11周目 9月22日(水) 午後10時45分 島津政信

11周目 9月22日(水) 午後10時45分 島津政信

玄関に入った俺はそのまま風呂に向かった。

9月とは言え、雨に濡れた体は冷えている。だけど、それ以上に先程の出来事が心に重くのし掛かっていた。

(うう…)

何も考えられない、考えたくない。

ブラジャーは脱がされていたので、ブラウスとスカート、靴下とパンティを脱ぎ捨てるようにして風呂場に入った。

『シャー』

(…亜紀の彼氏にあんなことを…なんてことをしてしまったんだ…)

うなだれる俺の上から温かいシャワーが降り注ぐ。真っ先に思い浮かんだのは高樹に相談すること。だけど、俺は頭を振る。

(こんなこと高樹に相談できる内容じゃない。どうすれば良いんだ?…)

全く解決策など思いつかない。それどころか明日もバイトに行くことになってしまっているのだ。

「うわあ…どうしよう…」

八方塞がりに頭を抱えるものの、徐々に体が温まると、気持ちも落ち着いてきた。

俺は風呂場の椅子に座って雨に濡れた髪を洗いながら考える。

(…よし。明日はしっかり店長に言おう。それに、バイトも明日までにしよう)

そう考えると気が楽になった気がした。

(さてと、髪は洗ったし…ボディソープは…これか?)

スポンジにボディソープをつけて泡立てる。

腕と脚を洗う。

(女の体ってすべすべだなあ。すね毛も全然ないし、男とはやっぱり違うんだな)

次に背中、耳の裏、首と洗っていく。

それはちょうど首すじを洗おうとスポンジを這わせた時だった。なぜか不意に吹き掛けられた熱い吐息の感覚が甦ってきて体にぞわっと鳥肌がたった。

(うぅっ、やめよう…早く体を洗って出よう)

俺は急いで体を洗おうとスポンジを動かす。

「んぁっ」

耳をスポンジが掠めてピクッと体が反応した。

その瞬間、抱き締められた時の腕の感触、耳に押しつけられた唇の感触、耳の中を這う舌の感触が次々蘇る。

考えてはいけない。思い出してはダメだ。そう言い聞かせるものの、初めて味わった女の快感は止めどなく頭の中に浮かんでくる。

(男とは全然違っていた…)

狭い車のシートの上で無理矢理与えられた快感。

(もっ、もうやめないと…)

俺は洗い残している部分を見下ろした。

『ゴクリ』

(不潔にして人の体を病気にするわけにはいかないよな…)

明らかな言い訳。こんなことをしてはいけない。なのに、俺は…。

「んふぁっ」

胸にスポンジを当てるとビクッと体が反応する。

(あんなことをされたから…敏感になってるのか…?)

「んっ…くふんっ…ふっ、ふっ」

声だけは出さないように、そう思うけど、山の尖った先端にスボンジが引っ掛かると唇から悩ましい呻き声が出てしまうのは止められない。

「ふぅっ、ふぅっ、うっ、はぁっ」

(うっ、んっ、だけどっ、このっ、んっ、くらいなら…我慢できる…)

俺の頭に浮かんでくるのは店長の手。

(店長のは…我慢できないくらい…)

俺の手に力が籠っていく。そして、いつしか胸がひしゃげるくらいきつくスポンジを押しつけていた。

「あっ、くっ、うっあぁぁっ」

小さく体が痙攣した。だけど、それは静電気が走った程度。

(こんなもんじゃなかった…)

目の前には鏡、その鏡には火照った顔の少女が写っていた。

(もっと…)

鏡の中の少女の太股が開く。

(もっと…つよいのが…)

少し乱暴にスポンジで股間を擦った瞬間、体を電流が流れた。

「ふああっ…んあっ…」

店長にイカされた時の記憶が甦る。

(だ…ダメだ…こんなもんじゃない…)

スポンジを離し、指を割れ目に当てる。

『ヌルッ』

明らかにお湯ではない粘液。

指の先がヌルヌルの割れ目に潜り込む。

「はあぁ、はあっ、んっ、くっ、はあ、はあっ」

荒い息が風呂場に響く。

(ああっ、店ちょ…しんやさんっ…)

『クチュッ、クチュッ』

指がまるで自分のものでははないように勝手に動き続ける。

「んふっ…ふぅ…ふぁぁっ」

頭に浮かぶのは薄暗い車の中で光る瞳の色。

(んあっ、ダメだ…しんやさんは…葛城の彼氏…)

『バレなければ』しんやさんの言葉が耳の奥に残っていた。

(そうだ…俺がこんなことをしているなんて誰にもわからないんだから…)

俺は快感に身を任せる。指が二本に増えて、膣の中を圧迫する。

「あっ、そんなとこっ、二本もなんてっ、だめですっ」

俺の中ではもう、高樹や葛城への申し訳なさも消えていた。頭のなかは店長にイカされた、あの瞬間の感覚を求めることで、一杯だった。

「しんやさんっ、あっ、イクッ、イク、イキますぅっ」

◇◇◇

俺は湯あたりしたようにフラフラと風呂を出ると、パジャマを着て急いで部屋に戻った。

(何をしているんだ俺は…)

