10周目 9月22日(水) 午後6時10分 島津政信

9月22日(水) 午後6時10分 島津政信

権田に待っているよう言われた俺は教官控え室に向かった。

足の筋肉がまだ痙攣しているような気がするので最初は恐る恐る歩いていたが、段々ましになってきた気がする。

(ここかな?)

教官控え室の扉は引き戸で、上半分が透明のガラスで中が見える。教官用の机が数個あって、わりときれいだった。

(今日は権田だけなのかな?)

ノックしようか迷ったが、今は他の教官の姿も見えないので、カラカラと開けて中に入ると塩素の臭いが少しした。

(座りたい…勝手にいいのかな?)

俺がしばらく突っ立っていると、すぐ後ろで、カラカラと鳴って権田が現れた。

「高樹、こっちや」

そう言われて連れていかれたのは教官用の更衣室だった。

「足がつるっちゅうのは体温が下がっとるっちゅうのも考えられるからな。ホレ、キャップも取って体を乾かさんと…何しとる?そこに座ったらエエんやで」

(男性用?まさか…)

「ああ…ストレッチの前にマッサージするんや。足がつるのは下手したら癖になるからな。ワシが女更衣室に入るわけにはいかんやろ?」

声に出してもいないのに、勝手に俺の疑問に答える権田。

「ああ、いや、最初は必ず聞かれるんや」

確かに更衣室には生徒用の更衣室同様ベンチがあるし、権田が女更衣室に入るわけにはいかないのも分かる。

(必ずって事はよくあることなんだな)

そう思うとちょっと安心した。

「はよ座れ」

促されて、ベンチに座る。背の低いベンチだから、自然と膝を立てる事になるが、座りにくい事この上ない。

(なんで、プールの更衣室のベンチってどれも背が低いんだろ?)

「高樹、狭いからこっち向かんと足を伸ばせへんやろ?」

(そっか)

普通にベンチに座っていたけど、確かに権田の言う通り、このままでは足を伸ばすとロッカーに当たる。

それで、端に移動した俺は床に座って待つ権田に向けて膝をゆっくりと伸ばした。

「さあ、始めよか。あまり強く揉むと逆効果になるからな」

足首から権田の手が膝に向かって撫でるように上がってきた。

「んっ」

思わず出る声に権田は気づかないように優しく揉みほぐしてきた。

(凄く上手い…けど…)

なんとなくイヤらしい手つきのような気がするのは気のせいだろうか。

「そうや、忘れとった」

不意に顔を上げた権田と目があった。

「なんや?」

俺は首を横に振る。

「ちょっと待っとれ」

権田がロッカーからプラスチックの容器を出した。

キャップを開けると中身を掌に出した。

「それは?」

「まあ、アロマみたいなもんやな。体を暖める効果もあるらしいからちょうどエエやろ」

そして再び俺の足を掴んで液体を塗りつける。

「ひゃっ」

「なんや?変な声だして。真面目にやっとんねんぞ」

「あっ、すっ、すみませんっ、んんっ」

権田はそう言うが先程までと違ってヌルヌルした手の感触に声が出てしまう。

「どうや?なかなか上手いもんやろ?足つった奴にはよくやっとるからな」

「あっんん…はい…気持ちいいです」

逆の足首が掴まれた。

「よっしゃ、今度はこっちや」

「えっ…でも…こっちはつってないんですけど…」

「何をゆうとんねん、片足がつったっちゅうことは、もう片方もつるかもしれんってことやろ?」

強引に引っ張られてさっきと足を逆にした。

◇◇

9月22日(水) 午後6時30分 権田泰三

(ヒヒヒ。エエ感じに力が抜けてきよったで)

足を揉みながらチラッと高樹の顔を窺うと、真っ赤になって唇を噛んでいる。膝は震えて、揉んでいない方の太股が艶かしい動きをしていた。

少し開きぎみになった太股の付け根がチラチラと見え隠れする。

「ちょっとやりにくいな」

ワシはそう言って足を引っ張った。

「あっ、やっ」

高樹の尻が前に引っ張られて水着のくい込みがきつくなって股間に一筋の皺ができた。

(おほうっ、割れ目が…)

「はあ…はあ…んぁぁ」

さらに太股の動きに合わせて水着の生地がさらに動いてシワも形を変える。

(おおっ、これはっ)

目は釘付けになり、ワシの股間はパンパンになっている。都合、手つきがイヤらしくなるのは仕方のないことだった。

「んっ、んんっ」

(そろそろ次に進むか)

さりげなさを装いながら膝まで揉んだ際にほんの少し膝の上に進める。

「ふぅ…ふぅ…」

高樹の様子を窺うが、特に気づいていないようだった。

アロマ(もちろんローションだが)を手に取ると膝の裏に塗るようにして太ももの裏に手を進めた。

「ぁ…」

(気づかれたか?)

だが、今が好機。ワシは気づいていないふりをして、そのまま太ももを揉む。

「んっ、せっ…先生…そこは…」

(どうやらまだ拒否ではないようやな)

ワシは太ももをマッサージしながら答える。

「筋肉っちゅうのは繋がっとるからな。太ももまできちんとマッサージしとくのがエエんや」

「ん…そっ、そうなんですか?」

そう言いながら、高樹の立てた膝が我慢できないようにクネクネと動き、ワシに当たる。

「おっと…コラっ、なにしとんねん」

まるで、高樹のせいでとでも言うように太ももの付け根まで手を伸ばしてやった。

「あっ…んっ…ふぅ」

ピクっと足の指が反るのがわかった。

(感じとる感じ取る…ヒヒヒ)

◇◇◇

9月22日(水) 午後6時40分 権田泰三

「んっ、…はあっ…はぁ…んんんっはぁ」

ワシの手は太ももの奥まで完全に入り込んで水着の股間に触れるか触れないくらいのところを擦り続けていた。

高樹は自分が男を誘う甘い吐息を出していることに気づいていないようだった。

ワシは高樹の蕩けたような瞳を見て判断した。

(自分の状態に気づいてへんのか?これはいけるでっ)

ワシはそのまま水着のクロッチに手を伸ばした。

『チュクッ』

水着は乾いているにも関わらず、指先が濡れた感触を伝えてくる。

「あっ」

その瞬間、ワシの思い込みとは裏腹の思わぬことが起きた。

パッと高樹が両手を股間に挟んでワシの手を止めたのだ。

「先生っ、何してるんですかっ?」

高樹のしっかりした言葉に、ワシは自分の失敗に気がついた。

(くそっ、なんで焦ってしもうたんや)

「いや…何?マッサージをやな…」

しどろもどろになって答える。

「こんなのマッサージじゃないだろっ」

高樹の口調が変わった。

(ん?)

「俺がされたことを全部学院に言いますからっ」

(俺…?)

その瞬間、荒唐無稽だと思っていたあの録画映像が思い浮かんだ。

「島津…なんか?」

自分でもありえないと思うが、ワシの発した言葉は驚く程の効果をあらわす。

サッと高樹の顔が青ざめて明らかに動揺しだした。

「なっ、何を言ってるんですか。俺っ、いやっ、私は高樹です」

(まだ、よう分からんことはあるけど、どうやら攻守が逆転したようやな)

「月曜の保健室で何があったのかワシは知ってるで。なんなら録画も見せたろか?」

「あ…いや…」

高樹、…いや、島津が口ごもる。

「なあ、島津。このことは黙っといたってもエエんやで?」

(よっしゃっ。なんやよう分からんけど今しかないでっ)

「お前はワシにエッチなことされたって言うてもエエけど、高樹はどう思うやろな?周りからどんなふうに見られるやろ?」