6周目 9月24日(金) 午後6時25分 島津政信
(おかしいな、さっきまで隣にいたはずなのに…)
そう思ってちょっと探そうと人混みから離れた所で声を掛けられた。
「お嬢さん、一人ぼっちなのかなあ?」
聞いたことのある声だと思ったら、昼間にナンパしてきたロン毛だった。
(またっ…こいつらかよ)
ニヤニヤと笑う男達。周りを見渡し、琢磨がいない事を確認した上で俺に近づいてくる。
「なっ、何か用ですか?」
助けを求めて周りを見るが、皆パレードに夢中でこちらを見ている人など一人もいない。
「今は頼りの王子様もいないみたいだねえ」
逃げ道を塞ぐように男たちが近づいてくる。
「や、やだっ」
後ずさりしていた踵に段差がひっかかった。
「きゃっ」
尻餅をついて、目を開けると周りを男達に囲まれていた。
「おい」
「いやだっ、むぐっ、むっ、んんっむうんん」
ロン毛が合図をすると一人の男が近づいてきて俺は口を押さえられた。
さらに別の男に羽交い締めにされた上、脚を持たれて運ばれていく。
(こいつら慣れてるっ)
「んんんっ!んんんんんっ!むーっ、むーっ」
声を出そうにも口を押さえられて呻き声にしかならない。
俺は建物の影になった芝生に転がされた。
「くくっ、ここなら多少声を出しても大丈夫だぜ」
「パレードに夢中で誰もこんなとこ来ねえからなあ」
そう口々に言ってニヤニヤ笑う。
「いやっっ」
逃げようとして立ち上がろうとしたら脚を掴まれ再び倒された。
「お嬢様なのにパンティはエッチなんだな。それとも彼氏のために勝負パンツってやつ?」
「やだっ…」
「あれっ?おいっ、見ろよっ、濡れてんじゃねえか?」
「知らない男に襲われてお嬢様は興奮してるんだあ」
周りでギャハハハと笑い声が起こる。
俺は恥ずかしいのと怒りで真っ赤になった。
「さて、愛しの彼氏の代わりに味見させていただくか」
『カチャカチャ』
リーダー格のロン毛の男がベルトを外しながら近づいて来る。
「やだっ、やめてっ」
「やめてって言われて止める奴はいないよな。くくくっ」
逃げようにも体が動かない。
(くそっ、女の体に慣れすぎてしまったのか?逃げないとレイプされるんだぞっ)
体を叱咤してようやく立ち上がろうとする。
膝の力が抜けて、ガタガタと震える。
「おっ、逃げるの?」
周りの男が笑う。
「あれ?動かないなら捕まっちゃうよ」
立ち上がったのは良いが、逃げようにもそれ以上動けないでいた。
「ほらほら?逃げないの?」
俺は近づいてきたロン毛に簡単に捕まった。
「いっ、嫌だっ」
腕を掴まれ、引き摺られるようにしてベンチに押し倒された。
周りからは「早くしろよ」とか「次はオレだろ?」とか口々に聞こえた。
「そうそう、諦めた方がいいぜ。あんな彼氏より気持ちよくしてやるからなあっ」
スカートが引き上げられて、ロン毛が太腿に顔を埋めた。
(ああ、俺はこれから犯されるのか…くそっ、嫌だっ、そんなの嫌だっ)
俺は思い切り脚を上げる。
『ガッ』
ちょうど俺の股間を覗き込んでいた男の顔に膝が当たった。
「ぐあっ…このクソアマがっ」
顔を押さえた男が怒りの声を上げて睨みつけてきた。そして近づいてきたかと思うと顔に衝撃が走った。
『パーンッ』
何が起こったのか一瞬わからなかったが、平手で殴られた事に気づいた。
柔道で受け身を取り損ねた時のように目の前に光の粒が飛ぶ。
「相当の上玉だし、おとなしくしてりゃ、気持ち良くしてやるつもりだったが…めちゃくちゃになるまで犯してやる。おいっ、お前らっ」
