36.理事長と取引② まさかの再会(⑱禁描写無し)
僕は教室に向かう生徒の流れに逆らって理事長室を目指す。
教室から離れるにつれ生徒のざわめきが小さくなる。
僕らの学園の理事長室は職員室の隣にあるのでホームルームに行く先生何人かとすれ違った。
職員室の前を通るけど今日は授業もないから職員室も静かだ。
「ふぅ。」
一応息を整えて、
『コン、コン』
「開いているよ、入りたまえ。」
ドアの向こうから声がした。
「失礼しまーす。高梨遊です。先程放送で呼ばれたのですが?」
理事長が書類を見ながら話す。
「ああ、高梨君、よく来てくれた。ちょっとそこに座って待っててくれるかな。」
そこってこのソファで良いのかな?
向かい合わせになったソファを見ると、片方には理事長の背広が掛けてあるので、理事長に背を向ける側に座る。
革のソファはクッションがしっかりしているのか、ふわふわですごく気持ちいい。
うーん、でもやっぱり理事長の声、聞き覚えがあるなぁ。誰だっけ?
『きーんこーんかーんこーん』
ホームルーム開始のベルが鳴る。
ペンの音が止まった。
「さて、」
理事長が立ち上がる。
そのまま僕の後ろに立った。
「久しぶりだな、ユズちゃん?」
振り返ろうとした僕の耳元に低い声が響く。
「えっ?!」
ユズ…ちゃん…!?聞き間違い…じゃないよね?
慌てて振り返った時には理事長は僕の横をゆっくり歩いていて、向かいのソファへ座った。
「ああ、すまない、今はユウ君だな。」
あっ!!!
一瞬で脳裏にラブホテルでのおじさんが蘇る。
「夏休みは楽しかったな。ふふふ。」
日焼けして油っぽいギトギトの顔、プロレスラーみたいな体型、低い声…。
「痴漢の…」
言いかけてストップ!危ない危ない。あれは柚って事にしてるんだった。
「なっ、夏休み?ど、どういうことですか?」
「ふふふ」
理事長は背広のポケットから写真を数枚出してガラスのテーブルに置いた。
一枚はホテルでの僕だ、騎乗位の下から撮られた写真。
二枚目は僕の生徒手帳が開かれている。
三枚目、女の子になった僕が家に入る写真。海に行った日だ。
四枚目、男に戻った僕が家を出る写真。
「あっ、あのっ、これは…」
「いやいや、高梨君、言い訳や嘘はいらない。あれから気になってちょっと調べさせたからな。」
ええっ?
「まず君の親族に同じ年代の女の子はいない。これは戸籍から調べたから間違いない。さらに三枚目、四枚目は一日中君の自宅を見張らせた時のものだ。君以外誰もいないはずの家に柚君が入り、翌朝遊君が出てくる。不思議な事ってあるものだねえ。」
ニヤニヤした理事長の顔。
あぁ、なにもかもばれてしまってる。
「うぅ…」
「君があの時のユズちゃんである事は間違いない。ただ、分からないのはホテルでの君は間違いなく女の子だった。ふふふ、思い出してしまうよ。素晴らしい夜だったな。なのに今の君は確かに可愛らしいが、どうみても男の子という事だ。」
完全に固まった僕に理事長は真剣な顔で言った。
「では、事情を聞かせてもらおう。話したまえ。」
「あっ、あの…もっ、もし…話したくないって言ったら…どうなりますか?」
「この写真、情報をマスコミ、研究機関に流す。こう見えて顔は広いんだ。」
男が女になるなんて、きっと大問題になる…そしたら家族にも迷惑かけちゃうし、僕もどうなっちゃうか…。
「…………わ…かりま…した。」
理事長には話す代わりに絶対誰にも言わないようお願いした。
そして、僕の身体の事を全て話した。
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