目立つ二人

管理人ほう

村正を使っていないときでも僕は感覚が鋭くなったみたい。

視線を感じて目を向けると配達途中だったのか、荷車を停めたお兄さんと目があった。お兄さんはサッと目をそらす。
また、その隣を見れば女の子二人が僕らを見てヒソヒソと話している。
振り返ればオジさんがねちっこい目で僕を見ていたけど、すぐにラルフが間に入っておじさんの視線をシャットアウトしてくれた。

「僕ら見られてる気がするんだけど気のせいかな?」

「うむ、見られているな」

僕らはロゴスの門を潜ってからすぐにハンターギルドへ向かうつもりだった。門番さんに教えてもらったおかげで道に迷う心配はなさそうだったんだけど、歩く先々で視線を浴び続けていた。

(田舎から出てきたばっかりで目立つのかなあ?)

「何でだと思う?」

「うむ、人間の事は分からんな」

ラルフに聞いてもさっぱりで、僕は周りの人と自分の姿を見比べてみる。

(そんなに変だとも思えないけど…でも…そうだっ!)

「ラルフっ、先に服屋さんに行こう」

もうすぐギルドの建物が見えてくるはずだけど、とりあえず看板を頼りに服屋さんを探してみることにした。

「えっと…ブティックルナ?ここって服屋さんだよね?」

『カランカラーン』

「いらっしゃいませ~」

お姉さんがさっそく声をかけてくれる。金髪のふわふわした髪にそばかすがチャーミングな店員さんだった。
細身のズボンにヒラヒラしたトップスは見覚えがあった。

(さっきの女の子の着てた服だ!)

すごくオシャレな店員さんだし、ここで服を買えばきっと間違いないはずだ。

「どういった服をお探しですかぁ?」

(ど、どんな服!?)

僕はそもそも服にはこだわりがなかった。ケルネ時代も動きやすさ重視で飾り気のないものばかり着ていたし。ましてや女の子の服なんてさっぱりだ。

だけど目の前の店員のお姉さんは僕の返事を待っている。

(な、何か言わないと…どんな服?ええっと、服を買わないと…あれ?服って?服ってなんだっけ?)

テンパりすぎて訳がわからなくなる。僕がなにも言わないものだからお姉さんがちょっと怪訝な顔になって、僕の方はますます頭が真っ白になった。

「えっと、…その…あの……あっ!普通の服を下さい」

お姉さんが一瞬止まった。そして大爆笑。

(僕…変なこと言ったのかな?)

「キャハハハハハっ!!…ああ、ごめんなさい。普通の服って…くくくくっ」

(そんなに面白いこと言ったのかなあ)

「あ、あのぉ、なんだか歩いてたら周りの人から見られるんで…ぼ、私、田舎から出てきたから変な格好してるのかなって思って…お金ならあるんで目立たないような服を選んでもらえたら…」

一生懸命説明していると、やっと笑いが収まったみたいでお姉さんは僕らを順番に見た。

「やだぁっ、それはあなたたちみたいな美男美女が歩いていたらそりゃ見るわよぉ」

なんだか独特の話し方をする店員さんだった。

「美男美女?誰が?」

「いやねえ、謙遜しすぎは良くないわよぉっ」

(さすがは店員さん。お客さんをよいしょするのが上手だなあ)

「うーん、目立たないような格好に、ねえ。そんなの何着たって無理だと思うけどぉ…でも分かったわ、あなたたちにぴったりの格好をさせてあげるわっ!お姉さんにまかせなさいっ!」

そう言うとお姉さんは急に目の色を変えて服を選び始めた。

しばらくして試着するよう言われたので、僕は試着室に入ってワンピースを脱ぐ。すぐに『シャッ』と試着室のカーテンが開かれて店員のお姉さんが現れた。

「あらっ、まだだったのぉ…って、ええ!?」

お姉さんが止まる。

「…どうしたんですか?」

「あなたっ!どうしてブラジャーしてないのぉ??それにショーツも、それ男物じゃないっ!!」

(そっか…しまったっ、男だってバレるっ!)

