管理人ほう

管理人ほう

コンテスト三日目。

今日は特技披露の日だ。

「初日に続いて昨日の水着もかなり目立ったからなあ…、今日あたりかなり強引な嫌がらせがあるかもしれない。アオイもタマも気をつけてくれよ」

ミハエルがそう言うのでハルとアメは気配を消して僕らの警護をしてくれている。


◇◇◇


薄暗い灯りの中、僕はランウェイを歩いて舞台に向かった。

今日は動き回ることもあり、上はブラジャーのみ(もちろん、見られても大丈夫なやつ)、下は太腿までスリットの入ったサテン生地のロングスカート。僕が泣きをいれたらジャスミンさんがスケスケのレースのシャツを上半身に着させてくれた。

「むしろエロくなったなっ、ハハハハ…グフッ」

ランウェイの周りに陣どった観客からギリギリ僕が見えるくらいの暗さ。ドームの中は先程までの出演者の熱が残っている。

振り返ると舞台の一番手前にタマちゃんがイスを置いて座った。

(さて、始めますか…)

僕は舞台の中心に立ち、既に抜き身で持っていた剣を顔の前に掲げる。

僕の持つ剣はオズワルドさんがこの日のために打ち直してくれた片刃の細身の剣だ。刀身から柄まで真っ白で、宝石が埋め込まれた剣は戦うためのものではなく、儀礼用のものといった方がしっくりくる。

スポットライトがポーズをとった僕を照らし、大きな拍手が会場内に響いた。

「アッ、オッ、イッ、アッ、オッ、イッ」

(うわっ、何っ)

野太い声にびっくりして声がしたほうを見ると『葵』と漢字で書かれたタオルを掲げた一団がいた。

(これってひょっとして応援っ?)

頭を下げると「うおおおおおっ」とさらにヒートアップした。

『お客様、イベントが進まないためお静かにお願い致します』

結局、この喧騒は司会者が現れて静めるまで続いた。

(ふう、仕切り直そう)

僕はスポットライトが反射してキラキラと輝く剣を後ろに低く構えた。

すると、それでもまだざわついていた会場がスッと波が引くように静まる。確認するまでもなく、タマちゃんの方も準備は出来ているはずだ。

(まだだ…)

僕は始めるタイミングを見計らう。

あまり待たせすぎると観客の緊張が解けてしまう。

その時、不意に、ピタッと話し声が止んだ。

一瞬生まれた静寂。

(今だっ)

僕はその、観客の緊張が最高潮に高まった瞬間を見計らって剣を振り切った。

『ジャジャンッ』

完璧なタイミング。

マイクで増幅された荒っぽいギターの音が、短く、鋭くドームに響いた。

一瞬の静止、そして静寂の後。

『ジャッジャッジャッジャッ』

荒れ地を彷彿とさせる低音が響く中、剣を振り抜いた姿勢から回転をしながらジャンプして下段、中段と空気を切り裂く。

『ジャジャジャッ、ジャッ』

僕が上段に剣を構えて静止する瞬間、ギターの音が止んだ。

「ふぅ…」

ほんの数秒の演技に観客席からため息が聞こえた。

『ポンッ、ポンッ、トンットントントントトトトトッ』

今度は手でギターの腹を叩く音。最初はゆっくり、徐々に速くなってきた。

(ここっ)

『ヒュッ』

ギターに合わせて上段から袈裟斬りに斬り下ろすと、そのまま前に進んでいく。

舞台の端まで来ると、観客達の視線が僕に集中する。

『ジャジャンッ』

ギターの音が響いて、僕は舞台の端で反転すると、剣を振りながら今度は舞台の端を回っていく。

『ジャジャジャジャジャジャ』

スポットライトの熱で汗が飛ぶ。

『ピッ』

汗の粒が剣先で真っ二つに別れた。

『ジャカジャカジャカジャカジャカジャカ』

そして、徐々にギターの音が速く、激しくなる。

音楽と連動して、僕の動きもよりダイナミックになった。


◇◇◇


アオイが足を大きく前に出す度、太腿の上まで切れ上がったスリットから白い足が顔を出し、回転する度にスカートがはだける。

さらに、ほとんど意味をなさない薄いレースのシャツの中では宝石に縁取られたブラジャーが動きに合わせて激しく揺れた。

そして、最初こそ、それに目を奪われていた観客も今や完全に演技に引き込まれている。

(素晴らしいニャ)

タマはかつてないほど自分の感覚が鋭敏になっているのを感じていた。

アオイの姿は舞台の反対側にあるはずなのに、まるで目の前にいるかのように息遣いすら分かる。

しかし、その演技もクライマックスが近づいていた。

予定通りクライマックスに向け、アオイの動きが大きく、激しさを増し始めた。アオイの存在感が高まる。

と、その時、タマの目は三人の影が舞台に現れたのを捉えた。

(んー、この匂いは男のようニャ)

