「クソッ」
俺の名前は佐藤和巳。年齢は二十二歳、身長は180センチを越え、鍛えた体はよくスポーツ選手と間違われる。容姿も整っているとは言いがたいが、切れ長の目と少し厚い唇がセクシーだと言われる。
決まった恋人はいない。だが、セフレは2人、皆俺より歳上の大人の女だ。
そんな俺がクリスマスに一人イルミネーションに彩られた街を歩いていたのには理由がある。セフレの一人と食事の約束していたのがドタキャンされたのだ。
(愛梨のやつ、何が「クリスマスはやっぱり彼氏と」だよ。「彼氏なんていらないっ。和巳の方がキモチイイっ」とか先週も叫んでたのは何なんだよ。理彩は理彩で…「ごめんなさい、旦那が帰ってくることになっちゃって」じゃねえよ)
仕方なく一人街を歩いていたが、カップルだらけの街はイラつくだけだった。
時間は六時半、腹が減ってきたこともあって寒さが沁みる。
(チッ、帰るか)
このままここでいても気分が悪くなるだけだ。俺はさっさと家に帰ることにした。
◇◇◇
「ガチャ」
郊外のベッドタウンにある一軒家。ここが俺の家だ。と言ってももちろん親父の家なんだが。
帰ってリビングの扉を開くと、ガキが一人洗濯物を畳んでいた。
「あっ…」
俺の顔を見て怯えた表情になった。機嫌が悪いのを察したのだろう。
このガキは拓海、俺の弟だ。母親が早くにこの世を去って、家事を手伝うよくできた弟だ。
「おいっ」
ダイニングの椅子にドカッと座って乱暴に呼ぶと、弟がこわごわ立ち上がった。
「拓海、今日の飯は?」
「ぇ…、お兄ちゃん食べてくるって…」
「ああ?親父の分があるだろうが?」
拓海がカレンダーを見る。今日から数日間出張と書かれていた。
「チッ」
俺は隣の椅子を蹴り飛ばした。拓海は青い顔で立ちすくんでうんともすんとも言わない。
弟のそんな姿はさらに俺をイラつかせる。弟は性格も顔も俺とは正反対だ。女みたいな顔に腕や脚も細く、純粋で真面目。だからか知らないがやることなすこと俺をイラつかせる。
『ガタッ』
「おっ、お兄ちゃ…」
立ち上がった俺は無言で晩飯を買いに家を出た。

