管理人ほう

管理人ほう

「何これ?」

紙袋から服を取り出すと僕は頭をひねる。

ことの始まりは、僕らがギルドメンバー救助の報酬を貰ってから数日後のこと。その日は今年最後のAランク、Bランクの会議がギルドで行われることになっていた。

ロゴスの支部は一つ一つのパーティが大人数だ。特にアンナさんやウィリアムさんのパーティは人数が多いこともあって、この会議には依頼をある程度振り分ける目的がある。

それに、ギルド本部からA、Bランクへの依頼があったり、名指しの依頼などもここで情報を共有することで、結束をはかる意味も有るらしい。通常は月の終わりにあるんだけど、今回は年の暮れが近いということもあり、ちょっと早くに行われることになっていた。

今年最後だからギルド員たちもできる限り集まる(その後忘年会をするとか)と聞いたので、僕はこの機会にジルをギルドメンバーにしようと考えていた。

「あっ、せっかくだし、こないだお礼にもらった服を着ていこうかな」

僕はこの間救助のお礼に渡されたプレゼントを着ていくことにした。

袋を覗いただけだったけど、服みたいだったし、「見せてください」って言われていたもんね。

そう思って取り出してみたら不思議な服だった。

白いブラウスと黒の膝上丈のワンピース?それにエプロンと白いニーソックスにカチューシャが入っていた。

(なんだろう??)

そう思いながらもとりあえず着てみた。

部屋を出て、リビングに入ると、ジルとラルフも服を着替えて、コーヒーを飲んでいた。二人はジルが、三つ揃いのスーツ。ラルフはシャツにジャケットだった。

「ねえ、これ、どう思う?」

僕の質問にラルフはいつもどおり、「よく似合うぞ」と言ってくれたけど、ジルは笑いをかみ殺している。

「ねぇ、ジルはどう思う?」

「ふっ、イイんじゃないか?」

「変じゃない?笑ってるし…」

「いや…くくっ、似合いすぎて笑ってしまっただけだ」

(なんだろ?まぁいいか…)

「そういえば、ラルフは救助のお礼に何もらったの?」

「ああ、俺はこのジャケットだった」

「そう…じゃあ行こう」

そう言って家を出ると、僕らを見る人たちの目がいつもより更におかしかった。

どうおかしいかっていうと何とも言えないんだけど、生暖かい目っていうか。一部の男の人や女の人は目が血走っていたのがちょっと怖い。

『ガチャ』

ギルドの扉を開くと入った受付は既にわいわいと人の熱気で暑い。

僕にこの服をくれた女の子を偶然見つけた。

「二人とも、ちょっと待ってて、挨拶してくるから」

僕はそう言って女の子のもとに向かった。

「こんにちは、服ありがとう」

友達と話していた女の子がこちらを向いてマジマジと僕の全身を見た後「はうっ」と鼻血を出して後ろ向きに倒れる。

「ええっ、ちょっとっ、大丈夫っ?」

慌てて前かがみになって起き上がるのを助けようとすると僕の後ろがざわめいた。振り返ると男の目が僕のお尻に集中している。

(わわっ)

慌ててスカートの後ろを手で押さえた。

「いえ、大丈夫です…予想をはるかに超えた萌えに…死にかけていただけなんで…」

(モエ??)

「いえいえ~、大丈夫ですっ、すみません、この子興奮しちゃって」

友達らしき女の子に手を貸してもらって女の子が立ち上がった。

まぁ、いっか、と振り返った僕の前に今度は長蛇の列が出来ていた。

「アオイさん、握手をお願いします」

「ぜひ、ハグさせてください」

「結婚してくださいっ、一生大切にしますっ」

意味がわからないけど、握手をする羽目になった。ハグと結婚は断ったけど。

遠目に見えるラルフは憮然とした表情で、ジルはお腹を抱えて笑っていた。

「ラルフっ、会議が始まるぞ。アオイはどこだ?」

僕が握手をしているとアンナさんが呼びに来てくれたみたいだ。

「コラッ、お前ら、何してるんだ、ぁ?」

僕の姿を見たアンナさんが一瞬止まって、次の瞬間には僕はアンナさんの腕の中にいた。

(アンナさんの動きが見えなかった…)

抱きしめられたまま体をナデナデされる。

「はあ、はあ、素晴らしい…」

「あの?アンナさん?」

「ハッ」

しばらくしてようやく元に戻ったアンナさんが離れる。周りの男たちから注目を浴びていたことに焦ったアンナさんが真っ赤になる。

「お前ら、散れっ、散れっ、さあ、アオイ、行くぞっ」

そう言って僕らを連れて支部長の部屋に向かった。


◇◇◇◇◇


「やっと来ましたか…ん?」

そう言ったアーバインさんの目が僕に釘付けになった。

「あ…葵さん…」

アーバインさんが後ろを向く。

(やっぱり変な格好なんだ…)

そう思ってがっかりしていると、レオンさんが大笑いしながら僕の服を指差した。

「アオイっ、お前、メイド服着て、どういうプレイしてんだっ、がははははっ、おっ、アーバイン、お前何をニヤついてんだ?ははーん、お前、こういうの好きだったんだなっ」

(メイド服…ってメイドさんが着る服だよね。なんでプレゼントがこれなんだろ…)

