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2016/09/07

『クリューソス』コンテスト一日目

「皆様、お待たせしましたぁぁッ。クリューソスの年に一度のビッッッグ、イィィベンツゥウウッッッ、その中でも一位二位を争う人気、コンテストの始まりだああああっ」

司会のお兄さんが舌を巻き巻きで叫ぶと建物全体に響きわたって、観客の叫ぶ怒号で会場のドーム全体が揺れた。

事前にミハエルから聞いた情報によると、この屋根つきの巨大な円形の建物は最大二千人が収容できるらしい。

このコンテストのために普段使われている壁際の舞台から会場の中央に向けて参加者が歩くためのランウェイが作られており、その先に円い特設の舞台がある。

設備も最新鋭で、魔術具による建物内の気温の管理、音響、ライトはもちろん、遠くて見えない観客のために壁に舞台が大きく映し出される仕組みまである。

「今年は例年になく見目麗しい参加者が来てくれていますッ」

魔術具で増幅された声は会場の隅々まで響いていることだろう。

「それでは早速ッ、これから三日間ッ、優雅にして熾烈な闘いを繰り広げる出場者の紹介だッ」

舞台袖から入ってきていた明かりが消える。

「それでは、エントリーナンバー1番ッ」

受付順に番号が割り振られ、今回は番号順だ。ちなみに明日以降の順番はくじ引きとなるらしい。

舞台で紹介されている一番のデルフィネさんが待機している出場者を品定めをするように見回してから胸を張ってランウェイに出ていく。

綺麗なストレートの銀髪に狐の耳がついている。腰のあたりにフサフサの尻尾も出していた。

「昨年度グランプリのデルフィネ嬢ッ。類いまれなるその美貌は今年も健在ッ、いや、むしろ輝きを増した彼女の王座は今年も磐石かッ」

初日の今日は出場者の御披露目ということで、略式のドレス(カクテルドレスというらしい)をそれぞれが着ている。

デルフィネさんはロングの真っ赤なドレス。

V字型に大きく開いた胸元からは深い谷間が惜しげもなく見えて、元々の身長にハイヒールを履いているせいで、長く綺麗な足がロングスカートのスリットからチラチラ見える。

スタイルや美貌はもちろんのこと、彼女はこの街でも次期評議委員の呼び声高い商人がバックについているため、組織票もかなりのものらしい。

会場の中心にある舞台に到着すると、その場で一回転してポーズを決め、一言二言司会者と話をして次の女の子が呼ばれる。

(それにしても可愛い子ばっかりだ…)

出場者の顔ぶれを見ると、このコンテストのレベルの高さがうかがえた。

(僕なんかで大丈夫かなあ…だけど、ワンさんに会うためには勝たないとっ)

「エントリーナンバー8番ッ、アリストスの至宝ッ。セシリア嬢だッ。百年に一人の美少女の呼び名は都市国家中に響いているッ。今大会で王座を奪い取って名実ともにナンバーワンの称号を奪いとれるかッ」

ピンクゴールドの髪に碧い目のクリクリした少女が胸を張って出ていった。

ちなみにこの少女が唯一僕よりも背が低く、140センチくらいで、年齢も13歳。

スージーさんと同じでワーラビットのようだ。ウサギの耳がヒョコヒョコ揺れて思わず抱き締めたくなるくらい。

服装も宝石が散りばめられたピンクのフリフリのドレスで、そのあどけない顔とあいまってまるでお人形のよう。セシリアさんの魅力を最大限にアピールしている。

ちなみに僕は、というと、ジャスミンさんがスージーさんと相談して作ったという黒いワンピースドレス。

胸元と背中はバックリ開いていて、恥ずかしいんだけど、スカートは膝丈だし、色も黒のせいか他の参加者に比べると地味な気もしないでもない。

「いよいよ、最後の出場者ッ。エントリーナンバー12番はアオイ嬢ッ。目の肥えた大会運営スタッフが度肝を抜かれた美少女だッ。まさかの大会二日前にエントリーした今大会のダークホースだッ」

僕の番だ。舞台の袖から真っ暗な会場に出ると、パッとスポットライトが僕を捉え、拍手の嵐が巻き起こった。

眩しさに少し目を細めて、それからレイモンド夫人に教わった歩き方でランウェイを歩く。

眩しさに慣れてくるとランウェイの周りにいるミハエル、アメ、ハルの顔を見つけてちょっと緊張が和らいだ。

リハーサルを思い出してくるっと一回転してひとつ前のナンバーの女の子の横に立つ。

「さて、アオイさんは旅の方とお聞きしましたが、どちらから来られたのですか?」

司会のお兄さんが短い棒を僕に向ける。このへんはリハーサル通り。この短い棒は拡声のための魔術具で、通称マイクというらしい。

「アトランティス王国から砂漠を抜けてきました」

「ほおっ、それは凄いっ。はるばる遠くから、わがクリューソスへようこそっ」

司会のお兄さんの大袈裟な声に観客席からも驚きの声が聞こえた。

「アトランティス王国は皆さんあなたのように美しいのですか?」

「いえ、この街の方やコンテストの参加者の方を見て驚いています」

「ハハハ、あなたにはおよびませ…おっと、いけないいけない」

司会者は中立、自分の意見は言わない事になっているので、おどけた感じで言葉を止めるとお客さんが笑う。

「それにしても、白以外なら何色でも良いわけですが、黒を選ばれるのは珍しい。しかし、むしろ上品で落ち着いた…あれ?もう時間か…お話はここまでにしましょうッ。出場者の皆様は少しそのままで。ご来場の皆様は壁の映像をご覧ください。」

司会者が一度離れて、四角い魔術具が僕らの周りを飛び回る。僕らからは見ることは出来ないけど、これによって壁に僕らの映像が映し出され、司会者が一人ずつのプロフィールや服のデザイナーによる説明を読み上げていく。

こうして、服やアクセサリの販売促進も兼ねているのだそうだ。

「さてさて、それでは初日の御披露目はここまでにしましょうッ。明日は男性陣お待ちかねッ、水着審査と明後日は特技披露が待っていますッ。イベント目白押しの祭りを最後まで楽しんでくださいッ」


◇◇◇


「良かったぜ」

僕が控え室から出ると、ミハエルが満面の笑みで待っていた。

「そうかな?一番の人とか八番の子の方が…」

「いやいや、司会の奴もアオイのインタビューに喋りすぎたくらいだからな」

「お嬢様が一番人気でしたよ」

いつのまにかハルもそばにいた。

「人気なんてわかるの?」

「多分。さきほどブロマイド?とか言うものを販売している店の前を通りましたが、お嬢様のものが一番人気になっていました」

「ブロマイドって?」

「ああ、これこれ」

ミハエルがポケットから出したのは絵とはちょっと違う、本当に僕をそのまま紙にしたようなものだった。

「へえっ、すごいねっ」

そういえば昨日、色々な服を着せられてよく分からないポーズをとらされたんだった。

「アトランティス王国には無いのか?」

「うん」

ミハエルがほおっ、と目を輝かせた。

「なら、この技術を持って東にいけば…」

商人の顔になったと思ったらすぐに話題を変えた。

「この売り上げも審査の対象になるから組織票のないアオイが一番人気っていうのは大成功だな」

「お嬢様っ、明日も頑張りましょう」

応援してくれるハルとは対照的にミハエルは少し思案顔だ。

「ミハエル、どうしたの?」

「確かに大成功だ…だけど、目立った分、気をつけないとな」

「なんで?」

「刺激しすぎると嫌がらせもされるのさ。なにせ俺達が相手するのは大商人ばかりなんだぜ」
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