1.夏休み前のある日(⑱禁描写無し)

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1.夏休み前のある日

「なあ、遊。遊、って、…おいっ!」

「えっ?ああ、隆、どうしたの?」

目の前で手をひらひらしてるのは同級生の山田隆(ヤマダタカシ)、僕の友人、幼なじみ。

夏休み前のじっとりと暑い中、新聞部の部室で二人で打ち合わせ中だ。

「お前が今年の合宿の予定を決めようって言うから来たんだぜ?暑さで頭がどうにかしちまったか?」

「ゴメン!ちょっとぼおっとしてた。」

「このクソ暑いのに髪切らねえから熱中症にでもなったんじゃないのか?俺みたいに坊主にしたらどうだ。」

隆の言うとおり、確かに最近うっとおしくなってきた髪を耳にかける。

「ゴメンってば!さあ決めよう。」

僕、高梨遊(タカナシユウ)と山田隆は新聞クラブに所属している。と言っても部員3人の廃部寸前のクラブなんだけど…。

もともと4人しかいなかったんだけど、今年3年生2人が引退。後輩1人と僕だけの部員2人になった5月、突然学校の規定により3人以上部員がいないと廃部になると知らされた。

必死で部員探しをしたけど、5月なんて時期外れだったし、うちの学校では一部を除いて人気のない新聞部なんて誰も入ってくれない。

途方に暮れていた時に幼なじみである隆が救ってくれた。

隆は剣道部に所属していて将来を期待されている。主将を務めて忙しい中、新聞部の事も気にかけてくれる気の良い奴だ。

体格は180センチ80キロで、157センチ48キロの僕にとってはうらやましいかぎり。そもそも高2にもなってこの身長は僕にとってはかなりのコンプレックスだったりする。

もちろん運動神経も良く、スポーツ万能。

僕は運動に関しては可もなく不可もないけど、この体格のせいで運動が得意って思った事はこれまで1度も無い。

勉強に関して隆は英語は苦手だけど、理数系には滅法強い。文系の僕とは真逆。

顔は僕がよく女の子と間違えられる童顔で、髪は隆にも指摘された通り耳が隠れてしまうくらいの長さ、隆は丸刈りで精悍な顔つき、女の子からもたまに告られているみたいだ。

なんで付き合わないのかを以前聞いてみたら「今は剣道に集中したい」んだそうだ。

何から何まで真逆な僕らが一緒にいるのを見て不思議な顔をする人もいるけど、確かに幼なじみでもなければ知り合う機会さえなかっただろう。

さて、今年の合宿のテーマは決まっている。『新聞部の威信を賭けて!学園の七不思議に迫る!』である。

後輩部員が出した案は皆に新聞部に興味を持って貰えそうだし、普段はおちゃらけて部の存続なんて気にもしてなさそうな後輩が考えてくれたことに感動すら覚えた。

…今日は彼女とプールに行くとかで不参加だけど。「予定は任せます」との事。後で文句言っても知らないぞ!

隆と僕はそれから合宿の日取りを決めて早々に解散した。隆はこれから部に戻って一年生をシゴクのだそう。

僕は顧問の先生に日程を伝えるために職員室へ。

期末試験も終わった放課後の職員室は閑散としている。顧問の先生は…と探していると

「おっ?高梨、こんな時間にどうした?」

と声を掛けられた。

学年主任の先生だ。

「鈴木先生に新聞部の合宿について報告が…」

「鈴木先生か、さっきまでいたんだがな。多分国語科準備室だと思うぞ。」

「分かりました。行ってきます。」

新聞部は引退した先輩も含めて個性的なメンバーばかりで顧問になってくれる先生がどんどん減っていき、その結果国語の鈴木先生に行きついたのだと聞かされている。

鈴木先生が全然やる気のない先生なのも新聞部の先輩たちにとっては好都合だったようだ。

おかげで先生の不倫などをスクープするゴシップ新聞を作ったり(当時の顧問の先生がそのせいで飛ばされたとか…)、生徒の写真でグラビア雑誌顔負けの本を売ったり(かなり際どい写真で顧問の先生が飛ばされたとか)と好き勝手やってきた。

おかげで一部に熱烈なファンがいるけど基本的には好意を持たれていない。

そこで僕はまともな部にしようと思ったりして作ってみたりはしたんだけど。やっぱり、真面目な新聞を作っても面白くないのか、なかなか部員は増えない。

さて、うちの学園にはそれぞれの科目の準備室があり、国語科準備室にはそれぞれの先生用の机がある。

その中でも鈴木先生の机の上はいつもテストの答案やらよくわからない雑誌で山のようになっているので入るとすぐに分かる。

「失礼しまーす。」

ノックして開けると、鈴木先生が眠たそうに座っている。いつもしわしわのスーツを着て、髪は白髪交じりのボサボサ、無精髭を生やしてる。

授業は良く言えばあっさり、やる気がないって真面目な生徒からは嫌われているけど、勉強嫌いな生徒からは変に好かれている。

「なんだ、高梨か。」

「『なんだ』ってひどい言い方ですね。」

「何か用か?俺は今忙しいんだ。」

「ぼおっと座ってただけじゃないですか…」

「おいおい、俺は今世界平和について真剣に考えてるところなんだ。」

なんかどっと疲れたのでさっさと日程を伝えて帰ろう、と思った。

報告を終え、廊下に出るとムッとした暑さにため息が出る。

グラウンドの部活の掛け声とセミの鳴き声が遠くに聞こえる校舎から僕は一人で家路についた。