ヴァンパイアと拘束

『パチン!』

「あっ♡」

指を鳴らす音が耳の端で聞こえたかと思うと僕の体の中を圧迫していたものが消えた。

「何でもする、と言ったな?」

「はぅぅ♡……ん♡」

まだオークの媚薬が残っているせいで頭がぼんやりしたまま僕は頷いた。

「うむ、そうかそうか」

金髪の男が満面の笑顔を見せる。

「やはり誠意というのは大切だな。相手を思いやり、喜んでもらおうと努力することで人と人は分かりあえるのだ」

それからも男はいかに自分が僕のことを理解しているかを繰り返しつつ、この臨床実験(実験だった!?)によって、触手の能力などがはっきりしたことに感謝されてしまった。

そうこうしている間に僕の体も落ち着いてくる。

「あのぉ、それで僕に何を要求するの?」

男の話は触手の製作におけるトライ&エラーの詳細に入って、いつになっても終わりそうにないので僕の方から話を変えてみた。

「うむ、そうだった、そうだった。だが、せっかくだからもう少々私の誠意を伝えておきたい」

「………え?」

今、なんて言った?

「なに、そう遠慮せずとも良いのだ。触手のデータまでとらせてもらったのだ。今後のことも考えればこの程度では私の気持ちが収まらんのだ」

(『気持ちが収まらない』って、『エッチな気持ちが』ってことじゃないよね。この人完全に僕のことを誤解してる…)

「葵が『気持ちよく』私に協力してくれるよう、ここはしっかりと尽くさせてもらおう」

ドヤ顔を僕に向けてくるのがちょっと、いや、すごく面倒くさい。

(『気持ちよく』とか…うまいこと言ってるけど、そういうことじゃないよ!)

触手が体から抜けてだいぶマシになったとはいえ、オークの媚薬の効果はまだ残っているのだ。

「いっ、いや、充分!充分気持ちは伝わったから!」

男は僕をじっと見て、何度も頷く。

「うむうむ、分かっている、分かっているぞ。確か、王都で流行っていたのは女騎士が敵に犯されるシチュエーションだったな。…こんな感じか?」

男はわざわざ嘲るような表情を浮かべてみせた。無駄に顔が整っているせいでそんな表情も様になる。

(って、全然違うぅぅぅ!王都って、こんなワケわかんないのが流行ってるの!?)

僕の中の王都はもはや魔境のような場所だ。

「ちょっ、そんなこと、やんなくていいからっ!」

「体はそうは言っていないようだが?」

男はニヒルに唇の端を持ち上げた。
これまた一部の女の子がうっとりするんじゃないかって表情だけど。

(僕はそんな趣味はない!)

「ちょっ、もう拘束とかしなくて良いから!早く離してっ!怒るよ!」

僕が力の入らない両手を動かそうとしていると男は我が意を得たりと、目を輝かせた。

「クハハハハ!!そう簡単に逃がすと思ったか?」

そして、耳元に唇を寄せてきた。

「ここで『くっ、殺せ!』とか言うんじゃないか?」

(?)

「くっ、殺せ…!?」

僕が意味がわからないままに言われた言葉を繰り返すと、男は嬉しそうに続けた。

「クックックッ、まあそう焦るな。せっかくだ。死ぬ前に存分に楽しませてやろう!騎士にとっては死ぬよりもよっぽど屈辱かもしれんがな!」

屈辱、という部分にやけにアクセントをつけてチラッとこちらを見る。

(いやいやいや、ちょっと意味がわかんない!)

