管理人ほう

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バーベキューがリザードマンに邪魔されてから、さらに二つ都市を回ったところでやっと会食の知らせが来た。

「お嬢様、気をつけて下さい」

ジャスミンさんのデザインしたストライプのワンピースを着て、出ようとする僕の前にハルが立った。

(ハルは心配性だなあ。ラルフみたい)

「何かあってからでは遅いのです。せめてこれを」

ハルから渡されたのは小太刀だった。

「これなら会食の場に持って行っても気づかれないでしょう」

「うん、これなら…あれ?これっ、綺麗だね。アメの瞳みたいな…」

小太刀の鍔(つば)には綺麗なアメジストの装飾がされていた。

「さあっ、これに入れて、行ってきて下さいっ、さっ、早くっ」

僕がそう言うとなぜかハルに急かされ、部屋から追い出されてしまった。

(一体何なんだろ?)

そう思いつつ会食の場であるワンさんの部屋に向かった。


◇◇◇


さて、ワンさんの部屋は丸いテーブルにクロスが掛けられていて、即席のレストランに僕は招かれていた。

「待たせましたな」

ワンさんがどかっと座る椅子は僕の座っている椅子の何倍もある。

「ハハハ、特注ですわ。ワシみたいな体やと普通の椅子は壊れてしまいますんや」

僕が三人は入れそうなズボンもきっと特注なんだろう。

「アオイさんも疲れたやろ?コンテストから休む暇もなかったやろし」

「いえ、そんな…」

「こないだもせっかく気分転換してもらおと思ったのに魔物に当たるしな。ほんま、最近は魔物だらけやで」

ワンさんがため息混じりに話すのは先日の海でのバーベキューの件だろう。

(魔物が増えた原因を作ったのも僕なんだけど…)

愛想笑いを浮かべて相槌を打っているとウサギ耳のメイドさんが飲み物を運んできた。

『カチャ、カチャ』

俯いているから顔は見えないけどお盆に載せたグラスが震えている。

(まだ慣れてない新人さんかな?)

「すまん、すまん。こないだの街で奴隷を一人乗せたんや。まだ無調法やけど許してな。…ほれ、お客様に挨拶するんや」

「うぅっ、す、すみませ………あああっ」

大声をあげたメイドさんを見た僕も、ワンテンポ遅れて驚きの声をあげた。

「ああっ…えっ?なんで?」

そこにいたウサミミメイドはなんとセシリアさんだった。

「こらっ、セシリアっ、挨拶はどうした?」

セシリアさんは泣きそうな目で僕を見て頭を下げた。

「せ…セシリアと申します。よろしくお願いいたします」

セシリアさんが部屋から出ていくと、僕はワンさんになぜコンテストの準グランプリが奴隷になったのか尋ねた。

「ついこないだアリストスがステファノスに負けたんや。そのせいでセシリアの父親が破産してな、それでセシリアが売られたっちゅうわけや。…ああ、つまらん話は置いといて食べよか。同盟都市で買った特産品を使っとるから旨いはずやで」

すると、タイミングを見計らったように食べ物が運ばれてきた。

『ガシャンッ』

「あっ」

列車が揺れてセシリアさんがスープをこぼす。

「ぁ…す…すみません…すぐに拭くものを…」

「セシリア」

ワンさんが低く冷たい声でセシリアさんの名を呼んだ。

「後でお仕置きや」

その言葉にセシリアさんは真っ青になって震える。

「すみませんっ、許して下さいっ、あれはもう…お願いしますっ、お願いしますっ」

座り込んでワンさんの足に抱きつくようにして謝るセシリアさんだったけど、すぐに数人のメイドさんによって部屋から引きずるように追い出された。

「はあ…もとがお嬢様やからな。調教には時間がいるわ。スープがくるまでじかんがあるなあ。…そや、せっかくやし、こないだの海のやつ見てもらおか?」

「海のやつ?」

ワンさんが立ち上がるとカーテンを閉めて、テーブルに置いた魔術具を操作する。

『天罰だよっ』

僕の声がした。

(わっ、何これ?)

