10.お盆休み③ お姉ちゃんと撮影会
大事な話があると言ってダイニングテーブルで向かい合わせに座ったお姉ちゃんは、今日一番かっこよかった。
切れ長な目の知的なまなざしが僕を見つめる。
「遊君、よく聞いて欲しいの。」
その真摯な目と言葉に思わず「はいっ」って返事しちゃった。
「私の研究が遺伝子って知ってるわよね?で、あなたは今、世の中の理(ことわり)から考えたらありえない事になってるの!」
「そうだろう…ね。」
「あなたが手助けしてくれれば…ひょっとするとすごい発見になるかもしれない。」
「うん…」
「そこであなたのDNAのサンプルを提供して欲しいの。もちろん、研究のためにあなたを世間の晒し者にはしないから。何があっても遊君は私が守ります。」
いつものお姉ちゃんと全然違う。
「は…い」
思わず返事をしてしまった。
後悔先に立たず…ちーん。
僕の部屋に場所を移動。お姉ちゃんは黙々と写真撮影の準備をしている…撮影?
「お、お姉ちゃん?これ…。」
「遊君がこんなに協力してくれるなんて嬉しいわ。これがきっかけでもしかしたら何万人という人が救われるかもしれない。あなたのおかげで!」
とてもまっすぐな目でお姉ちゃんは僕を見る。少し涙ぐんでいるようにも見える。
あぁ、こんなに真面目に他人のために頑張ってる人に協力できるんだったら…、僕も頑張ってみよう。なんだか嫌な予感はするけど…。
「遊君、大丈夫?」
「はい!がんばりますっ!」
「ありがとう、私も頑張るわ!」
何だかまたお姉ちゃんの目が光ったようにも感じたけど気のせいだよね…。
「じゃあ、まずは写真を撮っていくわよ。服を脱いで。」
「えっと、ここで?向こうで脱いできても…?」
「ダメよ。何が研究の役に立つか分からない以上全て撮らないと!」
ええーっ。でも僕がやると言ったんだからやらないと…。
レフ板やらライトやらの下で僕はTシャツに手をかけた。
『カシャッ、カシャッ』
お姉ちゃんのカメラが僕をおさめていく。
ちょっと恥ずかしいけど研究のため、みんなのため、と思って全部脱いだ。
ちょうど部屋が暑かったこともあって脱いでもむしろちょうどいいくらい。
エアコンを入れようとしたら止められた。
後で汗とか分泌液も取るんだって。

「それじゃあまずはベッドに座って…色んな角度から撮るわね。」
そう言ってお姉ちゃんは正面、サイド、後ろと順番に撮る。
さらに「腕を上げて」、「首をかしげて」など様々なポーズをとった。
言われるがままに手を上げたり、首を傾げたりしているとだんだん慣れてくる。
恥ずかしかったのも最初だけで、気にならなくなってきた。
「ちょっと明かりが欲しいわね。フラッシュも焚いていいかしら?」
「あっ、はいっ」
『パシャッ、パシャッ』
フラッシュが焚かれる。
ちょっと眩しいな。
「次は横になってくれる?」
指示に従ってベッドに寝そべる。
そして再び様々な角度、ポーズをとる。
『パシャッ、パシャッ、パシャッ!』
無機質なシャッター音が耳にこびりつく。
フラッシュが光るたびに頭がぼんやりしてきた。
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