「えっと…すっ、すみません。これまで父さんと二人暮らしだったから…」

僕はしどろもどろになって言い訳する。

(あちゃー、これじゃあ言い訳にすらなってないぞ)

どう言って誤魔化そうかと脳ミソをフル回転したけど、何も思い浮かばなかった…。
ところが、最初は驚いた顔をしていたお姉さんのその表情がにわかに曇った。

「あっ、そっそうなんだぁ。良いのよぉ、気にしなくても。お姉さんがちゃんと選んであげるからね!」

どんな想像をしたのか分からないけど、なんとなく可哀想な目で見られている気がする。

(うん、まあ、いいのかな…?)

「それじゃあ、まずは下着からね!って言っても測ったことないわよねぇ?」

お姉さんがニタッと笑って巻き尺をポケットから出した。

「はいっ、お願いします…ってあれ?お姉さんも試着室に入るんですか?あれ、なんでカーテン閉めるの?…えっ?そんなところを測るんですか…あっ♥️ちょっ…んん…♥️これって本当に必要なっ、はうっ♥️やっ、そこは自分でっ、んんっ♥️」

それからの事はあまり記憶がない。だけど試着室を出ていくお姉さんはホクホクした表情でなんとなく肌もツヤツヤになっていたような。そして、試着室にとり残された僕は何か大切なものを失ったような気持ちになったのだった。

「はい!バストサイズはFカップでしたぁ!しかもウエストなんて何これ、食べてるの!?って感じだしぃ、お尻は小さいのにキュッと上がって…」

もういいです、許してください…。

こうしてブラジャーの着け方を教えてもらって、ようやく服を選んでもらえた…のだけど。

「うーん、笑顔がすっごい可愛らしいんだけどぉ、キリッとした表情も魅力的だしぃ…こっちだとちょっとガーリー過ぎるかなぁ、でも、あんまりシックだに決めちゃったら綺麗すぎて近寄り難くなっちゃうのよねぇ」

そう言いながら渡してくれる服はどれもこれも上品で汚したりできなさそうな服だった。

(これじゃ戦えないんだけど…)

「あっ、あのっ、お姉さん」

「なぁに、アタシはマーガレットって言うのよ」

「マーガレットさん、僕…私は葵です。彼はラルフです。あのですね。ぼ…いや私、ハンターギルドに入る予定なんです」

「えええええっ!!そうなのぉ!?」

あからさまに驚くマーガレットさん。そんなに変かな?

「はい、あの、女の子でハンターって珍しいんですか?」

「うーん、そうでもないわよぉ。うちの店もハンターギルドが近いでしょう?だから結構来てくれる子が多いのよ。せっかくだからハンター用の服も揃えちゃう?あなたはどんな戦い方をするの?」

「えっと、防具はほとんどつけないんですけど、前衛で戦う感じです」

「そうねぇ…レンジャーのような感じかしら。それならこんなのはどうかしら?」

そう言って選んでくれた服は、茶色のショートパンツにベージュのシャツ、それに黒いニーソックスだった。

「ハンター用の服は材質が普通の服とは違うの。だから値段は倍くらいになってしまうのよぉ」

マーガレットさんの話によると、昔は防具を着る前提で下着のようなものしかなかったらしく、それが女性ハンターの悩みの種だったんだって。
そのため様々な努力の結果、今ではジャイアントスパイダーの糸やレッドボアの毛などを加工することで一般的な服と変わらずそれでいて戦いや旅に耐えうる素材が生まれたんだそうだ。

もちろんデザインだけでなくハンターとしての活動のしやすさも計算されており、着てみると動きやすい。

「いいわねぇ。よく似合ってるわよぉ。ついでにこれも上に羽織ってみて」

グレイのパーカーが渡される。

「日が落ちて肌寒い時なんてこれがあるかないかで全然違うわよぉ。それに水系の魔物の毛で編んでいるから雨具としても使えるし。あっ、ニーソックスも特殊な素材を使ってるから簡単には破れないしぃ。ちょっとした魔物の攻撃くらいなら通さないわ」

「おお!マーガレットさん…これすごく良いですねっ!」

(あれえ?)

