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ギルド入会試験

「これっ、なんの肉だろうっ、すごく美味しいっ」

僕らはその日の夕食にありついた。

田舎育ちの僕にとっては初めて食べるものもたくさんあった。

食べているとおばちゃんも

「あらあら、そんなにがっつかなくても無くなりゃしないよ」

そう言って呆れた顔をする。

周りの人も僕らのテーブルに注目していた。

「あれ?アオイか?」

「むは、ふぁんふぁふぁん」

「ほら、口の中のものを飲み込んでから話せよ」

「んん、ゴクン、アンナさん」

「相席いいかな?」

アンナさんは向かい合って座るラルフにひと声かけて僕の横に座るが、ほっぺたを膨らませてリスのようになっている僕の姿を呆れた顔で眺める。

「いえ、これが美味しすぎて」

「あらあら、嬉しいこと言ってくれるわね、アンナさんは何にするかしら?」

おばちゃんがアンナさんのオーダーを取りに来た。

「えっと、棒棒ドリのタルタルソースかけにしようかな」

「はいよっ」

そう言ってから奥の厨房に「ボーボー1ねー」っと声をかけた。

「ところで、アオイ、あんた実は凄いんじゃないかっ」

アンナさんが料理を待つ間話しかけてきた。

「えっ?」

「ギルドの職員からちらっと聞いたんだが、Bランクの新人が来たって職員の中ではちょっとした騒ぎになってるらしいぞ」

「あっ、そうなんですか?」

「そうなんですかじゃないよ、全く。驚いた新人さんだな。明日試験が行われるみたいだから今日は早めに寝とけよ」

「はぁい」

(ん?試験?)

試験のことは少し気になったけど食欲には逆らえない。再び僕は料理にぱくついた。


◆◆◆◆◆


「しかし…よろしいのですか?Bランク以上の力がありそうとはいえ、15、6の子供、それも女の子に行かせるのは危険だと思うのですが」

アーバインが眼鏡を人差し指で持ち上げてレオンに尋ねる。

「ふっ…大丈夫だ。俺の見立て通りならむしろ面白いことになるぞ、お前は…ああ、まだハンターになっていなかったから知らないかもしれんな。10年ほど前にミカドという名前のSランクハンターがいた」

「…知らないですね」

「だが、『鬼神』と言えば聞いたことくらいあるんじゃないか?」

「ええ、伝説のハンターですよね…まさかっ…?」

「ああ、そのまさかだ。俺がAランクになった頃、本当に一時だったが、数々の伝説を作っていた男の名前がミカド・マサノブ、登録はサムライだった」

「では…あの子が『鬼神』の血縁か何かだと?」

「そういうことだ。明日は俺も出張る。なあ、面白いものが見れそうだろ?」


◆◆◆◆◆


翌日、朝からギルドに向かう。

昨日の服と同じような格好で入口のドアを開けると人の山だった。

(朝はこんなに混むんだ…)

「おはよう、アオイ、ラルフ」

アンナさんが人ごみを縫って近づいて来ると早速声をかけてくれた。

「おはようございます」

「おはよう」

返事をすると、僕らの存在に気がついた周囲が潮を引くように静かになった。

(また注目されてる…)

はぁ、とため息をついていると昨日のアーバインさんと受付のお姉さん、それに知らない男の人が現れた。

受付のお姉さんは昨日あんなふうになっていたのが夢だったんじゃないかと思うようなきっちりとした服装と態度で二人の一歩後ろに立っていた。

僕らの前の人たちがどけてくれて道が作られて一番前列まで僕らは歩いて行った。

「おはようございます、葵さん。昨日の手紙の検証が終わりました。アオイさんの単独で18匹の灰狼、黒狼を倒し、銀狼を逃亡させた力はBランクに当たります」

僕を見て最初話し出したアーバインさんだけど、どうやら、これはみんなに向けた発表らしい。

周りから「おぉー」と野太い声が上がる。さらに「銀狼?」「Aランクの間違いじゃないのか?」「いや、Sランクだろう」などという声でざわめく。

「ただし、Bランク以上のルーキーはこの支部では初めてですし、Bランク以上になると様々な特権が付与されるため、そのまま与えるには他のギルドのメンバーにも良い印象を与えない可能性があります」

