管理人ほう

管理人ほう

「大変だっ、ハンター達がっ」

ハンターが全員殺されたのはすぐに町に知れ渡った。

なぜすぐに分かったのか、それは彼らの死体がご丁寧に森の入口に捨てられていたからだった。

「町長がっ、町長がやられたっ」

そして、その日の夜、町長さんの家が襲われた。町長さんも命こそ無事だったものの深い傷を負った。

町中が大騒ぎになる中、僕は地下室の鍵を開ける。

(町長さん…僕が自分のことばかり考えていたせいで…力不足だったせいで…)

今の刀は数打ちのもので5体も切れば切れ味が鈍る。もっと切れ味が良い刀を使わなければいけない。

そもそも今の僕の腕ではあの銀狼相手に刺し違えることさえできないだろう。

だけど、たとえ銀狼でも一太刀入れることができればしばらくは動けないはずだ。そうすればギルドなり、王国軍が来るまでの時間稼ぎくらいはできる。

階段を下りて刀の前で意識を集中する。しかし、無情にも刀たちからは何も聞こえない。

(お願いだから何か言って…)

どれほど地下にいたか分からない。

ついに諦めようとした時に遠くから何かが聞こえた気がした。

ハッと顔を上げて耳を澄ませる。壁際から聞こえた気がした。

(この中の…どれ?)

一本ずつ見ていくがどうもそれらしいのがない。

(どこ?)

ふいに目を上げた時に壁に亀裂が入っているのに気がついた。

(まさか…)

僕は慌ててハンマーを取りに走った。


◇◇◇◇◇


『ゴッゴッゴッゴッ』

壁をハンマーで叩くとボロボロと崩れる。どうやら空洞になっていて壁の奥に小さな空間があるようだった。

さらに叩いて出来た穴から覗き込むと、これまでとは違ってはっきりした声が聞こえた。

(「やっと妾の声が聞こえる人間が現れたか…はよぉ抜いておくれ」)

(聞こえるっ、よおしっ)

声に導かれて壁を壊すと一本の太刀が蝋燭の薄明かりに照らし出された。しかし周りには幾重にも白い紙の紐のような物が囲んでいる。

「あ、あのっ」

(「おお、そなたが妾(わらわ)の主殿か?嬉しいのぉ、はよ、はよ妾を抜いておくれ」)

頭に響く色っぽい声。

「えっと…」

(なんだか封印されているように見えるけど気のせいかな?)

僕がなかなか動かないのを見て刀が焦り始めた。

(「何をしておるのじゃ?はよぉこの封印を解くのじゃ」)

ジトーっと僕は見る。

「あのぉ、今、封印って言いました?」

(「ぎくっ」)

「封印されるってことは、なにか良くない物ってことですよね?」

(しもたわぁ…なんて鋭い質問なんじゃ…妾としたことが一生の不覚じゃあ)

(「ん、ゴホンゴホン、妾はじゃな、えーっと…そうじゃっ、あまりに強すぎて封印されとったんじゃ。もし妾を抜けばお主も強ぉーくなるぞえ」)

僕はちょっと考える。

「抜いたら世界が終わるとか、町が消し飛ぶとかないですよね?」

(「もちろんじゃあ」)

「僕が死んじゃうとか、何かおかしな事になるとか?」

(「そっ、そんな事あるわけないじゃろっ、なっ、なにせ、刀とサムライは一心同体。お主が死んだら元も子もないからのー」)

(動揺してる?…うーん…怪しい…怪しいけど、背に腹は変えられないし。それに、せっかく声が聞こえたんだし)

「分かったよ」

そう言うと刀の周りの封印を取り外す。

そして刀の鞘を持ち、地下室の入口に戻った。

(「さっ、さっ、はよぉ抜いておくれ」)

「本当に大丈夫なんだよね?」

(「大丈夫じゃと言うとろうに。妾はそなたの運命の刀なんじゃからのっ。はよぉ、ほれ、抜いておくれ。先っちょだけ、先っちょだけでエエんじゃ」)

