父上が床について数日。
私としては毎日でも父上を見舞いたいのだが、対外的には風邪で寝込んだことになっているため、そうそう城に行くわけにもいかない。
だが、それだけではない。私には父上に顔向け出来ないことがあった。
◇◇
「ふぅぅ」
眠れない。
もう何度目かの寝返りをうつ。
「なんで…」
確かに熱帯夜が続いているとはいえ、一日鍛練をした体は心地よく疲れ、眠りを欲している。
にもかかわらず体の奥には不可解な熱が籠っていた。
「はぁ…」
頭に思い浮かぶのは先日、酔って帰った時にした、あの行為。
(あんなこと…してはいけない)
そう。してはいけない。だけど、一度意識してしまうと脳裡にはあの時の快感が浮かんだ。
(少しだけ…そう…確かめるだけ…)
自分をごまかしながら着物の合わせ目に手を差し込む。滑らかな肌を手のひらが撫でていくと、固く尖った蕾に引っ掛かって。
「んっ」
ピクッと体が反応した。
「はぁっ、んっ、ん…」
誰に教わったわけでもない、もちろん先日が初めての経験だったのに、まるで我慢すればするほど快感が強くなることを知っているかのごとく、指は蕾を避けて胸の周りから愛撫していく。
「はぁっ、はぁっ、はあっはあっ」
掠れたような息遣いが闇の中に広がった。
(もう、我慢できない…)
「んあっ」
じっくりと焦らしていた分、指が蕾を摘まんだ瞬間、高い声が出た。
「んっ、くっ…」
指で蕾を挟んだまま胸を揉み始めると腰が勝手にくねくねとよじれ、薄い掛け布団を乱す。
「ああっ」
足をくねらせている間に着物の裾がはだけていた。
そして、胸を揉んでいた手が露になった下半身に向かう。
『チュク』
「あふっ」
ヌルヌルの割れ目をなぞって、その上にある控えめな突起を指の腹が擦った。
「はうっ」
ビクンッと体がのけぞり、これから訪れるであろう快感への期待に体が震える。
(こんな姿…誰にも見せられない…)
不意に暗闇の中、一人の男の姿が浮かび上がった。
(なんで…あの男が…んあっ)
だが、すぐに男の姿は消えて意識は快感の波にさらわれる。
「あっ、だめっ、こんなっ、だめなのにぃっ」
『ニチャ、ニチャ』
割れ目をなぞると、体の中から粘液が溢れ、突起を押し潰すと少し痛いくらいの快感が体を貫く。
「あっ、らめっ、なにっ?なにか来るっ、あっ、らめっ」
自分が自分でなくなるような感覚に目眩にも似た興奮を覚えてますますのめり込んだ。
『くちゅっ、くちゅっ、ねちゃっ、チュクチュクチュクチュクッ』
「あっ、あっ、ああっ、らめっ、らめっ、らめぇぇぇぇっっ」
◆◆◆
それは、あの初めての日の翌朝。
「うー…」
明け方、裸で目覚めた私は布団の上で暫く頭を抱えていた。
(酔っぱらっていたとは言え、なんてことを…)
急いで服を着て風呂を焚き、湯に浸かる。
『パンッ、パンッ』
頬を両手で叩いて気合いを入れた。
それからサラシを胸に巻いて男の道着を着ると自分に言い聞かせる。
「私は千手丸。土御門家の嫡男だ」
それから刀を腰につけて道場に向かった。
◇◇◇
「千手丸、良い薬師の店が分かったぞ」
武三がその日の終わりに声をかけてきた。
「夏風邪くらいなら一発らしいぜ」
武三は道場での修行の傍ら仕事もしていて、お客さんから聞いてくれたらしい。
「犬千代殿、今日はお先に失礼します」
「分かった。武三、頼んだぞ」
私達は町の北に向かう。
「確か…ここだ、ここだ。さっ、千手丸っ」
武三に促されて暖簾をくぐったところでちょうど出てきた男の人にぶつかった。
「…っと、すみません」
「いえいえ、こちらこそ…」
男は私の刀を見ている。
歳は三十代の半ばくらいか。長い髪をきちんと後ろで束ねて、清潔そうな着物を着ていた。
「何か?」
「いや、その刀、柄糸が緩んでいますよ」
刀の柄を見ると確かに緩んでいる。
「えっ?…ああ…本当だ」
「よろしければお貸しください」
私が刀を腰から抜くと男は手慣れたように柄糸を直し始めた。
(サムライには見えないが…)
「あなたは…?」
「ええ、私はこの近くで刀鍛冶を営んでおります」
男の声は少し低く、落ち着いた話し方は好感が持てた。
「ところで、これはかなりの業物と見受けますが…あなたの体には合っていないのではないですか?」
「えっ?どうしてそれ…」
その時、大きな声が私の言葉をかき消した。
「ちょっと、何を一人で出てるのよっ」
そのまま、声の主は私と男の間に割り込んでくる。
「菖蒲(あやめ)、ゴメン。今日は体調が良くて…」
「何言ってるのよ、また体調崩したら世話するのはこっちなんだからねっ」
こちらからは背中を向けているため顔は見えない。だけど、年端もいかないおかっぱ頭の少女に男は叱られていた。
(娘さんだろうか?)
「あっ、あの…」
私の声に男が少女から私に視線を移す。男と目が合った。優しそうな瞳が私を捉える。
「あの…えっと…」
言ってから特に何か話すことがあるわけではないことに気がついた。
「……すみません、それでは…」
私が何を言おうか考えているうちに、男は軽く頭を下げて少女に引きずられるようにして去ってしまった。
「ありゃあ何だったんだろうな…」
振り向いて武三が呟いた。
(確かに体に少し合ってないんだけど、ちらっと見ただけで分かるものなのか…それに…何だろう、この気持ちは…)
胸に手を当てると動悸が普段よりも早い気がした。
「いらっしゃい。どんな薬を探していらっしゃるのかな?」
「あっ、そうだった。ええ…」
薬師の声に我に返る。私は父上の病状を説明しながら頬が熱くなっているのを感じた。
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