラウル既視感を覚えていた。

(む…、この顔…どこかで…)

「ラウル将軍か?ここまで来るとはさすがと言っておこうか。」

「お前は…なぜ私を知っている?」

「王国一の剣の使い手だろう?ぜひ欲しかった駒だからな」

「何を馬鹿なっ」

「馬鹿ではない。ククク、では頂く事にするか」

その時、不意にラウルの脳裏に魔族の顔と記憶の中の一人の人間の顔が一致した。

「お前は…まさか?」

「ほう、私の顔を知っているとはな。そう言えばラウル将軍といえば、街にもよく出てくると聞いたことがある。やはりここで死んでもらうしかなくなったな」

「俺を舐めるなっ、死ぬのは貴様の方だっ」


◇◇◇◇◇


「むっ、それで?」

レヴァイン卿が報告を促す。

「ラウル将軍は敵将軍との戦いで戦死、その後、第一近衛兵団は総崩れとなりました」

「その敵将とは何だ?」

「そこまでは…私は王都への報告を任され遠目から見ることしか出来ず…」

報告するアントニオの口から嗚咽が漏れる。

「そうか。ラウル将軍は信頼するアントニオ殿だからこそ任せられたのだ。恥じる事も悔いる事もない」

レヴァインの言葉がアントニオの胸を打つ。

「もったいないお言葉でございます」

「しかし、総崩れになったわりに、王都に来ないのはどういうわけだ?」

「はい、その後敵はアヴニールを攻めており、現在アヴニールは籠城中です」

「なるほど…まだアヴニールは陥落しておらないのだな?」

「はっ」

貴族たちの間から安堵のため息が漏れた。労いの言葉を受けてアントニオは退出した。

「さて、あとどれくらい持つ?」

レヴァインが今度は後ろに控えていた官吏に向けて質問をした。

「食料の備蓄などから計算しますと、一週間程度、とのことです」

この言葉で再び場の緊張が高まった。

「今、動かせる兵はどれほどだっ?」

貴族の中から質問がとぶ。

「一週間以内にアヴニールに向かえる軍は休暇中の第一から第三連隊1500です」

「なんだとっ?第一軍団は何をしておるのだ?」

貴族の一人が官吏に食ってかかった。

「第一軍団は北の守りのため、第二軍団と第一師団は西で演習中、第二師団は東の森の大規模な魔物討伐に向かっており、今すぐ引き返しても間に合いません」

「ラウル将軍の近衛兵団1000で勝てないのであれば連隊1500だけでは勝てぬな」

「第二近衛兵団も向かわせてはどうだろう?」

貴族の一人がレヴァイン将軍の言葉を聞き提案する。

「それはいかん、第二近衛兵団は王を守る最後の砦だぞ」

別の貴族が反対する。

「この際、ハンターギルドに討伐依頼を出してみてはどうかな?」

レヴァイン卿の言葉に場が一瞬止まった。

「レヴァイン卿、冗談を言っておる場合ではないのだぞっ、あのような者共に何ができるというのだっ」「高額を請求されるだけで、成功するかどうかなどわからんのだぞっ」

「いや、レヴァイン卿のおっしゃることは一理あります」

反対意見が山のように出る中、一人の若い貴族がレヴァイン卿に同意した。

ここまで何も言わず状況を見てきたパーマー伯爵だった。

「若造が何を言うっ」

白髪の貴族が声を荒らげた。

しかし、年配の貴族の叱責にも似た声に動じることなく、年若いパーカー卿が落ちついた声で話す。

「このままではアヴニールが陥落するのは時間の問題。救援に行こうにも間に合わない。皆様方、大切なご子弟、ご息女がオークに蹂躙されてもよろしいのか?」

「ううっ」

鼻息の荒い貴族たちが黙り込む。

「何も、全滅させろというわけではなく、敵の将だけを倒させれば良いのではないでしょうか?そうすればあとは烏合の衆でしょう。連隊だけでも十分対処できるかと」

集まった貴族の中でも多くの者が頷いていた。

「それだけでは足りんな。私の私兵100を出そう」

レヴァイン卿が言い出すと我も我もと言い出し、結局貴族の私兵2000と連隊1500、総勢3500の軍が急遽編成された。

そして、その後直ぐにハンターギルドに緊急の依頼が届けられた。