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ヴァンパイアの決闘

「クククク、ようやく見つけたと思ったら愚かな人間とともにいるとはな…」

空間に黒い霧が舞う。

(あれ?どういうこと?)

僕はきょろきょろと周りを見渡す。

ヴァンパイアの表情が硬くなった。

「葵、私の拘束を今すぐ解くんだ…お前では勝てない」

(え…?)

ヴァンパイアが今度は銀狼に向かって叫んだ。

「おいっ、主人を守れっ」

その言葉と同時にラルフが目を覚ましたようだけど、ラルフが動く前に、僕の目の前に黒い霧が人を形作る。

ストレートの腰まで伸びた長い黒髪。フリフリのついたシャツの上に黒い足元まであるコートをマントのように着た男が姿を現した。

「だっ、誰っ?」

「ククク、俺がお前の言う王都で何人もの血を吸ってきたヴァンパイアだ」

金色の目が光る。

(え?どういうこと?)

「グオオオオッ」

ラルフの頤が男の上半身を食いちぎっていた。

「銀狼、時間を稼ぐのだっ」

「オマエノ、サシズニハ、シタガワン」

唸り声とともにラルフが返す。

「葵っ、今のうちに早く私の拘束を解けっ、お前や銀狼も殺されるぞっ」

「えっ?あれ?…」

戦いの場で判断ミスが命取りになることはアンナさんの槍をラルフが受け止めた時に十分わかったつもりだったのに、状況を掴めていない僕はどうしていいのか分からず動き出しが遅れた。

『ドスッ』

「グォォ」

振り返ると影が浮き上がってラルフの脚に突き刺さっていた。

「ラルフっ」

それを見て、呆然としていた僕もようやく戦闘態勢になる。

目の前には余裕の表情で元の姿に戻った男がいる。

(今なら…)

村正の柄に手をかけた僕に金髪のヴァンパイアの声が届く。

「だめだっ、それでは傷つけられんっ」

今まさに抜刀しようとしていた僕の手が止まる。

「クク、始祖の直系ともあろうものが人に拘束されるとはな。動けないならちょうどいい、始祖様の力をいただこうか…」

身構える僕からくるりと背を向ける黒髪のヴァンパイア。

影が数本細く尖って、金髪のヴァンパイアの体を串刺しにした。

「ぐふっ」

黒い霧が黒髪のヴァンパイアのもとに集まり、吸収された。

「おおっ、素晴らしい力が流れ込んでくるぞっ、これが始祖の力か…」

「なっ…」

葵が驚いた目でこちらを見る。

「あ…おい…お前では…勝てない…早く…拘束を…」

もう、迷っている時間はない。

僕は、鎖を外すイメージをした。

「うっ」

金髪のヴァンパイアが崩れ落ちるように四つん這いになる。

「はあ、はあ、はあ」

それを見下ろすように立つ男。

「ククク、犬のように這いつくばって、ああ…、惨めだなあ。始祖の直系様よ」

「はあ、はあ、お前が噂の『狂犬』だな。同胞を殺して力を手に入れたか」

金髪のヴァンパイアが睨みつける。

「これで俺は一族のトップに立つのだ。散々馬鹿にしてきたこの俺にお前らが跪く姿が目に浮かぶぞ…ククク」

「お前のようなものに一族が束ねられるとでも?」

「何とでも言うがいい。どうせお前はこれから俺の糧となって死ぬだけなのだからな」

二人の会話から、どうやら後から来た黒髪のヴァンパイアの方が悪いのはわかった。

(何とかしないと)

僕が黒髪を拘束しようと意識を集中しようとするのを、金髪のヴァンパイアに止められた。

「葵、行けっ。これは我々一族の問題だ」

「で、でもっ」

僕は言いよどむ。

「お前はウマそうだからそこで見ていろっ。能力によっては死ぬまで飼ってやってもいいぞ」

そう言うと黒髪の瞳が輝いた。

金髪の瞳も輝き、同時に、激しい轟音とともに衝撃が僕らを襲った。

「うわっ」

顔を腕で覆って、隙間から見ると、二人の姿がない。

『ギンッ、キンッ、ギャンッ』

激しい剣戟の音。

(上かっ?)

