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2014/10/13

年の暮れ

「ねぇ、大丈夫なの?」

僕は小声でジルに訊く。

「ああ、問題ない」

ジルは自信満々で頷いた。

「さあ、葵、離れてください」

アーバインさんに言われて僕も離れる。心配そうに見ていた僕にジルがウインクをした。

ここは、ロゴスの城壁の外。マリーとジェシカ、ジルが10メートルほど離れて立っている。僕らは城壁の上から観戦する。

「これで私たちが勝ったら、うちのパーティに入ってもらうからねっ」

ジェシカがそう宣言する。その後ろに隠れるようにしてマリーがジルをじっと見つめていた。

城壁の上に僕が登ったのを確認してアーバインさんが勝敗の確認をする。

「では、どちらかが参ったというか、明らかな勝負が付いたら終了です」

審判はアーバインさんだ。

「始めっ」

「これくらいは躱してよねっ」

そう言ったジェシカの目の前に大きな火の玉が生まれた。「おおー」と城壁の上の山のような人だかりから声が上がった。

「あれがジェシカの得意魔術です。魔法陣を描かずに火の玉を10個は飛ばせるはずですよ」

いつの間にか横に居たウィリアムさんが解説してくれる。

火の玉がジルに向かって飛ぶ。

ジルは微動だにしない。

(ああっ、当たるっ)

僕が声を出そうとしたとき、ジルまであと1メートルくらいのところで火の玉が何かにぶつかったように弾けた。轟音とともに炎の柱が立ち昇る。

「ほう…あれはジルさんが出した魔術障壁ですね、こちらもノーアクションとは凄い」

驚いているのは僕だけではないようで、周りからため息にも似た安堵のため息が漏れる。ジェシカも目を丸くして火柱が消えるのを見ていた。マリーに至っては、ジェシカの炎の弾が当たると思ったのか顔を両手で覆っていた。

「な、なかなかやるじゃないっ、じゃあこれならどうかしらっ」

さらにジェシカが5つ、6つと火の玉を打つもののジルには当たらない。火柱がジルを囲むように立ち上った。

それにしても当たらない割にはジェシカは気にした様子もなく撃ちまくる。火柱が立つたびに風が起こってジェシカの真っ赤な髪が揺れた。

「ジェシカさんはどうして当たらないのに撃つのかな?」

僕の質問にウィリアムさんが見ていれば分かりますよ、と答えた。

と、ジェシカの火の玉が止まる。

(魔力が切れたのかな?)

そう思ってふとマリーの姿を探す。

「あれ?マリーさんがいない」

マリーさんは空中、ジルの真上に立っていた。

(そっか、ジェシカさんの火の玉は目隠しだったんだ)

そして、真上からジルに向かって何かを打ち出した。

「あれがマリーの風の魔術です。目には見えない風の刃が飛んでいるはずですよ、当たったら重症ですが…」

(え?重症?)

そう思ってジルの姿を見るけど何も変わらない。

「ほう、ジルさんの障壁は球のようになっていますね。ほら、見てください。真上からの風の刃も同時に死角から来ていた火の玉も障壁で止められました」

「さて…ジルさんはどうするのでしょうね」

ウィリアムさんは楽しそうに観戦する。

(あれ?ジェシカさんの様子が変だ…)

なんだか必死に体を動かしているように見える。そして何が起こっているのかはっきり分かるまでにそれほど時間はかからなかった。

ジェシカさんの太ももに蔦が絡まっている。蔦の根元はジルの足元だ。

「蔦?まさか…生命を操っているのか?」

ウィリアムさんが驚いた声を出した。

「葵さん、彼は何者なんですか?あれはガリアーニの日記にしか残っていない魔術ですよっ」

(ガリアーニってたしか偉大な魔術師っていう人だよね)

「きゃっ」

今度はマリーさんが空中でふらついて落ちてきた。

(今度は何?)

落ちてきた先にはジルがいてしっかりと受け止める。マリーさんは動けないみたいだ。

「むっ、あれは…雷の魔術を弱めたものでしょうか」

「勝者、ジル・ヴラドっ」

割れんばかりの拍手が両者に送られる。帰ってくる3人。だけど、ジルの腕に抱かれたマリーさんだけでなくジェシカさんの顔も紅潮しているように見えた。

城壁の下まで来て、ジルがマリーさんを降ろす。

「ジル様…」

熱い眼差しを送るマリーさん。

「この…変態っ、今度は負けないんだからっ」

抱っこされたマリーさんを羨ましそうに見ていたジェシカさんにジルが微笑みかけると、ジェシカさんはパッと顔を背ける。だけど、耳まで真っ赤になっていた。

その後、ジルは無事ハンターに登録された。

「ねぇ、なんかジェシカさん変じゃなかった?」

僕がこっそり訊くと、「ふふふ、蔦でちょっと気持ちよくしただけさ」と笑顔で返された。

(うわぁ…訊かなきゃよかった…)


◇◇◇◇◇


ところで、この出来事の後、マギーさんのお店にあったメイド服が完売したそうな。

(うふふふ、アオイに着させた服は必ず売れるわね…まさかメイド服まで売れるとは思わなかったわ。次は何を着させようかしら)