「では、始めるぞ!」

男の言葉を皮切りに空中に浮かんだままだった僕の体が仰向けにされた。

「ふぇっ?」

さらに、ご丁寧にちょうど男の腰の高さに合うように位置が調整される。

「そら!」

割れ目に冷たい肉棒の先があてがわれて、食い込ませたまま上下に割れ目の上を擦る。

「ふぁぁっ♡」

オークの媚薬の効果はまだまだ残っていたのか、たったそれだけで体の奥が熱くなってしまった。

「上の口では嫌だ嫌だと言いながら下の口は悦んでいるではないか!」

「ちっ、ちがうっ!これは媚薬のせいっ、んあっ♡」

男はいつの間にか手に紙とペンを持って何か書き込みつつ、そのくせ器用なことに口調だけはキャラを忘れない。

「では、そろそろお前のオマンコに種付けしてやろう!」

「いっ、やっ♡んっ♡」

『ヂュプッ』

肉棒がゆっくりと入ってくる。

「んっ♡あっ、ああっ♡♡」

「ほう!あれほど触手に犯されていた割りに、入口は生娘のようだ!だが…!むう!そのくせ中は柔らかくしっとりと締め付けてくるぞ!」

嘲るような口調と違って顔は真面目そのもの。
感想も妙に説明的だし、観察されてるみたいで、ある意味でこっちの方がよっぽど恥ずかしい。

「いっ、いわないれ♡はずかしいからぁ♡♡」

「クハハハハ!そんなことを言われてやめるはずがないだろう!!」

「クハハハハ」とか言いながら顔は真顔。不気味を通り越してむしろ凄みすら感じる。

「今度はお前の方から動いてみせろ!」

「ぇ…そんなのむりじゃ…」

僕は空中で体が拘束されているせいでもちろん動けない…と思ったら、僕の体が勝手に前後に動き始めた。

「あっ♡んんっ♡らめっ♡うごいちゃ♡」

「何が無理だ?自分から動いておいて!クククク、あさましい体だな!」

『ヂュブヂュブヂュブヂュブ』

僕ら以外誰もいない部屋に粘液の撹拌される音が響く。

「あんっ♡あっ♡あっ♡あっ♡らめっ♡うごくのらめっ♡」

男も僕の動きに合わせて腰を振り始めた。肉棒の先がこれまで以上に強く膣奥にぶつかる。

「どうだ!奥に当たっているのがわかるだろう!」

「わかるっ♡おくっ♡あたってるぅ♡」

触手も気持ち良いところを的確に突いてきたけど、肉棒の太さ、固さによる快感には勝てない。

「どうだ!チンコに負ける気持ちは!」

耳元で「悔しい、だろう?」と言われて、またよくわからないまま繰り返す。

「くやしぃっ♡くやしぃよぉ♡♡まけちゃう♡おちんちんにまけちゃうよぉ♡」

男は満足げに頷いた。

「やぁっ♡ああっ♡だめっ♡あっ♡あっ、くるっ♡あっ♡おかしくなりゅよぉ♡♡」

絶頂に達した僕の膣は激しく肉棒を締めつける。

「さあ、これで最後だ。私のモノになるがいい」

そう言って男が僕を抱きしめて腰を振る。

「あああっ♡らめっ♡いまっ♡あっ♡はうぅっ♡♡イってるのぉっ♡やだっ♡いくっ♡いくいくいくっ♡いくのとまんないっ♡とまんないよぉっ♡♡」

一番奥の壁を擦る肉棒が大きく膨れ上がって、また絶頂の波が近づいてきた。

「んああああっ♡♡♡おっきいいいいっっ♡♡とんじゃうっ♡とんじゃうよぉっ♡♡♡」

と同時に首筋に男の熱を帯びた息がかかった。

『プツ』

首筋に小さな痛み、体の感覚がこれまでになく鋭敏になる。

「んああああああああああああっ♡♡♡」

『ドピュッ、ドピュッ、ドピュッ』

「いやぁぁぁぁああああああああっ♡♡♡♡」

体の奥に受ける精液の感触がダイレクトに頭に響く。

全身が痙攣して脳内の神経が焼き切れるほどの快感に僕は意識を失った。

◇◇◇◇◇

私は痙攣が終わって、意識を失った葵を床に下ろした。

(ふむ、なかなかデータも取れたな。それにしても少々やり過ぎたか?)

