千手丸の危機

(うええ…まだ喉に絡まってる…お腹がなんだか気持ち悪い…)

口の中に流し込まれた生臭い液体。吐き出すことも許されず飲まされてしまった。
飲み込んだ精液は喉を通ってお腹の中に。まるで固形物のようにねっとりとしたそれは、お腹の中で存在を主張するかのように熱を発している。

誰かが来たら、と思って気力を振り絞って僕は袴を着ると、吐き出した吐瀉物を片付けた。

(人が必死になっているのがそんなに面白いのか?)

三郎はと言えば、手伝うわけでもなく、ニタニタと口だけ笑いながら僕の様子を見ているだけだった。

(期待はしていなかったし、邪魔されないだけマシか)

床を拭いて、桶の水を外に捨てると再び道場に戻る。

「ふう…ふう…」

空の桶が妙に重い。

(おかしい…な…)

力が入らないだけでなく、熱を放っている部分が下がってきている。

(これ…は…)

自分の体が疼いているのだと気づくと同時に、熱が出た時のように目が潤んでいることも理解してしまった。

(な…んで…)

汗ばんでいた背中に浮いた滴が冷たく流れ落ちる。
村正を使った後と同じこの感覚を僕は知っている。そして、つい最近森のお堂で味わったばかりの千手丸も、もちろん覚えていた。

「ん?どうした?体調でも悪いのか?」

三郎が笑いを堪えるように話しかけてきた。

「うっ、うるさい。…ちょっと…疲れただけ…」

視界が揺れる。

「おっと…ククク」

三郎に抱き止められたことに気がついた時には、もう逃げ場も失っていた。

◇◇◇◇

「あっ♡あっ♡あっ♡」

袴のはだけた三郎にのし掛かられ、熱した鉄のように熱く固い肉棒が打ち込まれる。
さっき着たばかりの袴は再び脱がされ、むき出しの首筋や背中に三郎の熱い息がかかる。

「ハハハ!アへ顔晒してよがってやがる!」

(なっ、なんでこんなに…♡♡)

気が狂いそうなほどの快感。こんなのは普通ではない。そして、千手丸の戸惑いと羞恥の思いが混ざって、頭の中は滅茶苦茶になっていた。

「あぅっ♡んんっ♡なっ、なんでぇっ?♡」

僕の意識が快感に流されて弱まったことで、千手丸としての意識が言葉になって口から零れる。

さっきまで殺されるのではないかと思うほど苦しめていたその元凶が快感をもたらしてくるのだ。千手丸の心は混乱どころか恐慌状態だ。

「なんでかって?そりゃあ、お前が淫乱だからだろぉよ!」

ズンッと奥が突かれると、無意識に顎が跳ね上がってしまう。

(そんなはずっ♡ないっ♡なのに…♡♡)

「おいおい!乳首が弄って欲しそうにしてるぜ!」

三郎の言葉通り、胸の先は痛いくらいに固く尖って、サラシにその形が浮き上がっていた。

「あっくぅぅぅ♡そこはぁっ♡」

サラシ越しにキュッと摘ままれると、体がビクッと震えた。

「くぅぅぅっ♡♡」

「おいおい、こんだけでイッちまうってか?まだまだ始まったばっかだぜ?」

「んあっ♡今はダメッ♡おかしっくなってるからぁっ♡」

絶頂が落ち着く前に腰が掴まれて引き寄せられた。それによって繋がった部分の隙間が完全になくなる。

「んっぁああっ♡♡」

背中が反り返る。と、同時にまた達してしまった。
敏感になった体を狂わせるのは、体の内側を突き上げる男の象徴だけではない。脇腹に食い込む三郎の、男のゴツゴツとした指までもが僕を(私を)おかしくする。

「やっめてっ♡くるしっ♡くるうっ♡狂っちゃうぅ♡」

(体が…征服…されてしまう…)

快感の中で千手丸の嘆きが聞こえた気がした。だけど、そのか細い声は、喘ぎ声にかき消されてしまう。

「んっっっ♡あっ♡あっ♡あっ♡あっ♡」

「こんなもんで終わるわけねえだろ?土御門家の御曹司様よお!!」

後ろ手に腕が掴まれたかと思うと、三郎が仰け反るように引いた。

「あっっ♡んっんんんんっっ♡」

(これっ♡深すぎるぅぅっ♡♡)

