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敗北

会食後、ワンウェイから何かしらの行動があるかと構えていたんだけど、特に何があるわけでもなく、魔導列車の旅は終わりを告げようとしていた。

『コンコン』

ノックの音で僕が目を覚ましたのはまだ、寝入って数時間。時計を見れば、まだ深夜だった。

目を擦りながら起こされる前まで見ていた夢を思い出す。

最近夢の中の千手丸は男村正と、どんどん近づいている。今日などは千手丸の家に村正を招待して夕食を食べていた。

甲斐甲斐しく夕食の支度をする姿はまるで乙女のようだった。

(というか、千手丸は女だから当たり前と言えば当たり前なんだけど…)

『コンコン』

「はいはい…」

ノックの音に答えて扉を開けると、そこに立っていたのはミハエル達だった。

「うぇっ?みんな揃ってどうしたの?」

「お嬢様、お休みのところすみません」

僕の部屋にあった丸テーブルを囲む。

「それで一体どうしたの?」

一様に緊張した顔つきから、何かがあったことは分かるけど、それが何なのかはさっぱり想像もつかない。

「あー、実はだな、この列車はクリューソスに向かっていない」

「へ?」

ミハエルの言葉に僕は耳を疑った。

(でも車掌さんが次はクリューソスだって…)

スージーさんとタマちゃんの顔を順に見る。

二人とも不安そうに耳を垂らしていた。オズワルドさんは難しい顔で腕を組んでいる。

「ミハエル、それじゃ意味がわからないわよ。アオイ、ちょっと、これを見て」

そう言ってジャスミンさんがテーブルに地図を広げた。

「さっき補給のためにちょっと止まった都市があっただろ?それはここなんだ」

ミハエルが指差したのはクリューソスの西の都市だった。

「だけど、今は北に向かっている」

確かにミハエルの持つ方位磁針は北を指していた。

「一旦北に向かってから東へ向かうってことはないの?」

「ああ、最初は俺達もそう考えたんだが、ほら、この地図を見たら分かるが、レールはさっき停車した都市からこの道に沿ってクリューソスに直接繋がっている」

なるほど。地図の上にも真っ直ぐ東に向かってレールを示す線が描かれていた。

「おそらく、さっきの都市でクリューソスに帰るなら東向きのこのレールにのるはずが北向きのこのレールに乗ったんだ」

地図の上で北に進んで行くと、その先にはクリューソスの同盟都市はない。ステファノスの同盟圏に入ることになる。

「あれ?このままだと…」

地図の上を指でなぞった先はいくつかの都市があって、最終的には…。

「そう。ステファノスに着いてしまうのよ」

ジャスミンさんが頷く。

「つまり…どういうこと?」

「分からない…ワンウェイは何を考えているんだろう」

「ふーん」

『コンコン』

静まりかえった室内に、またノックの音がした。スージーさんが小さく悲鳴をあげて、ミハエル達が家具の裏に隠れた。

ノックしたのは車掌さんで、僕とハル、アメが起きていることに少し驚いた顔をしたあと、ワンウェイが僕を呼んでいることを伝えた。


◇◇◇


ワンウェイの部屋の扉を開くと中にはワンウェイ以外にもう一人、見慣れぬ人物がいた。

「ハルっ、アメっ」

言葉よりも早くアメが前に飛び出し、ハルが僕を守るように槍を構える。

(フードの男…、いつの間にこの列車に…)

僕も最近愛用となった仕込み杖をいつでも抜けるように構えて男を観察する。

(間違いない、この男だっ)

フードの中の顔は見えないものの、薄ら寒い不気味な雰囲気を感じた。

「グヒヒヒヒヒ、お前らっ、まとめて性奴隷にして可愛がってやるからな」

ワンウェイはそう言いながら後ろに下がる。

「この豚っ、一人じゃなにも出来ないのね?こないだなんてガタガタ震えて命乞いしてたくせにっ」

アメの罵詈雑言にワンウェイは挑発に応じない。でも、こめかみに血管を浮かばせ、口元がピクピクと痙攣してる。

(あれ?アメに会食の時の詳しい話なんてしたかな?)

