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死地

俺は振り返らずに言った。予想通り、後ろの木立から地面を踏みしめる音がする。

(やっと出てきやがったな)

だが、ゆっくりと振り向いた俺は男の顔を見て言葉を失う。

(そんな…馬鹿な…)

「なっ、なぜ?…アラグノールじゃ…」

俺の絞り出した言葉に眼鏡をかけた男は美しい銀髪を揺らして不思議そうな顔をした。

「アラグノール?何を言っているのですか?」

そこにいたのはサリオン・エルサリオン。

「それよりも、よく無事で…。良かった、森エルフがあれほどいるとは予定外でしたので計画は失敗かと思っていました」

「…サリオン先生が…」

脅迫していたのはサリオン先生だった…頭をハンマーで殴られたような衝撃は突き刺さった矢の痛みを忘れるほどだ。

「ようやく悲願が達成されました。あなたにはお礼の言いようもありません」

「悲…願…?」

うまく口が動かない俺に対し、感極まったようにサリオン先生は話し続ける。

「その通りです。私の祖父の代からの私の一族の悲願、世界樹による束縛からのエルフの解放です」

(エルフの…解放…?)

俺は何も発していないのにサリオン先生はひたすら話し続ける。

「私の祖父は古いエルフの文献を解読し、様々なことを発見したのです。たとえば、そう、世界樹が数千年に一度新しく生まれ変わる、などです。しかし、祖父は知らなくてもよいことまで知ってしまいました。…アラン、エルフはね、世界樹に囚われた人形なのですよ」

(一体サリオン先生は何を言ってるんだ…?)

「エルフとはもともと世界樹が己を守らせるために作った人形だったのです。そして人形は世界樹を守るために森を離れられない。考えてみてください。荒れ地エルフが砂漠などという不毛の地になぜ住んでいるのか。もっと住みやすい土地はたくさんあるでしょう?祖父の代から何百年かけても我々は森からそれ以上離れることは出来なかったのです」

話が進むにつれ、サリオン先生の言葉は熱を帯びる。

「しかし、祖父の研究を知った私は一つの仮説をたてました。世界樹が代替わりする時に新たなエルフを作る。その時、前の代のエルフ達はどうなるのでしょう。私はおそらく自由になれる、そう考えたのです。しかし、仮説をたてたところで私達には世界樹を守るよう本能が働くので確認のしようがありませんでした」

話を聞いているうちに俺の方も停止していた頭がようやく動き出した。

(なんとなく分かってきたぞ。要は世界樹を一度枯らせればエルフの本能も消えるかもってことか…そして、それが出来るのが…)

「だから…」

「そうです。ヒトの血が混ざったあなた達なら本能も薄れているはずだと」

「だけど、そんなことのためにっ?」

(そんなことのために孤児院の子供達を殺してもいいと…?)

「そんなこと…そう、そんなことのためなんですよ。あなた達は生まれながらに自由を持っている、そんなあなた達には分からないかもしれませんね…」

サリオン先生が寂しげに目を伏せた。

「…先生…」

冷静になると、フツフツと怒りが湧いてくる。

「自由が大事?祖父さんの悲願?そのためなら、孤児院の子供達や俺の仲間が死んでも良いって言うのか?」

自分でも声が怒りに震えるのが分かった。

「アラン?確かに森エルフがこれほどいるのは誤算でした。私のミスです。本当にすみません。ですが子供達とは?」

その時、初めて興奮気味のサリオン先生は俺の腕に刺さったままの矢に気がついたようだった。

「ああっ、アラン、あなたも怪我をしてっ、すぐに薬を…」

『パリーンッ』

薬の瓶を差し出そうとするサリオン先生の手を俺は払いのける。

「答えろっ、もし予定通りいかなかったら孤児院の子供達を殺すつもりだったのか?」

「アラン?一体どうしたのです?」

まるで本当に分からない、というサリオン先生の顔は怒りに油を注いだ。

「しらばっくれるなっ。脅迫状だよっ。俺に世界樹のもとに行かなければ孤児院の子供を殺すと書いたのはお前だろうっ?」

「脅迫状?どういうことですか?教えてくださいっ、何があったのですか?」

いつまでも変わらないサリオン先生の態度は俺の中に小さな疑念を生む。

(ひょっとして…本当に先生は知らないのか…?そんな馬鹿な…だとしたらあの脅迫状は…?)

「私はただ、ディジーに頼んだだけ…」

そう言いかけたサリオン先生の言葉は新たな男の出現で最後まで続かなかった。

「ククク、それについては俺が答えてやろう」

サリオン先生と同じ銀髪に褐色の肌。

「「アラグノールっ」」

「そのガキの言う脅迫状を書いたのは俺だ。それに森エルフの奴等にお前らが来る情報も流してやった。だが、こうも上手くいくとはな。ククク、ハハハハハッ」

アラグノールの勝ち誇った笑いが森にこだます。

「くっ、だから森エルフ達が…アラン、すみません。計画では私の流した嘘の情報でこの一週間は世界樹の警備が手薄になるはずだったのです。ですが、なぜアラグノールに私の計画が漏れたのか…」

サリオン先生の顔が青ざめる。

「まっ、まさか…」

「やっと気づいたか。おいっ」

アラグノールの後ろから女が一人押し出された。服は全て脱がされ縄で縛られていた。

(ディ、ディジー?)

