6周目 9月24日(金) 午後2時30分 島津政信

6周目 9月24日(金) 午後2時30分 島津政信

「次はあれに乗ってみたい」

「いいぜっ、よし、行くかっ」

(小学校の時から柔道一筋だったからなあ。遊園地ってのも面白いな)

◇◇◇

9月24日(金) 午後2時 島津政信

連れてこられたのは某テーマパークだった。

「昨日のお詫びに今日はここで思いっきり遊ぼうぜっ」

駐車場に車を停めた琢磨に俺は不思議そうな目を向ける。

(お詫びに遊園地?)

「おいおい、付き合いだした頃に言ってたじゃねえか。ここのパレードが見たいってさ」

「あっ、そうそう、来たかったんだぁ」

「なんか変だぞ?美紗、調子悪いのか?」

「ううん…でも琢磨がそんなことしてくれるなんて思わなかったから」

「だから言ってるじゃねえか、俺は美紗にベタ惚れだからな。特に今週のお前、すげえ可愛いぜ」

琢磨の褒めちぎる言葉に『ドキっ』とはしない。なぜならこの体の中に入っている俺は男だからだ。

◇◇◇

9月24日(金) 午後3時30分 島津政信

「美紗っ、ちょっと喉が乾かないか?」

絶叫マシンから出てきて、ベンチに座ったところで、琢磨が聞いてきた。

「えっ?あっ、うん」

「よしっ、買ってきてやるからちょっと待ってな」

そう言って琢磨が店に走っていった。

「あっつぅ」

思わずそんなことを言ってしまうほど今日は暑い。空を見上げると太陽がちょうど真上に来て、時間も今が一番暑い頃だろう。

片手に持っていたカーディガンを横に置いて、手で顔を扇ぐ。

「キミ、今一人?」

(暑いなぁ、琢磨も早く買ってきてくれたらいいのに)

「ねえ、キミさ…聞こえてる?」

(ナンパかよ。うるさいな)

そう思って声のするほうを見るとロン毛の見るからに軽薄そうな男が目の前にいた。

(へ?俺?)

「ねえ、聞こえてるんでしょ?聞こえないふりなんてしないでさ。一人?友達と来てるとか?」

ロン毛の男がしつこく話しかけてくる。

「いえ、彼氏と来てるんで」

俺はお決まりの言葉を口にする。

「彼氏?本当に?」

ロン毛の男はなかなか去ろうとしない。

「へー。じゃあさ、彼氏が戻って来るまでオレと話でもしない?」

(しつこいナンパだな)

琢磨を探して周りを見渡すと、ロン毛の男の仲間らしい同じように軽薄そうなのがこちらを見てニヤニヤとしていた。

「いえ、結構です。すぐに戻って来るんで」

俺は琢磨のところに行こうと立ち上がる。

「もう行きますんで」

琢磨の入った店は分かっている。そちらに向かおうとした。

「そう言わずにさあ…」

男の手が伸びて俺の腕を掴んだ。

(うわっ、なんだこいつ)

そう思った時にはいつの間にか男の仲間に囲まれていた。

「いやっ、やめてくださいっ」

「そんなに嫌がらないでよ。楽しいことするだけなんだからさ」

(やばいっ)

男の手が無理やり俺を引っ張って転びそうになる。

「おいっ、オレの女になんか用か?」

ドスの効いた声がして周りを囲んでいた男達が道を開ける。

「琢磨っ」

琢磨がようやく帰ってきた。

「い…いや、ちょっと質問してただけなんで…」

ナンパ男達は琢磨の殺気に慌てて立ち去っていった。

「美紗、大丈夫か?」

「う、うん。ありがと」

琢磨が俺にアイスクリームの乗ったジュースを差し出す。

俺は琢磨に肩を抱かれて歩く。

(ふう、この体だとあんな連中でも怖いな…。琢磨が来てくれて良かった)

それから琢磨とジェットコースターに乗ったり、CGのアトラクションを楽しんだ。

◇◇◇

9月24日(金) 午後6時 島津政信

気がつけば空は赤く、薄暗くなってきた。

「もうすぐパレードだな。最後にあれに乗るか?」

そう言って観覧車に向かった。

観覧車に乗るとすぐに琢磨が俺の隣に座る。

「きゃっ」

ちょっと揺れて驚いた所でキスをされた。

「ふっ…んんっ…たくまっ…こんなとこ、んんっ」

周りから見えるからって言おうとする唇が塞がれて舌を吸われる。

琢磨の手が俺の胸を優しく触る。

琢磨の舌にうっとりしていた俺は慌てて琢磨の胸を押して抵抗しようとした。

「だめっ…ここじゃ…んむむっ」

キスをされて黙らされている間に太腿に琢磨の手の感触がした。

『ドンッ』

琢磨の厚い胸板を押して離れる。

「だめっ…琢磨っ…今日はお詫びでしょ?」

「くっそ、いけると思ったんだけどな」

琢磨が本当に悔しそうな顔をした。

「残念でした。ふふふ」

「まあいいさ、楽しみは後にとっておくぜ」

「今日はダメだよ。お詫びなんでしょ?うふふふふ」

「見てろよ、ははは」

大きな観覧車が下に着く頃には陽がほとんど落ちて、薄暗くなっていた。

「おっ、始まってるみたいだな」

琢磨が指差す方を見る。

「人がいっぱいで見えないよ」

俺は琢磨を見上げる。

「ああ、そっか。よし、もうちょっと人が少ないとこに行って見るかっ」

派手な音楽が遠くから近づいて来る。

イルミネーションで彩られた様々な台車が目の前を通っていく。

キャラクターに扮した人たちがダンスを踊り、光と音楽でまるで夢の世界にいるような気分がする。

「ねえっ、琢磨っ、凄いっ」

圧倒されていた俺がそう言って隣を見ると、あれ?いない。

(おかしいな、さっきまで隣にいたはずなのに…)