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2014/10/25

ジルの過去とラルフの修行

王女の来訪からしばらくして、僕らは仕事を開始した。

「はい、依頼完了ですね」

僕はギルドの受付で女の子から依頼完了のサインをした。これで昨日こなした魔獣討伐の依頼が完了だ。

魔獣討伐は僕の感覚上昇とラルフの嗅覚を使えばあっという間にターゲットを見つけられるので、通常三日間はかかる依頼も一日で終わる。

それに加えて、今回は魔獣の現れる森の奥にある薬草が欲しい、と普段は出たがらないジルも今回は参加していたから、さらにスムーズに依頼は完了した。

さて、帰ろうと僕が振り返ったところで、受付をしてくれていた女の子に背中から声をかけられる。

「あっ、あのぉ…アオイさんですよね」

(あれ?知り合いだったかな?)

「あのっ、私、エマって言います。最近ここで働き始めました。よろしくお願いしますっ」

そう言われてみると、ショートカットのあどけなさの残る少女は初めて見る顔。

「うん。こちらこそよろしくね」

僕は笑顔で返事をした。

(最近、なんだか女の子から声を掛けられる事が増えた気がするなぁ)

エマと軽く話をしてからジルを探す。

以前一人で出歩いて変な男に襲われてからは僕が外出する時、必ずラルフが一緒に来るようになった。ジルが来てからはどちらかが必ず一緒にいる。と言ってもほとんどラルフなんだけど。

今日は珍しくジルが一緒だ。

(あっ、いたいた)

たいして興味もなさそうに掲示板を読んでいるジルの隣に立って僕も掲示板を眺めた。

「ねぇねぇ、今度はダンジョンに潜ってみようよ。そうすればジルも全力出せるでしょ?」

僕が新しい依頼を掲示板で物色しながらジルに話しかける。

「ああ、そうだな。私としては、薬の素材になるマンドラゴラが群生しているようなダンジョンがあればいいんだが」

「うーん。あっ、この依頼なんかどう?北の山のダンジョンならマンドラゴラがあるよ」

そんなことを言っていると扉が開く音がして、ワッと歓声が起こった。

(何だろ?)

扉の近くに人だかりができていて、背伸びをしても人の頭が邪魔で何が起こっているのか見えない。

「ねぇ、ジル、何があるか見える?」

仕方ないのでジルに尋ねると、ジルは人だかりをチラッと見て頬を引きつらせた。

「…葵、こっちに来るんだ」

そう言って僕の手を取って問答無用でギルド内にあるカフェに向かう。

「痛いっ、痛いよっ。もうっ、どうしたのさっ」

ジルに文句を言いながら、引きずられるようにカフェに入ろうとしたところでよく通る声が聞こえた。

「そこにいるのはジルじゃないか?」

キョロキョロ見回す。人の輪の中から聞こえた気がしたけど…。

「くそっ、気づかれたか」

人の輪が崩れて、一人の壮年の男がこちらに近づいてくる。

「やはり…ジルじゃないか。こんなところで会うとは思わなかったよ」

男の人がにっこり微笑んでジルに話しかけてきた。渋いおじさんだけど笑うと愛嬌のある顔。

(見た事ない人だけど誰だろう?)

「ねぇ、大丈夫なの?」

僕はジルの正体がバレないか心配で小声で聞く。ジルが小さく頷いた。

「やあ、ラウル。久しぶりだな。お前こそなぜこんなところに?」

嫌そうな声でジルが尋ねる。

「私はもともとS級ハンターだからさ。たまにこうして遊びに来るんだ。といっても普段はアトラスのギルドだが…。まさかジルに会えるなんて思わなかったよ」

僕はマジマジと男を見る。

(茶髪のオールバックに口ひげ、物語に出てくる将軍みたい)

「おや?このお嬢さんは?」

ジルの隣でじっと見ていた僕の視線に気がついたみたいで、ラウルさんがジルに尋ねる。

「ああ、今はこの葵のところで世話になっている」

「ほお。ジルが世話されるとは、珍しい事もあるものだ」

そして、ジルに顔を寄せて「まさか、血を吸って操ってないだろうね?」と言った。ジルが嫌そうに顔を背ける。

「ふふふ、大丈夫ですよ」

ジルの普段と違う一面が見れて僕は思わず笑顔になった。

(あれ?)

ラウルさんが僕を見て固まっている。

「お嬢さん、失礼ですが名のある貴族の血縁の方ではありませんよね?」

突然の不思議な質問に僕のほうが戸惑った。

「はい??違いますよ」

今度はジルが尋ねる。

「ラウルどうしたんだ?」

「いや、余りにも美しいんで、もしや大貴族のご令嬢かなんかかなと思ってな」

頭を掻きながらラウルさんが言った。

「ラウル、お前そんなこと言う奴だったか?」

ジルが白い目でラウルさんを見た。

「はっはっはっ、王宮勤めが長くなったせいか、貴族に毒されてしまったかな?」

「ではお嬢さん、また機会がありましたらゆっくりお話でもいたしましょう」

そう言ってラウルさんは支部長室のある二階へと階段を登っていった。

ギルド内が再び普段の喧騒に戻った。

「ジルに人間の知り合いがいたなんて知らなかったよ」

「ああ、ラウルとは昔、色々あって一緒にいたことがあったのだよ」

「ふーん」

それ以上は聞くな、と言いたげなジルの顔を見て、依頼は受けずに今日は帰ることにした。

「そうだっ、ラルフにお土産を買って帰ろうっ」

僕らは銀狼亭に寄って、ラルフが好きなビッグホーンの肉の唐揚げを買って持って帰る。ラルフは今日は試してみたいことがあるからと、僕とジルに任せて留守番だった。

鉄の門を開けるといきなり全身にブワっと圧力を感じた。

(何これ?殺気とはちょっと違うみたいだけど…父さんの政宗を抜いた時のプレッシャーに似てるかも)

庭の中心でラルフが目を閉じて立っている。

ラルフの体から靄(もや)のようなぼんやりとした赤い光が出ているのが見えた。

「ほお、始めて二日目でこれほどのモノになったか」

ジルは何か知っているようだ。

「ラルフっ、何してるの?」

僕が声をかけるとラルフが目を開ける、と同時にプレッシャーが消えた。

「ラルフっ、唐揚げ買ってきたから一旦休憩して食べようよ」

「いや、もう少しで何か掴めそうだ。先に食っててくれ」

それだけ言うと再び目を閉じてしまう。

「えっと…?」

ジルに目で説明を求める。

「一昨日、ラルフ君に闘気の使い方を教えたのだ。もともと戦闘力的には強い闘気を持っていて当たり前だったからな。特に人型で闘う際には必要だろうと思って教えたのだが…まさかこれほどとは思わなかったな」

(ラルフもまだまだ強くなるんだ。よーし、僕も頑張らないとっ)
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