旅立ちの日

管理人ほう

町長さんのところを出た僕はその足で今度はルシオさんのお店に行く。

「おっ、アオイちゃんっ、ってえええええっ!!」

ズルズルと引きずってきた毛皮の数にルシオさんの目が点になった。

僕は革袋から牙と銀狼の毛と小瓶を出した。

「買取をお願いします」

「あ……ああ。数えるから適当に待っててくれよ」

待っている間、僕は一度ルシオさんの店を出て他のお店を回ろうと歩き始めた。

(「主殿、何を買うつもりなんじゃ?」)

(「えっと、水とか、干し肉とか?長い旅になるわけだしさ」)

(「そのようなものは要らないのではないかえ?」)

村正は何を言ってるんだと言う様子だ。

(「どうして?」)

(「銀狼に乗っていけば良いではないか」)

うーん、と僕は腕を組む。

(「主殿はまだ銀狼が許せぬのか?」)

(「うーん、そういう訳じゃないよ。彼らも僕らも生きるために他の生き物を殺す。それは納得してるんだよ」)

(「では、こう考えるとどうじゃ?銀狼を利用するのじゃ。馬車の代わりに使うのじゃ」)

(「うーん…それも違うような気がするんだよね」)

「おーい、アオイ君」

村正と話し込んでいたらルシオさんが店の前で呼んでいた。

店に戻るとカウンターには毛皮と牙、銀狼の血の入った瓶に分けられている。

「18頭分の毛皮が120万イェン、銀狼の毛は500万イェン。あと血は売らないほうがいい。というより持っていることも内緒にしなさい」

「どうしてですか?」

「銀狼の血は万能薬なんだよ。この数十年市場に出回ったこともない代物なんだ。末端価格で5000万はくだらないから、もし持ってるなんて知れたら、いらないトラブルを呼ぶよ」

ルシオさんはそう言って大切そうに瓶を僕に返してくれた。

(「…あっ、そうだっ」)

ルシオさんにお礼を言うと僕はアルさんの所に走った。

◇◇◇◇◇


次にジェイクの家の前で僕は悩んでいた。

(なんて言ったらいいかな?うーん。)

ああでもないこうでもないと、ドアの前で立っているといきなりドアが開いて顔をしこたま打つ。

「いったぁい」

「何を人の家の前でウロウロしてんだ?」

ジェイクだった。

おじさんとジェイクと向かい合うようにして座ると、僕は話を切り出した。

村正を手に入れた話と呪いで女になってしまったことも。もちろん他言無用でお願いした。

「なんてこった…」

デレクさんは政信さんに合わせる顔がないと頭を抱えている。

それとは対照的にジェイクは何も言わず、じっと僕の話を聞いていた。

そしてしばらくしてジェイクの口が開いた。

「それで、お前は強くなって戻ってきたら今度は大和に向かうんだな?」

「うん。あと、この呪いを解く方法も探したいし」

「わかった。お前が帰ってくるまでに俺も大和まで行ける船乗りになっておく。お互い頑張ろうぜ」

「うん、ジェイクも無理しないでね」

デレクさんからはくれぐれも気をつけるように言われ、餞別に魚の干物をもらった。

僕は銀狼の血の残りを渡して、僕が帰ってくるまで元気でいてくれるよう頼んだ。

◆◆◆◆◆


ついに旅立ちの時が来た。

お父さんの時と同じように、いや、方向は逆だけど…森の入口で皆とお別れをする。

ジェイクの姿をキョロキョロと探すけどいないようで、おじさんに聞いても「あいつ朝から姿がねぇんだ、この大事な日に、あのクソ野郎は後で叱っとくから勘弁してやってくれ」と僕に謝ってくれた。

ジェイクが来てくれなかったのだけが残念だったけど、仕方ない。

「気をつけて行ってくるんじゃぞ。あと、必ず生きて戻ってきておくれ」

町長さんからは嬉しい言葉と、ギルドに出す書類を準備していてくれた。

「どこでもウチの店に来てくれたら、これを出してお金を出してもらうんだよ」

ルシオさんは大金を持ち歩くのは危ないから、と今回の買取金額を支店でもらえるようにしてくれた。

「あんたみたいな可愛い顔してたら、人さらいに捕まっちゃうんじゃないかねえ」

などとおばちゃんに心配されて苦笑しながら挨拶をして回る。

最後におじさんに「行ってきます」と言った時にジェイクが息を切らせて現れた。

「ジェイクっ!」

おじさんが何か言おうとするのを遮ってジェイクが僕のところにやって来た。

息を整えるようにはぁはぁと肩を上下するジェイク。

「来てくれないのかと…」

「そんなわけあるかよ!」

そう言ってジェイクは握った手を出した。

「手ぇ出せよ」

(?)