力が抜けても、倒れることは許されない。倒れそうになる度、腕が引っ張られて体の奥が押し潰される。そして、僕らは快感に喘ぐことしかできない。

「んっあっ♡おかしなってる♡あっ♡くるっ♡またくるっ♡きちゃうっ♡」

僕らの意思とは関係なくビクビクビクッと膣が痙攣して三郎のものを締めつけた。

「ハハハッ!!女が男に勝てねえってことを体に染み込ませてやっからなあ!!」

そうして、ズンッともう一度奥を突かれると、目の前が真っ白になった。

「んああああっっっ♡♡♡♡」

これが何度も繰り返され、その結果、男の前で無力なオンナが否応なく意識させられてしまう。

「ハハハ!!いいんだろ?お前は男に従うのが気持ちいいんだよっ!!」

バチュッバチュッと粘液の音が体を通して聞こえてくる。

「んっああっ♡んっくぅぅぅ♡」

「お前はオンナだ!!男にヤられるだけの存在だ!!分かったか!!アアン?」

掴まれていた腕が自由になって、僕は床に突っ伏した。

「……はぁ…はぁ…」

「そら、諦めろよ?そうすりゃ、もっと気持ちよくなるぜえ?」

三郎の言葉に千手丸の心が傾いたのが僕には分かった。

(いけないっ!!千手丸が敗けを認めかけてるっ!)

「ま…まだっ!!まだ負けて、ないっ!!」

僕は千手丸から主導権を奪うと、強く、千手丸に聞かせるつもりで言い放った。

「あん?何言ってやがる、神聖な道場でこんなヤラしい汁垂らしまくりやがってよお!!そんだけ元気があんならまだまだ楽しませてくれんよなあ?アア?」

僕の言葉が気に触ったらしく、再び腰を掴まれて引き寄せられた。もう体を持ち上げる力もなく、僕はお尻だけ突き上げるような格好にさせられてしまった。

「威勢がいいのは口だけかあ?そらよっ!!」

「んっくぅぅぅぅぅ♡♡」

ふわっと体が浮かび上がるのはもう何度目か分からない。

「んっ♡イッ♡くぅぅぅ♡♡」

千手丸の心が再び降伏寸前になる。

「だめっ!!こんなんでっ!!千手丸は敗けないっんあっ♡」

千手丸が生まれたときから僕は知っている。
女として生まれ、男として、嫡男として色んな我慢をして、勉強も剣術も一度たりとも諦めることなく努力してきた。

「あんなに頑張ってきた千手丸がっ!!んんんっ!!」

「なーにを言ってんだ?もうマンコは敗けてんだろうが!!」

「ちがっ♡んっ♡お前っみたいなのに…敗けて…たまるかぁっ!!」

僕の声が届いた。

千手丸の心に再び火が灯る。

「うおっ!なんだっ!?いきなり締めてきやがっ…うっおっ!!」

体の中に注ぎ込まれる熱い粘液。

「んっ♡くぅぅぅぅっっ♡♡♡」

体が何度も痙攣する。

「くっおおおっ!!」

「んあああっ♡♡♡♡」

体は何度も絶頂に達してしまった。だけど、千手丸の心は敗けることなく最後まで耐えた。

(良かった…ぎりぎりだった…けど…)

さらに僕らにとっては幸運なことに、ここで三郎に異変が起こった。

「くっそ!!もう一発だ…」

そう言いかけた三郎が頭を抱えたのだ。

「ぐっ…おっ…なっんだっ!!ぐあっ!!」

何かぶつぶつと話し始める。

(どう…したんだ…?)

うつ伏せに倒れて、快感に揺蕩いながら、僕にはその異様な様子を見続けることしかできない。

「うっ…ぐうっ…うるさいっ!!だまれっ!!」

三郎が誰かに怒鳴る。

時間が経って、体が落ち着いてきた僕は、そっと起き上がると袴をかき集めて体を隠す。

だけど、三郎はもう僕のことなど忘れてしまったかのようにブツブツと呟いて、時おり何かに向かって怒鳴る。

「ぐっ!!くそっ!!」

そして、着崩したままの袴を整えることもなく、ふらつくように道場から出ていってしまった。

(一体どうしたんだ…?)