◇◇◇
「はぁ…」
僕はお兄ちゃんが家を出ていくと洗濯物を片付けて二階の自分の部屋に入った。
勉強机に座って窓の外を見ると星が輝いている。
(あーあ、なんでお兄ちゃんってあんな怖いんだろ)
僕は友達の家に遊びに行ったときのことを考える。
(優馬くんとこのお姉ちゃんも悟志くんのお姉ちゃんも優しいのに)
友達はお姉ちゃんが嫌いだとか、怖いとか言うけど、うちのお兄ちゃんよりも優しいのは間違いない。
(あーあ、お兄ちゃんがお姉ちゃんなら良かったのに…)
そう思った時だった。
『拓海君が欲しいのはお姉ちゃんかい?』
突然知らない人の声がして振り返る。
(あれ?誰もいない?)
『ホッホッホ』
頭にお爺さんらしき声が響くけど、やっぱり部屋には僕しかいなかった。
「誰?どこにいるの?」
すると窓の外に、トナカイとソリに乗ったお爺さんが浮いていた。
「サンタじゃ。今日は聖なるクリスマス。毎日お父さんを手伝って偉い拓海君にプレゼントを渡しに来たんじゃよ」
「へ?でも優馬くんはサンタさんはいないって…」
サンタさんはホッホッホと笑った。
「ワシはほれ、ここにおるじゃろ?じゃが、時間があまりないのじゃ。早速じゃが拓海君にプレゼントをやろう。む………よし、これでプレゼントは渡したぞい」
僕が呆気に取られて眺めている間にトナカイの引くソリは空に消えていった。
(…夢…かな?)
◇◇◇
『ガチャ』
コンビニで弁当を買って帰ってくるとリビングに拓海の姿は無かった。テーブルには俺の服が綺麗に畳まれて置かれている。
「チッ」
こういうところがまた癇に障る。
俺はソファに座ってテレビをつけて弁当を食い始めた。
「ふう」
食い終わってビールでも飲むかと立ち上がろうとした俺はなんだか違和感を感じた。
(ん?)
だが、違和感の正体はわからない。
(気のせいか)
だが、歩こうと一歩踏み出した瞬間に足に何かが引っ掛かって立ち止まる。
『バサ』
足元を見るとズボンが落ちていた。
(チッ、ベルトが切れちまったか?ツイてないにも程があるぜ)
しかし、ズボンの腰にはベルトがきちんと巻かれている。さらに、ズボンを上げてみて気がついた。
(俺が痩せた…いや…ズボン自体がでかくなってる?…そんな馬鹿な…)
目の端に黒いものが映った。
「誰だッ」
顔を振った瞬間、また別の違和感。
(まさか…)
首の辺りに触れると髪の毛らしきものが触れた。
(俺の髪が伸びている…?)
慌てて手で髪を掴む。
(何だとっ?)
『和巳君』
「誰だッ、どこだッ?」
『ホッホッホ、さすが兄弟じゃのお。同じことを言うのお』
周りを見ても誰もいない。
「あん?さてはテメエかっ、俺に何しやがった。早く戻さねえとただじゃおかねえぞ」
『ホッホッホ、恐い恐い。ワシはサンタじゃ。拓海君のお願いでお兄ちゃんをお姉ちゃんにしたんじゃよ』
「なっ、…はあ?意味わかんねえ…クソッ、要は拓海のせいかっ、あの野郎っ」
殴ってやろうと走り出しかけた俺に頭の中に声が響く。
『おお、そうじゃった。和巳君がもしも元に戻りたければ拓海君に今考えているような事はせん方が良いぞ』
「ああっ?戻せよッ」
『戻りたければ、そうじゃなあ…日が昇るまでに拓海君を満足させられたら、その時聞いてやろう』
「満足?満足って何だよっ、おいっ」
返事はない。
「クソッ、どうなってんだ?」
とりあえず洗面所に行くと鏡を見た。

「ゲッ…嘘だろ…」
お姉ちゃんにする、ってのは冗談でもなんでもなかった。
鏡に映る俺はロングヘアの女になっていた。少しウェーブのかかったワンレングスの髪は背中まで伸びて、顔の造形自体はよく見ないと自分とは分からないが、切れ長に少し厚い唇はまさしく俺だ。自分で言うのも何だが、なかなかセクシーな顔立ちだ。
身長も縮んで160ちょいくらいか。着ていた服を脱ぐと出るとこはきっちり出たイイ体をしている。で、最も大事なアレは…想像通り、無くなっていた。
(夢…じゃないよな………ってことは…)
あの変な声の言う通りだとすると戻るためには拓海を満足させないといけない。
「チッ」
胸くそ悪いがどうしようもない。俺は拓海が畳んだ洗濯物からパーカーを着てみる。20センチほど身長が縮んだせいでワンピースのようになった。
◇◇◇
「いらっしゃいませぇ」
コンビニに入ると先ほど弁当を買いに来た時と同じ店員が暇そうにカウンターで立っていた。しかし、俺を見ると「おっ」と言う顔をして、それから俺の体を、特に太ももを凝視する。
(クソッ)
母親のいない我が家に女ものの服などあるわけもない。下着も残念なことにサイズが違い過ぎて合わない。もしかしたら拓海の下着なら着ることができるかもしれないが、あいつに借りるなんて死んでも御免だ。
そんなことをするくらいなら、ということで下着も履かず、自分のパーカーを着ているだけだが、確かに少々扇情的な格好であることは間違いない。
店員の視線を浴びながらケーキコーナーに行く。
(確かさっき来たときはこの辺に…あった)
俺は苺の乗ったショートケーキを買ってそそくさとコンビニを出た。
(なるほど、女ってのはこんな風に視線を感じるもんなんだな)
店員が胸や足、尻をチラチラと見ていたことに俺は気づいていた。電車や道ですれ違う女を見るときは注意しないといけないな、と考えつつ寒い夜道を急いで家に帰った。






























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