「ディジーに何をしたっ」

アラグノールはフッと笑った。

「クク、混ざりものにしてはなかなか良い声で啼いていたぞ」

瞬間、怒りで俺の目の前が真っ赤に染まる。

「てめぇっ、許さねえっ」

「いけないっ、アランっ」

俺はサリオン先生が止めるのも聞かず飛び出した。

『ギンッ』

体重をのせた俺の剣はアラグノールの隣から現れた剣で止められた。いつの間にかアラグノールの周りに荒地エルフが何人も立っている。

「まずはお前からか。いいか、お前ら、俺がやる」

アラグノールが剣の柄を握る。

(くっ…)

「させませんっ」

『ヒュッ』

サリオン先生の声とともに矢が飛び、俺の剣を止めていた男が体を仰け反らせた。

「アランっ、下がるのですっ」

その間に俺は後ろに下がる。

「チッ、まあいい。死ぬまでの時間が少々延びただけのことだ。神聖な世界樹に害をなした大罪人エルサリオンとその一味を処刑した俺は英雄としてエルフの長老となろう。おいっ」

アラグノールの掛け声で、取り巻きが散開する。俺達は十人以上に取り囲まれた。

「アラン、ここは逃げるのです。私が時間を稼ぎますっ」

取り巻きを牽制しつつサリオン先生が俺を見る。

「そんなっ、先生も一緒にっ」

「怪我をしたあなたを守りながらでは二人とも間違いなく殺されます。ディジーは必ずあなたたちのもとに送ります。さあっ、早くっ」

(一人で逃げることなんて出来ないっ)

しかし、サリオン先生の声に何かを感じ取ったのかバズが起き上がり俺の袖を口に咥えた。

「うわっ、バズっ」

抵抗するが、本気を出したバスには太刀打ちできない。

「バズっ、やめろっ…サリオン先生っ、ディジーっ」

離れていくサリオン先生が呟いた言葉は俺には届かなかった。

「生きてください…アラン、元気で…」


◇◇◇


バズに引きずられた先で走ってきたラムジーとカズンズと俺は鉢合わせた。

「アランっ、大丈夫かっ?」「アラン殿っ」

ラムジーとカズンズ兄、それに無傷の仲間数人が走り寄ってくる。

「ラムジー、どうして?」

「なんか知らんが、急に奴らが戦意を喪失したんだ。それよりお前、ひどい怪我じゃないかっ」

手当てを受けながら俺は状況を手短に話す。それからふとカズンズ弟の姿がないことに気がついた。

「カズンズ…弟は?」

「…くっ」

カズンズ兄が声をつまらせた。

「まさかっ」

『ゴンッ』

「ラムジー殿っ、何をなさるのだっ」

「時間がないときに紛らわしいんだよっ。アラン、こいつの弟とゲイルは怪我人を連れて一足早く森の外に出ている」

「あの弟がこんなにしっかりとするとは…兄として幸せで…グス…」

鼻をすするカズンズ兄を無視してラムジーが俺を見た。

「で、アラン、どうするんだ?」

「………サリオン先生が時間を稼いでくれている間に森を出る」

本当はサリオン先生を助けに戻りたい。だが、ここにいる仲間の数ではあの数を相手に戦えない。悔しさに歯を食いしばって言葉を絞り出した。

「分かった。…本当に良いんだな?」

「ああ…」

それから俺達は森の入り口に向かった。

(くそっ、俺は守れなかった…)

真っ暗な森を出ると赤茶けた地面と満天の星空が広がる。その先には怪我の手当てを終えた仲間たちが待っていた。

「アランっ」

俺達にいち早く気づいたゲイルの上げかけた手が止まった。

「ゲイルっ?」

ゲイルの視線を追って振り向いた俺の目に迫りくるアラグノール達が映った。

(早いっ、アラグノールが来るということは…サリオン先生っ)

俺達は後ろの怪我をした仲間を守るために迎撃の態勢を作った。

「ふんっ、煩い小蝿が集まっていたか。ちょうど良い。こいつらと同じところへ送ってやろう」

ドサッという音とともに金髪のエルフの首が転がった。

(森エルフ…サリオン先生はっ?)

「んん?エルサリオンか?どうなったか気になるのか?おいっ、答えてやれ」

アラグノール達の後ろからディジーが引きずり出される。素っ裸に縄で縛られた姿に仲間たちの顔が強張った。

「ディジーっ」

俺の叫びにディジーの震える唇が動く。

「……こ…の…先に…」

ディジーの体に巻き付けられた縄は森の中に繋がっている。

「ま…さか…」

「見に行ったらどうだ?特別に許可してやるぞ」

アラグノールの勝ち誇った顔。

「アランっ」

誰かが俺を止める声がする。だけど俺は走った。そして見た。ロープを首に巻かれ、引きずられてここまできたサリオン先生を。

「く…あぁぁぁぁぁ」

気がつけば俺は座り込んで嗚咽を漏らしていた。

「お前達の汚いアジトにも今頃は俺の部下どもが着く頃だ。だが、安心しろ。どうせお前達も今から同じ場所に行くんだからな」

「殺す…殺してやる…」

頭に血が昇って立ち上がると、アラグノールの前に手下の荒れ地エルフが立ちはだかった。

「邪魔をするな…」

荒れ地エルフはさらに怒らせたいのかニタニタと笑う。

「アランっ、戻れっ」

ラムジーの悲痛な叫び。俺もアラグノール達も剣を抜く。

「アランっ」

一触即発のその時だった。

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