周りから手が伸びて脚だけでなく、腕まで固定される。
「や…やだっ、やめてっ」
リーダーが肉棒を勃起させて近づいてくる。
(琢磨っ、お願いっっ、助けてっ)
「この綺麗な顔がどんなふうになるのか楽しみだなあ、おいっ、ハハハハ」
「やだっ、やだっ、たくまっ、琢磨っ、助けてぇっっ」
「ハハハ、いくら呼んでも彼氏は来ねえよっ、お前はおとなしく姦られてりゃいいんだっ」
「琢磨っ、たくまぁあああっ」
ナンパ男のチンコが俺の中心に入ろうとしたその時、
「てめえら、オレの女に何してんだっ!」
激しい怒声とともにナンパ男の一人が吹っ飛んだ。
俺は掴まれていた手が緩んだのを感じ取ると、立ち上がって琢磨に駆け寄って抱きついた。
「美紗、もう大丈夫だぜ」
「もうダメかと…うぅ」
抱きしめられながら周りを見るとナンパ男達がジリジリと広がって俺たちを囲む。
「美紗、後ろにいろよ」
そう言うと琢磨が男たちを睨みつける。
「お前らぁ、分かってんだろうなぁ?俺の女に手ぇ出してどうなるかっ」
しかし、昼間とは違って男たちもすぐには逃げない。
「おいっ、相手は一人だぞ、全員で行けば勝て…」
言いかけたロン毛の腹に琢磨の脚がめり込んだ。
「ぐええぇぇぇ」
気持ちわるい声を出してロン毛が倒れ込んだのを見た男たちが逃げるべきなのか顔を見合わせる。
リーダーらしきロン毛がやられたことで、もはや烏合の衆。琢磨が一歩踏み出すと男たちはジリジリと後ろに下がった。
「おいっ、お前らっ」
その時、突然男たちの後ろから声がして明かりが向けられた。
(今度はなんだ?)
眩しくて手をかざしながら声の主を見る。
(警察?いや…警備員か)
どうやら警備員が騒ぎに気がついたようだった。
(これでこいつらは完全に終わったな)
俺がホッとした時だった。
「ちきしょおおおおっ」
突然男達の中の一人が叫んだ男がポケットから折りたたみ式のナイフを出す。
(おいおい、なんてもん出すんだよ)
だが、琢磨は冷静だった。
「美紗…離れろ」
俺に小さな声で指示した上で男に向き合う。
「おい、そんなんで大丈夫かよ?お前、手が震えてるぜ」
男を挑発する。
「あああっ、うわああああああああっ」
琢磨の言葉に対して、男はなんの前触れもなく俺に向かってナイフを振り回しながら突っ込んできた。
「何っ?」
「えっ?」
まさか俺の方にいきなり突っ込んでくるとは思わなかった琢磨が慌てて俺と男の線上に入る。
「あああああああっ」
「ぐぅっ」
琢磨の呻き声が聞こえた。
「琢磨っ」
(まさかナイフがっ?)
「うおおっ」
『ゴッ』
男が吹っ飛ぶ。
「おいっ、お前らっ、動くなっ」
先ほどの警備員が応援を呼んだのか、多くの警備員たちが集まってきて男たちを捕まえていった。
「琢磨っ、大丈夫?」
俺は琢磨に走り寄る。
◇◇◇
警備員によって男たちが捕まったあと、俺たちも警備員室で事情を聞かれた。
あの男たちには他にも余罪があるそうで、警察も来て運ばれていった。
琢磨は明るいところに行くとTシャツの色が変わっていて、脇腹から血が出ていた。
「こんなもん大した傷じゃない」
そうは言うものの、常駐の看護師によって包帯をぐるぐる巻かれて、必ず病院に行くよう言われた。
警察からも後々連絡が来るらしいけど、とりあえず帰れることとなった。
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