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2014/09/08

ロゴスでの日常

「魔石っていうのはね、魔力を含んだ石のことなんですよ」

ここはギルド内のカフェ。

ウィリアムさんと向かい合って座って僕は魔法の講義を受けていた。

ギルド証や家の風呂やキッチンに使われている『魔石』というのがなんなのかよく分からなかったので、誰かに聞こうとギルドに来たら偶然いたウィリアムさんが親切に教えてくれることになったのだ。

「そもそも、葵さんは『魔法』とは何かわかっていますか?」

「えっと…いえ…すみません、知りません」

(ケルネには魔法なんてなかったもんなぁ)

「『魔法』とは、この世の物理法則を超えた力の総称なのです。だから、魔術、精霊術、召喚術、陰陽術、その他全ての物理攻撃以外が広い意味では『魔法』と呼ばれています。だから『魔法使い』というのは総称に過ぎないのです」

「ふむふむ」

(じゃあサムライの使う特殊な力も『魔法』に分類されたりするのかな?)

「ですので、実際のところ、魔法使いの中には魔力のないものもいます。精霊の力を借りる精霊術や、幻獣を呼び出す召喚術などは精神力を使うと言います」

「へぇー」

「おっと、話がそれましたが、魔石というのは、この中でも魔術を使う人が利用する魔力を秘めた石なのです。例えば、私も体内に魔力を持っています。これは、その人の生まれ持ったものですので全くない人のほうが多いのですが、魔石を利用することで魔力のない人も魔術が使える訳です」

「じゃあ、魔石を持っていれば魔法使いになれるってことですか?」

「ええ、そうですよ。ただし、魔力があるだけでは何も起こりません。そこで僕ら魔術師は、術式というものを利用します」

「術式?」

「ええ、魔法陣と言った方が分かりやすいかもしれません。例えば…」

ウィリアムさんが指輪を外して見せてくれた。

「ここです…文字が刻まれているでしょう?これが術式と呼ばれていて、大昔から研究されてきた定形文なんです。通常はこれを魔力で描きます」

そう言ってウィリアムさんが指を横に動かす。

「?」

「魔力が見える人にはこれで文字が書かれているのが見えるんですよ。この指輪にはこの文字を目に見える形で刻んであるんです。そうすることで魔術が使えない人も魔石分の魔術が使えるというわけです」

(なるほどなぁ)

「魔石はなぜ出来上がるのかは解明されていませんが、一説には空気中にある魔力が長い年月をかけて石に宿るのだと言われています。さらに、100年ほど前に偉大な魔術師ガリアーニが魔力を込めることのできる石を発見し、今は高価ですがそれを利用した武器なども作られています」

「ウィリアムさん、ありがとうございます。とても分かりやすかったです」

「いえいえ、お役に立てて良かったです。それでは」

そう言って立ち上がったウィリアムさんに早くも別の人が話しかけていた。

ウィリアムさんに人気がある理由がわかった気がした。


◆◆◆◆◆


今日はアンナさんに誘われて、家に遊びに行くことした。

「ねえ、アオイっ、こっちも持ってぇっ」

マギーさんも行くというので、お店に寄ったら、大量の衣類をカバンに詰め込んでいた。

「えっと…マギーさん?これは…一体…」

「秋、冬物なのよ、アンナの家は…ってアオイは知らないもんね。きっと行ったらびっくりするわよぉ」

馬車を呼んで、荷物を乗せる。

「あはは、これじゃ、人が乗ってるのか、服が乗ってるのか分からないわね」

マギーさんは笑ってるけど、本当に座るところがないくらいだった。

外を眺めると、ロゴスの街の景色が見える。

(ケルネとは全然違うんだなぁ…城壁に囲まれて、地面は土じゃなくて石畳だし。家も煉瓦や石造りの家ばかりだもんね。人が多くて店も多いから面白いけど…)

「あのぉ、アンナさんの家ってもしかして西地区なんですか?」

外を見ていてふと気になったことを質問する。

「そうなのよ、珍しいでしょ…あっ、もうすぐ着くわよ」

西地区の中でも北の方に馬車が向かう。

そして…

「ふぇぇ」

僕は驚きすぎて声が出せなかった。

「えっと…これって…」

マギーさんが僕の驚く姿に満足そうに笑った。

「ねっ、驚いたでしょ」

アンナさんの家は、そもそも家と言っていいのか、まるで学校のような大きさだった。ギルドと比べてもこちらの方が大きいかもしれない。

「ここにアンナさんは一人で住んでいるんですか?」

「あはは、そんなわけないじゃない。アンナは自分のパーティメンバーをここに住ませているの。ただでさえ危険と隣り合わせのハンターでしょ、ましてや女性メンバーは…ね。だからアンナは住むところや食事を安く提供してあげているのよ」

そう言っている間に玄関前で馬車が止まる。

(何階建てなんだろ?)

