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王女との邂逅

年が明けて数日経った頃、ギルドから手紙が届いた。

「えっと、明日街の広場に集合、だってさ」

僕が読み上げると、ジルが嫌そうな顔をする。

「葵、私もか?」

「うん。ジルとラルフの名前も書いてあるよ」

ジルは盛大にため息をついた。

「はあ…仕方ない。明日は薬の最終調整を予定していたんだがな…」

(薬?)

「ねえ、どんな薬を作ってるの?」

「うむ、簡単に言うとだな、意識が朦朧とする薬だ」

(意識が朦朧?頭がぼぉっとするってこと?)

「それって毒薬?」

「まあ、そうだな。だが、命には関わらないレベルだ。ちょっとした会話もでき、食事もとれる程度が依頼者の要望だ。そのさじ加減がなかなか難しい」

難しいと言いながらも、楽しそうだ。

「依頼者ってどんな人なの?」

「それは言えんな。守秘義務がある」

「ふーん。でもさ、なんでそんなもの欲しがるんだろうね?」

そう僕が言うと、ラルフが口を開いた。

「おそらく、死んでは困るが、元気に動き回られても困る…そういう相手がいるのだろう」

「うーん。どういう状況で使うのかな?」

「俺にはわからん」

「ジルはなんでそんなの作るのさ?誰かがその薬使われるんだよ。死なないって言っても迷惑がかかるのに…それに面倒な仕事なんでしょ?」

「葵、お前は技術者というものが分かってないな。難しい仕事こそ私のやる気に火をつけるのだ」

「はぁ…出来るだけ人様に迷惑かけない仕事にしてよね」


◇◇◇◇◇


翌日。僕らはいつもの格好で、ロゴスの街を東西南北に走る大通りの中心にある広場に向かった。

「うわっ、すごい人だかりっ、何があるんだろっ?」

僕らが広場についたときには、既に多くの街の人で溢れかえっていた。交通整理を兵隊さんがしている。

なんとなく街の人の服装がよそ行きで小綺麗な気がする。

「むっ、葵、レオンが呼んでいるぞ」

ラルフが指差す方を見ると、レオンさんが手を振っているのが遠くに見えた。

僕らは人をかき分けるようにしてレオンさんの所に向かう。

「葵、遅いぞ。さあ、お前らはここに並べ」

(?)

言われるがままに並ぶ。目の前には赤い絨毯がひかれた壇が準備されている。僕らはその正面の一番前に立つことになった。

「レオンさん?これって…何があるんですか?」

「ああっ?まさか、お前ら知らんのか?お姫さんが来るんだよっ」

周りの喧騒に負けじと大きな声でレオンさんが怒鳴る。

(お姫様?って…王女様ってこと?)

「あっ、そういえば聞いたことある。…ふーん、今日だったんだ」

「おいおい…。まあいいけどな…っと、始まるぞ」

レオンさんが僕らの隣に立つと、兵隊さんが大通りを封鎖するように並んで全員体を壇上に向けた。

集まっていた街の人たちも喋るのをやめて壇上を見る。

すると突然ファンファーレが鳴り響き、北の通りにいた兵隊さんが道を開いた。

その道の先に一人の女の子が現れる。

(この人が王女様かぁ)

僕が思っていたよりも随分若い。僕とそんなに変わらないくらいの歳に見える。金髪のストレートの髪に碧眼、寒いせいか顔色は雪のように白く、真っ赤な唇が際立っている。

王女様が壇上に登ったところで、ファンファーレが止んだ。

「皆様、寒い中集まっていただいて光栄です。私は、エルザ・フェルディナントです」

大きな拍手が広場に湧き起こる。容姿から想像していたよりもずっと落ち着いた大人の女性の声が聞こえた。そして、どういうわけか広場中にその声が響いた。

(あっ、王女様の服についてるのって魔石だっ。あれで声を響かせているのかな?)

拍手が収まるのを待つ間、王女様が僕らの方を見た。僕と王女様の目が合う。

(あれ?僕を見てる?)

目を逸らすわけにもいかないので見つめ返すと、王女様が視線を前に向けた。

(気のせいかな?)