罪悪感に苛まれながらタオルケットを頭からかぶる。

「寝よう…。明日は早いしな」

明日の朝も高樹が来てくれることになっている。

◇◆◇

まず、俺は教室に着入るや、席について頭を抱えた。

(これから葛城に説明しないといけないんだよな…)

昨夜の車の中での出来事から風呂での粗相と絶対人には言えないような事が次々に頭に浮かぶ。

(うわあ…俺はなんてことを…)

青くなったり赤くなったり、机に向かって百面相をしていたところ、突然話しかけられた。

「おはよっ、美紗」

「うえっ」

おそるおそる顔を上げると前の席に葛城が座っている。

「それで、昨日はどうだった?」

「あっ?えっ、いやっ、らっ、らい丈夫。」

思わず返事が噛み噛みになってしまった。それから俺は今日2度目の説明を始めることとなった。

2度目というのは、まず、高樹に学園までの道すがら説明したからだ。もちろん車で送ってもらったくだりは話していないが。

「色々失敗したけどなんとかなったよ。…そうだ、今日も頼まれたんだけど」

「ほんとにっ?良かったぁ…今日は私が行くつもりしてたんだけど、やっぱり無理になっちゃって。明日は絶対大丈夫だから」

葛城もバスケ部のエース候補、試合が近くなるとさすがにバイトよりも部活優先になってしまう。

「うん、今日は任せて」

努めて元気に言ったところで担任が入ってきた。

「ホームルームするぞぉ、席につけよぉ」

葛城がいそいそと自分の席に向かうのを見送って俺はホッと息をつく。

(なんとか誤魔化せた…か)

それから高樹のことを考えた。

(高樹といえば、妙に鋭いところがあるんだよな)

今朝も店長の態度をやたらと聞いてきた。まさかあんなことになったなんて言えないし、なんとか誤魔化せたと思うけど。

(…でも、そりゃそうか、この体は高樹の体なんだし…やっぱり何かしら気づくもんかな?)

◆◆◆

11周目 9月23日(木) 午後4時30分 島津政信

放課後、俺は気合を入れ直していた。

(昨日のことは忘れるし、忘れてもらう)

『カランカラーン』

店の扉を開けると、入れ違いに女の子が帰っていくところだった。

(なんか俺、睨まれてた?)

「おっ、美紗ちゃん、いらっしゃい」

「…よろしくお願いします」

俺は事務所に入ると、一応鍵をかけて昨日と同じフリフリの制服を手に取った。

(あれ?)

持った感じ、どうも昨日よりも服が小さい気がする。

(気のせいかな?)

◆◆◆

11周目 9月23日(木) 午後4時40分 藤川真也

今朝は普段とは違って早くに目が覚め、美紗のことを考えていた。昨日のことでひょっとしたら来ないかもしれない、と危惧していたが、美紗は昨日と同じようにやってきたことで少しホッとすると同時に今夜のことに思いを馳せる。

(少し緊張ぎみに見えたけど…)

挨拶が固かった。それに事務所の鍵をかけて着替えている。おそらくは亜紀を気にして今日は俺に何もさせないつもりで来たのだろう。

(まあ、いいさ。それよりも、どういう反応をするかな?)

俺は逸る気持ちを押さえて事務所の扉を見つめていた。

『ガチャ』

「店長…ちょっといいですか?」

鍵が開く音がして、美紗が少し開いた扉から顔だけ出して俺を呼ぶ。

「どうしたの?」

白々しくそう言って事務所のドアの前に行ってドアを開けようとするとそれを美紗が止めた。

「あっ、あの店長?今日の制服なんですけど…小さくないですか?」

「えっ?」

これまた俺は白々しくわからないふりをする。

「小さい?おかしいな。」

ここで考えるふり。美紗は疑うような目でこちらを見ている。

そこで「あっ」と思い出したふりをする。

「しまった、そうだった、今出て行った子が美紗ちゃんの制服を着てしまったんだっ、ごめんっ」

そう言って俺はパッと勢いよくドアを開く。いきなりのことで、美紗はドアノブを掴んだままこちらによろめいた。

『ドンッ』

予想通り俺の胸に寄りかかってきたので両手で受け止める。昨日も味わったが、やはり柔らかい体だ。抱き止めた手を背中から腰へとまわし、くびれから尻にかけてじっくりと撫でまわす。

「…あっ、やっ」

美紗の体を堪能してから、俺はようやく離した。

「どれどれ?ふぅん…」

(これは予想以上…)

赤く染まった美紗の顔の下でワンサイズ小さい制服はことさら胸を強調している。

ボタンとボタンがパツンパツンで隙間から白いブラジャーがチラチラと見える。

そして、スカートは少し前に体を倒すだけでパンティが見えそうなほどの短さ。

「うーん、これだと無理かな?」

「そっ、もちろんですよっ、代わりの服はないんですか?」

さっきの挨拶の事務的な口調はどこへやら、真っ赤な顔であたふたとしている。

「そうだなあ、ちょっと探してみようか。昔の制服があったような気もするし」

もちろんそんなものはない。だが、美紗は疑う事もなくあっさりと頷いた。

「おっ、お願いしますっ」

すがるような目で俺を見つめ、俺のあとについて事務所に入る。密室に男と二人きりで何が起こるかも考えずに。

「夕方の開店まではもう少しあるから二人で探そう」