手のひらを出すと、大きな真珠が手のひらにのせられた。

「時間がなくて加工はできなかったけど、最高級の真珠だ。金が無くなったら売ってもいいし、好きに使え」

そう言えば昨日も一昨日もずっと漁に出ていたけど僕のためにこれを探してくれていたのか。ジェイクの気持ちが嬉しい。

「うっ、売る訳無いじゃんっ、ありがとう。ずっと持ってるから」

ちょっと涙が出た。

ジェイクは鼻を一度すすると俯いて僕の目を見ずに

「元気でな。待ってるぜ!」

そう言って握手をした。

「行ってきまぁす!」

「「「「「元気でなぁっ!!!」」」」」

こうして皆に見送られて僕は森の中に入っていった。


◇◇◇◇◇


しばらく歩いたところで銀狼がいつの間にかついて歩いてきているのに気がついた。

(「ところで主殿、どこに向かうつもりなんじゃ?」)

(「うーん、できるだけ大きな街がいいなあと思ってるんだ。もしかしたら男に戻る手段も見つかるかも知れないし。だからとりあえず一番近いロゴスっていう街を目指すつもり」)

(「主殿はまだそのようなことを言っておるのか。じゃから、死ぬまで無理じゃと言うておろうに。それでロゴスまではどれくらいかかるのじゃ?」)

地図を出して方角を見ると大きな山の向こうにあるようだった。

(「遠いのぉ」)

(「何言ってるのさ。そのために色々持ってきたんじゃないか」)

背中に背負った大きなバックパックには干肉や魚の干物、それに水や着替えが詰め込まれている。

「さあ、頑張っていこうっ!」

…数時間後

(「…村正…ここどこなんだろ?」)

道に沿って歩いていたはずが、段々道幅が狭くなって気がつけば森の中の獣道になっていた。

(「妾に分かるはずなかろ?はあ…。主殿がこんなに方向音痴とは…」)

チラッと振り返ると普通の狼のサイズになった銀狼が付かず離れずついてきている。

(「のう、主殿…」)

(「ダメっ!」)

村正が言わんとすることは分かっている。銀狼に乗ろうというのだ。

(「もうすぐ日も暮れるぞえ。野営の準備をした方が…」)

(「もうちょっとだけ、地図によるともう少しで川に出るはずなんだ」)

だけど、梟の鳴き声が森に響く時間になっても川どころか水溜まりにも出会わなかった。

『パチパチ』

森の中の少し広くなったところで、僕は一日歩き通して疲れた体を休めることにした。

たき火の明かりをぼんやり眺めながら僕は物思いに耽っていた。

(地図通りに歩いたのに…何が悪かったんだろう…?)

(「主殿は地図の通りに歩いておらんからこのような事になったのじゃっ!」)

即座に村正から突っ込まれる。

(「のぉ、主殿…」)

(「ダメだよ。そんなことしたら銀狼を連れて行くことになるじゃんっ」)

チラッと横目で窺うと、木の陰にゆったりと銀狼が眠る姿があった。


◆◆◆◆◆


「今日こそはっ、まずは街道を目指すよっ」

日が上ると元気を出して再び歩き始める。

(「大丈夫かのぉ?」)

(「大丈夫っ、森の中は目印を見ながら歩けば良いんだよ。方角的には向こうだから、よしっ、あの尖った山に向かっていくよっ」)

村正の心配をよそに歩き始めた僕は昼過ぎにお昼休憩をとることにした。

「ちょうど、広場があるからここでお昼ご飯を食べようっ」

(あっ、ちょうど火を焚いた跡がある…あれ?)

(「むっ、村正…」)

(「主殿…」)

そこは今朝出発した広場だった…。

(「主殿…」)

(「ううう…分かった…分かりました。夜まで頑張って無理なら銀狼にお願いしますっ!」)

で、結局夜になった。

(はぁ、またここで野宿かぁ…明日は銀狼にお願いして…はぁ)

布を体に巻いて星空を見上げる。

(「主殿、この旅の間、魔物に出会わないことに気づいておられるかえ?」)

(えっ?)

そう言われれば魔物どころか危険な動物にすら出会っていなかった。

(「ほんとだ…でも、どうして?」)

(「おそらくじゃが、銀狼が見張っておるからじゃろ」)

銀狼は大木の切り株の上で寝そべっている。

(僕が安心して眠れていたのは銀狼のおかげだったんだ…はぁ…何も気付かなかった…)


◆◆◆◆◆


「ねえ、銀狼…っと、いつまでも銀狼じゃ良くないね」

「オレハ、ナンデモイイゾ」

「えっと…そうだなあラルフ・シルバーなんてどうかな?ラルフって狼の意味が有るって聞いたことあるし」

「ヨイナマエダ、アリガトウ」

「じゃあ、ラルフ、ロゴスまでどれくらい時間がかかる?」

「フム、アスマデニハ」

「じゃあ、どっかでもう一泊はしないとね」

僕はラルフの背に乗る。

「それじゃあラルフ、お願い」
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