14周目 9月26日(日) 午後11時50分 高樹美紗

14周目 9月26日(日) 午後11時50分 高樹美紗

「おかしいっ、やっぱり変よっ、神様っ?」

「何じゃ?」

「『何じゃ?』じゃないわよっ、何かしたわねっ?」

これは14周目の最後の日。アタシは神様に詰め寄っていた。

神様はこれまでと違って不敵に笑っている。

「前からおかしいとは思ってたのよ。一体どういうことなのっ?」

「ふむ、お主は儂が何かしたと考えておるようじゃが、何もしとらんよ」

「だけど、…島津はあんなに弱くないっ」

アタシが神様に詰め寄ったのは権田に好きなようにされた10周目の後、さらに4周した14周目の最終日のことだった。

(おかしいと思ったんだ。だって…)

アタシが不審感をもったのは11周目、だけど、確信に変わったのはこの回だった。

(そういえば、権田の時も違和感はあったのよね。あの時は違和感だけだったんだけど…)

◇◇◇

11周目 9月22日(水) 午前8時30分 島津政信

朝イチから、目の前の亜紀が両手を合わせて俺を拝んでいた。

これはもちろん俺が死んでしまったわけではない。

「お願いしますっ、今日だけでもいいからっ」

昼休みにお願いがあると言われて亜紀とお昼を食べた。

そこで亜紀が切り出した話を要約すると、部活の都合で亜紀がバイトに行けない。そこで俺に頼んできたというわけだ。

ちなみにバイト先の店長が亜紀の1年付き合っている彼氏。

亜紀の話から察するにどうやら高樹は過去に一度バイトを手伝ったことがあるようだ。

(うーん、断りたいけど…)

目の前で頭を下げている亜紀の姿を見ると、高樹の親友の頼みを断るのも気が引ける。

ちらっと高樹の姿を探す。

窓際で友達と話をしている高樹と目が合った。

「ちょっと考えさせて」

俺は亜紀にそう言うと廊下に出る。しばらくすると高樹が出てきた。

「どうした?」

あたりをはばかるように小声で高樹が尋ねてきた。

「亜紀からバイトを頼まれて」

「ああ…なるほど…」

高樹がそれだけで分かってくれたようだった。

「で、どうする?」

「いや、親友なんだろ?それなら手伝わないと…」

俺が手伝う意志を伝える。

「うん。ありがと。じゃあバイトの終わりに迎えに行くよ」

「いや、いいよ。それくらい一人で帰れるし。こっちも大会が近いんだからそっちを優先してくれよ。また明日の朝に報告するから」

「…ああ、そうだな。」

ちょっと考える素振りを見せた後、高樹も同意した。

ふたりがそろって消えた後、亜紀は本当に二人はできてるんじゃないかと疑っていたが、俺たちはそんなことに全く気づかないまま密談が終了した。

時間差で教室に戻る。

「で、どうっ?」

亜紀がすがるような目で見る。

「いいよ」

俺がそう言うと大喜びする。

(おかしいな…なんでこんなに喜ぶんだ?)

「よかったぁっ、前に美紗に頼んだ時、もう二度としないって怒ってたから絶対無理だと思ってたのよっ」

(ええっ、どういうこと?)

そうは思うが、受けてしまった以上今更どうしようもないし、高樹がオッケー出してるんだから大丈夫だろう。

「はあ、だけど、場所を忘れちゃったから一応教えて」

そう頼むと詳しい地図まで書いてくれたのだった。

◇◇◇

あのとき止めておけば良かったのかもしれない。

アタシもどうしたらうまくいくのか分からなくなってきて。新しい展開から何かヒントが得られるんじゃないかって考えてしまっていたから、島津の変化に気づかなかったんだ。

◆◆◆

11周目 9月22日(水) 午後5時30分 島津政信

(おいおい、こんなの聞いてねえよ)

俺がこう思うのも仕方ない。

鏡の前でひらひらのスカートをつまんでため息をついた。

(これは聞かなかった俺が悪いのか?)

カフェとは聞いていたけど、制服までは聞いてなかった。

フリフリのブラウスにピンクのミニスカート。スカートは肩ひも付きで、コルセットみたいなのでウエストを絞って胸が強調されている。

(まあ、スカートは学園の制服で慣れているからいいが…)

『コンコンッ』

ノックがして扉が開く。

店長が笑顔で入ってきた。

「いやあ、美紗ちゃんが来てくれて助かったよ。」

亜紀の彼氏は初めて見たけど、新井真也さん。歳は28だったっけ?髪は長く、パーマを当てた茶髪、顔が笑うとクシャっとなる、亜紀によれば可愛い顔なんだそうだが、俺から見ればナヨナヨした感じを受ける。

「バイトの子達が全然捕まんなくてさ、亜紀も無理だったからてんてこ舞いしてたんだ。今日はバイトの子も美紗ちゃんだけだし忙しいと思うけどごめんね」

すまなさそうに言う姿には好感が持てる。

「いえ、大丈夫です。だけど、私にできますか?」

俺の一番の心配はそこだった。なにせ、これまで柔道しかしてこなかったから料理なんてしたこともないし…。

「えーっと、美紗ちゃんはお客さんが来たら水を出して、注文を聞いてくる。それから注文の品を持っていく。あとはレジ打ちくらいだから」

(料理はしなくていいのか)

「そうだ?前もしてもらったけどまだ覚えてる?」

(…前にもあったのか。高樹のやつ、それなら教えてくれてもいいだろうに)

