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2016/09/19

傭兵VS魔物

『コリント』、クリューソスの同盟都市の一つ。ここが終われば訪問する都市国家もあと一つか二つ。

他の都市もそうだったけど、ここでも大観衆に迎えられ、僕らの訪問は大成功をおさめた。

そして、その翌日。

海のそばで魔導列車が停車した。

(また魔物を狩るのかな)

何度も見てきたけど、怪我人こそでるものの、命に関わるほどのダメージはない。

だからアメやハルも何も言わず、のんびりとソファに座っていたら車掌さんが現れた。

「ワン様から少し休憩するとのことです。列車から降りてください」

タラップを降りると既にみんなが降りていた。

傭兵たちが上半身裸で浜辺にテントを張ったりバーベキューの準備をしたりしている。

「葵さん、あの、しばらく海で遊ぶみたい。だから…」

スージーさんが水着を持っている。

(遊ぶ?)

「できたら、その、新作の水着なんだけど…」

「お嬢様、僕らはここで待っていますので」

ハルとアメはいつの間にか水着に着替えていた。多分前に見たピカッと光って水着になったんだろう。

ハルはハーフパンツ型の水着、アメは黒のビキニだ。フリルが胸のところにヒラヒラついている。

(胸は歳相応なんだ)

「何よ?文句でもあるの?」

胸を隠して久しぶりに毒を吐かれた。

「葵っ、あっちに水着に着替えるためのテントがあるぜ」

声がして振り返ると水着姿のミハエルとオズワルドさん、それにジャスミンさんが立っていた。

「ふぁ?」

「どうしたの?」

目を丸くした僕にジャスミンさんが眩しい笑顔を向ける。ミハエルやオズワルドさんはハルと同じく普通のハーフパンツの水着で気にならないんだけど、問題はジャスミンさん。

筋肉ムキムキの体に乳首が隠れるか隠れないかくらいのミニのビキニ。股関もギリギリ隠れるかどうか。もっこりしたものが角度次第では見えるのでは…。

「いえ…ナンデモナイデス」

「うふふ、海なんて久しぶりねっ。きょうは焼くわよっ」

ジャスミンさんの満面の笑顔を見ると何も言えない。

「あの…私達も行きませんか?」

そうスージーさんから控えめに促されて僕らも着替えることにした。

「ねえ、スージーさん、ちょっと待って。これ透けてないよね?」

「大丈夫な…はずです。中心にはちゃんと裏地をつけていますから」

スージーさんの新作はニット風の編み込みの水着だった。コンテストの時は黒の水着の上から編み込みの水着を重ね着する形だったけど、今回はニットを直接着る。

中心に裏地がついていても当然編み込みの隙間から胸の色んなところは肌が見えてしまう。

結局着替えてテントから出ると、若い傭兵達から歓声があがった。

「こらっ、お前ら、食事の準備をするんだっ」

隊長が現れて傭兵達を連れていくけど、帰り際に僕の姿をチェックしていた。


◇◇◇


「うわあっ、気持ちいいっ」

波が打ち寄せてふくらはぎまで浸かる。

海に入るのは考えてみれば旅に出る前、ケルネにいた時以来だ。

キャッキャはしゃいでいると、ワンさんが小さな箱を持った男の人と一緒に現れた。

「気にせんといて。最近出来た魔術具を試させてな。なに、ブロマイドみたいなもんやけど、動いててくれてエエから」

言われてみれば、ブロマイド撮影のカメラとかいうのに似ている。

(気にするなって言っても…)

「おいっ、葵っ」

「えっ、…わぁっ」

水が顔に向かって飛んできた。

「ちょっと…やったなぁっ」

ミハエルに向けて水をかける。

「うわっ」

ミハエルが足を滑らして転んだところに波が来て頭から被った。

「あははははっ、天罰だよっ」

そうこうして、いつの間にかカメラのことなど忘れて楽しい時間が続く。

「お嬢様っ、食事が出来たようですよ」

波打ち際からハルに呼ばれて僕らは海から上がった。いつの間にかハルとアメは普段の格好に戻っている。

「あら?ご飯の時間?」

おいしそうな匂いのする方へ歩いていると、ジャスミンさんが砂浜に寝転がっていた。

(なんか光ってる…?)

「これは油よ、せっかくだから綺麗に日焼けしたいじゃない?」

ジャスミンさんの筋肉がテカテカと光って、なんというか…凄い。

その後ろにスージーさんも体育座りしていた。なぜか手に双眼鏡を持っていた。

「葵さん…可愛かったです…特に波打ち際で遊んでいた時なんて…」

(ずっと見てたの?)

