管理人ほう

管理人ほう

葵がイシュクに向けて歩き始めた頃、アランのアジトでは留守番を任されたメンバーが各々自由な時間を過ごしていた。

その中で赤毛のポニーテールをピョコピョコ振りながら一人の少女が向かい側に座る銀髪の少女に話しかけていた。

「ねぇ?ルーっ、…ルーってばぁ」

何度も呼ばれてようやくぼんやりと遠くをみていた青い瞳が赤毛の少女、ミアに焦点を合わせた。

ミアはルーやアランと同じハーフエルフだが、それも何代も前の話で、混血が進んだ結果、エルフ特有の尖った耳も注意して見ないと分からないくらいまで血は薄まっている。

それに対して銀髪の少女ルーは荒地エルフの母と人間の父のハーフだ。エルフの血が濃い分、尖った耳はもちろんの事、褐色の肌に銀髪、これらは全て荒地エルフの特徴だ。唯一顔の作りで父に似たのは青い瞳だけだった。

このように性格も見た目も違う二人だが、同じ十八歳ということもあってか、ルーが来た時から二人は不思議と馬が合った。

「もうっ、また聞いてないー」

そうは言うもののミアの表情はたいして気にしたふうでもない。

「…」

いつも二人の会話ははこんな感じだ。ミアが一方的に喋ってルーはほとんど喋らない。

それでもここに来たときと比べるとルーは感情を出すようになった方だ。声を出して笑う事こそないものの、微笑むようになり、短い単語くらいは話すようになった。

ミアは大袈裟にため息をついて座っていた椅子の背もたれに体を預けた。

「あーあ、アタシも行きたかったなあ。アランさんの近くにいられると思って半月(ハーフムーン)入ったのにさあ」

「…」

無言でルーが頷く。

「でもほら、ディジーさんなんて毎回ついて行くのよ。あの人も絶対アランさん狙いよね」

今回留守番になったのを悔しがるミアの話が長々と続いて、それが一段落するとルーが立ち上がった。

「あれ?どうしたの?」

ミアの声にルーは「…トイレ」そう言って部屋を出る。

古いレンガ作りの廊下の先にトイレはあるが、ルーはその手前で立ち止まった。

「半月(ハーフムーン)」は総勢30人ほどの盗賊団で、そのアジトは砂漠の中にある古代遺跡にあった。はるか昔に栄えていたのであろう都市国家らしいが砂に埋もれ、崩れ、わずかに残っているのは街の残骸だけ。

その中のまだ使えそうな数軒の家屋で団員は女性、男性に別れて暮らしていた。今、留守番組が集まっているのは最も大きな屋敷。おそらくは支配階級の住んでいた建物で半月のメンバーがメインのアジトにしている。

また、半月のメンバーは全員エルフと人間の混血だ。混血はエルフからも人間からも差別の対象になっている。そういう事情から半月のメンバーにとっては安心して住むことのできる家があるというだけで充分救われていた。

ルーは後ろを振り返って誰もいないことを確認した。目の前には薄暗い地下に降りる階段がある。

この遺跡の地下は牢になっており、数日前から一人の老人が捕らえられていた。そこは天井の小さな隙間から入ってくる僅かな明りしかないためルーは目が慣れるまで慎重に降りていった。

「おやおや、ルー…じゃな?」

ルーが地下に降りると低い老人の声が響いた。

(どうして…)

ルーが胸の中で呟いたのは、老人がどうして暗がりの中で自分だと分かったのか、という意味もある。だがそれ以上に不思議なのは、なぜ自分がここに来たのか、という事だ。

「なぜ自分がここに来たのか戸惑っておるようじゃな」

「…っ」

「ひひひ、教えてやろう。それはじゃな、お前がワシを求めとるからじゃよ」

(そんなこと…)

