管理人ほう

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イリスさんが帰ってから数日後、僕はついに王偉(ワンウェイ)さんとの会食と相なった。

「ここ…で間違いないよね?」

てっきり会食はレストランか何かで行われると思っていたので、指定された場所に着いた僕は思わず呟いた。

クリューソスの門の外、大きな煉瓦作りの建物が指定された場所だった。

大きな金属製の入り口が開いている。

「俺達まで招待してくれるとは、流石は大物、太っ腹だが…」

そう、会食の場に招待されたのは僕だけでない。ミハエル、ジャスミンさん、スージーさん、タマちゃん、オズワルドさん、もちろんハルとアメも同行を許された。

「でも、なんだか…警備が厳重、ね?」

ジャスミンさんにそう言われてみれば、確かに傭兵の数が多すぎる気もする。

「お嬢様、お気をつけ下さい。フードの男は魔王すら現世に呼び出すほどの者と聞きました。どのような力をもっているかも未知数です。そのような男と一緒にいたという王偉(ワンウェイ)も何を隠しているかわかりません」

ハルが僕にだけ聞こえるように囁く。

四角い真っ黒な金属の箱を眺めながら僕が頷いていると見計らったように特徴的なイントネーションの声が響いた。

「全員お揃いのようやな」

声は四角い箱のほうから聞こえて、カツンカツンと金属製の階段をこれまた特徴的な体格のワンさんが降りてきた。

「本日はお招きいただきありがとうございます」

僕らは口々に挨拶する。

「ええ、ええ、そんなん言わんでも。グランプリ受賞者のチームなんやから」

丸いサングラスで目は見えないけどニコニコ笑顔でワンさんが近くに来た。

「あの…この傭兵達の数は…」

ジャスミンさんが控えめに聞く。

「ああ、ジャスミンさんは流石やな。せや、実はな今年はこれで同盟都市を巡るんやけど、こないだから魔物がえらい増えたやろ?」

実はジャイアントフロッグの時にも聞いたんだけど、魔物が増えた時期は世界樹が石化した時期と重なる。何気に僕のせいでもあるから耳が痛い。

「同盟都市からも要請があってな、御披露目ついでに魔物退治もしたろう思てんねん」

「ああ、なるほど…」

ミハエルが頷いているのをワンさんがじっと見た。

「ミハエル、あんまりこれまでは話することもなかったけど、今回のお手並みはほんまに凄かったわ。普段人を見る商売してるワシがこんな逸材を見逃してたなんて、奴隷商の看板をおろさんとあかんな。ハハハ」

ミハエルは照れ臭そうに笑った。

「おっと…もうこないな時間か。よっしゃ、行こか」

こうして僕らは魔導列車に乗り込んだ。


◇◇◇


会食はまだ先のようで、車掌さんが発車の前に魔導列車の中を案内してくれた。魔導列車はいくつもの箱(車両というらしい)が連結している。

「まず、こちらが魔導列車の運転室でございます」

一番前の車両にはなんだか色んなレバーに囲まれた椅子にキツネの耳のおじさんが座っていた。

「一人で動かすんですか?」

僕が聞くと車掌さんが微笑む。

「皆さんそうおっしゃいます。ええ、アシスタントなどはおりますが、基本的には一人で動かします」

「はぁぁ、すごい…」

スージーさんが目を丸くしていた。

次に動力の車両に移る。そこには炉のようなものがあって、山積みの魔石の前に帽子をかぶったおじさんがスコップ片手に数人立っていた。

「魔導列車は魔力で動かします。非常に大きな魔力が必要なため、各都市で魔石の補充が欠かせません。ここにある分で次の都市まで向かいます」

「こんなに魔石がいるのか…そりゃあチケットが高くなるわけだな」

オズワルドさんも鍛冶をする上で魔石を使う。だから思わずその値段を計算したようだ。

「さあ、次に参りましょう」

次の車両から六両ほどは指令室、ワンさんや傭兵、乗員のための車両、その次が荷物の車両、それから僕らの乗る車両(他の車両と違ってかなり豪華な客車と言うらしい)となっていた。