僕は大満足なんだけど、マーガレットさんはちょっと不満げ。

「そう?こっちのほうが良いと思うけどぉ」

そう言って最初に試着したお嬢様のようなワンピースを推してくる。
そちらは却下です。そんな格好では戦えません。

ところで、気になっていたんだけど、マーガレットさんの出してくる服は妙に露出度が高い。僕としては慣れ親しんだシャツにワークパンツみたいなのが良いんだけど…。

「あの、今着てるのも買いたいんですけど、長ズボンを「ダーメ!!!」」

(え!?)

長ズボンを選んでもらおうとしたらマーガレットさんが噛みつくような勢いで僕の言葉を遮った。

「アオイちゃん!何言ってるの?目立ちたくないんでしょ?それなら私の言う通りにしなさい!」

ものすごい剣幕で叱られる。

「でも、マーガレットさんも着てるその細身のズボンとかオシャレで「ダメダメダメダメよぉ!!!」」

「何言ってるの!!アオイちゃんはスカートなの!!ギリギリ許せてショートパンツまで!!」

「え?」

どうして僕はスカートなんだろう。というか何で僕怒られてるの?

「とにかく、ダメなものはダメよ!!私が選んだのを買うの!!サイズはぴったりだから!!」

なんとなく腑に落ちないところはあるけど、あまりの勢いに流されて結局お会計してしまいました。おかしいな、僕がお客さんのはずなのに…。

気分を変えて、せっかくなので試着していたショートパンツとシャツ、パーカー姿をラルフに見せてみた。

「ねえ、ラルフ、この格好はどうかな?」

「ああ、葵は何を着ても似合うぞ」

(うん…ラルフに聞くだけ無駄だったね)

マーガレットさんが僕らの姿を見て、アツアツねぇと呟いていたのも謎だ。

それからラルフの服を選んでもらってお会計をした。こちらは下着にシャツとズボン、それにジャケットだけだからあっさり終わる。

「マーガレットさん、ありがとうございました」

「良いのよぉ、うちとしてもたくさん買ってもらったし。…そうそう、可愛いお得意様に寝る時用の服を一枚プレゼントするわね」

なぜだかマーガレットさん、ウフフフと笑いながら棚の奥から一枚の布を取り出した。

「これがパジャマなんですか?」

渡されて広げてみると、キャミソールなのかな?でも、どう見てもスケスケだし、下着みたいに見える。裾も股のあたりまでしか届かないんじゃないかな。

「アオイちゃん、これがロゴスのパジャマなのよぉ。女の子はみんなこれを着て寝てるのよぉ」

(そうなんだ、いつもTシャツとかで寝ていたから知らなかった)