しかし、そうは思うもののルーの下腹部が老人の声にキュンと反応した気がした。その感覚は老人に初めて出会ったあの日から、ふとした瞬間に起こるのだ。

その切ないような甘い感覚に、ルーは老人がこの牢に入れられる事になった理由を思い出していた。


◇◇◇


月に一度、メンバーの中から数人が食料などを買いに街に出る。

二日前、ルーは買い出しのためにイシュクの街にいた。

「お嬢さん、そこのお嬢さん」

この砂漠の大きな街は様々な人種が商売のために行き来する。荒れ地の住人の多くはテンガロンハットにシャツ、その上にベストを着てズボンをはく。

対して、砂漠の住人は男女ともに裾が足元まである長袖のゆったりとしたワンピースを着る。男女の違いは男が白、女は黒というワンピースの色の違いと男はターバンを頭に巻き、女は白いフードを被るところだ。

さらに東の山脈を越えた先のアトランティス王国や西の都市国家キュクノスの商人達も買いつけにやってくる。

このように様々な人種が混在するイシュクは、近隣の小さな街に比べると差別もそれほど激しくなく、さらに砂漠の住人の格好をすることでエルフの血を強く受け継いだルーも容姿を隠せるのだ。

「そこのお嬢さん、青い瞳の、ほれっ」

ルーは最初自分の事だとは気づかなかった。だが、声の主を見ると明らかに自分を見ている。

声の主はターバンに白い布という砂漠の民の服を着た老人で、片目を失っているのだろうか、眼帯をしている。その顔は浅黒く、前歯が出てお世辞にもハンサムとは言い難い。

ルーが気づいたことで老人は並べたがらくたの向こうで手招きしている。

だが、得体の知れない露店商に引っ掛かるほどルーも子供ではない。老人を無視して団員から頼まれた買い物を続けようと歩き出した。

「聞こえんのかの、そこのハーフエ…」

ルーは露店商が言い終わる前に駆け寄る。

「聞こえとったんじゃな。さすがエルフ族の感覚は鋭いのお」

「…やめて」

ルーはハーフエルフであることを隠すためにフードを被っていて、目しか露出していない。なのになぜか老人は自分がハーフエルフだと気づいた。

(私を知っている…?何が目的…?)

周囲を見回し、誰も自分達に注目していないのを確認した。

「すまんすまん。ハーフエルフはバレたら不味いんじゃったな。ちとついてきてくれんかの?」

その言葉を最後にルーの意識はとんだ。

次に気がついたのは路地裏。壁を背にして立っていた。

「…?」

ルーからしたら露店の前にいたはずが一瞬後には薄暗い路地裏にいたのだから驚くのも無理はない。

「…ここは?」

「安心せい。さっきの場所からほとんど移動しておらんからの」

誰に質問しようとしたわけではなかったのでルーは目を大きく開く。先程の老人が気づけばすぐそばにいた。

「……どういうこと?」

「ふむ、存外冷静じゃの。いやなに、せっかくエルフを見つけたんでの、イタシテみとうなったんじゃ」

ルーはそこで初めて身の危険を感じるとともに体が動かないことに気がついた。

(動かない…?)

「ひひひ。顔は…ほおっ」

抵抗できないまま、フードを外されて褐色の肌に銀髪が流れ落ちた。

「これは良い拾い物じゃのう」

老人はしげしげとルーの顔を見た。そしてその顔がイヤらしく歪む。

「…では、まずはスカートを上げてもらおうかの?」

それを聞いてルーの顔が強ばった。

「なんじゃ、赤うなって。おぼこいのぉ」

「ぇ…?」

いくら動かそうとしても動かなかった手が今度はルーの意思とは別に動き出した。しかも着ていた黒いワンピースの裾を摘まんで持ち上げ始めたのだ。

「ほうかほうか、見せてくれるんじゃな」

老人は汚い歯を見せて笑った。

(なんで…)