「へぇ…客車は高級なんだね」

「そりゃそうだろ。超プラチナチケットなんだぜ」

「ミハエルは乗ったことあるの?」

「いや、初めてだ」

真っ赤な絨毯の上を車掌さんに先導されて僕らは歩く。

「こちらが葵様のお部屋でございます」

案内された僕の部屋は最後尾の客車の中にあった。ハル、アメ、ミハエル達は男女に別れてひとつ前の客車の部屋に案内されていた。

「まるで高級な宿だニャ」

タマちゃんがいつの間にか僕の部屋を確認して溜息をつく。

「タマちゃんの部屋はどう?」

「良い部屋だったニャ。いつかこの列車でコンサートをしたいニャ」


◇◇◇


列車がクリューソスを出て数時間、広い平原に出た。

『ピー』

高い笛の音が鳴ってゆっくりと列車が停車する。

「停まったね。何だろ?」

ハルとアメもちょうど僕の部屋に来て、のんびり寛いでいた。

窓から外を眺めていると、ノックの音がして車掌さんが扉を開けた。

「只今より魔物の討伐を行います。お客様にもしものことがないよう窓の鎧戸を閉めさせていただきます」

窓の外側にある鎧戸が閉まると日の光は全く入ってこなくなった。

すぐに魔術具の明かりで部屋は明るくなる。

「外は見れないんですか?」

「指令室からなら見れますよ。ご案内いたします」

指令室とはワンさんが乗る車両にある部屋だ。

「あら?葵達も指令室?」

ジャスミンさんとミハエルも出てきた。

「上がってもろてくれ」

階段の上から声がする。指令室には階段があって、天井を外して外を見ることが出来る仕組みのようだ。

「では、こちらからどうぞ。足元にお気をつけください」

ぞろぞろと上がる。ワンさんともう一人のおじさん、それに僕ら五人で見張り台はいっぱいになった。

「おお、みんなで見に来たんか?こっちにいるのは傭兵隊長や。それで、こっちが葵さんや」

傭兵隊長が僕の顔を見たまま驚いた顔で止まっている。

「あの?大丈夫ですか?」

「あっ、ええ、大丈夫です。ぜひご覧ください。…それにしても若い連中が噂していましたが…これは…」

「せやろ?実際はコンテストでもダントツやったんやで」

ワンウェイさんが自分のことのように胸を張る。

「ところで、ええタイミングで来たなあ。ちょうど始まるところや」

列車は小高い場所にあって、平原が見渡せる。

子供の背丈ほどの魔物がワラワラと現れた。

「お嬢様、あれは?」

二人は魔物も初めて見るのだろうか。

「ゴブリンだね」

列車の側からは傭兵たちが一列になって進んでいく。数では明らかに勝っているとは言え、ゴブリンは魔物の中でも最弱の部類。傭兵たちの手馴れた様子を見ると負けることは考えにくい。

(ふーん…魔術師が多いな)

都市国家群は魔術が盛んとは聞いていたけど、傭兵達の中にも魔術師らしき軽装の者が目立つ。彼らは後方から術式を編み始めた。

(それだけじゃない。あの剣は…?)

前衛の男達の持つ剣の刀身が淡い光を帯びている。

「あの剣を見てなさい。きっとびっくりするから」

ジャスミンさんが後ろから僕に囁いた。

「始まるぞ」

ミハエルの言う通り、隊列を組んで進む前衛とゴブリンの群れがぶつかる。

「うわっ」

傭兵の剣がゴブリンを切り裂くと同時にその切り傷から炎が湧いた。

「ほらね、驚いたでしょう?」

傭兵達は数倍の数の相手を蹂躙していく。後方からの魔術に加えて、光る剣に斬られたゴブリンがどんどん燃えて黒焦げになる。

「余裕やな」

ワンさんの言葉に傭兵隊長が頷く。

「ええ、ゴブリンごときにやられはしません」

その後、群のボスらしき一回り大きなゴブリンも容易く仕留めて傭兵たちが鬨をあげた。

「葵さんから見て傭兵の戦いはどうやった?」

「ええ、皆さん強いですね。あの剣はどういったものなんですか?」

「ええ、あれは魔術剣と呼ばれるもので、刀身に術式が刻まれ、柄に取り付けた魔石や本人の魔力で様々な効果を出すのです」

自慢気に傭兵隊長が説明してくれた。

「アトランティス王国のSクラスのハンターにそう言うてもらえたら安心やな。なあ?」

話を振られた傭兵隊長は訳がわからないといった表情で僕を見る。

おそらくアトランティス王国もSランクハンターというのも知らないんだろうけど、それでもSランクというくらいだから凄いということは理解できたはず。ただ、目の前にいる僕がそんな人物だとは到底思えないのだろう。

結果としてワンさんが冗談を言っているのか、それとも真面目に言っているのか計りかねているように見えた。

「それに…葵さんは色んな意味で有名やからな」

サングラスで目線は分からないけど、なんとなく気持ち悪くて鳥肌がたった。

(この人…僕のことを調べてる?)

都市国家群とは国交もほとんどないはずのアトランティス王国の情報をこの短期間にどうやって手に入れたのだろう。

顔に出てしまったのか、ワンさんが僕を覗きこんだ。

「そらそうや。ワシらは商人。金を稼ぐためには情報こそが命やからな。せやせや、会食はもうちょい先でお願いします。これからいくつか都市をまわって魔物も退治せなあかんから」

実際、数日間の間に五つの街を巡り、何度か大規模な討伐も行った。

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