カーテンに僕の水着姿が映って、波打ち際ではしゃぐ姿が映しだされた。

「すごいやろ?ブロマイドだけやなくてこれも売りだそう思てるんや」

「なるほど」

(かなり恥ずかしいけど…)

顔を赤くしている僕をニコニコしながら見ていたワンウェイさんが魔術具を弄る。

「…次は…こっちや」

そう言ったワンウェイさんの声がセシリアさんを咎めたときのような冷たい声に変わった気がした。

「何ですか?」

波打ち際で遊んでいる映像が今度はどこかの部屋に変わった。そして、そのベッドには僕が座っている。

(あっ、これは…)

魔導列車の部屋だ。

(でも、撮られるなんて聞いてない…まさか、隠れて…)

映像の僕は箱から卵を取り出した。

(あの卵は…まさか…)

「葵さんも好き者やな。そんなに溜まってるんやったら言うてくれたらワシがいくらでも相手したるのに」

ワンさんがニタニタと笑う。ゾッとするような汚い笑い顔だ。

「実はな、どうしても葵さんが欲しい言うてる人がおってな。一晩でええからって言うたはるんや」

一晩という意味はさすがに僕もわかる。そしてこれがお願いではなく脅迫であることも。

「この映像は隠しときたいやろ?」

(はあ…)

都合よく部屋は暗い。カバンから小太刀を出すと僕はいつでも動けるよう腰を少し上げた。

「なあ、それで…」

『ヒュッ』

カーテンに映っていた映像が消えた。魔術具が真っ二つに別れている。

「は?」

ワンウェイはまだ状況が理解出来ていないようだ。

その間にテーブルを跳び越えてその贅肉まみれの首に小太刀をあてた。

「それで?何?」

ようやく状況が理解できたのか、ワンウェイの顔がひきつった。

「い、いや…」

ワンウェイの声が震えている。

「これは他にもあるの?」

この映像の複製があるのかを確認すると、ワンウェイは小太刀を気にしながら首を横に振った。

「いっ、いやっ…あらへんっ」

「本当に?隠していたら…」

「ほっ、ほんまやっ」

ワンウェイの顔が真っ赤になる。

「脅迫する相手と脅迫するネタを間違えたね」

僕は刀を首筋に当てたままワンウェイの座る椅子の後ろに回り込んだ。

「はあ、くだらないことをするからこういうことになるんだよ。…この部屋の香りも媚薬でしょ?」

「なんで分かったんやっ?」

部屋に入った瞬間に僕は気づいていた。甘い独特の香り、以前アヴニールの学院長の使っていたものと同じ匂いだった。

「前に一度嗅いだことがあるからね。それで、どうする?」

僕は刀をさらに首筋に押しつける。

「なっ、何でもやるよって許してな」

歯をカチカチ鳴らしながらワンウェイが命乞いをしてきた。今度は顔が真っ青になっている。

「あっ、そうだ。グランプリの賞を忘れてた。僕の欲しかったのは情報なんだ。ワンウェイ、あなたはフードの男を知っているはず。その男について知りたいんだ」

「フード?フードの男っちゅうとあれか?ステファノスの王の使いか?」

「ステファノス王の使い?何をしに来たの?」

「いや、その…」

「知ってるんでしょ?」

ワンウェイは諦めたように口を割った。

「アリストスを攻めるのに、ワシらクリューソスの商人が物資を売ったんや。もちろん、市場の値が変わらんように裏からやけど。ワシはその窓口をやっとったんや。それでそん時に一度会っただけや。ワシはそれ以上は知らん。なあ、堪忍してや。もう変なことも言わへんし、他にも欲しいもんやったら全部やるさかい…」

ほんの少し刀を離してやる。

「どんな男だった?」

ワンウェイは思い出すように僅かに顔を上げた。

「せやな…背ぇのごっつい…あれは軍人…いや…ちゃうな。…体つきは鍛え上げとったけど、軍人らしくもない。なんちゅうか、ちぐはぐな感じがしたな。とにかくワシの目から見ても薄気味悪い男やった」

(奴隷商人から薄気味悪いと言われる男って…。それにしてもたいした情報はなかったな。収穫はステファノスにいるってことくらいか)

「こんだけ喋ったんや。もうええやろ」

ワンウェイがそう言った時には僕は部屋から出るところだった。

(…はあ、全く。ろくな会食じゃなかったよ。そもそも食べそこなったしさ)

閉めた扉越しに、正気に戻ったワンウェイの叫び声と怒りを物にぶつける音が響く中、僕は自室に向かった。



◇◇◇


「あの小娘がっ、舐めくさりおってえっ」

ワンウェイが己の肉棒を咥えこんだセシリアの髪を掴んで強引に上下させた。

「むぐうっ、ぐえぇぇ」

セシリアが白目を向いて嗚咽する。

「誰に喧嘩売ったか体に教え込んだるっ。せやっ、アオイだけやなくてあの従者二人も一緒に犯したればっ。クヒヒヒヒヒ」

もう意識のないセシリアの口に射精したワンウェイはメイドを投げ捨てて、部屋の隅にあった魔術具を手に取って、太い指で操作を始めた。

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