続けてそう言った直後「そうだそうだっ」「その経歴は嘘かもしれんぞっ」「あんなに可愛いのに」などヤジが飛ぶ。

ヤジが終るのを待って、アーバインさんが言葉を続けようとしたのを、隣にいた男が遮る。

「あー、俺はレオン、アオイにラルフだったか。俺がこの支部の支部長だ。可愛い女の子にはBランクぐらい、いくらでもやりたいのだが、そういうわけで試験をさせてもらうことにした」

聞き覚えのある声と名前。

(レオンさん、この人が昨日エッチしてた…)

そう考えると恥ずかしくて二人の顔を見れない。

「ん?どうかしましたか?」

アーバインさんが声をかけてくれたけど、「いえ、何でもないです」と答えた。

「それでは、試験の内容を発表する。昨日の時点ではウィリアムのパーティに任せる予定だったが、この街の北の山間部にある村がオークの群れに支配されている。アオイ、ラルフの両名でこれを殲滅してきてもらおう」

「おぉー」再びどよめきが起こる。

「ちょっ、ちょっと待ってください」

ところがその時、異を唱えるものが二人。

「ん?ウィリアムにアンナか?どうした?」

「ここのオークはラルゴの支部のCランクやBランクハンターでも失敗した案件です。オークよりもはるかに強い種がいることも推測されます。ですので、彼女たちがいくらBランクの使い手でも二人での殲滅は危険だと思います」

ウィリアムさんの言葉に、うんうんと頷いているものも多い。

「そもそも、オーク相手に女の子を行かせるなんて良くないだろ」

アンナさんの言葉には女性のハンター達が同意を示してギルドがざわつく。

『パンっ、パンっ』

手を叩く音。皆が前を向く。

「二人の意見はもっともだ。だが、それは心配いらん、我々もついていくからな、そうだ、Aランク、Bランクで手の空いているものは一緒に来い」

レオンさんの言葉で、二人の心配が払拭されたのか反論はそれ以上出ず、場が解散となった。

ぞろぞろと出ていくハンター達。女性のハンターからは「気をつけてね」と励まされて、男性陣からは色んな目つきで見られた。

僕らのところに来たのは先ほどのウィリアムさんとアンナさん、それに受付の女の人。

「本当に気をつけてください。一応僕も後ろからついていきます。危なくなったら逃げてくださいね」

それから声を落として「僕はオークの上位種のオークキングか、それ以上の種がいると踏んでいる。くれぐれも注意して」と教えてくれた。

さらにアンナさんが近づいてきた。

「大変なことになったね。いい?オークっていうのは女の体に種をつけて繁殖するから、アオイはまずいと思ったらすぐに逃げるんだよ。苗床にされるからな」

最後に受付の女の人が近づいてきた。

「昨日は名乗らず失礼しました。私は支部長付きの秘書のケイトです。こちらが依頼書と地図になります。私はたまに受付にも出たりしますので、お会いすることも多いかと思います。でも…危なかったら逃げてくださいね。後ろには支部長と支部長代理がおられますので、絶対に安心ですから」

(ケイトさんって思ってたより優しいんだな)

