最後の7日間 9月21日(火) 午前10時30分 高樹美紗

9月21日(火) 午前10時30分 高樹美紗

「えっと、どうしたんだ?」

「うん、琢磨にしばらく距離を置こうってメールしといたから、絶対にメールが来ても勝手に会ったりしちゃダメだからね」

「えっ、ああ…?」

琢磨にメールを送って島津に携帯を返す。

痴漢と琢磨の件を無事切り抜けて、まずはホッと一息つく。

◇◇◇

9月21日(火) 午後3時30分 高樹美紗

(えっと…次は…)

放課後になり、島津を見るとこちらを見て何か言いたそうにしていた。

廊下に出ると後ろから島津が出てきた。

「どうした?」

そう言うとアタシのシャツをちょっと持って上目遣いでアタシを見る。

「えっと…あのさ…じゃなくって…あ、あのね、今朝みたいなことがあったら困るから、一緒に帰って欲しいなって思って…」

そんなお願いしてくる島津のお願いを断れる男はいないだろう。

(ここでアタシが悩むと一人で帰ることになるのよ。それで何度も何度も失敗したんだから。琢磨が待ち伏せしていたり、大学生に犯されたり、痴漢になぜか帰りの電車で出会ったり…思い出しただけで腹が立つわ)

「わかった、一緒に帰るか?」

パッと島津の顔がほころぶ。

(アタシってこんな表情も出来たのね)

新しい発見に驚きながら、一度アタシは思い出したように言う。

「あっ、だけど部活があるな」

「そ、そっか。土日試合だしね…」

島津の声が沈む。

(そして、アタシはこう言うのよ)

「じゃあこういうのはどうだ?高樹も柔道部に入る。それなら一緒に帰れるぜ」

島津は柔道一筋で生きてきたから、柔道部に入れるのは簡単だ。

「えっ?いいの?だけど、元に戻った時に高樹が柔道部に…」

(島津は他人のことを気にしすぎね。まあ、そこがいいとこなんだけど)

「気にすんなよ」

「じゃ、じゃあ、今日から柔道部に行こうかな」

そう言って安心したように笑う島津と二人で柔道の道場に向かった。

◇◇

9月21日(火) 午後6時30分 高樹美紗

『そりゃっ』

『ドスンッ』

『一本っ』

「よし、今日の練習はここまでにしようっ」

主将が部員に大きな声で叫ぶ。

「「「あっしたっ」」」

全員集合して挨拶をするとアタシはそのまま島津のところに走った。

「高樹、すぐに戻ってくるからな」

それだけ言うと更衣室に飛び込んで服を着替えると再び柔道場へ。

ここで急がないとまたロクでもないことになるから大慌てで着替える。

島津をアタシが紹介した時、最初は部員たちから少し引いて扱われることをアタシは知っている。

もともと一匹狼で、男を取っ替え引っ替えしていたアタシは変な噂もあって部員たちの中にはそれを知っている奴らもいるんだ。

だけど、さすがは柔道一筋の島津。練習で汗をかく部員たちがタオルをちょうど欲しいタイミングで渡す。

さらにその際に部員たちの悪いところ、良いところを的確に伝える。

最初は色眼鏡で見ていた部員たちは驚き、そして部活の終わる頃には島津に自然な笑顔を見せるようになった。

これも何度か繰り返した流れだから問題なく進む。

そんな中、一人の少女が島津を鋭い眼差しで見ていた。木村沙希、アタシたちと同学年のマネージャーの一人だった。

アタシは沙希の目が何か言いたそうなのを無視して島津の手を取ると好奇の目を向ける部員たちに「お先っ」そう言って柔道場を出た。

◇◇

9月21日(火) 午後7時00分 高樹美紗

「なあ…、こんなに急がなくても…」

(急がないとすぐに変なことになっちゃうのよ)

とは言え、二人になったことで少し安心する。

「いい?これからは一緒に登下校するのよ」

「あ、ああ…」

アタシの勢いに押されたように、ちょっと引き気味に島津が答えた。

(いけないいけない、思わず強く言っちゃったかも)

「でも、ごめんな、俺のせいで迷惑ばかりかけてしまって…」

歩きながら島津がポツリと言った。

「迷惑なんかじゃないよ。アタシが守ってあげるから一緒に頑張ろっ」

「そうだな、戻れるように頑張らないとな」

「じゃあ、明日も迎えに行くから」

「おう、そうだ。こっちから電話もしていいかな?」

「もちろんよ」

◇◇

9月21日(火) 午後9時30分 高樹美紗

「トゥルルルルルル」

アタシは何度目かのコールを鳴らして、電話の折り返しを待つ。

『リリリリリリリ』

30分ほどしてかかってきた。

「もしもしっ、島津っ、アンタ何してんのよっ」

「ご、ごめん…家に帰ってホッとしたら寝てしまってて」

島津が謝ってくるけど、毎回毎回これに関しては腹が立って思わず怒鳴ってしまう。

(何かあったのかと心配になるのよね)

「アタシがどんだけ心配したと思ってんのよっ、寝るなら寝るでメールくらいしなさいっ」

「ごめん…」

島津の声を注意深く聞くけど、新たな問題は起こっていないようだ。

「そういえば、琢磨からも電話がたくさん来てるけど…」

(そうだ、ここで琢磨を切っとかないと…)

「ああー、しつこい男ね。いいのよ、無視して」

琢磨は色んなところに登場するけど、とりあえずここをクリアしておけば、アタシが常に島津と一緒にいることで問題はないはず。

「どうせ別れるつもりだったからちょうどいいのよ、いい?絶対に電話もダメ、会ってもダメだからね」

「あっ、ああ、分かった」

アタシの言葉にちょっと気圧されたように島津が答えた。

(アタシはもう何周も何周もやってるけど、島津からしたら全て初めてだもんね)

「心配しないで。アタシが何とかするから。また明日迎えに行くからその時に話しましょう」

「うん、そうだな」

「じゃあ、おやすみ」

「おう、おやすみ」