俺は忘れた振りをしてレジの打ち方、注文の書き方、オーダーの通し方を教えてもらった。

「困ったら言ってね。無理言った分フォローしますので」

おどけた感じで言う店長に俺も笑顔で「よろしくお願いします」と言った。

◆◆◆

11周目 9月22日(水) 午後7時00分 島津政信

『ガチャンッ』

「あっ、すみませんっ」

今日何度目かのミス。

慣れない仕事に俺はコーヒーを盆の上で倒してしまった。

焦る間もなく、さっと出てきた店長が俺のお盆を取るとテキパキと指示を出す。

「美紗ちゃん、事務所から布巾持ってきて」

「あっ、はい」

「布巾はロッカーの上にあるから」

俺は店長の言葉を頭に入れて急いで事務所に向かう。

(ロッカーの上、ロッカーの上)

事務所に入るとロッカーの上に手を伸ばし…届かなかった。

(そっか、男の体の感覚だったけど、今は高樹だもんな)

周りに台になりそうなものを探す。

(あっ、これだっ)

壁際に小さな脚立が立てかけられているのを見つけてロッカーの前に持ってきた。

「これでいいか」

とんとんとん、と上って行ったときに『がちゃ』と扉が開く音がした。

「美紗ちゃん、見つかった?」

「あっ、店長、今取るところです」

そう脚立の上から返事をした。

「美紗ちゃん、危ないよ」

そう言って店長が脚立を押さえてくれた。

「ありがとうございます」

そう言って雑巾の入った箱を取った俺は店長の目が俺のスカートの奥を覗き込んでいたことに全く気がつかなかった。

◇◇◇

今日は気が付けば美紗を目で追っていた。

フォローするって言った手前、できるだけ、美紗を意識するようにしているせいかな。

いかん、いかん。亜紀っていう可愛い彼女がいるのにその友達が気になるなんて。

しかし、女の子は変わるもんだな。

以前手伝ってもらった時も綺麗な顔をしてるとは思ったが、こんなに色っぽかったかな?

うちの制服は胸元が強調されてスカートも短いから、男の客が結構来てくれるが、今日はいつも以上に長居する客が多かった。

美紗ちゃんは体が細い割に胸が大きく、スカートから溢れる太ももの白さが眩しい。

天然なのか、前かがみになったりするもんだから後ろから太ももの付け根までチラチラ見えるのを鼻の下を伸ばして客が見ている。

『ガチャンッ』

音がしてカウンターから覗くと美紗がオロオロしていた。

俺はすぐにトレーを受け取り、布巾を取りに行くよう指示をする。

急いで、注文の品を作り直してお客さんに届けると事務所に向かった。

扉を開けると目の前に白い太ももが飛び込んできた。

「美紗ちゃん、見つかった?」

美紗はガサガサとロッカーの上を手で探っている。

背が届かなかったから脚立に乗っているが、それでもロッカーの奥までは届かないようだ。

うーんと体を伸ばして奥に手を伸ばすのに合わせてヒラヒラとスカートがはためく。

「あっ、店長、今取るところです」

脚立を押さえるふりをして顔を上げるとちょうど俺の視線の先にパンティのクロッチがあった。

さすがに俺も驚いて美紗の様子を窺うが、美紗は全く気が付いている様子がない。

(ピンクのハイレグか。大人っぽいのを履いているんだな)

「美紗ちゃん、危ないよ」

俺が脚立を押さえたことで少し揺れたのに驚いたのか、美紗の腰が引けてますます尻が俺に近づいた。

「ありがとうございます」と何も気づかずに再び探し物に集中し始めた。

スーっと深く息を吸うと不思議に甘い匂いが漂ってきた。

股間が熱くなる。目の前の腰を抱いてむしゃぶりつきたいのを耐える。

この薄い布の内側には女の部分が隠されている、そう思うと股間がいきり立った。

今なら少しくらい触ってもバレないんじゃ…そう思う気持ちと諌める気持ちが俺の中で闘う。

甘い匂いが鼻腔をくすぐり、目の前のピンクの下着が俺の理性を狂わせる。

こんなことをしたらダメだ…が…

俺の手はもう脚立から離れスカートの端に触れようとしていた。

「店長っ、見つかりましたけど…?」

その時美紗の声が俺を現実に引き戻した。

「えっ?…あっ、ああ」

慌てる俺を見つめる不思議そうな純粋な瞳。

「よっ、よしっ、戻るかっ、ははは」

◆◆◆

11周目 9月22日(水) 午後8時30分 島津政信

「ありがとうございました。また来てくださいね」

『カランカラ~ン』

最後のお客さんが帰って、店長がレジを精算している間に俺は事務所に戻って服を着替える。

何度も失敗したけど、店長は怒らなかった。俺は逆に申し訳ない気持ちでいっぱいになった。

さすがに途中からは慣れて初歩的なミスはなくなったけど、店長には迷惑をかけてしまった。

『コンコン』

「はい」

ちょうど服を着替え終えたところでドアがノックされて店長が顔を出した。

「着替えたかい?雨が降りそうだし車で送るよ」

「いえいえ、そんな。歩いて帰りますよ」

店長に迷惑はかけられない。ただでさえ、失敗ばかりで役に立っていたかも怪しいのに。

「そうかい?もし、雨が降ってきたら戻っておいで。送ってあげるよ」

「ありがとうございます」

俺は気を使ってくれている店長にお礼を言う。

「気にしないで。今日は亜紀から急きょお願いされたんでしょ?美紗ちゃんも予定があっただろうに」

「ええ、まぁ、でも、あの、今日は失敗ばかりで、店長には迷惑ばかりかけてすみませんでした。じゃあ、急いで帰りますっ」

俺はそう言って急いで家路についた。