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仲間集め

『カランカラーン』

「はーい。いらっしゃい。あらあら、ミハエルじゃないか」

妙にハスキーで高い声が僕らを迎える。

大柄なおばさん…じゃなくておじさんがそこにいた。

赤銅色の肌に燃えるような赤い髪はドレッドで眉は太く、目鼻立ちのくっきりしたナイスミドル。ただ、その真っ赤に塗った唇と、おそらくもともと長いまつげの上に真っ青なアイシャドウさえ無ければ…。

「ジェイソン、ちょっと急ぎで頼みたいんだ」

どうやら知り合いみたいで、気軽にミハエルが声をかけるとニコニコと微笑んでいた表情が突如豹変した。

「ああっ?てめえっ、今、なんつった?」

そう言うや否やお姉さんみたいなお兄さんは目にも止まらぬ早さでミハエルの背後に回ってチョークスリーパーをかける。

「ぐ…ぐるじい…ジェ、ジャスミン、ざん」

「はーい、ジャスミンよ。ヨロシクねっ♪ウフ♪」

高い声でそう言いながら僕らにウインクしたジャスミンさんが口に手を当てて固まった。

「まあっ、可愛いっ。えっ?…この娘…まさか…」

「ゲホッ、ゲホッ、こっちがアオイって言って…」

ジャスミンさんの裏声がまた地声になった。

「てめえっ、イリスちゃんっていうものがいながらっ」

(忙しい人だ…)

ミハエルが再び卍固めを食らって泡を吹いているのを眺めながら僕らは話が進むのを辛抱強く待った。

「…コンテスト…ようやくこの時が来たのね…」

咳き込みながらミハエルが説明をすると、ジャスミンさんが遠い目をした。

「あと二日でなんとかしてもらえるか?」

ジャスミンさんが厚い胸板を叩いた。

「任せなさい、最高の服を作るわっ。そうと決まれば、アオイっ、ちょっと顔を貸してっ」

そう言って僕を店の奥に連れ込むと怒濤の勢いで採寸をして、着ていた服を奪い取られてワンピースを着せられて追い出された。

「よしっ、次に行くぞ」

ミハエルが次に向かったのはすぐ隣の店。

(下着…かな?)

『カランカラーン』

(?)

誰も出てこない?

「スージー?俺だよっ、ミハエルだ」

すると下着の棚の隙間から眼鏡の女の子が恐る恐るといった感じで顔を出した。

(わ…ウサギ?)

女の子の頭から耳が生えていた。

「ミハエル…?ホントに…?」

女の子がようやく全身を現す。耳が不安そうにピクピク動いていた。

「ほら?俺だ。出てきてくれよ」

それからミハエルがまたコンテストの話をした。

「三日ほどしかないけど、水着をお願い出来るか?」

スージーさんもやはりコンテストと聞いて動きを止める。

「………コンテスト…水着…………そんなの無理ぃぃ」

スージーと呼ばれた女の子は店の奥に文字通り、脱兎のごとく逃げこんだ。

(大丈夫かなあ…?)

「頼むよっ、なっ、スージーなら出来るからさっ」

店の奥で説得が続いてようやく承諾を得た。

「ねえ?あの人は大丈夫なの?」

「ああ、スージーはとんでもない恥ずかしがりだけど、作るもんはスゲエんだぜっ。次は…そうだ、アオイは特技とかないのか?コンテストの審査の一つに特技の披露があるんだ」

「特技…」

(そんなこと急に言われても…)

「例えば、ダンスとか、歌とかさ」

「うーん、社交ダンスなら…歌は分かんない…特技って言っても…魔物と戦えるとか?」

考えてみたら趣味なんてないから困ってしまった。

「これはマズいな…こればっかりは誰かに頼んで何とかなるもんじゃないし…」

「ごめん…小さい頃から剣の修行ばっかりだったから…」

ミハエルが頭を抱えて数分後。

「そうだ…剣だっ」

「えっ?」

「ジャイアントフロッグと戦ってた時の動きがまるでダンスをしているように見えたんだっ、ああいうのって型みたいなのはないのかっ?」

(…意外…見てたんだ)

