9月22日(水) 午後5時25分 島津政信
『バシャッ』
反対側のプールサイドに手をついて顔をあげると目の前に足があった。荒い息で見上げるとそこには権田が立っていた。
「クロールはまあまあ綺麗なフォームやな。真ん中あたりからしんどそうやったけど、まだいけるか?」
俺は『はあ、はあ』と首を横に振った。
「せやな、そしたら今日は体育でやってる平泳ぎの練習して終わろか」
「はあ、はあ…」
(つ…疲れた…高樹…ちょっとくらい運動するよう言わないと…)
「ふうっ、さあ、やるで」
「わっ」
いつの間にか権田がプールの中にいた。
「ん?なんや?」
「先生、どこからプールに?」
「はあ?何ゆうてんねん。今飛び込んだやろ?」
(水しぶきも波もなかった…。さすが水泳部の顧問だ…)
ちょっと感心した。単なるエロ親父というわけでもないのかもしれない。
「まずはワシの足の動きをよう見とくんや、すぐにやってもらうからな」
権田がプールサイドに手をつけて、俺に横に来るよう指示した。
「ええか?足はまずはまっすぐや、それから膝を曲げながら広げて、がに股やで…そいで蹴る。…もう一回やるで…」
綺麗なフォームのはずだが、腹の出た権田がやるとまるでガマガエルのようだ。
(いや、笑っちゃダメだ。せっかく教えてくれているんだから…)
「なんや?変な顔して…よっしゃ、次は高樹の番や」
(よし)
俺はプールサイドに手をついてバタ足で体を浮かせる。
(膝を曲げながら開いて…蹴るっ)
二回めをやろうとしたら体が沈んで立ってしまった。
(おかしいな、もう一回だ)
再び同じ動作を繰り返す。
(膝を曲げて…蹴るっ)
続けてやろうとしても足が沈んで繰り返せなかった。
「しゃあないな、もう一回や」
横から見ていた権田にそう言われてもう一回試す。
「あっ」
沈みそうになった下腹部に手があてられて持ち上げられる。
(ビックリした。セクハラされるかと思った…ふぅ)
「さあ、これで沈まへんやろ」
横に権田がついたまま何度か足の動きを繰り返した。
◇◇
9月22日(水) 午後5時35分 権田泰三
「さあ、これで沈まへんやろ」
高樹にそう言って腹の辺りを持ち上げる。
「ぁっ」
小さく悲鳴をあげた高樹だったが、ワシがそれ以上何もしないから気にするのを止めたようで、何度も足を蹴る。
(おぅ、エエのお)
目の前で水面の上に出た白い背中が躍動する。さらに少し手に力を籠めるとピチピチに水着が密着した尻が浮かぶ。
チンコはビンビンになっているが、水の中では高樹も気づくはずがない。
「蹴り出すときに肘を曲げてその勢いで斜め前に進む感じや」
今度は一旦沈みかけた体がキックの力で水面近くまで上がってくる。
「ようしっ、エエ感じや」
続けようと思ったのか、高樹が曲げた肘を伸ばした瞬間。
『ムニュ』
ワシの手が水着を滑って、高樹の胸を擦った。
(うほっ)
「あんっ」
高樹が自分の声に驚いたように泳ぐのを止めて口に手をあててワシを見る。
「先生…」
じっとワシを見る。
「い、いやっ、今のは不可抗力やろ。お前が急に腕を伸ばしたから…」
「……」
(アカン、あからさまに警戒されとる)
『ゴクリ』
「ふぅ、…そうですね。私がなにも言わずにいきなり腕を伸ばしたのも悪かったし…」
「そっ、そやろっ?よっしゃ、ワシは手を離してフォームをチェックするから、さっきみたいに泳いでみ。あれやったら沈まへんやろ」
そう言って高樹の後ろにまわった。
「はい」
疑いの眼差しを止めた高樹が再び練習を開始した。
(おおうっ)
股に食い込んだ水着が足の動きに合わせてよじれる。
「先生っ、はあ、はあ、んっ、どっ、どうですか?」
先程の声のせいで、高樹の単なる息遣いにまでいらぬ妄想が広がった。
「はあ、はあっ、せっ、先生っ?」
(おっと…いかんいかん…)
妄想から現実に戻る。
「あー、せやな。足の裏で水を捕まえる感じや」
「はい」
何度も何度も高樹は足を開いてはワシを愉しませてくれた。
(せやけど、エラい我慢強いやないか。なんでこいつ授業に出えへんねん?)
かれこれ数十回はキックの練習をしているはず。足も限界なのだろう、最初ほど力がなくなってきているのが傍目から見て明らかに分かる。しかし、高樹は止めようとはしない。
「痛ぁっ」
ワシが首をひねっていた時、高樹が小さく悲鳴をあげた。
顔をしかめている。
「高樹っ、足つったんやないか?」
ワシの質問に涙目でうなずいた。
(よっしゃ…)
ワシはこの後の流れを計算する。
(まずは足を伸ばす振りをして…ぐふふふふふ)
「先生っ、ちょっと腕を貸してください」
(ん?)
高樹はワシの腕を掴んでつった足を伸ばし始めた。
(慣れとんな、こいつ部活しとったか?)
ますます妙な気がして、今朝の様子を思い出した。
(そういや、島津と一緒やったし、関係あんのかいな?まあ、どっちでもエエわ)
「高樹、ちょっとストレッチして今日は終わろか」
◇◇
9月22日(水) 午後6時 権田泰三
教官用の控え室に向かう。
高樹はつった足を庇うようにヒョコヒョコとついてくる。
先に入っておくよう高樹に指示して、水泳部の部長を呼び、今日の残りの指示を出した。
(他の顧問は今日来れへんから、これで邪魔は入らへんし…)
我知らず顔が緩む。
◇◇
権田が指示を出して教官室に向かうのを見ながら女子水泳部の部長が男子水泳部の部長にヒソヒソと話しかける。
「ねえ?あの子大丈夫かなあ?」
「まあ、アイツもエロいけど、さすがに何もしないだろ」
男子の部長はそれほど興味がないのか、さあ戻ろうぜ、と促した。
「そっ、そうよねっ?」
女子の部長も悪い想像を振り払うように頭を振って練習に戻ろうとして、男子の部長が立ち止まっているのに気がついた。
「だけど…、すげえ上機嫌だったな…」
◇◇
9月22日(水) 午後6時10分 権田泰三
『ガチャ』
教官用の部屋に入ると高樹が所在なさげに立っていた。
「高樹、こっちや」
教官の控え室には続いて男女に別れてそれぞれの更衣室がついている。
高樹を男性用の更衣室に入れてワシはエアコンを強くした。
「足がつるっちゅうのは体温が下がっとるっちゅうのも考えられるからな。ホレ、キャップも取って体を乾かさんと…何しとる?そこに座ったらエエんやで」
高樹はやはり立っているのが辛かったのか、すぐにベンチの端に座った。
エアコンがすぐに効いてきて、濡れた体は乾き、水着でいても汗が出るほどになる。
高樹の顔を見ると不審げにこちらを見ている。
「ああ…ストレッチの前にマッサージするんや。足がつるのは下手したら癖になるからな。ワシが女更衣室に入るわけにはいかんやろ?」
躊躇する高樹の足を引っ張って強引にマッサージを始めると諦めたように体から力が抜けた。
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