戦いの報酬

改めて自己紹介を始めたジル。

「自己紹介か…そうだな、私はヴァンパイアだ」

凄いドヤ顔でそう言った。

(知ってる)

気を取り直して話を聞くと、これまで使っていた闇から色々出したり、ラルフに噛まれても霧になって死ななかったりしたのはヴァンパイア種族の固有能力なんだそうだ。

ジルが闇の中から出していた棘もその一つ。ダミアンは剣だったけど、これについて聞いてみると、ヴァンパイアごとに違っててそれぞれの個性が出るらしい。

おっと、話が逸れたけど、ヴァンパイアの固有能力には二つあって催眠と闇を支配する力。
闇から武器を取り出したのもそうだし、攻撃を受けた時なんかは自分自身が霧になってるように見えたけど、これも体を闇に変化させることができるんだとか。

「それって無敵ってこと?」

「いや、攻撃を受けることはあるから無敵ではないな」

魂の根源に影響を与える魔術などの攻撃は一応効くらしいんだけど、闇から闇へと移動することができるので不意打ちを受けない限りはそうそう食らわない。

「それを無敵って言うんだよ!!」

ちょっと強すぎるよヴァンパイア…。

「ああ、だが、我々にも弱点はあるぞ」

太陽の光に触れると、ヴァンパイアの固有能力は全て使えなくなるのだそうだ。
曇り空でもダメらしいから夜以外は全く使えないんだって。

ダミアンとの闘いの際に魔法陣から出た光は太陽の光を作り出したもので、だからあの光に当たった時に闇から作り出した剣も消えてしまったし、僕の攻撃もダミアンに通じたってわけ。

ちなみにヴァンパイア同士の戦いだと、お互いの攻撃は通じて、傷口から出る黒い霧を吸収することで相手の力を奪い取ることになるのだそうだ。

弱点を教えていいの?って聞いたら信用のために、だって。実は意外と紳士なのかな?

で、ジルがそもそもなんであそこにいたかというと、これはまったくの偶然で、実験の都合上ダンジョンの地下のような空間が必要だったからなんだって。
基本的には研究ばかりしているから、研究さえ出来れば住むところは別にどこだって良かったらしい。で、そのまま研究に夢中になって実験が終わっても帰るのを忘れてあそこにいたらしい。

「それでジルは何の研究をしてるのさ?」

「おおっ、やはり葵も気になるようだな!!説明してやろう!!さあ、そこに座るといい!!」

色々説明してくれたけどさっぱり分からなかった。ヴァンパイアには寿命なんてあってないようなものだから、時間は悠久だ。
そのためにジルの研究対象はあらゆる方面に向いている。

「でもさ、『これに一番興味がある』っていうものないの?」

「そうだな、強いて言えば」

「うん、強いて言えば?」

「セックスだな」

「ああ、セック…ス?うええええ!?もしかして、もしかして、僕を調べるって言うのは…!?」

「うむ。葵の身体をじっくり調べることで何かが分かるかもしれないと思ってだな」

「い、いやいやいや、調べなくてイイから!!」

「そうか?残念だな」

よく聞いてみると、ヴァンパイアはセックスで子供を作ることも出来るんだけど、それだとハーフヴァンパイアが生まれるだけで、純粋なヴァンパイアは生まれない。
なんか特殊な儀式?をして増やすんだそうだ。
そういうヴァンパイアの事情もあってジルは特に生命に興味があるんだって。

スケベな考えはなかったみたいで、むしろ勘違いした僕の方がHな気がして何とも言えない気持ちになった。

まあ、そんな感じでジルは普段、触手やキメラを作ってみたり、人間の生殖を研究したりしてて、その過程で出来た媚薬とか毛生え薬とか役に立たないような毒薬とかを欲しいっていう人にあげたり売ったりしているそうだ。

ヴァンパイアらしく血を吸うような活動はほとんどないんだとか。
とはいえ、僕らと一緒にいるジルがヴァンパイアだなんてバレたら大変なことになるから、話もある程度訊いたところで証拠隠滅することにした。

「闇を通して実験器具は葵の家に送っておこう」

ヴァンパイアの力、超便利!!

(あっ、でも、ここで何があったかギルドに説明しないといけないよね。なんて言い訳しよう?)

そう思っていると、ジルが暗闇からダミアンの死体を取り出した。

「えっ?あれ?吸収して消えたんじゃ?」

僕が尋ねると、「これくらいのものは簡単に作れる」だってさ。もうこの人何でもできちゃうんじゃないの?

「ねぇ、どうしてジルはダミアンに狙われていたの?」

「私はこう見えてもヴァンパイアの一族の中では強い力を持っていてな、次期当主候補だったのだが、興味がないので放棄をした。それを面白く思わないものもいるということだ」

僕はしげしげとジルを見る。そう言われてみれば、上品な顔立ちのような…。

「あれ?でも当主がいなかったら困るんじゃないの?」

「現当主が辞めなければ問題ないさ。私が当主候補に指名されたのも400年も前だからな」

ヴァンパイアは殺されない限り死ぬことはないらしい。気の遠くなるような話だ。

「では、私がここにいるとまずいだろうから先に葵の家に帰っているぞ」

そう言って闇に溶けていった。

「ラルフ、大丈夫?」

「ああ、もう大丈夫だ」

ラルフの傷も治っていた。
銀狼って怪我をしてもすぐに治るから安心してたけど、今回のことで分かったのはその力には限界があるってことだ。

幸運にも今回は無事で済んだから良かったものの、僕がこんな馬鹿なことばかりしていたら、明日にも取り返しのつかないことになってしまうかもしれない。

「ラルフに庇ってもらってるようじゃダメだ!!ラルフに安心して頼られるくらいにならないと!!」

僕は男らしく決意を新たにした。

「よし!!ラルフ、行こう!!」

僕らも歩いてダンジョンを出る。っと、その前に僕らはジルの持っていた服を着ることにした。
僕は、と言うと下着も着ずに男物のカッターシャツだけ。ラルフも銀狼になったせいで今は素っ裸だ。