「えっと…動きの型ならあるよ。それを組み合わせた剣舞なら…」

「それだっ、ということは…必要なのは…よしっ」

今度はやはり裏路地にある鍛冶屋に連れていかれる。

「いいか、アオイ、ここの主人は偏屈だが、女に滅法弱いんだ。断ってきたら……」

耳元で囁く。

「オヤジっ、いるか?」

またミハエルが先に入って大きな声を出した。

「誰だ?」

「俺だよっ、俺っ」

「ああっ?その声はミハエルか。何しに来たんだ?」

奥から槌を打つ音と一緒に声がした。

「剣が一本欲しいんだ」

「おっ、ついに商人から足を洗う気になったか?」

顔を拭いながらおじさんが奥の扉まで出てきた。

「違う違う、実はさ、今年のコンテストに…」

「断る」

こちらを見ようともせず断った。

「何言ってるんだよ、コンテストでグランプリをとればこの店も繁盛して…」

「俺は俺の腕を分かってくれる奴が買ってくれればそれでいいんだ。話はそれだけか?なら帰ってくれ」

ミハエルが僕に目配せする。

(はいはい…)

「あの…おじさま…?」

一歩前に出ると、おじさんは目を見開いたまま僕を見つめている。

「お…じ…さま…?」

「お願いします。おじさまの剣が必要なんです」

上目遣いでそう言う。

「……なん…だと…俺は夢を見ているのか…?…目の前に天使が……」

ふらふらと奥の作業場に向かう。

「なあ、オヤジ、作ってもらいたい剣なんだが…」

魂が抜けたようなおじさんに話しかけるミハエルがなんだか悪徳商人みたいだった。


◇◇◇


その夜、ミハエルの選んでくれた宿に戻るとハルとアメがいた。

「どうだった?」

まずはハルが答える。

「ええ、やはりお嬢様を尾行している者がいました。服屋を見張っていましたが、明らかにお嬢様達を舐めてますのでおそらくは何もないと思います」

「アメは?やっぱり鍛冶屋さんにもいた?」

「…」

アメも頷く。理由は分からないけど、心なしか僕に対する拒否感が和らいだ気がする。

実は二人には昼の間に一仕事を頼んでいた。

グランプリを取るために、他の出場者に対していやがらせや邪魔をする者がいるとミハエルが言うのでその見張り役だ。

「お嬢様、ボクらは眠る必要もないので夜の間も見張ってきますね」

二人の気配が急に曖昧になる。目の前にいるはずなのに意識から消えた。

『バタン』

扉が閉まる音で二人が消えるのを確認した。

「ふう…」

二人がいなくなったあと鍵を確認して僕はベッドに仰向けになって卵を手に取る。

(こんなこと二人に見られたくないし…さっさと終わらそう)

赤い卵を見つめて開けと念じる。

『ピシッ』

卵の殻に亀裂が入った。

(青い方はスライム、赤い方はもうちょっとマシだと良いんだけどな…)

殻の裂け目から中を覗くと何やらピンク色のものが見えた。

(これは…?)

『ブルッ』

体が震えた。記憶よりも先に体が反応したらしい。

続けてそれが何か分かった。

僕はこれを何度も見たことがある。それどころか犯されたことまである。

(しょ…触手だ…)

「うわあっ」

思わず僕は卵を投げ捨てて上半身を起こす。

『パキパキ』

足元に転がった卵から割れる音が続いて、殻を破って現れたのはやはり想像通りだった。

小さな触手はウネウネと粘液にまみれた体を揺らして獲物を探して…目の前の僕をロックオンしたようだ。

(いっ、いやだぁっ)

ヌラヌラと光る体が近づいてきた。

「ちょっと、近づくなぁっ」

足をブンブンと振り回してあっちに行け、と威嚇するけど、無駄だった。振り回す僕の足首に巻き付く。

「ひぃっ」

ヌルヌルした感触に鳥肌がたった。

「ちょっ、止まってっ、ねっ、いい子だからっ」

触手はもちろん聞いてくれない。足首からふくらはぎ、膝へとヌルヌルが登ってくる。

(赤はやめとけば良かったぁ…これならまだスライムの方がマシだよぉっ)

「やっ、ちょっと待って、そんなっ、あっ、ああっ」

太腿へと登ってきた触手はスカートの中へと姿を消した。

「ひゃあんっ」

見えなくなった触手の内腿を這う動きに高い声が出てしまう。

(遮音の魔術がかかってて良かった…)