「へぇ!…ありがとうございます!さっそく今日からこれを着て寝ます!!」

「うんうん、ひょっとしたら寝させてもらえないかもしれないけどね!ウフフ!!」

首をかしげつつ笑顔を返していると、どこからともなく拳が出てきてマーガレットさんの頭をポカッと叩いた。

「マギー、何嘘を教えてんだ?」

「いったぁ、あっ、アンナっ」

「そこのお嬢さん、この人の言うことは嘘ばかりだから注意したほうがいい」

背の高いショートヘアの女の人がいつの間にかマーガレットさんの後ろに立っていた。

「もうっ、アンナっ!せっかく夜のお供をプレゼントしようと思ったのにぃ!」

振り返ってマーガレットさんが涙目で文句を言う。

「何がプレゼントだ、プレゼントならもうちょっと使えそうなものをあげな!!」

「???」

僕は意味が分からず、二人のやり取りを見ていると、ショートヘアの美人さんが教えてくれた。

「あのな、寝巻きなんてTシャツでいいんだよ」

「え!?じゃあこれは何なんですか?」

せっかくもらったのにいつ着たら良いんだろう?そう思って聞くと、これまで堂々とした立ち振舞いだった美人さんが顔を赤くして、モゴモゴと口を濁した。

しばらくの間、そんな姿を楽しそうに見ていたマーガレットさんだったんだけど、ふと思い出したように僕に紹介してくれた。

「あっ、そうだぁ、アオイちゃん、この人はアンナって言って、ハンターなのよぉ」

「えっ、そうなんですか?」

(ハンターってこんなカッコいい人もいるんだ)

アンナさんはケルネにやってきたハンターとは何もかもが違っていた。アンナさんなら凛としていて騎士姿とか似合いそう。

そんなことを考えていたらアンナさんが目を見開いて僕を見ていた。

「まさか…アオイもハンターなのか?」

ガーン、「まさか」って言われた。

(そんなに頼りなく見えるのかなぁ?)

「えっと、これから登録に行こうかと…」

「ほう、では無事ハンターになったら一緒に仕事を受けようじゃないか」

「アンナはA級のハンターなのよ。わからないことは彼女に聞くといいわよぉ」

マーガレットさんが教えてくれる。

「ああ、なんでも聞いてくれ」

「いいんですか?ありがとうございますっ!」

いい人達に出会えたおかげで僕はこの街に入る時にスケベな門番から受けた嫌な気持ちを忘れることができた。

さて、店を出る段になって困ったことに気がついた。たくさん買いすぎてしまったのだ。このまま荷物を持ってギルドに行くわけにはいかない。

「マーガレットさん、アンナさん、お勧めの宿屋ってありますか?」

「そうねえ、この近くだと銀狼亭っていうのがご飯も美味しいしお値段もお手頃って評判よぉ」

「うむ。確かに、あそこの食事は美味いからな」

「わかりました。ありがとうございます。先に宿をとって荷物を置いてからハンターギルドに行ってみます」

お礼を言って僕らは銀狼亭に向かうことにした。

「銀狼亭だってさ、ラルフ。運命だね」

「俺は別にオーガでもドラゴンでもいいがな」

「でも、灰狼よりはいいじゃん?ふふふ」

二人に教えてもらったおかげで銀狼亭にはあっさりと着くことが出来た。外見は豪華ではないけど石造りの清潔そうな宿屋だ。

とりあえず、入口のドアを開けると「いらっしゃいっ」と奥からおばさんが出てきた。

「あのっ、泊まりたいんですけど、大丈夫でしょうか?」

「ええ、宿の方ね。大丈夫よ」

評判がいいって二人が言ってたから満室で断られるのを心配してたけど、これでひと安心。

「良かったぁ、えっと二部屋お願いできますか?」

すると、おばさんがチラチラ僕とラルフを見る。

「ごめんねぇ、今空いてるのがひと部屋だけなの。ダブルだから二人でも泊まれるけど…」

(どうしよ。まあいいよね?)

「えっと…分かりました。じゃあその部屋でお願いします」

おばさんはさすがは客商売。

何も言わず満面の笑みで部屋に案内してくれた。どうやら一階は食堂で二階が宿屋になっているようだ。

僕はおばさんについて一旦下まで降りる。

「えっと一泊素泊まりで一人6000イェン、2食の食事込で8000イェンよ、お風呂が使いたかったら先に予約してね」

そして、顔を寄せるようにして「うちは防音はなかなかのもんだから安心してくれていいよ」と言ってウィンクされてしまった。

「は…はぁ」

意味がよく分からず返事をしたらケタケタと笑われてしまった。

「じゃあ、食事付きでお願いします。えっと今日から3泊良いですか?」

「ええ、もちろんよ、じゃあ、先払いで48000イェンね」

僕は支払いをして部屋に戻る。

「荷物も置いたし、服もばっちりだし、よーし、ギルドに行くぞっ」
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