78.最終日① 先生との決別(⑱禁描写無し)
「遊君、そんなこと本当にするの?」
お姉ちゃんが心配してくれる。
「うん。」
「そんな怪しいノートを頼りにしないといけないなんて…」
お姉ちゃんは無念そうに下を向く。
「大丈夫だよ。気にしないで、お姉ちゃん。」
覚悟を決めた僕はお姉ちゃんに連絡した。最初はそんな馬鹿なという感じで反対されたけど、なんとか説得できた。
「はぁ、まぁ、しょうがないわね…それで、お姉ちゃんに手伝えることってある?」
「えっと、まずは…平日に性転換したら、学校を休まないといけないんだ。だから、休みの連絡をしてもらっていい?それに夜中も学園に行くから、それも…あっ、あと、お母さんが帰ってきてるから、うちは使えないんだよね。どうしよう?」
「休みの連絡は任せなさい。夜中のアリバイ工作もね。あとは…場所ねぇ…あっ、うちに来ればいいじゃない。うちの母さんは働きに出てるし、夕方までに出ればバレないわよ。」
「そっか…。」
「どうしたの?浮かない顔ねぇ。何か心配事?」
「うん…」
…あ、そうか…お姉ちゃんは理事長のこと知ってるんだった。
僕は勇気を出してお姉ちゃんに理事長のことを話した。
「へぇ…なるほどねぇ、で、それが問題あるの?」
「隆に申し訳ないなあと思って。」
「そう?」
「うん、あんなに僕のことを考えてくれている隆に嘘をついてっていうのが…」
「あんな弟無視しなさいよ…って言いたいところだけど、こればっかりは遊君の気持ちの問題だしね。うーん…そんなに気になるなら理事長に断ってきなさいよ。射精の回数なんて私が良い薬あげるから問題ないわよっ。」
…良い薬…?…大丈夫なのかな?
「心配しないでっ、まだ、実験段階だけどEDの改善用に作ってる薬だから多分大丈夫よ。」
「…う、うん」
本当に大丈夫なのかなあ?多分って…でも、やっぱり僕は…
そして一晩悩んで、翌日、理事長室に僕は向かっていた。
先生怒るかなあ…なんて切り出そう…?
『コンコンッ』
「失礼します。」
デスクで理事長は書類を読んでいた。
「どうした?遊君……さては隆君のことか。」
こちらをちらっと見ただけで先生が顔色も変えず淡々と言う。
「えっ?なんで分かるんですか?」
「私を誰だと思っているのかね?…親友に嘘をつけないか?」
先生が書類から目を離しこちらを見る。
「あ…は、はい。」
先生の目が鋭くなった。視線に貫かれるようで僕の体が動かなくなった。
「私があの写真をばら撒くと言っても?」
僕の膝が緊張と不安で震える。下半身の力が抜けそうだ。
……低い声…これが理事長の本当の姿………でも…………
「……………すみません……ばっ、ばら撒かれても仕方ないです。でも…今…隆を裏切ったら…僕が後悔すると思うんですっ。」
長い沈黙。
しばらく先生は僕を睨み付けた後、椅子の背もたれにもたれかかって息を吐いた。
「ふぅ……遊君、君は簡単に流されるような人間だとばかり思っていたが、思っていたよりも芯があるな。良いだろう。」
「えっ…」
「ん?」
「いいんですか?」
「ああ、まあ残念ではあるが…な。君のその覚悟が気に入った。」
「あ、ありがとうございますっ!」
「うむ、おっと、せっかくだから教えておこうか。晶君…あのノートの持ち主だが、彼は気を失ったら終わると考えていた節があるな。実際君のビデオを見たら、君が気を失っている間に中出しした精液が消える様子が映っていたよ。」
「えっ…あっ…確かに僕も気を失ったり寝ている間に男に戻っていたりしました。」
「そうか…なるほどな。それから、これを持っていきなさい。餞別だ。」
机の引き出しから先生が小さな紙袋を取り出した。
…?…
「ありがとうございます。」
「さあ、行きなさい。夜中に君が学園にいられるように便宜を図っておいてやろう。」
「はいっ。」
僕は理事長室を出た。
それから数日後の朝、鏡の前には緊張の面持ちの僕がいた。
…ついに来た、今日で決まるんだ…
学ランを着て今日のために準備してあった大きめの鞄を持った。
平静を装ってキッチンに降りると驚いた顔のお母さんがいた。
「おはよう。今日は早いのね?何かあるの?」
「今日は新聞部の取材があるんだ。」
「もう…前もって言っといてくれたら良かったのに…。」
そう言いながらも朝ごはんをお母さんが手早く作ってくれた。
「行ってきまーす。」
そのまま隆の家に向かう。
いつもはチャイムを鳴らすんだけど、今日はこっそり扉を開けた。隆のお母さんは既に出勤しているからすっと中に入る。
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