「よーし、アオイ、ちょっとこっち来い」

そう言われてレオンさんのところに行くと耳元で囁かれる。

「いいか?言えるな?」

「は、はぁ…?」

僕はアーバインさんの前に行く。アーバインさんも背が高いから僕が見上げるような形になった。

アーバインさんはチラチラと僕を見るけど、決して目を合わせようとしない。

「ご主人様…葵を可愛がってくださいませ」

そう言うとカッと顔が赤くなったアーバインさんが走ってドアから出ていってしまった。

レオンさんが我慢できないというように大笑いする。周りの人は苦笑い。

「えっと…これでいいんですか?」

「はははっ、良いぞ、アオイ」

しばらくしてアーバインさんが帰ってくる。

アーバインさんがゲフンッゲフンッと咳をして僕を見ないようにしてレオンさんの机の脇に立った。

「さあ、今年最後の会議を始めるぞ…まずは…っとその前に、アオイ、後ろの彼は?」

「えっと…お願いがあって…」

「んー、まあいいか。じゃあ、アオイのお願いは最後な」

会議はレオンさんの性格からか、どんどん進み、1時間経つ頃には全て終わった。

アンナさんはジーッと僕の方を食い入るように見つめているし、アーバインさんを含め、男の人の半数くらいが僕をチラチラ見るのでちょっと気まずかったけど。

「で、アオイ、後ろに連れているのは?」

「あっ、はい。レオンさんがこの間、何でも言ってくれと言ってくれたんで、僕の仲間をギルドメンバーにしたいと思いまして」

「ああ…うーん」

(あれ?ダメだったかな?)

「お前が連れて来るってことは、Bランク以上ってことだろ?」

「えっと…パーティを組みたいんで」

「うーむ…さすがにBランク以上だとなぁ…他のメンバーもいるし…」

「ダメですか?」

上目遣いにアーバインさんを見つめるとアーバインさんが助け舟を出してくれた。

「では、Cランクにして、葵さんと同じ依頼を受けることができるということにすればどうでしょう?」

「おおっ、その手があったかっ、よし、では、彼は…」

「ジル・ヴラドです。魔術師です」

僕が紹介する。

「うむ。ジルをギルドメンバーにして、Cランクハンターとする。だが、基本的には葵、ラルフと同じ待遇でどうだ?」

「ありがとうございます」

うまくいって良かった、と胸をなでおろしかけた時、

「あっ、あのぉ…」

そう言って手が挙がる。

「なんだ?マリー」

おずおずと手を挙げたのはストレートの茶色い髪の女の子だった。長いスカートとセーターを着て眼鏡をかけている。

普段の会議では全く話さない彼女はもう一人の女の子と共同運営で魔術師パーティを組んでいる。

「あっ…あのっ…えっと…」

レオンさんの声にビクッと震えて、なかなか言い出せない。

「どうしたんですか?」

アーバインさんが優しく訊く。パッとこちらを見上げた彼女の顔は眼鏡の奥の大きな目と、小さな唇の小動物のような可愛らしい顔だった。

「ぁの…そのぉ…」

なかなか言い出さないマリーさんに焦れたレオンさんが「早く言え」と突っ込む。

「ジ、ジルさんを試してみたいんですっ」

その場にいた全員の頭の中に?が浮いた。

「えっと…その」

真っ赤になって俯くマリーさんに代わってそこからもう一人の少女が言葉を継ぐ。赤いくせ毛をポニーテールにしたこちらはミニスカートとセーターを着た少女。こちらも切れ長の目の美少女だった。

「マリーはね、そこの金髪の力を疑ってるわけじゃないのよっ。試してみて力が足りないならウチらが面倒みてあげるからっ。あっ、魔術師ならそれなりの力を持っていてもらわないと、ウチらまで実力がないと思われちゃうからよっ、それだけなんだからねっ」

(なるほど、魔術師自体が舐められたら困るってことかぁ)

僕がうんうんと頷いているけど、なんだか場が妙な雰囲気になっている。生暖かいというか…。

「ありがとうございます。マリーさん、それにジェシカさんですね。同じ魔術師同士助けて頂ければ嬉しいです」

皆の注目が集まったジルが笑顔で言うと、マリーは「ほぉ」っと顔を赤らめて再び下を向いてしまう。ジェシカは「そんな、助けるとかじゃないんだからね」と言った。

『パンッ、パンッ』

レオンさんの手を叩く音で皆が前を見る。

「今年最後のイベントかっ。面白そうだな。よしっ、じゃあ、今から力を試そうぜ。そうだな…もし、二人に勝ったらBランクでどうだ?」

レオンさんが楽しそうに言った。

「いいんですか?」

アーバインさんが止めるけど、結局「家はどうせ葵の家だから金もかからんし、本部は何も言わんよ、それに二人に勝つ力があればBランクどころかAでも良いくらいだろ?」というレオンさんのゴリ押しに負ける形になった。
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