こんな状態を誰かに見られたら言い訳のしようもない。

「って…ああああああ…」

(ジルが女ものの服を持っていてくれたのはラッキーだった…んだけど、これは…)

とっくに僕らの家に向かったジルに今さら文句の言いようもないんだけど…。

「なんでラルフのはかっこいいスーツなのに僕のはこれなんだよ!!」

「葵は何を着ても似合うと思うぞ」

ラルフの的外れな慰めにちょっと泣きそうになった。

真っ黒のレースとフリルまみれのワンピース。ゴスロリってやつ。(以前マギーさんに買わされそうになったから覚えてる)
レースはすっごい凝った意匠で、高級品なのは明らかなんだけど肩とか出ちゃってるし、背中も紐で編み上げるタイプで一人では着れない。(ラルフが結んでくれて着たけど)
スカートは短いし、その周りを透け透けのレースが囲ってて、薔薇の花の透け模様の入ったタイツはガーターベルトで留める形になっていた。(これもマギーさんに買わされそうになったけど、断固断った)

(あれ?なんで下着まであるんだろ?もう意味が分かんない…)

◇◇◇

外に出ると、アンナさんを含め、BランクやAランクのハンター達が僕らを見て、いや、明らかに僕を見て固まった。

「あ、葵…その格好は…?」

アンナさんが声を振り絞るように言った。

「あっ、いや、これは…そのぉ…」

「いや、そのよく似合っている…とは思うのだが…」

言いたいことは分かるよ!ハンターの姿じゃないよね!その気を使って言葉を選ぶ感じが、空気をますます気まずくする。

(そうだ!口止めしとかないと!!)

「あの…アンナさん、皆さん、この服のことは…」

(絶対にバレてはいけないのは、マギーさんと…)

「おお!アオイ!スゲエ格好してんな!」

ガハハハハと笑いながら現れたのはバレたくない人ランキングの上位ランカーで、しかもここには今いないはずの人だった。

「レっ、レオンさん!?なんで?」

絶対に見られたくないと思っていた相手に早速見られてしまった。

「よお、アオイ、ラルフ。王都のヴァンパイア騒動が終わったんで急いで帰ってきたんだが…んー?…お前らの恰好、どっかで見た気がすんだよなあ…」

うーん、と頭をひねるレオンさんの脇からウィリアムさんが僕らに笑顔を向けてくれた。

「葵さん、王都のヴァンパイアはどこかに消えたらしく、騒動は一応収まったそうです」

(知ってます、いや、むしろ知りすぎてるくらい…)

「あっ、えっ、そっ、そーなんだー」

(知らない振りしとかないと)

「おおっ!!そうだそうだ!!ヴァンパイアだ!!」

レオンさんがいきなりポンっと手を叩いた。

「お前らの恰好、王都で見たヴァンパイアに雰囲気がそっくりだぜ!!」

ギクゥゥ!!

(この人意味不明に鋭い!!)

「すげえな。これはあれか?コスプレってやつか?クオリティー高ぇな!!あれか?ラルフがヴァンパイアの王子様で葵はヴァンパイアのお姫さんってとこか?ん?だけど、お前らなんでそんな服をわざわざ持ってきた…「そっ、そうだっ、あの、レオンさん、ここの五階層なんですけど!!」

なんかこのままだとバレてしまいそうだったから無理やり話を変えたら、レオンさんはあっさり食いついてくれた。

「おおっ、そうだった!!その様子だと下で何か倒してきたみたいだな?どんな魔物だったんだ?死体はどこだ!?」

「えっと、魔物はヴァンパイアでした。死体は五階層にそのまま置いてきましたけど」

「おおっ、ヴァンパイアかっ。最近よく聞くなっ…って、おいっ、まさか…あの野郎かっ?」

顔色を変えたレオンさんがダンジョンに突っ込んでいった。

◇◇◇◇◇

家に帰った僕らはジルを誘ってお風呂に入った。

「ほぉ、これが温泉か…長いこと生きているが入るのは初めてだな」

初めて実際の温泉に入ったジルは興味津々だった。

「そうだよ。どんな感じ?」

「これは意外と言ったら失礼だが、心地よいものだな。……面白い……やはり葵についてきて良かった。しかし…この湯は……」

そう言うとジルはどこからか試験管を取り出して風呂の湯をサンプルとして取っていく。

『ザバッ』

ジルが勢いよく立ち上がると僕の前には大きなあれが。ってなんで勃ってるの?

「ちょっ、ちょっと…隠して隠してっ」

僕は身の危険を感じて手でジルの太ももを押すようにして距離を取ろうとした。

「ん?ああ、少々興奮してしまったようだ」

(え?)

「これは面白い。成分をすぐに調べないと!!葵、ラルフ君はごゆっくり!!」

そう言うとジルは霧になって消えました。

(お湯に興奮?面白い?僕とお湯が同じレベル?)

嫉妬とかそういうんじゃ全くないんだけど、何だろう、何となく腑に落ちない気がした。

「忙しない奴だ」

(そう言いながらタオルを頭に載せて湯に浸かっているラルフも馴染み過ぎだと思うけど…)

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