管理人ほう

管理人ほう

「あなたは恋人がいますか?」

早速質問がきた。実はこの魔術具の特徴の一つに、イエス、ノーで答えられる質問以外できないという制約がある。

「はい」

青く光るのが見えた。

アリスさんの様子を窺う。まだ、ぐったりとしていて意識は戻っていないようだった。

(アリスさん、必ず助けてあげるから、もう少し待っていて頂戴)

「いいでしょう。では次だ」

その後も次々にプライベートな質問がくる。

(こんな質問を繰り返して一体どういうつもりなのかしら?)

ひょっとして学院長は私を疲れさせようとしているのではないかと疑い始めた。

「ああ、心配しなくてもあと一時間くらいですよ。勝負が終わった後のお楽しみの時間がもったいないですからね」

ヒヒヒと汚い歯を出して笑う顔を見て私は絶対に負けないことを誓う。

「アシュリー先生も飽きてきたようだし、そろそろ本気で始めましょう」

学院長がそう言った途端、目の前が真っ暗になった。

「学院長っ、話が違いますっ」

「何を言っているのですか?ルールには違反していないはずですが?」

悠々と学院長が答えた。

(くっ、確かに直接触っていないし…落ち着いて、目隠しされただけ…動揺してはダメよ)

深呼吸した時、初めて嗅ぐ甘酸っぱい香りが鼻腔をくすぐった。


◇◇◇


(普通この状況で目隠しをされれば冷静にはなれないはずだが…なるほど、学院を首席で卒業しただけの事はあるな)

ガビーノはニタァッと笑う。この才媛が乱れる姿を想像すると勃起が治まらない。

「では、アシュリー先生、あなたは処女ですか?」

先程までの淀みのない返答とは異なり、一瞬間が空いた。

「いいえ」

青く光る。

「ほう」

マーシャに聞こえるよう、わざとらしく合いの手を入れたガビーノがさらに質問を続ける。

「経験人数は一人ですか?」

「いいえ」

(ほう…このあたりから攻めてみるか)

「全て恋人でしたか?」

再び間が空いた。

(ん?)

「いいえ」

青く光る。

(なるほどな。ヒヒヒ)

「アシュリー先生もなかなか遊んでいらっしゃったのですね」

「そんなことっ…くっ」

隠してきた恥ずかしい過去をこんな卑劣な男に暴かれ、屈辱にマーシャは顔を赤らめる。

「どんな男なんでしょうな?その浮気相手は。それとも一夜限りの相手かな?」

ガビーノの言葉にマーシャは一人の男の顔を思い出していた。

(くだらない男だった。何一つ尊敬できるところもなかった…それなのに…)



その男はマーシャにとって二人目の恋人の兄だった。

当時付き合っていた恋人とはアヴニールで出会い、卒業時に告白され付き合い始めた。金髪碧眼に眼鏡をかけていて少し弱気そうに見えるのが玉に瑕だったが、優しく、真面目な青年だった。

アヴニールを卒業した生徒たちは国中に散っていくのだが、偶然、同じ街で働くことになったのも二人にとっては幸運だった。

「ねえ、マーシャ。今度僕の実家に来てよ。両親に紹介したいんだ」

付き合って一年経ったある日のこと、彼の家で食事に誘われた。

そして約束の日、恋人の家の前に立ったマーシャは自分の服装を確認する。

(どこか変なところはないかしら?大丈夫よね?)

恋人の両親に紹介されるなど初めての経験、しかも彼の実家は有名な商会を営んでいると聞いていたので少し緊張気味でマーシャはベルを鳴らした。

『ガチャ』

扉が開いて顔を出したのは髭を生やして浅黒く日焼けした男だった。

「アシュリーさん?…ああ、どうも、初めまして。俺はアイツの兄貴です」

恋人の家は両親ともに王立の研究所の研究員だったマーシャの実家よりはもちろん大きいが、歴史を感じさせるものの贅を凝らした建物というわけではなく好感の持てる建物だった。

「ごめんっ、マーシャ。両親は急に大口の仕事が入ったらしくて帰ってこれなくなってしまったんだ。マーシャにも重々謝っておいて欲しいってさっき連絡がきたんだ。ほんとっ、ごめんっ」

だが、それを聞いてマーシャの緊張が緩む。

「えっと…気にしないで。また次の機会にでも…」

「そうだぜ。せっかく来てくれたんだから堅苦しいのはなしで楽しく飯でも食おうぜ」

彼の兄は弟と違って、身長が高く、筋肉質で、恋人と似ているところは髪の色と瞳の色くらいだろうか。

野生的な男で、話し方も粗野な感じがして、一見するとマーシャにとってはあまりお付き合いしたいタイプではなかった。

だから最初は少し距離を取って男と話していたマーシャだったが、男は意外に話しやすく、すぐに打ち解けた。最初は兄弟で全く違うと思ったが、よく見れば顔のパーツなどもよく似ていることに気がついた。

さらに恋人の兄は強面の外見とは裏腹に、おどけた態度をとって二人を笑わせた。その後も二人の少年時代の思い出やマーシャと恋人のアヴニールの話などが弾み、食事会は楽しいものとなった。

しかし、それら全ては男の計画だったのだ。

楽しい食事に普段よりも飲みすぎた恋人は酔いつぶれて眠ってしまった。それを見て、そろそろお暇しようと立ち上がったマーシャは突然後ろから男に抱き締められた。

「えっ?」

咄嗟の事に事態を飲み込めずにいる間に唇を奪われた。

「んっ、んんっ…いやぁっ」

突き飛ばした男の唇の端に少し滲んだ血の赤さが今でも鮮明に目に焼き付いている。



「先生?」

ハッ、とマーシャは記憶の海から戻ってきた。

「あ…っ、すみません。質問を続けて下さい」

(どうして今更あんな男を思い出すの?)