そう思いながら見上げる。木で作られた温かみのある古い建物は本当に学校のようだった。

「さっ、アオイちゃん、荷物を出すの手伝ってっ」

そう言われて手伝っていると、玄関が開いて、何十人もの女の子が飛び出してきた。

「マーガレットさんっ、待ってたよぉっ」

「アオイさん、この間はカッコよかったぁっ」

黄色い声に囲まれて頭がクラクラする。

結局家に入ってもずっと話に花を咲かせていた。

「ここは?」

講堂?って思うくらい大きな部屋。10人くらいは並んで座れそうな長いテーブルが3脚置かれている。

「ここは食堂なのよ。だけど、今だけマーガレットさんのお店になるの」

マギーさんがてきぱきと並べていくのを眺めながら隣にいた女の子と話をする。

どうやら、マギーさんもアンナさんの考えに同調して季節ごとに安く服や装備をこの家のハンターに売っているらしい。

「安くっていっても、ちゃんと利益は出しているのよ。製造元から大量に購入して安く仕入れたり、古着も混ざってるしね」

いつの間にか僕の隣にマギーさんがいた。

「でも、こんな値段で買わせてもらえるのって嬉しいですっ」

さっそく並べられた服に目をキラキラさせて走っていった。

その時、入口からアンナさんの声がした。

「アオイ、来てくれたのか。すまないな、遅れてしまった。マギーも、毎度助かる。ありがとう」

女性ハンター達が口々に挨拶をする。

「どうだ?びっくりしただろう?」

「はい、すごい人数ですね」

「せっかくギルドが家をただで貸してくれるって言うから利用しないとな。一人前のハンターになるための講義や訓練もしているんだ」

「本当に学校みたいですね」

「ああ、この子らを育てるのは私の趣味みたいなもんだからな」

(アンナさんって偉いなぁ)

その後、みんなと一緒に食事をして僕は家に帰った。


◆◆◆◆◆


葵とラルフがロゴスに来て数ヵ月後のこと。


「本当にいいの?」

僕はラルフにもう先程から何度聞いたかわからない質問をする。

「葵、くどいぞ。早く切ってくれ」

「分かったよ、いくよっ」

『サク』

鋏がラルフの長い銀髪を切り取った。

きっかけはラルフが髪を切りたいと言い出したことだった。

「髪が長いと面倒だ」

それだけの理由で綺麗な銀髪を切れという。

(邪魔ってこともないと思うけど…)

一応マギーさんに聞いていたコツや方法を思い出しながらゆっくり切っていった。



◇◇◇◇◇


「ど…どうかな?」

鏡をラルフに向ける。一応耳を少し隠すくらいの長さにして、サラサラの前髪を真ん中で二つに分けてみた。

「ああ、いいな。葵は髪を切るのも上手だ」

「え?そうかな?えへへ」

そう言って照れていたら玄関の外からベルが鳴らされた。

「こんにちは~、ラルフ様の服を持ってきたわよ~」

「あっ、マギーさん」

玄関を開けてマギーさんが入ってきた。

散髪したラルフの姿を見て固まる。

「あれ?ラルフ様の綺麗な銀髪が…ああ…以前の貴族様のような長髪も良かったけど、今度はお姫様を守る騎士様のような…」

(え?マギーさん?)

マギーさんが一人の世界に閉じこもってしまった。ラルフが固まるマギーさんの手から服を取って部屋に運んでいった。

「ああっ…あれ?ラルフ様は?」

ようやく自分の世界から帰ってきたマギーさんがラルフが既にいなくなっていることに気がついて、僕の手を取る。

「葵っ、素晴らしいわっ、私の技術を教えた甲斐があったわねっ」

呆気にとられた僕の手をブンブンと振ってキラキラした目でマギーさんは何故かお礼を言って帰っていった。
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