糸屋の娘は目で殺す?

「ひひひ。ルーの乳は柔らかいのお。極楽じゃあ、極楽じゃあ」

弾正さんは突然現れたルーという名前の女の子の胸に顔を埋めてはしゃいでいる。

どうやら、銀髪のハーフエルフの少女は口数こそ少ないけど、弾正さんとは仲が良いみたいだった(良すぎるくらい?)。助けに来た、と本人が言っていたことから考えると、牢屋から僕も出してもらえそうだ。

(それにしても…)

僕は少し不安になってきた。

最初はルーさんの機嫌をとるための演技かと思っていたけど、今や演技か本気か分からないほど弾正さんはおっぱいに夢中になっているからだ。

(弾正さんってば、逃げ出すこと分かってるのかな?)

とはいえ、ついさっきまで太い触手に犯されるのも覚悟していた僕は、緊迫感のない空気に拍子抜けしていた。

(まあいいや。何にせよ、これで僕も外に出られるし…)

ところが、僕がイチャイチャしている二人から目をそらして安堵の息を吐いたその時に予想外の出来事が起こったのである。

「この肌…たまらんのぉ…甲乙つけがたいわい」

『ピシッ』

それまで甘甘だった周囲の空気が突如として冷たくなった気がした。

(えっ?)

何かあったのかと顔をあげた僕はルーさんを見て悲鳴をあげそうになった。

(ひぃっ)

無表情で僕を見るルーさん。人形のような整った顔だけに表情がないと不気味に見える。

さらにそれだけではない。ルーさんの瞳は弾正さんを見つめていた時の熱っぽいものとは正反対でまるで氷のようだった。

(なんでっ?僕、何かした?)

「あ…ダンジョー…きもちいい…」

甘い言葉を囁きながらルーさんは敵愾心たっぷりの鋭い目で僕を睨んでくる。

(…うわぁ…なんで?…ん?…そうだっ…さっきの『甲乙』が原因だ…弾正さんと僕のことを勘違いしてるんだ…)

そして、その僕の想像は間違いではないようだった。見せつけるように、ルーさんの細く綺麗な指先が弾正さんの股間に触れた。

「ダンジョー、固くなってる…」

そう言いつつ優越感たっぷりに僕に向けてくるルーさんの瞳はメラメラと嫉妬の炎が燃えている。

(違うって…誤解なのに。弾正さんも何か言ってよっ)

必死の思いで弾正さんに目で訴えた。

(誤解されて牢屋から出してもらえなかったりしたら…まさか、ね…でもこの様子だと充分ありそう…)

「む…?」

ようやく弾正さんが何かに気がついたように僕を見た。当然ルーさんもすぐにその視線に気づく。

(気がついてっ、早くルーさんの誤解を解いてっ)

弾正さんの体のラインをなぞるようなねっとりとした視線と、ルーさんの刺すような視線が僕にまとわりつく。

(ほらっ、分かるでしょ?空気を読んでっ)

「む…?」

弾正さんが僕に向かって頷いた。

(…気づいた…?)

「葵も魅力的じゃぞ」

(違うっっっ)

『ピシピシッ』

(うわあぁぁっっ)

もう怖くてルーさんの方を見ることが出来ない。僕は視線だけで人を殺すことができることを生まれて初めて実感した。

(だめだ…全然分かってない……さようなら外の世界…ラルフ、ごめんね…)

もはや凍死寸前の僕は天を仰いだ。

◇◇◇

(あれ…?寒さが…緩んだ?)

弾正さんのニブチンに呆れるやらなんやらで僕が頭を抱えている一瞬で何があったのか。

目を向けた先では弾正さんがルーさんの耳元で何か囁いている。と、ルーさんはみるみる耳まで真っ赤になった。

「舌を出すんじゃ」

ルーさんはうっとりした顔で命令に従って小さな舌を出した。

「可愛いのお」

そう言って弾正さんの分厚い唇がチェリーのような小さな唇にむしゃぶりつく。

「はっんんっ、むぐ…ん…チュ…」

ルーさんの意識からはもう僕は消えているようだ。

(あれ?なんで?)