二人も合流して歩いていると、傭兵達が出迎えてくれた。

「あっ、あのっ、俺達、ファンなんです。握手してもらっても良いですかっ?」

「えっ?あっ、はい」

伸ばされた手を握ると、俺も俺もと周りが手でいっぱいになった。

「えっ、あのっ、ちょっと…」

戸惑っている間にもどんどん人の数が増える。

「お前らあっ、持ち場に戻れえっ」

傭兵隊長が現れてようやく事態が収拾した。

「すみません、うちの若い者が」

(そう言いながら、胸をチラチラ見てるよ)

さらになぜか去り際に握手をして隊長は傭兵達を怒鳴りながら持ち場に戻っていった。

「そしたら乾杯しよか。傭兵の皆は連日戦こうてお疲れやろうし、葵さん達も有名人やから、クリューソスに帰ったらこんなことも出来へんやろし、今日はゆっくり楽しんでや」

ワンさんの乾杯の音頭でバーベキューがスタートした。

「お嬢様、食べ物を取ってきますね?」

準備された専用のテントから少し離れた所に肉を焼く場所があって、傭兵達がその場で座りこんで食べている。ハルに「僕も取りに行くよ」と言ってついて行った。

「でも、お嬢様…」

「大丈夫だよ」

ハルは心配性だなあ。

「そうそう、俺達も行くからさ」

ミハエルやジャスミンさんも一緒に行くと、さすがにさっきみたいなことにはならなかった。概ねジャスミンさんのお陰だったけど。

「やっぱり若い子達はいいわね。私も若返るわっ」

ねっとりした目付きでジャスミンさんが周囲を見渡すと、スッと傭兵達が俯いて僕に向けられていた視線が消える。

「あらあら、みんなシャイなのね?」

ジャスミンさんは目を逸らすタイミングをミスった幼さの残る傭兵にウインクすると、泣きそうな顔で震えていた。


◇◇◇


「ハグ、ハグ…おいしいねっ」

お皿にのったお肉を頬張っているとき、ふと海を見るとなんだか遠くの方に黒い点が見えた気がした。

(うん?…あれは…?)

見間違いかと思ったけど、やはり遠くに黒い点が波に揺れている。さらにそれが大きくなってきたような気がした。

「…あれ?ハル、アメ…あれって…」

海を指差してハルとアメに確認すると、二人も頷いた。

(いけないっ)

「ミハエルっ」

振り返るとミハエルはジャスミンさんに飲まされて鼾をかいて寝ていた。

(何してるんだよっ、大事なときにっ)

「なあに?葵?」

ジャスミンさんはまるで素面のようだった。

そして、海に浮かぶ点を見るや否や、スージーさんとオズワルドさんを傭兵隊長のもとに走らせ、自分も傭兵達のところに走っていった。

『ガンガンガンガンガン』

激しい銅鑼の音が鳴り響いたのはその数分後。傭兵達の顔つきが変わって、酒を飲んでいない者は酔いつぶれた仲間を列車に運び、武装する。

「葵さん、列車に戻って下さいっ」

傭兵隊長からの伝令がきた。

「戦えるのは何人いるの?魔物は?」

「えっ、あの…」

若い傭兵は躊躇う。

「早くっ」

「あっ、ええっと…戦える者はおよそ20、魔物は海から70、陸から30ですっ」

(まずいな…五倍か…)

「僕も戦うよっ」

ハルとアメも僕の両隣についた。

「お嬢様、これを」

ハルからは仕込み杖、アメからはホットパンツが渡された。

「戦うなら一応これくらいは履いたら?周りの男が集中して戦えないわよ」

確かに伝令の若い傭兵も真っ赤になって目をそらしていた。

「ありがとうっ」

お礼を言って急いでホットパンツを水着の上から着る。

「葵さーん、大丈夫ですかぁ?…はぁ、はぁ…あれ?」

スージーさん達も帰ってきたけど、僕の姿を見て不思議そうな顔をした。

「スージーさん、オズワルドさん、ミハエルをお願いっ。急いでっ」

黒い点は既にもうリザードマンであることが見て分かるほど近づいていた。

「お嬢様、来ます」

浜に上がったリザードマンはある者は三ツ又の銛、ある者は珊瑚か何かの槍のようなものを持ち、口々に何か叫びながら走ってくる。

「さあっ、行って」

僕らは浜に向かって駆け出した。


◇◇◇


ワンウェイは魔導列車の指令室から戦いの様子を見つめていた。

「おりゃあっ」

『ズシャッ』

ジャスミン、いや、かつてアリストスから各都市国家にまで名を馳せたジェイソンが傭兵から借りたのだろう、バスターソードを振り回し、一撃で三体のリザードマンを屠った。

(さすがは自力で戦奴から解放されただけのことがある)

アリストスの主戦力は戦奴と呼ばれる奴隷達だ。ほとんどが奴隷からの解放前に戦いの中で命を落とす。だが、圧倒的な力で勝利し続け、解放された男がジェイソンだ。

(それに…)

続いて目を移すと、そこにはジェイソンとは180度異なった存在がいた。

「はっ、ふっ」

水着のブラジャーを柔らかく揺らしながらリザードマンの矛先を躱し、華麗に切り裂くのは、まさかの美少女コンテストのグランプリだ。

(情報から実力は充分だと分かってたつもりやったけど)

さらにメイド服と執事服の従者の二人も葵と同じか、それ以上に強い。

(これはなかなか骨やで…)

四人で海から来たリザードマンの半分ほどを足止めしている。

そのお陰で傭兵達も士気が上がり、何とか数で勝るリザードマンを押し返していた。

(さあ、どうしよか…力ずくは難しいな)

丸いサングラス越しにワンウェイは目を細めた。


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