4周目 9月21日(火) 午後9時 高樹美紗
アタシは初めての部活に疲れてしまったみたいで、布団に転がって携帯を見る。
(だめ、眠すぎる…ちょっとだけ…)
◇◇◇◇
9月21日(火) 午後9時30分 島津政信
(ん…暗い…?あっ、そうか…寝てしまってたのか…今何時だろう?)
時計を探そうとして、携帯が光っていることに気がついた。
『着信36件』
(げっ)
琢磨と高樹からすごい量の着信があった。
(とりあえず、高樹に連絡しないと)
『トゥルルルル…おかけになった電話番号は…プツッ、ツー、ツー、ツー』
(あれ?出ない…風呂かな?)
電話を耳から離して画面を見つめた瞬間、電話が光って震える。
「うわっ」
驚いて通話ボタンを押してしまった。
「も…もしもし?」
(誰からだろう…焦って誰からか見るの忘れてた…)
「もしもし」
(男の声だ。でも高樹、いや、俺の声とは違う。父親か?それにしては若い)
「もしもし…」
「もしもし?美紗か?メールの件だけど…」
(誰だ…?)
「なあ、美紗、俺が悪かったから一回話し合おう。まだ付き合って3週間だろ?」
(これは…琢磨かっ、しまったっ…高樹に言われていた琢磨と電話もメールもしないという約束を破ってしまった。)
しかし、電話口から聞こえる声は今にも泣きそうだ。
(確かにいきなりだとちょっと気の毒だったか…)
「え…えっと…」
(どうする?…高樹が『距離を置こう』ってメールしたんだよな)
「なっ、一回会って話しよう」
俺が考えている間にも琢磨は、一度会おうと繰り返し言う。
「えっ、あ、いや…」
「じゃあ、お前の家の一番近いコンビニで待ってるから、絶対来てくれ」
「ええっ」
「何時になってもいいからな」
そう言って一方的に電話が切れた。
◇◇◇◇
9月21日(火) 午後9時30分 島津政信
(どうする…?)
時計を見ながら考える。
高樹に電話をしようとして、電話をかけてみたが、何度か鳴らしてみたけど出なかった。
(よし、仕方ないか…ちょっとコンビニまで行くか、いなかったらそれはそれでいいし…)
立ち上がったところで、鏡に自分の姿が映る。
(あ…この格好じゃまずいか)
クローゼットを開けると俺の部屋とは違っていろんな服がある。
適当に手にとった服を着る。
(こんな感じでいいか)
ノースリーブのパーカーにジーンズ生地のスカートを履く。
(ちょっと丈が短いけど…まあ、いいだろ)
この近所にはコンビニが無く、住宅街の出口まで人通りのない道を歩く。
コンビニの前でこっそりと中を覗き込んでいた時、いきなり横から声をかけられた。
「よっ、美紗」
目の前に茶髪を短めにカットして日焼けした顔が現れて一瞬声が出なかった。
「たっ、琢磨…?」
身長も180くらいありそうだ、タンクトップにシャツを引っ掛けた胸板は俺の男の体と比べても遜色ない。
目を丸くして驚く俺の目の前で強面の琢磨がいきなり地面に膝をついて頭を地面に擦りつけた。
「ええっ」
(なんだこれ?なんで土下座なんてしてんだよこの人)
「すまなかった。もうあんな事をしないから、別れるなんて言わないでくれ。この通りだっ!」
人はそれほどいないとは言え、数人の人が興味深そうにこちらを見ている。
「やっ、やめてよ。人が見てるからっ」
「いや、許してもらえるまでオレは止めない」
止めてくれ、止めないのやりとりが続きついにオレが折れた。
「分かった、分かったからもう止めて」
「本当か?」
琢磨が頭を上げる。
「うっ、うん。許すから…」
「ありがとう」
琢磨の目に涙が浮かんでいる。
(そうか、反省してくれたんだな)
コンビニの前は先程までの騒動で居づらかったので、琢磨のマンションに誘われたけど、それは断って近所の公園で話をすることにした。
「ねえ、私、別れたいとかそういう風に思ってるわけじゃないよ。ただ、しばらく考えたい事があって会えないから…」
「オレがお前の時間に合わせば良いんだろ。任せとけ」
(いや、そうじゃないんだよ。ああ…しつこい奴だな。どうすればいいんだ?)
俺は来たことを後悔し始めていた。
「えっと…」
「やっぱり、別れたいのか…?実は昨日街でお前を見たんだ。他の男と歩いていた…」
(げっ、昨日?そうか、病院へ高樹と一緒にいったのが見られていたのか)
「あれは違うの。別にあの人と付き合ってるとかじゃなくて」
なんとなく言い訳がましくなる。
(なんで俺のほうが悪いみたいな空気になってるんだ?)
「くしゅんっ」
どう言おうかと思ってたらくしゃみが出た。昼間は夏のように暑いけど、夜になって少し肌寒くなってきた。
「そうか、じゃあこれからうちに行こうぜ」
(いや、それはまずいだろ)
「ほら、寒くなってきたし、すぐそこだからよ。確かお前の服も何着かあったから着て帰ったら良いだろ」
『ゴロゴロゴロ』
遠くで雷の音がした。
「ほら、雨も降ってきそうだし、風邪ひかせるわけにいかないしよ。それともやっぱりあの男と…」
「分かった、わかったから」
(仕方ないか)
「本当か?」
「うん、でも服取りに行くだけね。服もらったら帰るからね」
二人で歩いて琢磨のマンションに向かう。
琢磨は歩いている間、触ろうともしてこなかったので少し安心した。
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