「ありがとうございます。この度は父アルフォンソ・フェルディナントの名代として皆さんとともに新年をお祝いできればと思います」

僕から目を逸らすと王女様は再び挨拶を続けた。

(うーん、気のせいだよね)

その後も王女様はこの街のおかげで、王都は魔物を心配せずに済むだとか、発展したこの街を他の街の手本にしたいとか、褒めちぎって、その度に大きな拍手が起こった。

「それでは、お集まりの皆様、ありがとうございました。皆さんが今年も良い年でありますように」

そう言って挨拶が終わった。

再びファンファーレが鳴り響き、王女様が退場した。

「すごいね。僕と同じ年くらいなのに王女様はしっかりしているよね」

僕が感心してラルフとジルに声をかける。

「寒いぞ」

「早く家に帰って仕事をしないとな」

二人はもう帰りたくて仕方ないようだった。

そんな僕らのところにレオンさんが現れた。

「葵、お前はちょっとギルドに寄ってけ」

「え?」

ラルフとジルを交互に見上げる僕にレオンさんが「葵だけでいいぞ」と言う。

ジルは「じゃあ、先に帰っている」と言い、人ごみに消えた。

ラルフも僕が「大丈夫だから先に帰ってて」と言うと「わかった」と言って帰っていった。

「葵、行くぞっ」


◇◇◇◇◇


ギルドの扉を開くと、暖かい空気にホッとした。

受付も今日は誰もいないし、まだ、休みのはずだけど、明かりがついていた。レオンさんは「ちょっと待ってろ」とだけ言って階段を上っていった。

しばらくすると外が寒かったせいか少し暑く感じて、コートと帽子を脱いで手に持ってレオンさんの帰りを待つ。

『コツ、コツ』

歩くと静かなギルドに僕の靴音が響く。

普段ハンターや商人で一杯のギルドに誰もいないのはなんだか別の世界に迷いこんだ感じがして不思議な気持ちで眺めていた。

『ガタガタガタ』

せっかく非日常を楽しんでいた僕だったけど、階段から聞こえてくる大きな音で現実に引き戻された。

「葵、お前にお客さんだ」

レオンさんに支部長室に行けと言われて階段を登る。

『ガチャ』

扉を開くと、そこに待っていたのは女性が二人。しかもその一人は先ほど壇上で話をしていた王女様、その人だった。

「ええっ?」

(なんで王女様が?)

驚いて扉を閉めるのも忘れて僕が突っ立っていると、ソファの横に立っていた女性が厳しい目をこちらに向ける。

「態度を改めなさいっ、王女様の御前ですよ」

「えっ?あれっ?」

意味が分からず戸惑う僕にソファから声がした。

「モニカ、いいのです。何も説明せずに呼び出したのはこちらなのですから」

「しかしっ、エルザ様っ」

(エルザってどこかで…?)

「久しぶり、いえ、10年ぶりくらいかしら、葵」

美しい金髪と青い空のような碧眼の美少女がいたずらっぽく微笑んだ。

「ああっ、エルザって…ひょっとしてエルザ姫?」

「そうよ、思い出してくれた?王宮で一緒に遊んでいたエルザよ」

「ああー。そっかぁ、どこかで聞いた名前だなぁって思ってたんだよ」

僕とエルザの会話を聞いて目を丸くしている女性にエルザが説明する。

「モニカ、黙っててごめんなさい。葵は倭国の王族の血を引いていて私たちは幼い頃に一緒に遊んだ仲なのよ」

するとモニカさんが僕に頭を下げる。

「葵様、誠に申し訳ありません。知らなかったとはいえ、失礼をいたしました」

「いえ、そんなこと」

僕が喋ろうとすると、エルザの声が遮る。

「でも、葵って女の子だったんだ。だってこんなに可愛い男の子なんていないもんね」

そう言われて、僕は村正の話をした。

「へぇ、じゃあやっぱり男の子なんだ」

「うん。何とかして男に戻りたいんだけどね」

「いいじゃない、そのままで」

そう言って笑うエルザの姿は年相応の女の子だった。彼女が住んでいた家に今僕が住んでいることも知っていた。

「エルザ様、葵様、申し訳ありません。そろそろお時間ですので…」

2時間ほど経った頃、モニカさんが話の尽きない僕らを止めた。

「あら?もうそんな時間なのね。うーんなんとかならない?」

エルザがそう言うとモニカさんが困った顔をした。それを見てエルザがさっと立ち上がった。

「ごめんなさい、モニカ。行きましょう。それじゃ、葵、また逢いたいわ。今度はあなたが王都に来てね」

そう言ってエルザは手を振って出ていった。
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