オーク触手の臨床実験は私も初めてだったが、精神が壊れていないか不安になるほど葵の絶頂は激しいものだった。

(血を吸ったのは失敗だったかもしれんな…)

そう分析しつつ、今度は視線を眠る銀狼に向ける。

(これほどの銀狼を従える人間…近くで観察してみたいものだ)

さて、と振り返ったところでぎょっとした。

先程まで意識を失っていた葵が裸のまま抜身の刀を手に立っていたのだ。

(あの状態で立ち上がるとは…これはまた面白い!)

一瞬驚いたものの私はすぐに冷静さを取り戻した。

(驚かされたが…血を吸った時に暗示をかけているからな。私に危害は加えられない…)

『ヒュンッ』

刀が空を切った。

(?)

なにやらブツブツしゃべっている。

「さっきと逆…縛るイメージで…」

「何を言っているんだ?」

葵がこちらを見た。

(むっ、暗示が…?)

その瞳からは暗示に掛かっている者特有の色が消えている。それと同時に私の体が全く動かないことに気がついた。

(むっ?これはまさか…)

葵はそのまま刀を私の首筋に当てた。

「うまく…いった…?」

そう言うと刀を無造作に横に振った。

(…そうか…葵はどういうわけか暗示を解くことが出来るんだったな…私としたことが…だが…これは………面白い!)

私は胴から離れて霧となった頭が元に戻るのを待って、葵に話しかける。

「葵」

私の呼び掛けに、子首をかしげていた葵が顔をあげた。

「葵、聞こえているか?」

3度目でようやく葵の目に光が戻ってきた。

「ん…んぁ…あれ?……って…僕の服!」

葵は今さらになって自分が全裸であることに気がついて床に落ちた自分の服をかき集めて、それが布切れになっていることに衝撃を受けていた。

「あぁ…僕の服…どうしよぉ…」

それから部屋の中をうろうろして、私の着替えのシャツを見つけてきた。
どうやら自分の服は諦めて私のシャツを着ることにしたらしい。
下着はないが、私と葵では体格差で太腿の半分くらいまでは隠れている。

(やはり先ほどの力はまだ完全ではないということか…戦いの最中の成長とは、これはますます面白い)

「なあ、この呪縛を解いてくれないか?それと、銀狼のように私を近くに置いてくれないか?」

シャツの袖を捲っていた葵が顔をあげた。
今度は私の言葉を理解したようだった。

「どうして?」

「葵にもその刀にも興味があるからだ」

そう言うと、葵は一瞬ぽかんとした顔をした。
驚いたせいか、片方の肩が丸見えになっていることにも気づいていない。

「何それっ?さっきまで僕にあんなことしといてっ!」と、最初は威勢が良かったが、すぐに「あれ?でもあれって僕のこと誤解してたから…?…でもでもやっぱり…」と先程までの自分の痴態を思い出したのか、顔を赤らめてゴニョゴニョと口ごもっている。

やり過ぎた感もあるが、あれは葵の願望に合わせたものだし、実際、葵はたいへん悦んでいた。

「とっ、とにかくっ…そっ、そうだっ!ハンターのみんなを操ってたし!王都でたくさんの人を殺した奴を助けるわけないよ!」

「ふむ…なるほど。だが、私は人間達を全員生かしておいたのだ。簡単に殺すこともできたのだぞ?それに、『王都』と言ったか?私はこの一ヶ月、ここから離れたことはないが、何かあったのか?」

そう言うと葵の顔に疑問が浮かんだ。

「何言ってるの?あなたはヴァンパイアなんでしょ?」

「ほう、知っていたのか」

「だって、今、王都で有名だよ」

王都で有名なヴァンパイア。
私も長いこと王都に拠点を構えていたが、少なくとも私は人間の社会に溶け込んでいた。だから私のことを知っているものはごく少数だ。

だとすると…。

「王都でいっぱい人を殺してるヴァンパイアでしょ?」

「ちょっと待て、何か勘違いしているようだ」

私が一つの結論に到達した時にダンジョンの岩壁に声が響いた。

「クククク、ようやく見つけたと思ったら愚かな人間とともにいるとはな…」