HOME > 妖刀戦記 > title - ハンターとの遭遇
2014/10/04

ハンターとの遭遇

僕らはケイトさんを見送ると、すぐに準備を始めた。と言ってもダンジョンもこの町の近くだし、僕らは武器も防具もほとんどないようなものだからすぐに終わる。

ちょうど、マギーさんが試しに着て欲しいと言って持ってきてくれた紫のベロア素材のミニスカートに黒のニーソックス。一見寒そうだけどマーガレットさん曰く、とても温かい素材だから心配いらないらしい。上はさすがに寒いから、白い長袖のカットソーの上にダボダボの茶色のセーターを着た。その上からダッフルコートを着て、髪はくくらずニットキャップを被った。

ラルフもシャツの上にジャケットを着てその上からトレンチコートを着てハンチングを被る。

僕はリュックを背負って、ラルフもカバンを持って家を出た。

(近いといってもお腹は空くよなぁ)

「ラルフ、先に銀狼亭に寄ってから行こうよ」

そう言って銀狼亭に入ると、まだ仕込みの途中だったのにおばちゃんが出てきてくれた。

「あら?あんたたちもヴァンパイア退治かい?」

「いえ、違うんですけど?」

「なんか王都じゃ、今ヴァンパイアが現れたってえらい騒ぎみたいだよ。この間、ようやく追い詰めたのに逃がしちゃったんだってさ」

そう言って新聞を渡される。

お弁当を作ってもらう間に渡された新聞を読んでみた。既に多数の死者が出ているようだ。それについ最近は王宮内から死者が出たとか。

「ラルフ、ヴァンパイアって知ってる?」

「いや、名前くらいは聞いたことがあるが、実際に見たことはないな」

(「村正は知ってる?」)

(「妾は知っておる。かなり厄介な魔物、いや、魔族といったほうがいいかもしれんの」)

(「魔族って?」)

(「魔物は動物やオークのような奴らで、魔族はその上位くらいだと考えておいてくだされ」)

(「ふーん、じゃあ、ラルフは魔物?」)

(「いやいや、銀狼は魔物以上、魔族と同等の魔獣じゃな」)

(「それじゃあ、ヴァンパイアって強いんだね?」)

(「そうじゃな、奴らは特殊技能をたくさん持っておる上にほとんどが魔力を持っておるからの」)

村正と話している間におばちゃんが包みを持って戻ってきた。

「あいよ、出来たよっ、よくわかんないけど頑張っておいでっ」

「ありがとう、おばちゃんっ」

そう言うと東門を出て地図に従って街道を歩く。

途中で街道から小道に逸れると林道を進む。曲がりくねってはいるけど一本道だし、途中、魔物と言えるような魔物にも遭遇しなかった。

(これは確かに初心者にうってつけのダンジョンだなぁ)

そう思っていると、目の前に炭鉱のような入口が見つかった。その横には丸太で作られたロッジがある。

「ふん、ピクニックのようなもんだな」

ラルフもつまらなそうに呟いた。

一応内部の地図を見るためにケイトさんの持ってきた資料をめくると、元々は自然洞窟だったらしいのだが、ギルドによって所々手を加えられている、とのこと。

「中も魔石による明かりが灯っているんだって。1階層なんて道しるべまであるって書いてあるよ」

思わず笑ってしまった。まさにピクニックだ。

5階層が最奥らしい。

「だけど、アンナさんやウィリアムさんもここで消息を絶ったんだもん、きっと何かあるんだよね。気をつけないと」

(「主殿、気をつけよ」)

(「えっ、村正、何か分かったの?」)

(「まだ確証がないので言えぬが…」)

それだけ言うと村正は黙り込んだ。

「よし、とにかく行こう」

僕らは早速探索を開始した。

「ねぇ、ラルフ、何か感じる?」

僕が聞くとラルフは首を振った。

「いや…、この階層には何も感じないな。少なくとも大きな生き物の気配はない」

(魔物もいないということは、アンナさん達が倒したということか)

