10周目 9月24日(金) 午後12時30分 高樹美紗

10周目 9月24日(金) 午後12時30分 島津政信

『ガチャ』

プールの入り口の鍵が開かれて俺から先に入った。

次の時間は授業もないからか明かりもついておらず、日光が天井近くの窓から降り注いでそこだけ水面が反射してキラキラと光っていた。

「高樹、何してんねん?こっちやろ?」

しゃがれた声が人気のないプールに響く。

(葛城が今頃上手くやってくれているはず。あとはポケットの中の定期入れをどこかで見つけた振りをして…)

「早う探せよ」

俺は権田の後から教官室に入ると、床を探す振りをして見て回る。

「まだなんか?」

「えっと、あれ?おかしいなあ…」

権田の視線がずっと俺に向いているせいで、なかなか発見した振りが出来ない。
四つん這いになって探す振りをしながら隙を窺う。

「なあ、見つからへんねやったら机の下とかちゃうか?」

「そっ、そうですね」

床に顔をつけるようにして隙間を覗く。もちろんあるはずがないのだが。

(よし、諦めたことにしよう)

そう決断して振り返ると権田の淀んだ目が俺のスカートに包まれた尻を凝視していた。俺は尻を突き出すようにして四つん這いだ。ジャージの股間が膨らんでいるのが目に入る。

(…まずいっ)

「あっ、そうだ、更衣室かもっ」

俺は慌てて立ち上がると権田の手を躱して教官室から出た。

「まだ探すんかい?」

「更衣室だけ、お願いします」

権田の粘っこい視線を背中に感じながら女子生徒用更衣室に向かった。

(あのままあんなところにいたら何されるか分からないし…でもどうする…?)

権田に追いつかれないように早足で歩き、何とか女子更衣室にたどり着いた。

「ここは女子更衣室だから先生は外で待っていてください」

そう早口に言って権田が何か言う前に更衣室のドアを閉めた。

(どうしよう?このまま籠城していたら葛城が助けに…いや、期待は出来ない…)

しかし、更衣室の奥の扉を見て閃いた。
入口の磨りガラスを俺は見る。権田の影が映っている。

(今の間に…)

女子更衣室からはシャワールームに繋がっている。そしてシャワールームからもプールサイドに出ることが出来る。
シャワールームから出たら走る。そしてそのまま校舎内に戻ればさすがに権田も何も出来ないだろう。とりあえず今はなんとしてもこの体を守らないと。今夜全ての動画も無くなって脅迫の材料もなくなる。

(よしっ)

奥の扉を開けてシャワールームに入る。この部屋も高いところにある嵌めごろしの磨りガラスから柔らかい光が幾筋も入ってきていた。今はもちろん誰も使っていないため、六つあるブースのシャワーカーテンは全て開かれている。

(あまり遅いと権田のことだから女子更衣室でも入ってくるかもしれない)

俺は急いでシャワールームの出口を開いた。

『カラカラッ』

だが、引き戸を開いた俺は目の前の人物に顔から血の気が引くのが分かった。

「定期入れは見つかったんか?」

「なっ」

シャワールームの扉を開いた先には権田のイヤらしい笑顔が待っていたのだ。

「どうしたんや?そんな幽霊でも見たような顔して」

後ずさる俺に権田が迫る。

「ほんまは定期なんて無くしてないんやろ?何考えてんねん?」

俺は何も言えずそのままシャワールームに戻された。

「シャワー室かあ。なんや、昨日を思い出すなあ」

権田の手が俺の肩を掴む。

「ひっ」

「逃げんでもエエやないか」

蛇に睨まれた蛙のように動けなくなった俺は手近なブースに押し込まれた。

「なあ、それで何しにワシをこんなとこに連れてきたんや?」

「あ…その…」

(疑われてる…このままじゃ計画が…)

「えっと…その…昨日の事が、忘れられなくて…」

「ほう?」

権田の目からは、はっきりと疑っているのが分かる。

「ほんまかあ?」

「あっ、あの…」

言いよどむ俺はもう駄目かと思ったが、権田の瞳に好色な色が灯った。

「…まあエエ。そしたらまずは何したらエエか分かるやろ?」

権田は俺の肩を掴んで力ずくでしゃがませる。

「痛っ」

さらに俺の髪を掴んで顔を上げさせた。

(うっ…)

ジャージのズボンを太腿まで脱いだ権田のチンコは勃起しているのを見せつけるようにパンツを押し上げている。
権田はズボンを中途半端に脱いでいるので今なら逃げられる。だが、俺は蛇に睨まれた蛙のように動けなかった。

「お前をこれから気持ちよぉするオチンチンやで」

パンツの中から現れた黒光りする亀頭が俺の顔に照準を合わせていた。

『ゴクリ』

なぜだか口の中に出てきた唾を飲み込む。

「舐めるんや」

(やっぱり…)

どうしようもなかったとはいえ二人きりになった事を俺は後悔した。

チラッと時計を見ればまだ三十分以上あった。だけど、俺はその瞬間、チンコを舐める嫌悪感ではなく、権田を射精させる事を考えている自分に気がついて愕然とした。

(なんで…俺…)

「なあ、昨日みたいに気持ちよぉなりたいんやろ?」

自分の変化に内心動揺する俺に権田はチンコを扱きながら唇に近づけてくる。

(く…)

だが、権田の注意を計画から逸らすために結局俺はその太い幹に手を添えた。

(やるしかないのか…)

むせかえる臭いに頭がくらくらするが、唇を自ら寄せると亀頭の割れ目をついばんだ。

『チュッ、チュッ』

(これは計画をバレないようにするため…仕方ないんだ…)

「舌も使え」

言われるがままに舌を少し出して舐める。

「おお…うまなったな」

権田に頭を撫でられながら幹を伝うように舌先を這わせた。

傘のように広がった亀頭のくびれが権田の弱点のようで、舌をあてるとチンコがピクピクと反応する。

『ネロ…ネロ…』

舌を亀頭のくびれに絡めて竿を手で擦る。

「おおうっ、エエっ、そこやっ」

『チュクッ、チュクッ』

俺の唾と亀頭から溢れる粘液で濡れた手の動きに合わせて恥ずかしい音が鳴る。

『チュクッチュクッチュクッチュクッ』

激しく動かすと権田の息が荒くなった。

「イクでっ」

慌てて亀頭に唇を被せるのと精液が発射されるのが同時。

「飲むんや。こぼしたら罰ゲームやで」

涙目で俺は臭いザーメンを飲み下した。

「高樹っ、突っ込んだりたいけど時間もあらへんから、今日も放課後…エエな?」

「んっ」

口から肉棒を吐き出して俺は権田を見つめる。

「はぃ…」

(計画のためだから…これは仕方ないことだから…)

◇◇◇

10周目 9月24日午後12時40分 高樹美紗

教官室の前まで来たアタシの前でちょうど扉が開いて思わず体が固まる。

開けた方も目を丸くしていた。

「わっ、…し、島津君…どうしたの?」

扉から出てきたのは予想通り亜紀だった。

(…亜紀一人?島津がいないわね)

亜紀がアタシの体を押すようにして体育教官室から離れる。

「葛城、高樹は?」

「美紗なら…トッ、トイレよ。私は行くわねっ」

亜紀が教室に戻るように走っていくのを見送って仕方なしにアタシも戻る。

(明らかにおかしい…でもこれではっきりしたわ)

今度の敵が権田であることは間違いない。
教室に戻ると昼休みの終わる直前に島津も戻ってきた。