その声に唆されて僕はゆっくりと刀を抜いた。

美しい刀身が空気に触れた瞬間

「なっ、なにこれっ」

体が焼けるように熱い。

(騙されたっ)

骨が軋む。高い熱が出ている時のように関節が痛い。

「ぐっ、うわぁぁぁっ」

のたうち回ること数分、いや、数時間経ったのかもしれない。

ようやく体の痛みが治まった。

(「ほほう、想像以上になったの。これは歴代一位かもしれぬわ」)

刀の声が脳に聞こえる。

「うう…何が起きたんだ…」

(「主殿、妾の名前は『村正』妖刀村正じゃ」)

「何が『ムラマサじゃ』だよっ、一心同体とか言って、さんざん苦しかったよっ」

なんか自分の声がおかしいような気がした。

(「じゃが、これで主殿は強ぉなられたはずじゃ。耳を澄ましてみよ」)

(耳?)

「ジェイク、御門さんの家に行くのか?葵君の具合をちゃんと見てこいよ」

「分かってるよ、オヤジ」

まるですぐ隣で話しているように二人の声が聞こえる。

思わず周りを見わたすが、もちろんジェイクもおじさんもいない。

(「主殿の五感はこれまでよりも格段に上がっているはずじゃ」)

「確かに…」

僕は体を眺める…

(えっ?)

なにかいつもと景色が違う。

床が見えない。

(胸板が厚くなった?)

(「ほほほっ、面白いことを考える主殿じゃな。胸板が大きくなるわけないではないか。それは乳房じゃ。ち・ぶ・さ」)

(はいぃっ?)

僕は思わず二つの山を掴む。

『むにゅ』

「んあっ」

(なんだこれ…キモチいい)

(「主殿は妾の力を最大限利用できる体に作り変えられたのじゃ」)

(ええっ、ああっまさかっ)

股間を触るとアレが無くなっていた。

「ちょっちょっと何してくれてるのっ?村正ってばっ」

焦る僕に飄々とした調子で村正が言う。

「そんな大きな声を出さずとも、一心同体の妾と主殿は思念で会話くらいできるぞえ。ところで主殿、そろそろお隣さんが来るのではないか?」

「ああっ、そうだっ、どうしよっ」

大慌てで地下室から駆け上がると自分の姿を見る。

シャツを突き上げる双つの大きな膨らみ。

(うわぁ、どうしよ?隠しきれないよぉ)

隠すものを探し回った結果、結局シーツをベッドから引っこ抜いて体に被ったところでドアがノックされた。

「葵っ、いるか?」

「はいっ」

声が高い。しまった。

「あれ?」

ドアの向こうで訝しがる声がする。

ドアを慌てて開けるとジェイクが立っていた。

「…葵?どうしたんだ?シーツなんてかぶって」

「えっと…ゴホンゴホン、調子が悪くて」

そう言うとジェイクが僕の顔を眺めて、おでこに手を当てた。

「ひゃんっ」

ジェイクの手が触れただけで思わず声が出てしまう。

「おいっ、変な声出すなよ、全く…」

(「なんだか葵の顔が火照っていて色っぽいな…いやっ、いかんいかん、俺は何を考えてるんだっ」)

頭の中にジェイクの声が聞こえた。

「あー、ちょっと熱っぽいな。いや、町長さんがやられたって聞いてお前がまた無茶しないか見に来ただけだから。お前は気にせずしっかり休んでろよ」

そう言うとジェイクは帰っていった。

(ふー、何とかなったよ)

僕はその場で座り込む。

『トントン』

「ひゃいっ」

ドアが開く。

「そうそう、珍しいフルーツが手に入ったからおすそ分けだった。ん?どうしたんだ?」

ジェイクがそう言いながらドアを開ける。

「えっ、あっ、ありがとっ」

そう言ってジェイクからフルーツを貰い今度こそジェイクが隣の家に帰ったのを耳をすませて確認する。

それからひとまずベッドにシーツを戻しに行ってそのままベッドに腰掛けた。



次話 狼への反撃開始
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