見上げると天井近くでお互いが闇を背負って、その闇から刃を出して打ち合っている。

しかし、押されているのは金髪だった。

徐々に黒髪の放つ闇の刃が金髪の体をかすり始めた。

「ぐっ」

かすった場所から黒い霧が出て黒髪に吸収されていく。

そして、ついに刃が金髪の腕を切り裂いた。

「ぐぅっ」

『ドサッ』

金髪のヴァンパイアは僕らがいるのを見て驚いた顔をした。

「なぜ、まだいるのだ。私は逃げろと言ったはずだ」

僕が駆け寄ると、顔を覆う金髪の下から呻くように言った。

「だって、あなたは悪くないんでしょ?だったら、あいつをやっつけないと」

驚いた表情で金髪のヴァンパイアが言った。

「馬鹿な人間だな…。いいか、私を拘束した、あの力は使うな。使ったら最初にお前が狙われる。今のところ奴の意識は私に向いているからその間に魔石をあの魔法陣に突っ込め。そうすれば奴に必ず隙ができる。私の合図で葵、お前が奴を斬るのだ」

「分かった。じゃあ、ラルフ、魔石をお願い」

「ワカッタ」

ゆっくりと降りてきた黒髪のヴァンパイアが嘲る目で僕らを見ていた。

「雑魚どもの作戦会議は終わったか?」

「おおおぉぉぉっ」

金髪のヴァンパイアの雄叫びとともに、背後に真っ暗な闇が広がった。そして闇の中から刃が無数に展開される。

「ふぅ。力を失うと、これほど弱くなるものか」

黒髪の背後には金髪の数10倍の刃が現れた。空間を埋め尽くす刃にぞっとした。

「では、死ねっ」

そう黒髪が言った瞬間。

「今だっ」

ラルフが走り、魔法陣の近くにあった魔石をぶちまけた。

そのうちのいくつかの魔石が魔法陣の内側に入る。

『カッ』

魔法陣が激しく光る。

(眩しいっ、なにが起こってるの?)

うっすら目を開けてみると、激しい光の中で、今にも金髪の命を奪おうとしていた闇の刃が一瞬にして消えた。

「うっ、この光はっ」

光に慣れた僕の目の前で黒髪のヴァンパイアが何が起こったのか分からないという顔で立ちすくんでいる。

「葵っ」

金髪の声。僕はその声を合図に走り込むと、黒髪の体を両断した。

「はぁ、はぁ…」

眩しい光が消えると同時に黒髪の傷口から金髪の体に黒い霧が移る。

ラルフが僕のもとに来る。

「はあ、はあ、はあ、はあ」

膝をついた状態でヴァンパイアが僕を見る。

「どうやらお前たちに助けられたようだな…」

「僕らは何もしてないよ」

「いや…まあいい。ところで、葵、お前はとても興味深い。ちょっと調べさせてくれないか?」

「ええっ、やだよっ」

「そう言わずに、悪いようにはしない。…そうだな、ではお前たちについて行く事にしよう」

「えっ?えっと…」

僕はラルフを見上げる。

「アオイノ、スキニシタライイ」

低い声が聞こえた。

(「主殿、面白いではないか。ヴァンパイア一族は長いあいだ生きておる分、様々な知識を与えてくれるかもしれんぞえ」)

(「うーん、まあ、悪い事と言っても全員無事だったし、実際この人がいなかったらヴァンパイアを倒すこともできなかったし…」)

「じゃあ、名前を教えて」

「ジル・ヴラドだ」

「わかった。僕は葵・御門、彼はラルフ・シルバーね。よろしく、ジル」

「よろしく。葵、ラルフ君」

こうして僕らは新たにヴァンパイアのジルという仲間を得ることになった。


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