男達にスポットライトが当たっていないせいで観客達はまだ気づいていないようだ。

アオイも気づいていないのだろうか。

(ん…気づいてるニャ)

事前の打合わせと違って、アオイが舞台の中心に向かって移動している。

(ここはアオイに任せるニャ)

タマはアオイを見て、演奏の修正をしながら様子を窺うことにした。

アオイの息遣いが変わった。

(むむっ、一度止めるつもりニャな)

激しく掻き鳴らしていた指に集中。アオイと呼吸を合わせる。

(今ニャっ)

ピタッ、アオイがしゃがみこんだ瞬間弦を手で押さえた。

アオイの上質な絹を思わせる黒髪が広がり、静かに流れ落ちる。それは激しさと静寂を最大限に際立たせていた。

動から静へ、それと同時にアオイを照らし出すライトが暗転。

完全な闇。

そして不意に三つのスポットライトが点灯、アオイを囲むように舞台に登った三人の男達を照らし出す。

スポットライトの放熱で舞台は暑い。にも拘らず、男達は黒の上下で肌を隠して仮面まで被って身元を完全に隠している。これだけで三人がアオイの舞台を邪魔をさせるために雇われたプロであることが充分に分かった。

だが、いくらプロとは言え、ターゲットを照らしていたはずのスポットライトが突然消えたと思ったら、逆に自分達が照らし出された経験などそうそうないのだろう。三人とも動揺を隠しきれていない。

「おおっ」

観客はこれも出し物の一部だと勘違いしたようで、次の展開を期待する声がそこかしこから聞こえてきた。

(始めるニャ)

アルペジオで柔らかい音を出すと、それに合わせたように別のスポットライトが再びアオイの姿を浮かび上がらせた。

一拍おいて短くリズムを刻む。

『ジャッ、トンッ、ジャッ、トンッ』

ようやく男たちは気持ちを立て直したのか、ギターの音に誘われるようにしてアオイに近づく。

アオイはしゃがみこんだまま動かない。

『ジャッ、トトッ、ジャッ、トトッ、ジャッ、トトッ、ジャッ』

弾く力を徐々に強めて感情を高めていく。

『ジャジャジャジャジャジャッ』

一人の男がアオイの後ろから飛びかかった。

『ジャーン』

まるであらかじめ動きが決まっていたかのようにアオイが回転しながら起き上がると男が倒れた。

倒れた仲間を見た男二人がナイフを手にアオイに襲いかかった。

『ジャカジャカジャカジャカ』

クライマックスに向けてタマはありったけの力で弦をかき鳴らす。

舞台の中心では二人のナイフを躱しながらアオイが見事なステップを決めていた。

『ジャーン』

一人のナイフを弾く。

『ジャーン』

アオイは自分の武器を失った男の隙を見逃さず、ダンスを踊るように鳩尾に回し蹴りを叩き込んだ。

『ジャジャッ、ジャッ』

三人目が相討ち覚悟で飛び込む。アオイも同じように飛び込んで二人がすれ違った。

『ジャッッ、ジャーンッッッ』

「ぐ…」

男が倒れてそのままアオイも動きを止めた。

フッとスポットライトが一度消えて、今度はドーム全体が明るくなる。

『ワッ』

観客達が総立ちで拍手や声を出した。口笛を吹くものもいる。

アオイはまるでアクシデントなど何もなかったかのように舞台の上で優雅にお辞儀をした。


◇◇◇


「聞いたか?」

「ああ、今年のダークホースがすごい演技をやったってやつだろ?昨日はエジルが嫌がらせをして、今日なんてムラトが邪魔するために暗殺者まで雇って失敗したらしいぜ?エジルとムラトが涙目になってるのが目に浮かぶぜ」

「いや、違う違う。ステファノスが動いたって話だよ」

「はあ?何言ってんだ?確かまだ先だって聞いたぞ?それに戦争が近いなら穀物や武器の値だって上がっているはずだろう?」

「そりゃ普通に考えたらそうなんだが。これは信頼できる情報筋からの話だ。ステファノスには既に充分な物資があったとしか考えられない」

「それで動いたって言うのは?」

「アリストスの同盟都市がやられた」

「ほう?どこなんだ?」

「くそったれ、リーズとコリントだよっ。俺があそこの利権を得るのにどんだけ苦労したかっ」

「おいおい…それどころじゃないだろうよ。リーズとコリントって言ったらアリストス同盟の前線の中でも中核都市じゃねえか…まさかマジに戦争するつもりか?」

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