会食での出来事はみんなに話したけど、そこまで詳しい話をした覚えはないんだけど。

「ふん、言いたいことはそれだけか?相手をするんはワシやない。ほな、あとはよろしくお願いします」

ワンウェイの隣に立っていたフードの男が僕らの前に立ち塞がった。

(フードの男っ…こいつが…)

「ふんっ、誰が相手でも関係ないわっ。こいつをやったら次は自分の番なんだから覚悟しとくのねっ」

ところが、言い終わるや否や、勢いよく飛びかかろうとしたアメが、急に止まった。

「アメっ?…えっ?それっ」

アメの手が、肘から先が無くなっている。

「アメっ、下がるんだっ」

「くっ、一体どうなってるのっ?」

僕らの所にに戻ったアメの手は元に戻っている。

「どういうこと?」

僕にはさっぱり分からない。

『ヒュッ』

ハルがいつの間に持っていたのか、クナイを投げた。だけどそれは男の手前で消える。

「やはり…力を無効化している。…いけないっ、お嬢様っ、逃げて下さいっ」

その時、それまでまるで動かなかった男が僕らの方に一歩近づいた。

ハルとアメが男から距離をとるように少し下がる。

「僕が前に出るよっ、二人は扉へっ」

ハルは悔しそうに、アメは僕が二人を庇うと思っていなかったのだろうか、少し驚いた顔で後ろの出口へ後退した。

「お嬢様、一度引きましょう」

「うん…逃がしてくれるならね…」

男が腰の刀を抜く。

(刀…まさかサムライ…?)

黒い、まるで魔王が顕現した時と同じ靄(もや)が刀を覆っていた。

(来るっ)

「二人とも走って」

二人が出口に走るのと、男が数歩前に出て刀を水平に振るうのが同時。

『ギインッ』

「くっ」

(力の勝負では勝てないっ)

刃を合わせた刹那に膂力の差を感じ取った僕は、自ら後ろに跳んだ。

『ビュンッ』

追撃は無造作に上から斬りつけてくるだけ。

相手は豪剣、どこかで見たことのある太刀筋だ。だけど、ワンウェイの言葉ではないが、どうも動きに違和感を覚える。

『ギイィンッ』

「がっ」

追撃の一撃を刀を合わせることでなんとか逃れたものの、そのまま力で振りきられてしまった。

『ドンッ』

「がっ」

僕は吹き飛ばされて壁に叩きつけられる。だけど、そこは運良く出口のそばだった。

「お嬢様っ、掴まって下さいっ」

「痛たた、ありがとう」

ハルの肩を借りてなんとか僕も廊下に出る。

フードの男もすぐに追いかけてくるだろう。

「傷物にはせんといて下さいよ。後で楽しみが減るよって。クヒヒヒヒヒ」

ワンウェイの嘲るような声が部屋から聞こえた。

「お嬢様っ、まずは客車へっ」

「うんっ」

ワンウェイの部屋のある車両から客車まで、その間にある傭兵や乗務員の部屋のある車両を走り抜けた。

(あの男は妙だ。立ち方や構え方は歴戦の剣豪みたいなのに、動きはまるで刀を握ったことのない素人…)

なんとなく気になることはあるけど、落ち着いて考える間もない。あっという間に僕らは客車の手前に到達した。

「ハル、どうするつもり?」

「連結部を破壊しますっ」

アメがまず客車に移り、ハルが連結している金具に槍を突き立てる。

『ギインッ、ギャリンッ』

「くそっ」

ハルの槍でも簡単には太い連結部の金具は壊れない。

時間がない。

あの男の力はまだ未解明、この状況で戦うのはあまりに危険だ。

「お嬢様も早く客車へっ」

その時、槍を逆手に持っていたハルの腕を大きな手が掴んだ。

「ハル、アオイ、俺達に任せな」

「うふふ、アオイちゃんには夢を叶えてもらった恩があるからね」

ジャスミンさんがハルの腕を引っ張り上げて抱き上げると客車へ放り込む。

「せーのっ」

そして、ミハエルがどこから手に入れたのか、大きなレンチでボルトを回し始めた。

「くそっ、カッテェな」

「私も手伝うわ」

ミハエルとジャスミンさんが二人がかりでようやく少し動いた。

だけど、これではまだまだ時間は掛かりそうだ。

「ミハエルっ、早くっ」

「無茶言うなよっ」

顔を真っ赤にしてミハエルが声を絞り出す。

(そうだっ、ジルに連絡をすればっ)

イヤリングに意識を注ぐ。

(あれ?)

