最後の7日間 9月22日(水) 午前8時10分 高樹美紗
翌日、アタシは島津を扉側に立たせて守るようにして電車に乗った。
「なあ、島津はなんでうちの学園を選んだんだ?」
「え?」
「いや、島津なら偏差値がもっと高い所でも、柔道のもっと強いとこでも行けたんじゃないか、って思ってさ」
「ああ、うん。確かに行けたんだけどさ、やっぱり柔道部に入りたくて」
(うちの柔道部ってそんなに強かったっけ?)
アタシの怪訝な表情を見た島津が続けた。
「いや、正しくは主将に憧れて…かなぁ」
島津が一瞬見せた顔にチクリ、と胸に不可解な痛みが走る。
「うちの主将ってそんなに凄いの?」
動揺を見せないように、と思わず言葉を継いだけど、やめとけば良かった。
「ああ、俺…いや、私が中三の春にたまたま仲間に誘われて見に行ったんだが…見に行ったんだけど。相手校目当てだったんだ。で、県でもトップクラス相手に弱小のうちはボコボコに負けてさ…当時一年だった主将だけが涙を流して悔しがってたのが印象的だったな」
島津の目が遠くを見つめた。
「へえ…」
「何だか気になって、その年の冬に今度は一人で見に行ったんだ。一年なのに主将になってて、まあ、負けたんだけどさ。今度は全員泣いてた。たった一年なのに全然違うチームになってたんだよ。それを見てこんな主将の下で頑張りたいと思ったんだよ」
主将を思い浮かべる。背も高くないし、顔もこれといってハンサムというわけでもない。
アタシは主将が練習メニューを作ったりしている姿は見たけど、乱取りなどはしている姿を見たことがなかった。
「去年の冬に怪我をして…今年が最後なのに。それでも弱音も吐かずに部員を励まして。だから俺はなんとかして今回勝って主将の最後の大会にしたくないんだ」
島津の目に強い光が浮かんでいた。
(主将…主将ね…)
「俺が無理なら高樹、頼む」
「えっ?ああ…分かってる」
(何だろうこの感じ…なんか気持ち悪い…)
◇◇
学園についたアタシ達は教室に入った。
「おはよ、美紗」
島津と亜紀が挨拶を交わしている。
「おはよっ、政信っ」
男友達に挨拶しようとしていたら、横から沙紀が顔を覗かせた。
「おはよう。沙紀…部活の連絡?」
「えっと、うん…あのさ、その…ちょっといい?」
沙紀と廊下に出た。
「あのさ、高樹さんなんだけど…」
「ああ、主将に憧れてるんだってさ」
少しぶっきらぼうな態度になってしまった。
「そう…なんだ。じゃっ、じゃあね」
沙紀の方は何だかホッとした顔で去って行った。
(なんなのよっ、もうっ…今回が最後なのよ)
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