じっと見つめる僕の前で、弾正さんの空いている手がワンピース越しにお尻を揉む。ルーさんは深い息をついて、弾正さんに体重を預けた。スカートが少しずつめくれあがって、黒のレースが垣間見えた。

「ねろっ、はぁぁ…ダンジョー…もっと…」

ルーさんは整った顔に蠱惑的な笑みを浮かべて唇を求める。

「ん…チュッ、チュッ」

舌を絡ませ合い、今度はルーさんの方から弾正さんの服を脱がしていく。

『パサ』

前のボタンを全て外し終えると、弾正さんの着ていた男性用のワンピースが床に落ちた。

(わっ、大きい…)

ワンピースの下に現れた下着は大きく盛り上がっていた。ルーさんは目を輝かせて弾正さんの裸の胸から下に向かって唇を這わせていく。

そして最後に、その形の良い唇が下着まで達すると、そこからは焦らすようにゆっくりと下着に手をかけた。

「ふぅっ、ふぅっ」

荒い息を吐いて膨らみを見つめるルーさんは期待と興奮に爛々と輝く瞳で膨らみを見つめる。

そしてようやく、パンツのゴムに引っ掛かっていた亀頭がブルンと飛び出した。

「ぁんっ」

ルーさんは勢い余って頬っぺたにぶつかったことなど気にも止めず、興奮に突き動かされるように肉棒に頬擦りする。

『ピチャ…ネロ…』

そして、褐色の美少女が小さな口を精一杯開いて太い剛直に奉仕を始めた。

二人は僕がいることを忘れたように…いや、二人は明らかに僕を意識している。

『ギュボッ、ギュボッ、ジュル…ギュボッ…』

時折弾正さんと目が合うと、ルーさんの口から聞こえる音が大きくなった。

「くっ、ルーっ、エエぞぉ」

弾正さんが綺麗な銀髪を掴むとルーさんが嬉しそうに目を細める。

そして、そんな二人の痴態を見せつけられている僕の方はというと、弾正さんのいきり立ったモノを無意識にチラチラと見てしまっているのだった。

(あぁ…すごぃ…いやらしぃ…。それに…弾正さんの…曲がってるんだ…)

ルーさんの豹変の訳を知るために二人の様子を見ていたはずが、あまりの痴態に僕まであてられてしまったようだ。

ところが、年齢を感じさせない弾正さんの股間とルーさんの淫靡な仕草に目を奪われていた僕はその時、ふいに自分の体に違和感を感じた。

ルーさんが登場してから触手は動きを止めていたものの、両手両足の拘束は解けていない。さすがにずっと同じ姿勢でいるのは苦しいので、少し体を動かそうとしたところ。

(…あれ?)

おかしい。腕に力が入らない。

(…?)

先ほどまでの自ら力を抜いていたのとは違い、今は力を入れようにも入らないのだ。

(これは…)

すぐに僕には何が起きているのかを理解した。理解はしたけど…。

(発作…でも、それにしては早すぎるよね…?)

前回の発作が起きたのは昨夜だ。薬を入れたら三日は症状が出ないはず。

(なんで………あっ)

今朝の情景が僕の脳裡をよぎった。

(ああっ、どうして気づかなかったんだっ)

思い出して顔が青ざめる。

(起きた時にシーツがカピカピだったから…)

しかもそれをエリスに気づかれそうになった僕は、純粋な幼女の無垢な質問に必死で誤魔化したんだった。

(そうか…ちゃんと薬が入ってなかったんだっ)

続いて僕の今の状況に思い当たる。両手両足が拘束されて下着も着けていない。もし、今、弾正さんに発作の影響が出たら逃げようがない。

僕は必死に考える。

(せっかく上手くいきそうなのに…でも、まだ今のうちなら…何とかしないと…なんとか…)

そうだ、ポケットに薬があるっ、僕がそれを思い出したときに無情にも鈍い金属音が牢屋に響いた。

『ガチャガチャ』

恐る恐る音のする方を見ると、格子の扉が開かれて入ってきたのはついさっきまで情熱的な行為に夢中になっていたはずの二人。

そういえば、考えてみると少し前から二人の声は聞こえなくなっていた気がした。

(お…遅かった…かな?)