深夜、店の中で算盤をはじく悪い顔のマーガレットがいたとかいなかったとか。

そして僕の家には翌日から多数のメイド服が送られてきた。

「えっと…送り主は…へっ?アンナさんっ?こっちは…アーバインさん?」


◆◆◆◆◆


ジルが一緒に住むようになって、変わったことがいくつかある。

そのうちの一つが、暖炉だ。

これまで暖炉で燃やしていた薪を魔石に変更したのだ。

おかげで、いちいち灰を捨てたり、薪をくべたりしなくてよくなったので、家の中にいるのが楽すぎてなかなか出れなくなってしまった。

もう一つは、意外なことにジルは料理が得意ということが判明した。

「料理は素材の組み合わせで旨くも不味くもなる。そこが私の探究心をくすぐるのだ」そうである。

だから、家にいても美味しい食事が食べれるようになった。

あと、ジルについて言うと、かなりの女たらしだ。お店に行けば必ずと言っていいほど女の子と話をしている。そして相手の女の子も満更でもなさそうだ。本人は「女性を楽しませるのはマナーだ」と嘯いているけど。



◆◆◆◆◆


「あんたら、本当にすごい子だったんだねっ」

ラルフとジルを連れて銀狼亭でご飯を食べようと入ったらおばちゃんに早速声をかけられた。

「へ?」

「Aランク入りしたって?」

「おばちゃん、なんで知ってるの?」

「街の噂になってるよ。この街始まって以来のBランクルーキーが1年も経たずにAランクになったって。それに新しいハンサムな男の子を連れてきたって?あら、この子ね?確かに綺麗な顔をしてるわぁっ」

「うん、ジルって言うんだ。ねぇ、そんなことより今日のランチって何ー?」

「はぁ、あんたは地位とお金を持っても何も変わらないねぇ。まぁ、そこが良いとこだけど…」

おばちゃんがオーダーを通しに奥へと入っていった。

はむはむとご飯を食べていると、遠くで大きな声がする。

「ん?何かな?」

『バタンッ』

大きな音がしてドアが開いた。

「大変だっ、王女様が来るってよぉ」

王女様が来る。その噂でロゴスの街が持ちきりになった。

もうすぐ年が変わる、その新年のお祝いに来られるそうだ。

年末の街はソワソワしていてなんとなくフワフワした不思議な感じだ。


◆◆◆◆◆


『カランカラーン』

「いらっしゃーい…ってアオイじゃないっ、久しぶりっ…あれ?今日はラルフ様もジル様もいないの?」

マギーさんはなぜかラルフとジルを「様付け」で呼ぶ。派手な試験をしたせいか、ほんの数日でジルも有名になってしまった。

「アオイはあんないい男をはべらせて…全く羨ましいわっ」

「いやいやいや、はべらしてるわけじゃないよっ」

「なーにを言ってるのよっ、もともとラルフ様はハンター人気ランキングの男性部門1位だったのに、早速ジル様が2位になったのよっ、まぁ、女性部門はアオイがトップを独走だけど…」

「へ?」

(僕が女性部門のトップ?まさか…ね)

「もうっ、二人を連れてきてくれなかった分、今日は買ってもらうわよっ」

そう言ってこの冬の一押しを売りつけてきた。

「ねぇ、マギーさん。この下着変だよっ」

渡されたパンティを広げてみた僕はびっくりして思わずマギーさんに突っ返した。

「こういうもんなのよ。これも試供品であげるから着てみてよ」

「でも、お尻が丸見えだよ」

無理矢理持たされたパンティを広げるとお尻の部分の布が狭いなんてもんじゃない。紐だ。

「そういうものなの。例えば…そうねえ、こういうズボンを履くと、下着の線が出ちゃうでしょ?そういう時にこれなら線が出ないわけよ」

ドヤ顔で説明するマギーさん。

「じゃあ、ズボンを…」

「ダメよっ、こっちのニーソックスを履いてもらうんだから」

「だって…寒いし…」

「ファッションっていうのは我慢が大切なのよっ」

「えー」

そんなこと言いながらああでもない、こうでもないと僕が着せ替え人形にされていると、『カランカラーン』とお客さんの入ってくる音がした。

「ちょっと、お客さんが来ちゃったから、良さそうなの送るわね。代金は後でいいからっ」

そう言うとマギーさんは「いらっしゃいませー」と半音高い声で接客に向かった。

仕方ないから僕は最後に着させられていた服装のまま店の出口に向かう。

一瞬振り返った時にお客さんと目があったような気がしたけど、そのまま店を後にした。

「お客様~?どうかしましたかぁ?」

「えっ、あっ、いえ、なんでもありませんの」

「では、この冬の人気商品を紹介しますね……」

僕が店を出て少し歩いたところでお姉さんに声をかけられた。

「あなたっ、この辺で金髪のあなたくらいの年の女の子を見なかった?」

「うーん、いやぁ、あっ、ひょっとして…」

「見たのねっ?」

「ちょっ、焦らないでよ。えっと、さっきあのハンターギルドの近くの服屋さんで見た人がそうかも…」

「あなたたちっ」

そう言うと周りの兵隊さんが集まってくる。

「あっちで見たそうよっ、急いでっ」

兵隊さんたちと一緒にお姉さんは走っていった。

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