2周目 9月24日(金) 午前10時30分 島津政信
最近建ったビルの中のテナントの一つに痴漢がスタスタと入っていったが、俺は店の前で立ち止まって入るのに躊躇する。
「いらっしゃいませ~」
平日の朝だけあって客は少ないものの、明らかに若い女の子向けの服の店だ。
(なんでこんな店に堂々と入っていけるんだ?)
「お~い?お客様~?」
俺は話しかけられているのが自分だと気づかず、驚いて顔を上げた。綺麗な大学生くらいのお姉さが俺の顔の前で手をヒラヒラさせている。
「あっ、えっ?」
「やっと気づいてくれた?」
(あっ、そうかっ…えっと…しまった、今の俺ってかなり挙動不審だぞ)
「えっと、あの、その…」
(痴漢はどこに?)
痴漢とは言えないが、今になって俺はあの男の名前も知らない事に気がつく。
「健さんのお連れ様でしょ?健さんならオーナーと話してるから、待ってる間に一緒に服を選びましょう?」
どうやら店員の女の子の方が痴漢の素性については詳しいようだ。
「大丈夫、健さんが気に入る服を選んであげるからね~」
店員の女の子は俺を先導して、ハンガーに掛かった服の前に立たせた。
「そうねえ、あなたならこれとか、あっ、こっちも良いわね…あら?痩せてる割に胸もあるのね…じゃあ、こんな服もいけるわ」
どんどん平棚に服を重ねていく。
「えっ?あれ?」
「もう、どうしたの?服を買いに来たんでしょ?」
(えっと…服を買いに来たのか?俺は?)
その時、奥の部屋の扉が開いて痴漢が顔を出した。
「美紗」
手招きに従って痴漢のそばに寄った。
「服を…そうだな、3着ほど買いなさい」
(へ?)
「金なら私が出すから問題はない…そもそも、そんな格好のままじゃどこにも行けんからな」
痴漢が俺の体を指さす。
(そうだっ、制服だった…)
「はーい、決まったわね?じゃあ、服を選びましょ?」
「おいっ、真希、あまり時間をかけないでくれよ?」
「はいはい、健さんがむしゃぶりつきたくなるような可愛い格好にしてあげる」
そして、振り返った真希…さんは手で何かをモミモミするような仕草をしながら俺に近寄ってきた。
「さあ、着替えましょ?」
◇◇◇
9月24日(金) 午前10時40分 島津政信
「ちょっ、ちょっと真樹さん待って」
どんどん背中を押されて試着室に入れられた。
『シャッ』
カーテンが閉じられて、いつの間に持たされていたのか、俺は服を片手にポツンと立っていた。
(ああ…着替えたくない…だけどカーテンを開けたらきっと真樹さんが飛んでくるだろうし…)
仕方ない、と覚悟を決めてまずは渡された服を広げてみる。
(Tシャツとスカート…フリフリの服はさすがに着るのも恥ずかしいけど、まだマシ…おっと、タンクトップもある)
なんとなく、高樹と入れかわってから視線を感じる事が増えた気がする。それも粘着質な視線で、薄着は嫌な感じがしていた。
制服を脱いで下着姿になると、タンクトップを着てからスカートを履く。その上にTシャツを着た。
(はあ…)
Tシャツを着てから気がついたが、裾が長いのは良いけど、やたらと肩が緩い。それに生地が薄くてタンクトップが透けて見える。だけど今さらどうこう言うわけにもいかない。
一番の問題はスカート。スカート自体は制服で着なれているとは言え、デニムのミニスカートを履いてみると、制服のスカートとはまた違っていて、どうにもスカスカなのが落ち着かない。
(やっぱり、ズボンにしてくれるよう頼もう)
『シャッ』
カーテンを開くと案の定真樹さんがすぐ近くにいた。
「着替えた?あらっ、やっぱり凄く似合ってる。うちのモデルさんにしたいくらいね」
興奮したように勢いよく話しかけてくる。
「ほら、見て」
鏡の方を向かせられて仕方なしに見ると、お世辞ではなく可愛い少女が少し困ったような顔で映っていた。
(これが俺か…そう言えば高樹って可愛い顔だもんなあ)
柔道一筋で生きてきたのでクラスのそういう話題にはあまり詳しくはないが、そういえば、高樹について可愛いとか聞いた事もあるような気がする。
そう考えると、なんとなく周りの男の視線の意味が判った気がした。高樹はいつもこんな視線を周りから受けていたのだろうか?
「ねっ、可愛いでしょ?」
「あっ、ああ」
自分の姿に見とれていた俺の気持ちを読んだかのような真樹さんの言葉に、ため息と一緒に返事をした。
(…いやっ、そうじゃなくって)
「あっ、あの。真樹さん?折り入ってその…相談が…」
「ん?」
「その…出来たらズボンは…」
「ズボンって…男の子みたいな言い方するのね。パンツ?…はあ」
これ見よがしにため息をつくのを見て俺は嫌な予感しかしない。
真樹さんがズズイッと俺を試着室の奥に押し込んで耳元で囁く。
(ちょっと…近い近い)
「ねぇ、あなた、健さんとこれからお泊まりなんでしょ?」
俺は曖昧に頷く。
「なら…パンツはダメよ。だって…ほら…」
真樹さんの手が俺の太ももに触れて、そのままスカートに入ってきた。
「え…ちょっと、真樹さ…んっ、冗談…ですよね?」
「ね?健さんのテクニックって凄いんでしょ?スカートにしとかないと…きっと行くまでずっと弄られるのよ」
俺の質問に返事はなく、女性特有の細い指が太股の奥に向かう。
「それ以上はっ…あっ」
耳元に甘い息がかかる。
『ジュン』
(また…おかしくなる…)
スッと真樹さんが離れた。
「はあ、はあ…」
俺はもう抵抗出来なくなっていた。
「ふふふ…残りの服は試着しなくても大丈夫よ。下着までセットにして準備してあげるから」
脱いだ制服をサッと奪うと真樹さんが消える。
(しまった…ズボン…)
うまくはぐらかされた結果となり、仕方なく俺は試着室から出た。
(あれ?靴は…)
試着室の外に脱いであったローファーもいつの間にかサンダルに替わっていた。
「おお、良いじゃないか」
靴下を脱いでサンダルを履いていると、痴漢がちょうど奥の部屋から出てきた。
「ありがとう、真樹。支払いはこれで…」
痴漢が支払いを済ませて俺の肩を抱く。
(あ…)
二の腕に痴漢の手が触れると、条件反射のように体から力が抜ける。
「さあ、行くか」
俺は頷くしかなかった。
◇◇
「オーナー?健さんって何をしてる人なの?」
「ふふふ、真樹も一度試してみれば分かる。彼はなにせレジェンドだからな」
「レジェンドって…。それにしても今回の女の子は可愛かったわねえ」
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