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2014/10/03

謎だらけのミッション

王都アトラス。

人々が深い眠りについた静かな闇の中で王宮の城壁の脇にある勝手口が小さな音とともに開いた。

(おいおい、マジかよ…)

中から出てきたのはまだあどけなさの残る少女。

まるで酔っ払っているような、おぼつかない足取りで歩く少女の横顔を大通りに設置された街灯が薄く照らす。

その少女の足が不意に止まった。

(来たか?)

視線を少女の前に移してみれば、一人の男が立っていた。いつからそこにいたのか。最初からいたと言われればそんな気もする。だが、それまで誰一人として気づかなかったのだ。

(ビンゴッ、こいつは当たりだぜ)

黒いコートに白いフリルのついた長袖のシャツを着た男は、男でも見惚れるほどの美貌の持ち主だったが、その目は冷たく、人を嘲るような表情を浮かべている。

しかし、そんな表情の男の胸に吸い込まれるように少女が飛び込んだ。

「ん…はぁ…」

舌を吸われて赤く火照った少女の首筋に、男が優しく唇を寄せたその時、男の足元に松明が投げ込まれた。

二人の姿がはっきりと見える。

「そこまでだっ」

いつのまにか男と少女の周りを10人程の男女が取り囲んでいた。

「これ以上は王都で好き勝手させんぞ」

そう言うのは騎士鎧を着て美しい槍を持った壮年の男性。

「やれやれ、やっと姿を見せたか。だが、マジに王宮にまで入り込んでいるとはな。オヤジも歳とったもんだな」

ため息を一つついたのは赤い短髪の男、レオンだった。

「じゃかましいわっ、クソ坊主がっ」

男を囲むのは全てAクラスハンター。様々な支部からも集められた精鋭たちだ。

「おい、なんとか言ったらどうなんだ?」

「ククク」

レオンの声に対して、男は笑って、少女をハンター達の方に押す。

皆の目が少女に注がれた瞬間、少女の影が盛り上がって、その薄い胸を貫いた。

「あ…が…」

少女が倒れると同時に一番近くにいた騎士とレオンが突っ込む。

男は特に何もせずにふたりの動きを眺めていた。

『ズゴッ』『ドゴッ』

槍が胸を貫き、レオンの拳が頭を叩き潰した。男が膝をつく。

(おかしい…)

レオンの頭の中に疑問が生まれた。

(こんなにあっさりやれるはずがない)

その考えは果たして正しかった。

数秒後には再び無傷の男の姿が目の前にあった。

(何が起こった?)

今度は後ろにいた魔術師が指を動かす。

すると男の足元から轟音とともに激しい火柱が立ち上った。

そして火柱が消えた時、男の姿は無かった。

「燃え尽きたか?」

誰かがそう聞く。

「おそらく」

魔術師が答える。

(いや…そんな楽な相手ではないだろう)

レオンは気を緩めずに周囲を警戒する。

「うっ」

『ドサッ』

後方で誰かが倒れる音。

「円陣を組めっ」

再び気を抜きかけていたメンバーも戦闘態勢を取る。

「ククク、お前ら人間風情にはオレを殺すことはできない。せいぜい歯ぎしりして同胞が殺されていくのを見ているがいい」

男の姿は見えない。だが、声だけが闇の中から響いた。そして数人の犠牲者だけを残して男の気配は消えた。


◆◆◆◆◆


僕らがロゴスに来て半年が経とうとしていた。

冬が本格的に始まろうとしている。もう少ししたら雪がちらつくだろうと街の人たちが口にしていた。

僕らが暖炉に火を灯して居間でくつろいでいると玄関のベルが鳴らされた。

「はいはい」

(誰だろう?)

そう思いながら開けた玄関に立っていたのは白い息を吐くケイトさんだった。

「お休みのところすみません。ですが、緊急事態ですのでお願いに参りました」

「はあ…?」

とりあえず、居間に入ってもらって暖炉で温まってもらいながら、珈琲を入れた。

「で?どうしたんだ?」

ラルフがケイトさんに声をかける。

「実は…」

ケイトさんが語ったことによると、この町から南東に数キロ行った先にダンジョンがある。

とっくの昔に全階層が踏破され、今は弱い魔物がたまに発生する程度のもの。

初心者にとっては実戦経験を積むのにちょうど良いレベルだったそうだ。

そして、そのダンジョンに薬草を摘みに行く依頼を受けて、ウィリアムさんとアンナさんのパーティが合同で駆け出しの6人組のパーティを送りこんだんだそうだ。

ここまではよくある話で何の問題もなかった。だが、夜になっても駆け出しのパーティは街に帰ってこない。

さらに翌日の午後になっても彼らが帰って来ない事で、何かが起こったと判断したアンナさんとウィリアムさんがパーティ内でも腕利きの4人に最初の6人を連れ戻すように言って送り込んだ。

ところが、この4人も含め、丸一日経っても帰ってこない。

そこで、ギルド証で探索魔法を使って居場所を確認したところ、全員ダンジョンにいることがわかった。

そこで、ついにウィリアムさん、アンナさんの二人がダンジョンに向かった。

「まさか…」

嫌な予感がする。

「そうなんです。二人が発ってから既に2日目。あの二人が帰ってこないなんてありえないんです…」

ケイトさんが泣きそうな顔をしている。

(「ねえ、村正はどう思う?」)

(「ふむ…情報が少なすぎて何とも言えんが、あの女騎士を倒す奴がいるとしたら…これは主殿、気をつけたほうが良さそうじゃな」)

「支部長は?」

ラルフが尋ねる。

「今、支部長は王都を騒がせているヴァンパイアの退治に召集されていて身動きがとれないのです。そこで支部長代理のアーバイン様が強権を発動して救出部隊を派遣する事にしたのですが、あの二人以上の人なんてそうそういません。それでBクラスの中でも戦闘においてならAクラス以上とアーバイン様が評価されている葵様とラルフ様にお願いすることになったのです」

(でも、変だな)

「えっと、行くのはいいんだけど、そんな初心者用のダンジョンで問題が起こるとしたら、どういう可能性が考えられるの?」

「ええ、そうですね。妙なガスが突然吹き出したとか…それ以外だと、突如ダンジョンに高ランクの魔物が住みついた、とかでしょうか。ほとんどあり得ないのですが…」

(ふーん…よしっ)

「最優先は人命救助って事だよね?そうでなければ行かないよ」

「はい、お願いします。ただ………もし、救助が無理だと判断されたら帰ってきてください」

ケイトさんは辛そうに口にする。

考えたくはないことだけど、救助が無理、つまりは全員が既に死んでいるということだ。

「わかった。すぐに行くよ」

(アンナさん、ウィリアムさん…無事でいてよ)
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