今度は羞恥からか、興奮からか、ほんのりとマーシャの頬が赤く染まっていた。

「セックスの最中、イッたことはありますか?」

「……はい」

(あの男はそれだけは巧みだった)



翌日、恋人のいない時間を見計らってマーシャは恋人の家を訪ねた。もちろん、恋人の兄に真意を尋ね、二度としないことを誓わせるためだった。

自ら謝罪してくれることをマーシャは心のどこかで期待していた。

しかし、ベルを鳴らして開いた扉の向こうにあったのはニヤニヤとイヤらしい笑みを浮かべた男の顔だった。



「ふむ。それは恋人とのセックスですか?」

かなり間が空いた。

「答えないので…」

「いっ、いぃぇ…」

大きな声を出しかけて、その声は萎む。

「ヒヒヒヒヒ、これは面白い。アシュリー先生は恋人とは満足できず、浮気相手とならイケるわけだっ」

「くっ」

マーシャは何も言い返すことはできず、目隠しの中で涙が滲んだ。

「では浮気相手とのセックスを思い出して答えてください。…浮気相手とはキスしましたか?」

「はぃ」



男は、悪びれる事もなく、「弟に昨夜のキスをバラす」とマーシャを脅した。

(あの頃はまだ世間が分かっていなかった…)

「一度だけ」その言葉に騙されて男の部屋に連れ込まれた。

恋人とは数ヶ月前にセックスを経験していた。お互い初めてで探り探りのセックスだったが、無事終えることができた。そして既に恋人と経験済みだったことがマーシャに変な自信を持たせていたのも失敗だった。

(たかが一度のセックスくらいで…)

男の部屋に入ったマーシャは、緊張で震える体を抱きすくめられて唇を奪われた。

前回のように噛まないのを確認した男は舌を入れてきた。

『ちゅっ…えっ?なっ?…んちゅ…ちゅ…んんん…はぁ…んんっ』

恋人とのキスは唇を合わせる程度ですぐに終わる。しかし、男のキスはいつまでも続いた。

そして、時間だけでなく男の舌遣いは巧みで、マーシャは口の中に性感帯があることを知らされた。

気が付けば緊張は溶け、体は未知の快感への不安と期待に震えていた。



「はぁ…」

マーシャの口から湿った息が漏れるのをガビーノは見逃さない。

「攻められるのは好きですか?」

「…はい」

青く光る。



あの男はマーシャの恋人だった自分の弟にコンプレックスを抱いていた。

何をさせても結局は努力を続け、自分よりも上手くなる弟と比べられる。そしてついに弟は王国最高の学府である王立学院を卒業し、輝かしい未来を手に入れた。

あの男はひねくれ、街で女衒のような仕事をしていた。

整った顔の男は数多くの女を騙してきた。しかし、前夜、弟の恋人の唇を奪った瞬間はそれまでにない快感だった。

その時、弟に唯一勝てるものがあることに気がついた。

それは女を堕とす技だった。

そして、アヴニールという無菌室で育ったマーシャなど男にとっては赤子の手をひねるようなもので、濃厚なキスに酔った体は、男のされるがままとなり、着ていたスーツは脱がされた。

耳を舐められ、鎖骨を撫でられ、胸を弄られ、乳首を舌で転がされ…これまでの恋人とのセックスでは味わったことのない濃厚な前戯を前にしてマーシャに逃げる術などあるはずもなかった。



「オマンコは舐められましたか?」

「はい」



男は力の入らないマーシャの足首を掴むと、脚を広げる。

(あ…やだっ…)

マーシャは慌てて太股の付け根を手で押さえるが、それも男の手で簡単に外される。

(ああっ、そんな…恥ずかしい…)

マーシャは恋人にも許していなかった体の奥を恋人でもない男にさらけ出してしまった。

男はマーシャの股間を焦らすようにじっくり眺め、匂いをかぎ、舌先でクリトリスを突ついて、オマンコの柔らかい粘膜に指を入れた。

「そんなことっ…あっ、だめっ、恥ずかしいっ」

手で男の顔を押すが力の抜けた体は牡の力に勝てるはずもなく、されるがままになる。

『ジュルジュル』

わざとマーシャに聞かせるように大きな音をたてて愛液を啜る。





「いや…ダメ…」

「…リー先生…アシュリー先生?」

「ダメ……あっ」

いつの間にか過去の記憶の中にいたようだ。

「先生、何がダメなんですか?」

学院長の声で、現実に戻る。


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