「いえ、せっかく試験をしていただけるので頑張ります。ありがとうございます」

僕らはそう言って支部長たちのところに行った。

「歩いて4日程の距離だが、今回は時間が惜しい。だからこちらで最高の馬車を準備した。明日の朝には現地に到着予定だ。では急がせて悪いが2時間後に北門に来てくれ」

「はい」


◆◆◆◆◆


一旦銀狼亭に戻っておばちゃんに宿泊を延ばしてもらうようにお願いした。

「ギルドに入るのに試験なんて聞いたことないけどねぇ。じゃあ、3日分延長ね。分かったよ」

僕がお金を払うと、「出発の前に寄っておくれ。お弁当を準備しとくよ」と言ってくれた。

一度ギルドに戻って水筒や携帯食料を買ってリュックに詰めると銀狼亭でおばちゃんからお弁当をもらって北門に向かう。



◇◇◇◇◇


「おっ、来たな。これで全員集合か」

北門を出ると既にレオンさん、アーバインさん、アンナさん、ウィリアムさん、それに知らない顔の男の人が2人いた。

「アオイさん、こちらの二人は僕のパーティのBランクハンターでイアンとポールです」

ウィリアムさんが紹介してくれた。

「初めまして、イアンです」「ポールだ、よろしく」

「初めまして、葵です。こちらはラルフです。よろしくお願いします」

そう言って僕も頭を下げた。

「来たぞっ」

レオンさんの声がして、頭を上げると砂埃を上げながら馬車が2台現れた。

かなり大きな馬車で僕らが乗るところは屋根もあって個室のようだ。それを4頭の馬が引いている。

「2組に別れて乗るぞ。アンナ、ウィリアム、イアン、ポールがそっちに乗れ。俺たちはこっちに乗る、さあ行くぞっ」


◇◇◇◇◇


馬車はなかなか快適だった。揺れは結構あるけど、椅子のクッションが衝撃を和らげてくれているのでお尻が痛くなったりはしなさそうだ。

馬車の中ではこれまでの経緯やオークについてアーバインさんから説明があった。

そして途中、何回か馬を交換しながらほとんど休憩なしに馬車は走り続けることで明け方には現場近くに到着するとのことだった。

『ヒヒーン』

「んあっ?」

慣れない馬車で長い時間揺られていたせいか、いつの間にかぐっすり眠り込んでいた僕は激しい揺れに目を覚ました。

「死にてぇのかっ?」

激しい怒号が聞こえて、僕と同じように目覚めたレオンさんが「何だ?」窓から外を確認する。

外から明かりが差し込んでいる。

(もう朝かぁ?)

後ろの馬車も止まって、ぞろぞろと僕らが降りると、若い男の子に御者のおじさんが怒鳴りつけていた。

「あー、どうしたんだ?」

レオンさんが御者のおじさんに尋ねる。

「あっ、起こしてしまって申し訳ねぇ。いやね、いきなりこの坊主が馬車の前に飛び出してきたんでさぁ」

そう言って少年を指さす。

「お願いだっ、俺も連れて行ってくれっ」

僕らの視線が少年に注いだのを感じ取ったのか、いきなり男の子が地面に座り込んで頭を下げた。

「あんたたち、オークを退治しに来たハンターなんだろ?ロゴスから来たんだろ?」

「なぜそう思うんだ?」

アーバインさんの眼鏡が光る。

「俺はオークに村が襲われてからずっとあいつらを見張っていたんだっ」

(オークに襲われた村の生き残りってこと…?)

レオンさんとアーバインさん、それにアンナさん、ウィリアムさんが集まって相談を始めた。

そして、少年が土地に詳しいこと、もし少年を連れて行かず勝手な行動をされては困るということで、馬車を置いてここから歩くことになった。

明け方に歩き始めて、村が目視できるようになるころ、少し暑くなってきた。

「アオイ、ラルフ、準備しろ」

レオンさんが声をかける。

「はい、それにしても暑いなぁ」

僕はパーカーを脱いでタンクトップだけになった。

そして水を取り出して飲む。

さぁ、行きますか、と思ったときに横槍が入った。

「おいっ、まさか二人だけで行くのかっ?」

例の少年だった。

「そうだ」

レオンさんが言うと、少年が胡散臭そうに僕らを見る。

「あんたらが来る前、もっと強そうな奴らが10人くらいで全滅したんだぜっ、なんでみんなで行かないんだよっ?」

「俺たちは後ろからついて行くさ。アオイ、ラルフ、俺たちが後ろからついて行って、囚われた女や隠れた奴は殺すからお前らはどんどん行け、ボスを倒して来い」

「はい」「ああ」

「おいっ、俺の話を聞けよっ」

少年が大きな声を出した。

「おい、坊主、素人は黙ってろっ、お前の声でオークどもに俺たちのことがバレちまうだろうがっ」

レオンさんの厳しい声がとぶが、それでも少年は何か言いたそうな顔で僕らを睨みつけていた。

「では、行ってきます」

そう言って僕らは村への入口の木の柵に向かった。
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