9月26日(日) 午後11時50分 ???
『カチャ』
バスルームの扉が開いて、バスタオルを体に巻いた少女が出てきた。
「気持ち良かったぁ」
顔がほんのりピンク色に染まっているのはシャワーのせいか、先程までの激しい性交のためか…。
琢磨と呼ばれた男はベッドから起き上がると、入れ替わりにバスルームに入る。
少女が濡れた髪をタオルで拭いながらベッドに腰かけた。
ふと、枕元に先程までは無かった箱に気がついた。
何気なく箱を開けた少女は中身をしばらく見つめ、ふいに立ち上がったかと思うと、バスルームに飛び込んだ。
「おわっ、なっ、なんだっ?」
『シャーー、キュッ』
男が慌ててシャワーを止めた。
「琢磨ぁっ、これっ、これって…?」
「お前、何でも買ってやるって約束したのに欲しがらねえからよ。まあ、あれだ。本物の指輪は俺が就職したらって感じだけど、形だけは…な」
男の言葉は途中から少女には聴こえていなかった。
涙を流す少女の左手を壊れ物を扱うように優しく持ち上げて、男が指輪を薬指に填めた。
◇◇◇
9月26日(日) 午後11時50分 ???
空中に浮かんだ画面の中では二人が抱きあっている。
(困ったのぉ…)
儂は目の前の短く刈り上げた髪の男子を見た。
疲れ果てたように体育座りして、俯いている。
(今回はよっぽど堪えたようじゃの…)
「ねえ」
突然、男子の姿の高樹美紗が顔を上げた。
「おっ、おぅ」
なんと声をかけたものかと悩んでいたせいで思わず吃ってしまった。
「なんで…こんなことになったのかな?」
美紗は儂を見ているようで、遠くを見つめるような眼差しをした。
「まあ、そうじゃな…男と女じゃから色々あるんじゃないかの?」
「だけど…、アタシと一緒にいた時の琢磨は、いつもエッチのことばかりだった。なのに…それに島津もあんなに幸せそうな顔をして…」
はあ、と美紗はため息をつく。
「うーむ。そうじゃな、このままではクリアは難しいかの」
儂は見せようか悩んでいた映像を見せることにした。
スクリーンを空間に出すと、力なく見る。
「何を見せるわけ?二人がイチャついてるところなんか見たくないんだから」
「まあ、見ておれ」
スクリーンには金曜の夜、二人の告白の場面が映った。
『前のお前は自分ってのを持ってて、醒めててカッコイイ女だったけど…なんつうか、いつも俺と…いや、誰にでもそうだったのかもしれないな。距離を置いてる感じだった。今のお前は一緒にいても落ち着くし、一緒に楽しめる』
映像を止めた。
「何が言いたいわけ?」
美紗の言葉に苛立ちが混じる。
「お主は壁をつくっておるのじゃ。それが無意識か意識的かは分からんがの」
「だって…そんなの…他人じゃないっ」
美紗の顔が引きつった。
(ふむ。家庭環境がそうさせたのかもしれんが…)
「じゃがの、少なくとも二人は心の垣根を取り払ったからこそ結ばれたのじゃ」
美紗は立ち上がった。
「じゃあ何なの?アタシには島津を惚れさせる事ができないって?そう言いたいわけ?」
怒りの目をこちらに向けてくる。
「いやいや、そうじゃなくての…その…もっと相手を知ろう、自分を知ってもらおうという気持ちが必要じゃないかのっていう……そうっ、アドバイスっ、アドバイスじゃ」
しどろもどろになって言うと、美紗は儂を睨みつける。
「そう…なるほどね…分かったわ。神様、次の回を始めて」
低い声でそう言う美紗に恐れをなした儂はコクコクと頷いて時間を巻き戻した。
◇◇◇
それから数周の間、美紗は島津君を犯し続けた。それが終わると、一週間で元に戻るのをいいことに荒れまくった。
しかし、その姿は悲しく、美紗自身が泣いているように見えた。
「のぅ、もう、このゲームはやめた方が…」
儂の言葉に美紗はただ首を横に振る。それからまた新しい周回を始めるのがここ数回の流れになっていた。
じゃが、今回は少し違った。
「こんなことをしても何にもならないことなんて分かっていたわよ…単なるアタシの憂さ晴らしだってね。島津にも、無関係な人にも申し訳ないことをしたわ」
「では…」
「そうね。一度はやめようかとも思った。でも…やっぱりアタシは元に戻るなんて嫌。そうじゃないとこのゲームを始めた意味がないもの。それに…」
顔を上げた美紗の目は再び光を取り戻していた。
「それがたとえ何百周することになったとしてもね」
(心配じゃったが、何とか乗り越えたようじゃな)
儂は美紗の口から出た言葉を確かに聞いた。
「それに…島津と琢磨を見て私も…確かめてみたいの…」
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