◇◇◇◇

『ドンドン』

大きなノックの音が響いたあと、ドアの鍵がカチャカチャと音を立てて開いた。

「フッフッフ」

ドアが開いて部屋に足を踏み入れた男は巨漢の商人。

「全く、ミハエルの奴のせいでえらい時間食ってしもたわ」

ワンは葵を思う存分犯し、飽きたら変態貴族にでも売り払うつもりだったが、ミハエルが既にステファノスの王族に葵の売買を行ったと言ってきたのだ。

(なにが「これまで信頼を得るために葵の仲間面をしてきた」や!!それに売買契約も本来なら無視するとこや…)

証文のない口約束の売買契約など無視すればよい。そもそもミハエルの言うことなど嘘に決まっている。
だが、相手がステファノスの王族であれば話は別だ。これから亡命する予定の国の王族に万に一つであったとしても悪い心象を残すわけにはいかない。そこで結局ワンの方が折れることになってしまった。

(ミハエルも逃げよったみたいやし…あんの小僧、今度顔見せたらどつきまわしてケツから手え突っ込んで奥歯ガタガタ言わせたるからな!!)

一騎士の部屋にしては広いが、女の部屋にしては殺風景だ。部屋の奥にはドアがあり、ワンは迷うことなくその部屋に向かった。

「ぐふふふ、あの小賢しい女騎士も今はおれへんし、やっとやなあ。やっと、お前をメチャクチャに犯してやれるでえ…」

2つ並んだベッドの片方に歩みを進める。

「さあ、ザーメンまみれにしたるで。アオイ」

だが、ワンはシーツを剥がそうとしたところで、金縛りにでもあったように動きを止めた。いや、本当に金縛りに遭ったと言っても過言ではない。

真っ白な純白のドレスは葵の美しい黒髪によく映えている。
よく見れば恐ろしいほど精緻な刺繍が施されており、それは、タイツも同様だ。そして、新雪のような真っ白な肌の上には長い睫毛が閉じているが、むしろ開いていないからこその美しさがある。
奴隷商として数えきれないほどの美しい商品を目にし、時には毒牙にかけてきたワンをもってしても触れるのを躊躇させるほどの気品のある姫君の姿がそこにあった。

「ん…はぁ…♡」

その時、葵の口からため息のような音が漏れた。
不思議に思ったワンが顔を覗き込むと、綺麗に形の整った唇がわずかに開いている。それだけではない。よく見れば、葵の頬が少し紅潮し始めたのが分かる。

「はぁ…♡…ん…♡」

その瞬間、まるで強力な媚薬を服用した時のようにワンの股間が一気に膨らんだ。
ワンの目が欲情に濁る。むき出しの肩、そして、仰向けになっていて、なお大きく山を作る胸。

それまで美しい刺繍のように見えていたタイツですら、透けて見える肌のことしか考えられなくなる。

(ぐっ、犯したる!!ヒイヒイ言わせたる!!)

ところが、ワンの手が葵の胸元に伸びたその時、まるで液体のように生地が波打ち、ワンの手に向かって飛んだ。

「なっ、なんや!?」

とっさに手を引いたが、何かが掠めたスーツの袖がボロボロになっていた。

「ど…どういうことや?」

ワンの頭にあのこましゃくれた女騎士が浮かぶ。

(いや、見る限りこんなことが出来るタイプやないな。情報でも剣一筋やと聞いとる…どうやったらヤレるんや!?)

ムラムラする気持ちを必死で抑える。抑えようと意識していないと、手が勝手に動き出すのだ。対策を練らないと、自分の手が袖のようになるのは明らかだ。
しばらくその場で考えるワン。そして、最終的に液体のような姿、服が溶けたようになっていることから、これが例のスライムの服だと結論づけた。

(ちゅうことは…クソがっ!!手が出せへんちゅうことか!!)

と、その時、ノックの音がして、ワンの奴隷の声がした。

「ワン様…そろそろ時間が…」

「分かっとるわ!!」

迎えに来たのは兎耳の少女。クリューソスから連れてきた奴隷のセシリアだ。

(グヌヌヌヌ!!絶対犯したるからな!!)

セシリアはこれから捌け口とされるであろうことを予期して顔色が悪い。

「セシリア!!部屋戻ったら分かっとるな!!」

これまで見たことのないほどそそり立っているのがズボンの上からでも明らかだった。

「…はぃ…」

怒りに震えるワンの声に答えるセシリアの声も恐怖に震えていた。

2件のコメント

『千手丸の危機』が目次にないのですが時系列的に第十一章のどこかだと思うんですが『葵と千手丸の繋がり』と『アキレウスとアテナ』の間くらいでしょうか?

ごめんなさい、UPのし忘れでした。…すぐに修正しておきます!!お知らせいただき助かりました!!ありがとうございます!!

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