実際、歩き始めるとたまに魔物の死骸が打ち捨てられていた。既に他の魔物に食われたようで白骨化しているものもある。

「これって行方不明のパーティが倒したのかな?」

「ああ、おそらく最初のパーティだろうな」

3階層まできたところで、ラルフが僕を止める。

「むっ、生き物が動く音がする。おそらくこの階層、葵、地図を貸してくれ。…4階層への階段付近だ」

「人間?魔物?」

「おそらく、2人いる。匂いは…知らない人間のようだな」

「じゃあ、アンナさんやウィリアムさんじゃなくて、最初か2番目に行ったパーティの人かな?あれ?だとしたらおかしいなぁ…なんで二人でいるんだろう?怪我でもしたのかな…うーん。ここで悩んでいても仕方ないか、ちょっと急ごう」

そう僕はラルフに言って足早に進む。

「やっぱり人間?」

気になってラルフに確認する。

「ああ」

ラルフが少し匂いを嗅いで首を傾げる。

しばらく薄暗い洞窟を歩いているとラルフが僕を止めた。

「4階層にアンナとウィリアムの匂いがする」

「え?それはおかしいよ。だって、もうすぐ人とぶつかるんでしょ?」

「ああ、なんで一緒にいないんだ?」

そう言っている間にもどんどん距離が縮む。

「このまま行くとその突き当たりを曲がったところで鉢合わせるぞ」

「了解」

僕らは曲がる手前で足を止めた。

『コツ、コツ、コツ』

足音が近づく。

一応僕も村正を出して待った。

魔石の光によって伸びた影が壁に映った。

そして、一人の青年が姿を現す。

光が弱く、表情はあまり見えないけど、怪我はしていないようだ。鉄の胸当てをつけて剣を握り締めている。

僕は声をかけようとした。

「えっと…あなたは…っと、うわっ」

いきなり剣が振られる。

(危ないっ)

それをバックステップで躱して村正を抜いた。

「ちょっ、ちょっと、僕はギルドのハンターだよっ」

魔物と間違えられているのかと思ってそう言ってみたけど、相手からはなんの変化も感じられない。

(おかしいな…耳が聞こえていないのかな?)

『ギンッ』

青年が振り下ろしてきた剣を村正で受け止めて様子を観察する。

青年の目はどこか虚ろで焦点が定まっていないように見える。

「ラルフっ、なんか変だよっ」

「分かっている、葵っ、殴っていいか?」

ラルフももう一人の剣士の攻撃を躱しながら返事をした。

「ちょっと待って、読んでみる」

僕はそう言って相手の青年の心を見た。

(あれ?何も見えない…)

「ラルフっ、何も見えないっ」

混乱しかけた僕にラルフは冷静だった。

「葵っ、一度退却するぞっ」

「了解っ」

逃げ出そうと振り返った瞬間、目を疑う。

目の前には何もなかった。それまで歩いてきた道も壁も天井も無く、ただ真っ暗な闇が広がっている。

「うわっ、なんだこれっ?」

「くっ」

呆然としている暇はない。後ろからは先ほどのふたりがゆっくりと近づいて来る。

「仕方ない、突破してアンナさん達と合流だっ」

僕は一人の足を引っ掛けて転ばすとラルフも同じように相手を倒して階段に走った。

「ちょっ、あれ絶対変だよっ。どうなってるの?しかも真っ暗だしっ、ラルフっ、あれってトラップなのかな?どうしよう?」

走りながら叫ぶように僕が言う。

「葵、ちょっと落ち着け。考える必要がある。葵が何も読めないってことは、彼らは死んでいるということなのか。だが、さっき倒したときには死体のような感じはしなかった」

「目が完全にイってたよ、薬?毒物?変なキノコでも食べたのかな?」

(「いや…これはおそらく…」)

村正の声がした時、階段に到着した。
関連記事

コメント

非公開コメント