何も反応がない。

(ちょっとぉっ、必要な時にぃっ)

「うおおおっ、もうちょっとだぁぁっ」

「ミハエル、うるさいっ」

「ええええ?」

何かブツブツ言っているミハエルは無視して、僕は振り向いた。

(そろそろアイツが…)

ちょうど僕が振り返った時、男が車両に現れた。焦る僕らとは対照的に、立ち止まって観察するようにこちらを見ている。

「お嬢様っ、奴がっ」

男がゆっくりと近づいてくる。

「くっ」

ミハエル達を見るとまだもう少しかかりそうだ。

(このままじゃ、間に合わないっ)

「僕が止めるっ」

その言葉と同時に僕と男が同時に走り出した。

『ギイィィン』

車両の真ん中辺りで再び刀がぶつかって火花が散った。

「おおおおおおっ」

『ガッ』

男が振り上げた刀の先が天井につっかえた。

(今だっ、狭い廊下で相手も思い通りには太刀を振り回せない)

隙あり、僕は男の懐に飛び込もうとして…。

「うそぉっ?」

男が刀を力任せに振りきった。

天井が割れてそのまま床まで振り下ろす。

「冗談っ?」

男が続いて横に切り払う。

『ギャギャッ、ギャンッ』

今度は壁が割れる。

「もう…ちょっと…アオイっ、戻ってこいっ」

ミハエルが呼ぶ。

だけど、男とにらみ合ったまま、僕は動かない。

「…葵…まさか?」

「お嬢様っ」

ハルとアメがなにかを感じとったようだ。

(こいつを連れていくことは出来ないっ)

「ミハエルっ、そのまま連結具を外してっ。大丈夫っ、僕も必ず行くっ」

「そんなっ、お嬢様っ」

『ヒュッ』

男はこちらの都合なんて関係なし。刃が風を切る音に後ろを気にしてなどいられない。

「葵っ、ハルっ…」『ガギッ、ィイーン』

アメの切羽つまった声は、太いボルトが外れる音と刀同士のぶつかる音にかき消された。

『ピシィッ』

(まず…)

仕込み杖にヒビが入った。

「葵ぃぃぃぃ…」

後ろから聞こえるアメの声が一気に遠ざかっていった。

(みんなは逃げきれた…か。果たして刺し違えられるか?)

ホッとしたけど、ここからが問題だ。

「うわあっ、アオイっ、助けてくれぇっっ」

「えっ?」

声は後ろからする。男の動きに注意しつつ振り返ると連結部に人の手が。

「ミハエル?なんでっ?」

男はどういうつもりなのか動かない。

その間にミハエルを引っ張りあげた。

「いや、あのな…なんでだろうな…そうだ、俺だけじゃ…」

何かをミハエルが言いかけて黙る。

「何を言いかけたの?」

「いやぁ…その…そうだっ、ハルのやつがこれをアオイに渡してくれって」

なぜかしどろもどろにそう言ってミハエルが古びた刀の鍔を僕に手渡した。

会食の際に渡された小太刀の鍔は赤い宝石に飾られていたけど、今度は青い宝石で彩られている。

「ありがとう。よしっ、僕らも逃げるよっ」

鍔を掴んだ僕は再びフードの男に向かった。

『バシュッ』

「えっ?」

首筋が熱い。それに頭がクラクラする。

「な…にを…」

僕の最後の記憶はミハエルの笑う顔だった。

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コメント

なにこれ最高!

ヒャッハァやっと追いついたぁ!!
実は真実の鏡以外にも作品があることに後から気付いてすぐ読みはじめました。もぉおおどれも素敵にエロ面白いとですな! d(*´ω` *)ありがとうございますっ
葵くんちゃんいいですね!エロいのももちろんですが普段の天然可愛い姿と時折見せる凛々しくて芯のある側面が個人的にかなりツボにきてて気に入ってます。サブキャラも男女問わず濃くて魅力的な人が多くて素敵です。
今後の妖戦も楽しみに応援させていただきます!

Re: なにこれ最高!

>通りすがりの女体化好き様
感想ありがとうございます。
今後も出来る限り早く更新できるよう頑張ります!!

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