3周目 9月21日(火) 午前8時 高樹美紗
「おい、おっさん、何触ってんだ?」
アタシの野太い声に周りの乗客が騒ぎ始めた。
「なあ、おっさん、何触ってんだって聞いてんだけど」
アタシの怒りは凄まじいものになっていた。
前回のこともあり、痴漢の手を後ろ手に持って締め上げる。
「ぐっ、くそっ」
おじさんの手は島津の胸に入っている。言い逃れできない状況だった。
周りの好奇の目がアタシと島津、それに痴漢に注ぐ。
駅に着いたところでアタシは痴漢の腕を掴んだまま降りる。島津が心配そうに後ろをついてきた。
「たっ、いや島津、どうするの?」
「もちろん、駅員に引き渡すんだよ」
アタシと島津は近くにいた駅員に訳を話して、警察が呼ばれた。
駅員の詰所で警察に話をして、痴漢を引き渡す。
(あー、スッキリした)
前回の最後の映像を思い出して、アタシの気分は上々だった。
◇◇◇◇◇◇
9月21日(火) 午後4時10分 島津政信
高樹から琢磨から連絡が来ても絶対に連絡を取らないこと、と念押しされて俺は一人電車で帰る。
駅に着くと朝のことが思い出される。
(あの痴漢、ちょっとかわいそうになってしまったな。まあ、自業自得ってやつなんだが…)
『間もなく~△△行き~快速電車がまいりまーす』
がやがやとした駅のホーム。思ってた以上に人が多い。
(この時間は学生が多いな、大学生も結構いる。…ああ、○○大学の学生か…)
俺の通う学園は大学の附属なので大学生がいるのもうなずける。
『プシューッ』
ドアが閉まり、電車が動き出した。
俺は運良く座ることができた。
目の前には大学生っぽい男2人が立っている。
片方は茶髪でパーマ、もう片方は黒髪で黒縁のメガネをかけている。
茶髪は今風のアホそうなチャラい感じの男だ。
黒髪の方は目がキツそうな感じだが、頭が良さそうだ。
(ふーん、大学生ってのは暇そうだな)
一人ががぺちゃくちゃとしゃべるのをぼんやりと聞きながら電車にゆられる。
「なあ、俺の友達が朝、痴漢見たんだって」
(へえ、痴漢って結構いるもんなんだな)
俺はのんびりと
「で、助けてやったのか?」
「いや、どうもその子の彼氏みたいなのが助けたって話だったよ」
「なんだ、彼氏つきか…」
黒髪の男が何かを考えるように黙った。
「それがその女の子がめちゃくちゃ可愛かったってそいつが言ってた」
「…どんな子なんだ?」
「確か写真撮ったって言ってたな、よし、メールで送ってもらうか」
「お前馬鹿じゃないのか?」
茶髪が自分で言っといてゲラゲラ笑っているが、俺の顔は青ざめていた。
(それって…まさか…見られて…写真まで…?)
チラッと大学生を見ると、黒髪と目が合ってしまった。
(なんだ…この目つき…?)
こちらを観察するような目に慌てて俯いた。
◇◇◇◇◇◇
9月21日(火) 午後7時半 島津政信
『トゥルルル』
携帯が鳴って俺は電話を取った。
「もしもし?」
「ああ、ちゃんと出たわね」
「そりゃ、暇だしな」
「何してたの?」
「えーっと、予習とか…、なあ、それより部活どうだった?」
「ん?大丈夫よ。バッチリ、主将からも1本取れたし」
「ええっ?マジか…俺より上手いんじゃないか?」
「そう?ふふふ、なんならこのままでも良いけど?」
「いやいや、そんなわけにもいかないだろ」
軽口を叩きあって、また明日一緒に学園に行く約束をして電話を切った。
(あっ、そういえばこんなに女子と話をしたことなかったなあ)
そんなことを考えてベッドに寝転がっていると、疲れからか気がついたときには寝てしまっていた。
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