3周目 9月22日(水) 午前7時20分 高樹美紗
アタシはようやく、それっぽい感じになってきたことに気分をよくしていた。
(夜はその日あったことを話して、一緒に登校して、これって付き合ってるみたいなもんよね)
「朝起きたら、琢磨からめちゃくちゃ電話がかかってたんだよ」
そう言われてギョッとするものの結局連絡はとってないことに安堵する。
電車も昨日のことがあるから、島津をドアの前に立たせて、守るように立つ。
「もうすぐ大会があるけど、もし、それまでに治らなかったら応援に来てくれよ」
そう言うと
「もちろん見に行くよ」
そんな会話の中で『ガタンッ』揺れるたびに島津と体が当たる。
「うわっ」
そう言って驚く島津。
(ちょっと、『うわっ』って…)
「『うわっ』はないだろ、男じゃないんだから、『きゃっ』とか言えない?」
「んっ」
耳元で小声で言ったせいか、島津の顔に赤みが差して、ちょっと悶えるような声を出す。
(やめてよね。ただでさえ神様のあれがあるんだから)
アタシは島津を見ないようにして下半身に血が向かうのを必死で誤魔化した。
◇◇◇
3周目 9月22日(水) 午前8時30分
学園に着くと葛城が目の前に座る。
「ねえ、アンタ、ひょっとして島津くんと付き合ってるの?」
「えっ?」
「なんか噂になってるよ。今日も一緒に登校したんでしょ?」
「う、うん、一緒に来たけど…昨日痴漢から助けてもらって…」
「ああ、そうだったんだ、でも、もし付き合うなら本気じゃないとヤバイよ。島津君人気があるんだから」
「うん、分かった」
(そうか、知らなかったけど俺って女子から好かれてたんだな)
「なんか最近アンタ素直ねぇ、雰囲気も変わったし…何かあったの?」
「えっ?いや、そう?」
「まぁいいけど。今のアンタ、昔に戻ったみたいで良いよ」
葛城が懐かしそうな目で俺を見た。
「そうそう、お願いがあるんだけど…」
続けて葛城が切り出した話によると、どうも亜紀の彼氏が経営しているカフェのバイトが足りないらしい。そこで俺に急遽やってくれというのだ。
(高樹に聞いてみないと判断できないなあ)
ちらっと高樹の姿を探す。
窓際で友達と話をしている高樹と目が合った。
「ちょっと考えさせて」
俺は葛城にそう言うと廊下に出る。しばらくすると高樹が出てきた。
「どうした?」
あたりをはばかるように小声で高樹が尋ねてきた。
「かつら…亜紀からバイトを頼まれて」
「ああ…なるほど…」
高樹がそれだけで分かってくれたようだった。
「で、どうする?」
「いや、親友なんでしょ?手伝うくらいなら…」
俺が手伝う意志を伝える。
「うん。じゃあバイトの終わりに迎えに行くよ」
「いや、いいよ。それくらい一人で帰れるし。そっちも大会が近いんだから部活を優先して欲しい。また明日の朝に報告するから」
「…ああ、そうだな。」
ちょっと考える素振りを見せた後、高樹も同意した。
二人がそろって消えたのを確認して、葛城は本当に二人ができてるんじゃないかと疑わしい目で廊下を眺めていたが、俺はそんな風に思われているとは全く気づかないまま時間差で教室に戻る。
「で、どうっ?」
葛城がすがるような目で見る。
「いいよ。だけど、場所を忘れちゃったから一応教えて」
俺がそう言うと大喜びで詳しい地図まで書いてくれたのだった。
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