ミハエルは良い宿をとってくれたけど、さすがにこんな声を出したら周囲の部屋から変に思われる。

「あっ、紐はっ」

今日に限って、紐で結ぶパンティを履いていることを呪う。スージーさんからお近づきの印にと貰ったものだ。

「だめっ」

その紐が引っ張られて結び目が解かれていく。

『シュル…』

紐が解けて急に股の間が頼りなくなった。

そして、小さな触手はパンティの代わりにそこにへばりついた。

「ふぁぁっ」

ニュルニュルしたものが股の間を擦る。

「ふぇ…ふぐっ、んっ、んんっ」

犬や猫が甘えるように触手は割れ目にすり寄る。

「あっ、んぐっ?」

敏感な突起がヌルヌルした肉に不意に擦れて強い快感が体を襲った。

「んんんんっ」

僕はシーツを口に咥えてベッドの上で芋虫のように体をくねらせる。

お腹の奥が疼く。

何かが足りない、埋めてほしい、そんなことを考えている自分に気づいて頭を振った。

だけど、触手が膣内に進入してくるとそんなことは考えていられなくなった。

「はうううっ」

粘膜の道をスライムが吸っていたのに対し、触手は押し広げてくる。

だけど、媚薬のような成分を分泌するという面ではスライムと触手は一致していた。

強く押し広げられると快感が膨れ上がる。

「あっ、やらっ、ああっ、あああああっ」


◇◇◇


コンテスト前日になった。

『ヒュッ』

ピタッと剣を止めた。

「スゲエ…」

「こんなもんだよ。どう?」

「いいぞっ、こんなのは見たこともないっ…そうだっ、待っててくれっ」

人に見られないよう隠れて剣舞を見せると、大慌てでミハエルが一人の亜人をつれてきた。

「初めまして。タマにゃ」

猫耳の少女が手を差し出す。

「アオイ、さっきのもう一回頼む」

僕が剣舞を始めるとフンフンと見ていたタマちゃんの顔が真剣なものになる。

『ジャン』

タマちゃんを横目で見ると弦楽器を抱えて僕の動きに合わせて演奏を始めた。

そして剣舞が終わると同時にタマちゃんが僕の腕をとった。

「凄いニャ。ミハエル、ちょっとアオイにゃんを借りるニャ」

「おうっ、午後はウォーキングの練習があるから、午前中だけで頼むぜ。俺はスージーんとこ行ってくるぜ」

タマちゃんの持っていた楽器はギターというらしい。ただでさえ食べていくのが難しい音楽家でタマちゃんは亜人ということもあってなかなか仕事もないらしい。

さらにその日の午後。

「凄いわ、あなた。背筋も綺麗に伸びているし、体のブレもない…これなら少し教えれば大丈夫よっ」

歩き方を指導してくれているのはレイモンド夫人。夫を失った五十代くらいの上品なおばさまだ。

「良いわよ、うん…ちょっと休憩にしましょうね」

ウォーキングは王宮で習ったメイドの練習のおかげか、すぐに合格がでた。

それから、特訓が予定より早く終わって、レイモンド夫人は紅茶と手作りのケーキを準備してくれた。

「わあっ。美味しそうっ。いただきまーす」

お菓子をムシャムシャ食べていると、レイモンド夫人に見つめられていたことに気がついて僕は慌てて手を止めた。

「あっ、食べてばっかりですみませんっ」

「良いのよ。美味しそうに食べてもらえて嬉しいわ」

レイモンド夫人は微笑んでおかわりを準備してくれた。

「アオイさん…」

「ふぁい?」

「ミハエルなんだけど、誤解しないであげて欲しいの」

「?」

「あの子は元々うちの商会の子だったのよ。幼い頃から私達の子のように育ててね。夫が死んで、王(ワン)のところに今はいるんだけど。ジャイアントフロッグの件は聞いたわ。あの子を薄情な子だと思わないでね」

「ええ…いや、そんな…」

「良いの。ノルマも達成できずに商人達の間でバカにされているのも知ってるの。だけど、ジャスミンさんやスージーさん、武器屋のオズワルドさん、タマちゃん、みんなもともとはうちの下請けで素晴らしい才能よ。あの子はうちの商会が無くなって仕事にあぶれた下請けの職人のために頑張ってくれているのよ。今日もね、急な仕事を請け負った昔馴染みの素材を手に入れるためにアリストスまで行ってきてくれたのよ」

(ふーん、そんなことがあるんだ)

「今回は頑張って下さいね。あなたがグランプリをとってくれれば、あの子の荷も少しは軽くなると思うの」

「ええ、頑張ります。見に来てください」

「もちろんよ、私はあなたに投票するわ」
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