『lovers』
1.三十枚ずつある彼氏カード、彼女カードからそれぞれが五枚ずつ引く。以降、お互いが順番にカードを出し合っていく。カードを出す前に自分の山札から1枚引くことが出来る。
2.デートカードが出るとそのデートの終わりまでカードを出し合って一回のプレイが終わる。
3.10プレイ以内に彼氏側、彼女側のハートが10に達しなかった場合ゲームオーバー。
4.警告:このゲームは男女で行わなければいけない。
◆◇◆◇◆
「ちょっ、待ってよ!!本当にこれ着るの?」
「仕方ないだろ?そら、さっさと買ってそれ着たらランチに行くぞ」
周りの客から見れば特別珍しくもない光景。大学生カップルの会話は風景に溶け込んでいる。
「だ、だけどさ、これ、スカート…」
「もういい加減あきらめろよ。それとも『凜』はそのままでいたいのか?」
名前を強調するように彼氏が言うと、ジト目をしたまま凜が持っていた服を離した。
それを彼氏がレジに持って行って凜の方を見て店員と何か話している。
「ほら、早く着て来いよ。店員には着て帰るからタグも取ってもらったし」
「うう~」
しぶしぶ、といった様子で凛が試着室に入って、数分後。
ノースリーブのワンピースを着て出てきた凛の姿に周りの視線が集まった。
「ねっ、ねえ、隼人、ボク変じゃない?」
「あっ、ああ、すごく似合ってる」
隼人と呼ばれた彼氏も一瞬目を泳がせた後冷静を装う。
それもそのはず、凛のショートカットの黒髪に瞳の大きな目と長い睫毛の愛くるしい顔立ちにブルーのワンピースが良く似合っていた。
「そう?…じゃなくて!!」
ふふん!と笑った後、周りを気にするように凜が頭一つ分背の高い隼人につま先立ちで顔を近づけて囁く。
「ほら、そのボクさ、女装してるわけじゃん。周りにバレないかな?」
凛の方は気がついていないが、くっつきすぎてワンピースの膨らんだ胸が隼人の胸に思いっきり当たっていた。
「い、いや、それは、うん、大丈夫だからさ…そうだ、凛、ランチは何食べたい?」
「え?ボクが決めていいの?」
途端に顔をほころばせてうーん、うーん、と考え始める凛。周囲から向けられる視線が生暖かくなったことに気がついていない。
「ラーメンもいいけど、カツ丼も捨てがたい…」
「いや、お前、カフェにありそうなメニューにしてくれよ」
そして、結局隼人が選んだイタリアンカフェに二人は向かうことになった。
「ねえねえ、隼人。これって本当に現実じゃないんだよね?でもさ、これすごくおいしいんですけど?」
クルクルとスパゲッティをフォークに巻きながら凜が声を潜めて隼人を見た。
「ああ、俺もそれを考えてた。だけどさ、もう少ししたら俺の部屋に戻るだろ?前回も時間は全く経っていなかったからなあ」
それ以上は二人にも分からないことばかりだったため、それからはたわいのない会話をしながらランチを終えた。
「お前さ、覚えてるよな?」
ランチがおいしかったせいで機嫌よく歩く凜に、隼人が不審そうな顔を向けた。
「え?なんだっけ?」
はあ、と隼人がため息をついた。
「お前が最後に出したカード何だった?」
「…………ハッ!!」
「は!じゃねえだろ?手をつなぐカードを出したのお前だろ?」
凛が斜め上を見上げた後、思い出したようにポン、と手を打って頭を抱えた。
「そうだった…なんでボクはあんなカードを…」
「しかもお前の出したカード、普通につなぐ感じじゃなかったよな?出すぞ」
「うん」
不思議なことに見たいと思うとカードが目の前に現れる。
『自然と手をつないじゃったよ♡』
その下には説明が続いている。
『楽しかったデート、二人の気持ちは高まっているものの、お互いどうしていいか分からなくって。並んで歩く帰り道、二人の手が何度かぶつかって、気がついた時には手をつないでしまっていたの。恋人つなぎで歩く二人は理想的なカップルね!!このカードはデートの終わりに彼氏彼女のハートが+2以上の場合に必ず出さなければいけない。このカードを出すと彼氏彼女のハートが+1される。』
「何、この設定…うぅ…ボクの初めての恋人つなぎが隼人とだなんて…」
「やるしかないだろ…」
隼人が凜と肩と肩が当たるくらいに近づく。
「ちょっ、隼人近いよ」
「いや、こうしないと手がぶつからない…」
それから寄り添ってしばらく歩いていると手がぶつかった。それが二度、三度と続く。
「な、なんか…変な感じだよね?」
「そうだな…」
気がつくと二人は無言になっていた。
気が気でないのは凜の方だ。女の子と手をつないだことのない凜はどうしていいのか分からない。
もどかしくなった凜が隼人を見上げようとしたその時、何度目かの手がぶつかって隼人の手が凜の小さな手のひらを握った。
「ぁっ!」
そのまま指を絡めあう。
キュッと手をつないだまま無言のまま二人は歩き続ける。そしてそのことに凛に違和感がなくなった頃…フッと二人の視界が変わった。
ローテーブルを挟んでお互いが見つめ合っている。路上ではなくそこは隼人の下宿だった。
「あれ?あっ、そうか、終わったんだ」
「ああ、時間は一時半か…やっぱり変わっていないな」
ローテーブルの上にはそれぞれの前にまとまった数のカードが束ねられた状態でおかれている。
そして、中央にハートが書かれたカードがそれぞれ並んでいる。
「さっきまでは二枚だったのが五枚になってる…」
「そうだな、買い物で+1、ランチで+1、手を繋いだので+1か。この調子ならあと二、三回でクリアできるんじゃないか?」
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