体はやはり思ったようには動かない。徐々にルーの褐色の太腿が老人の前に晒される。

「ええのおっ、その恥ずかしそうな顔よっ、ほれっ、もそっと上まで頼むぞっ」

老人はさらに上までスカートをめくるよう要求してきた。

「…いやっ」

しかし、どれほど力を入れても腕は言うことを聞かず、老人の言う通りになってしまう。

「…」

そしてついに、スカートの中身が丸見えになる。

「震えとるのか?可哀想にのう」

誰のせいだと言う目でルーは老人を見た。

「すぐに恥ずかしい気持ちなぞ忘れさせてやるからの」

老人の体から太い紐が三本伸びてルーの足首に絡まった。

「何…これ…?」

ルーの拒絶を無視して紐は生き物のように膝を越え、太腿を這い回る。そしてもちろん目的地はそのつけ根。

パンティのサイドから一本の紐が入ってくる。残りの二本は臍の周りをなぞるようにしてさらに上に向かった。

「うぅ…」

胸にのぼってきた紐が豊満な胸に絡みつき、残りの一本がまだ濡れていない秘部を擦るように動いた。

「…」

だが、ルーの表情に変化はない。ルーは知っていた。このまましばらく我慢すれば反応のない女に興を削がれた男は挿入して勝手に射精するのだ。

ハーフエルフのルーはこれまで様々な謂れのない暴力を受けてきた。

ルーの体は出るところがしっかり出ている。エルフ族の体は総じてスレンダーであることから考えれば父の血がこんなところに出てしまったのだ。だが、それはルーにとっては何の得にもならない。

出来るだけ体の線が出ない格好を選んでいても、体を狙う輩は総じて目ざとい。体が成熟しだした頃からは性的な暴力が増え、半月(ハーフムーン)に入る前の数年は毎日のように犯されていた。

「む…初めてではないのか…」

老人はそれと同時にルーの心の変化に気がついた。先程まで羞恥の表情が現れていたルーの顔からは感情という感情が消えていた。

「なるほど…嫌な経験をしてきたようじゃな。こんなに素晴らしい体を…もったいないのお」

ルーの変化を見てとった老人の表情は何かを悟ったように神妙なものになった。

それと同時に握っていたスカートが離れてストンと落ちて柔らかい脚が隠れる。ルーの感情のない瞳に一瞬だけ困惑の色が浮かんだ。しかし、続いて老人の口から出た言葉にルーの体が再びこわばる。

「こんなにエエものを知らんとはもったいない。ワシが上書きしてやろう」

(結局同じこと…)

体を弄ばれることを覚悟したルーの服の中で紐が動き始めた。

だが、紐の動きは先程までのきつい感じではない。ルーの体に触れるか触れないか、今度はまるで壊れ物を扱うような優しさで撫でる。

(…どういうこと…?)

そうして繰り返し優しい愛撫を受ける中でルーの心の中に困惑以外に少しの安心感が芽生え始めた。心に生まれた安心感は体に影響を与える。まずは脇腹から腋にかけて撫でられた瞬間、ルーの体が僅かに動いた。

「ふむ…」

老人は何も気づかないように、紐をルーの全身に広げた。うねうねと動くまるで触手のような紐は僅かな体の反応も見逃さない。

「ふっ…」

背骨に添って蠢く触手に小さな桜色の唇から小さく息が漏れた。

「そろそろかの…」

久しぶりに老人が言葉を出した。

「ふぁっ」

老人の言葉に合わせて触手がこれまでの動きで調べたルーの性感帯をピンポイントに刺激してきた。

「あっ」

先程までの優しい愛撫にほぐされたルーの体は自分でも不思議なくらい敏感に反応する。

「ほれ?顔が緩んどるぞ」

(こんなの痛いだけ…のはず…)

ルーの無表情だった顔に今度ははっきりと困惑が浮かんだ。そしてそれはすぐに快楽に歪む。

脇腹を、背中を這い回る触手からゾクゾクとした快感が与えられた。

(何…これ…?)

「これが快感じゃよ。気持ちええんじゃろ?ほれっ」

老人の掛け声に触手が胸と乳首に巻き付いた。

「あっ、だめっ…」

ビクンッと背中を跳ねさせたルー。

「こういうのはどうじゃ?」

乳首を押し潰されて、ルーは反射的に手を握りしめて快感をこらえようとする。

「ぁ…やっ…」

「ひひひ」

小さいがはっきりと分かる喘ぎ声に気を良くした老人の触手がルーのパンティを引き抜いた。

黒のパンティのクロッチはベットリと濡れている。

「雌の匂いがしとるぞ。ズズズ」

見せびらかすように薄い布を広げて愛液を啜る老人の姿にルーの頬がほんのり赤く染まった。

(ひひひ)

老人は内心笑いが止まらない。

「じゃがな、これでもっと気持ちよおなれるんじゃ」

老人が指し示した股間は、はっきりと分かるほどに布を押し上げていた。

「もっと…きもちよく…?」

これまでの経験から痛いという事はあっても気持ちが良かった経験など無かったルーは初めての感覚に不安と期待が混ざった表情で老人の股間を見つめた。

「そうじゃ。本当の快楽はこれからじゃよ」

老人がルーの肩を掴んだその時。

「テメエっ、何やってるんだっ」

路地の入り口から女の怒鳴り声がした。その後ろには数人の男の姿も見える。さらに逆側にも逃げ道を塞ぐように男が立っていた。

「む…」

老人が離れると、糸が切れた人形のようにルーが地面に座り込む。

「いや、何…この娘が体調を崩してな」

テンガロンハットを被った女が駆け寄る。

「ルー、大丈夫かい?何かされたんじゃないかい?」

ルーは俯いて何も言わず首を横に振る。

「本当に?正直に言っていいんだよ」

しかし、それでも何も言わないルー。

「全く、人を痴漢呼ばわりするとは…」

老人は非難するように言いながらも、その目はしゃがんだテンガロンハットの女の胸元をじっとりと見つめていた。開襟シャツからは胸の谷間がはっきり見えていた。

(こっちもええのお。勝ち気な女ほど情に厚いっちゅうこともあるからの…)

「すみません。この娘は色々ありまし…」

テンガロンハットの女が立ち上がって深く頭を下げかけて止まる。その目が一点を凝視していた。

老人も不思議に感じてその視線を追う。

「あ…」

老人の手、そこには先程ルーから脱がせたパンティがしっかり握られていた。

「ちょっ、テメエ…それは何だっ、こっちに来いっ」

そして街外れに連れていかれた老人はボコボコに殴られた。顔は殴られ過ぎて血塗れになっていた。

「ウチらの仲間によくもやってくれたねっ、腕を切り落としてやる」

男達に体を押さえつけられた老人は泣きそうな声を出した。

「勘弁してくれえっ、出来心じゃったんじゃっ」

「許されるわけないだろうがっ」

テンガロンハットの女は曲刀を抜く。

「こいつ全然金も持ってねえし、売ってたもんも偽物ばかりだぜ」

老人の露店を調べに行った仲間の男の言葉を聞いた老人が今度はその男に腫れ上がった目を向けた。

「そっ、そうじゃっ、良いことを教えるっ、ワシは金もないが、もう数日で金を持った奴等がディルム山脈を越えて来るんじゃっ」

男が金に反応した。

「それは本当なのか?」

「本当じゃっ。嘘ならその時ワシの腕でも何でも切ってええからっ」

男は頭をかいた。

「ディジー、腕を切り落とすのは少し待とうぜ」

「はあ?ゲイル、マジに言ってんのかよ」

「ああ、今月は銀が足りねえからな」

ディジーと呼ばれたテンガロンハットの女と男が言い争いを始め、結局ディジーが折れた。

「一週間だ。その間に来なければ殺す。良いな?」

そして老人はアジトに連行されて牢に入れられたのだった。
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